たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!?   作:織葉 黎旺

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気づいたら一周年いってました。ご愛読ありがとうございます。最近の悩みはタイトルもあらすじも旬を過ぎて腐りかけの果実みたいになってることです。


炬燵「潜らせろ」

 

 

 

 

「入るぞ、トレーナー」

 

 授業が終わり、放課後。トレーナー室の扉をがらりと開けて、エアグルーヴは己の瞳を疑った。

 

「貴様、なんだそれは……」

 

「何って……トレーナー室に炬燵を設置しただけだが?」

 

 普通に大問題である。確かにトレーナー室をウマ娘の過ごしやすいレイアウトに組み替えたり、家具やソファを設置するトレーナーも存在しているが、流石にトレーナー室に炬燵を設置するトレーナーは前代未聞だろう。

 

「何故置こうと思った……?」

 

「いや、だって寒いじゃん」

 

 たしかに、トレーナー室は寒い。ここに限らず学校の設備というのは大抵、夏冬への適応よりも通年的な過ごしやすさを優先するため、夏は暑く冬は寒いことが多い。欠陥といえばそうだが、弱めの冷暖房を付ければ済むことでもあるので一概には言えない。

 とはいえ、天下のトレセン学園の予算もトレーナー室に行き渡るほど潤沢ではないわけで、エアグルーヴのトレーナー室は空調が付いていない。今までは布団を持ち込んだり何だりして誤魔化していたものの、流石にそれでは厳しくなったらしい。

 

「まあ文句言うなら別にいいけどな。お前を炬燵に入れさせないだけだから」

 

「……入らないとは言っていない」

 

「お、ツンデレ」

 

 うるさい、とエアグルーヴの拳がトレーナーを小突いた。そのまま向かい合う形で座り合う。

 

「でも座るならその前にお茶を取ってきてほしかったな~~~」

 

「………………」

 

「ハイ、すぐに取ってきます」

 

「いや何も言っていないが」

 

 あまりに弱すぎるトレーナーだった。立場も、心も。

 

「はーい、ホカホカの緑茶ですよっと」

 

「ありがとう……?」

 

 首を傾げつつエアグルーヴが湯呑みを受け取った。たぶん、言う必要はない。

 

「さあ、というわけで俺はお茶菓子が欲しいわけだが」

 

「……?」

 

「ハイハイ、今取ってきますよーっと……」

 

 エアグルーヴが一歩も動くことがないままに炬燵生活が豊かになった。よく見れば机の上にはみかんの入ったネットも置かれているし、上半身の冷え対策かトレーナーは半纏を羽織っている。和の心などなさそうなのに、意外と和装が似合ってるのが心なしか癪だった。

 

「何だよ。そんな物欲しそうな顔してもこっちしかやらねえぞ」

 

「何も言っていないだろうが。食べ物を投げるな」

 

 雑に投げられた饅頭をキャッチする。包装を外しかけたところでようやく主題を思い出したエアグルーヴは、「待て貴様、今日のトレーニングはどうした」と立ち上がる。

 

「いや、今日はオフだよ。めっちゃ(さみ)ぃし」

 

「そんな理由で休みを作るな!」

 

「いいじゃんたまには。昨日の練習しんどかったし」

 

 しんどいのは走り回っているエアグルーヴの方なのだが、まあ確かにトレーナーも軽くジョギングはしていたし、下手に無理矢理連れ出すと「暖が取りたかった」などと宣って折角続いている禁煙を水の泡にする恐れがあるので、エアグルーヴも渋々「今回だけだぞ」と座り直した。

 

「よっしゃあ!!! あ、制服だけじゃ寒ぃだろ。ほら、半纏やるよ」

 

「別に寒くはないが……」

 

 とはいえ厚意を無下にするのもな、と素直に受け取って、エアグルーヴも羽織ってみる。たしかに、なかなか暖かい。着心地の良さを堪能していたところ、トレーナーがガタガタと身体を震わせ始めた。

 

「さ、さむ……」

 

「なら返すぞ」

 

「いや、大丈夫!」

 

 言うや否や、トレーナーは炬燵の中に潜った。そしてエアグルーヴの隣から頭を出した。

 

「はー、やっぱ全身入るのが一番だな」

 

「貴様は本当にだらしがないな……」

 

 トレーナーは寝っ転がったまま机上のみかんに手を伸ばし、ノールックで皮を剥き、粒をパクパクと口に運ぶ。

 

「!」

 

 エアグルーヴが呆れ顔でそれを眺めていれば、急にトレーナーの目が見開かれる。

 

「顔が、さむい」

 

 ずずずと、身体が炬燵に吸い込まれていく。コタツという名の化け物に、トレーナーは全身まるまる食べられてしまった。

 

「あったまった」

 

「もう何も言う気にならん」

 

 アホみたいな声で外界に顔を出した時、真っ先に目に入ってきたのはこめかみを押さえる愛バだった。

 

「エアグルーヴも潜ってみ? マジで幸せだから。買いたてホヤホヤの今ならめちゃくちゃ綺麗だし」

 

「わかったから足を掴むな、たわけ!」

 

 炬燵内部に取り込もうとする魔の手を払い除け、彼女は小さく嘆息する。

 布団を捲って中を覗くと、中央のヒーターが橙色に発光しているのが見える。意を決して入ってみれば、なるほど、全身を程よい温もりが包み、たしかに心地良かった。

 

「な、悪くないだろ? ここに住みたくなるだろ?」

 

「いや、そうはならないが……」

 

「ありえん……」

 

 住民票をここに移したい、そんな世迷言を発しながら、トレーナーは身体を丸めた。即ち、炬燵内における正しい姿勢を取って、より深く、中心に近づく。エアグルーヴとの距離も縮まる。

 

「ヒーターからの距離が遠いのが悪ぃんだよ。もーちょい寄れって」

 

「そういう問題ではない……っ!」

 

 強引にエアグルーヴを引き寄せるトレーナー。否、トレーナーというよりそれはもう炬燵の奴隷だった。また一人虜を増やそうと必死に動くその努力は、しかし急な一呼吸で止まった。

 

 我に返った。

 

「…………いま気づいたんだが」

 

「……ああ」

 

「お前と炬燵潜ると、なんかめっちゃいい匂いして普段より幸せ度上がる」

 

「!」

 

 たわけ、と絶叫が響く。同時にトレーナーの顔面に鋭い蹴りが刺さって、身体ごと炬燵から追い出される。トレーナーはしばらく、口を聞いてもらえなかったという。

 

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