たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!? 作:織葉 黎旺
『第一コーナー曲がって、最初に飛び出したのはカネトシシェーバー!』
黒い帽子を被ったウマ娘が先頭を行く。対するエアグルーヴは集団の中腹、先行集団の後方にて、様子を窺いながらレースを進めていく。
『差しだと埋もれ過ぎるからな。お前は
トレーナーの言葉を思い出して、小さく頷く。確かにそうだった。
周りを走るウマ娘が、自分に注意を向けているのがよくわかる。警戒し、圧をかけてきていることも。しかしエアグルーヴには、前からの圧力も後ろからの睨みも、さして響いていなかった。それを押しのけるだけの強いプライドがあった。
『続いてノースサンデー、ウェスタンスキャン。彼女たちがレースを引っ張っていく形となっています。注目のエアグルーヴは中団に位置、これはどうでしょうか?』
『エアグルーヴ、彼女の脚質には合っていますね』
オークスは芝2400m。中距離に分類されてはいるが、ほとんど長距離といって相違ない走行距離である。大事なのはスタミナとペース配分だ。
「はあっ、はあっ……!」
周りのウマ娘の息が徐々に荒くなっているのがわかる。きっとエアグルーヴも周りから見たらそうなのだろう。しかし、苦しい中でも足取りは走れば走るほど軽くなり、視界は澄み、呼吸は凪いでいく──そんな感覚がある。
「…………!」
余力はある。むしろありすぎて、ここで一躍先頭に躍り出たい──そんな衝動にすら駆られる。
ウマ娘は走るために生まれてきた。故に、誰しもが負けず嫌いであり、先頭に立ちたいという衝動を、勝ちたいという理性で抑えて、ゴールを目指している。
つまり、
──仕掛けどころは、見誤ってはいけない。
『第二コーナーを曲がりまして、先頭を行くのはノースサンデー、続けてウェスタンスキャン!』
まだだ、まだここではない。たかが半分過ぎた程度だ。ここまではほとんど順当な展開、仕掛けるべきは──
『第三コーナーカーブ。先頭は以前変わらず! だが後方からマークリマニッシュとハダシノメガミが追い上げる!』
後方から、前方から、徐々に勢いを増した足音が集団の秩序を乱し出す。全員がペースを上げる前に一歩、コースの外側に強く踏み出す。
ここだ。
『エアグルーヴが外側から上がってきたぁ! 続いてマックスロゼ、チアズダンサー、リトルオードリ──―』
レース自体のペースが早くなっているのがわかる。残り距離が三桁を切った、ここで遅れればもう掲示板はない──そんな焦りが見えるようだった。
『第四コーナーに差し掛かります。先頭集団はノースサンデーのリードが続き、キハクがそれに食らいつく! エアグルーヴも徐々に進出、先頭からは五六バ身差!』
溜めてきた足を開放して、外から勢いよく回る。見据えるのは先頭のみ、何バ身あろうと関係なかった。
「はあっ……!」
『エアグルーヴ、ここで抜けたー!』
コーナーを曲がって、集団は横並びの様相を呈する。だがその中で一際目立ったのは、怒涛の追い上げを見せるエアグルーヴだった。
『だが後ろの娘たちも負けていない! ファイトガリバーとリトルオードリーが突っ込んでくる!』
背後から迫る影を感じる。追い付き追い越さんと、無数の蹄鉄が猛追する。だが──
「このレースだけは──譲る訳にはいかない!」
エアグルーヴの瞳に火が灯る。胸に宿る熱い
『エアグルーヴまだ伸びる! 最早圧倒的! 母娘二冠達成ー!! 二着はファイトガリバー、三着はリトルオードリー、四着は──』
ゴールラインの向こう。歓声と拍手に包まれながら、スタンドの真正面を見つめる。トレーナーがニヤッと子供っぽい笑みを浮かべて親指を立てた。