たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!? 作:織葉 黎旺
「入るぞ」
ノックにもインターホンにも反応がないことで痺れを切らし、エアグルーヴは合鍵で部屋の中に入る。缶の転がるリビングを抜けて一目散に寝室に向かえば、そこで青い顔をしたトレーナーが横になっていた。
「うう……エアグルーヴか、出られなくて悪かった……」
「貴様、酷い顔色だぞ……! 私を頼るよりも救急車を呼ぶべきだ、すぐに連絡を──」
「本当に大丈夫だ……休んでればじきによくなる、過去一で酷いだけでこれ自体は慣れてる……」
「……持病か?」
「──いや…………」
額に手を当て、苦い顔で天井を見つめたトレーナーは、重い口を開いた。
「…………………………二日酔い」
「帰る、邪魔したな」
「いやごめん待って見捨てないで!! ッ、痛……! おえっ」
頭を押さえて嘔吐くトレーナーを見て、エアグルーヴはわざとらしい溜息を吐いた。
「吐きそうか?」
「気持ち悪い、けど、そこまでじゃないかも……」
「落ち着いて呼吸しろ」
「うう…………」
時々噎せながら深呼吸を繰り返す。そんな彼の背中を摩って、呼吸が落ち着いたのを確かめてから、台所まで水を取りに行く。
「飲めるか?」
「ああ……ありがと…………」
少しだけ体勢を起こし、ゆっくりと水を飲んで、トレーナーは深呼吸した。
「……ちょっと楽になった、かも」
「何か食べられそうなものはあるか?」
「ん……冷凍庫のアイス、なら」
「わかった、ラーメンを茹でる」
「えっ」
「塩分濃いめで栄養を摂るのが大事だそうだからな」
『二日酔い 対応』と記された検索タブを示しながらエアグルーヴが言った。そしてそれに従って、味噌汁と豆乳を器に注いだ。
「吐かない程度に無理して食え」
「ああ」
ゆっくりと、しかし着実に、なるべく咀嚼はしないように卓上のものを平らげていくトレーナー。その様子を見守りつつ、エアグルーヴはリビングの片付けに移る。
「……貴様、昨日どれだけ飲んだんだ」
「えーっと……三軒ハシゴして、家帰って飲み足りなかったから飲んだのは覚えてんだけど、量は何もわからん」
「少なくとも2Lはここで飲んでいるな」
「……………………マジ?」
エアグルーヴがまとめあげた袋には、開いたロング缶が四つ。しかもすべて、度数の高いそれだった。
「家帰ってきた時点でそこそこ酔ってたからな……脳ミソバグり散らかしてたんだろうな」
「何か嫌なことでもあったのか?」
彼の酒クズヤニカス度はエアグルーヴのよく知るところではあるが、同時に彼の臓器の強さもよくわかっている。実際、この一年半で毎日のように飲酒している姿を補足したにも関わらず、二日酔いらしい様子を見せたのは今日が初めてである。故に女帝の思考は直近の彼の生活と――そして、昨日の飲み自体に向いた。
「そもそも昨日は誰と飲んでいたんだ」
「……えーっと…………」
トレーナーから微かに香る香水の匂い。それに普段つけているものだけではなく、いくつかの種類のそれが混ざり合っていることに気づき、彼女は小さく手を叩く。
「なるほど、合コンか」
「ぎくっ」
天を仰いで目を逸らすトレーナーを見て、エアグルーヴは察した。
「周りはいい雰囲気になっているにも関わらず、自分一人何もなく帰路について
「なんでわかるんだよ」
「貴様の行動がわかりやすすぎるだけだ」
うう、と小さく呻きながら、トレーナーはエアグルーヴから逃げるように寝返りを打った。
「中央トレセン学園のトレーナーって名乗ったらめっちゃウケたんだけど、そのまま話が盛り上がったから女帝のトレーナーやってますって話したらなんか引かれて、全部終わった」
ピンキリとはいえ中央のトレーナーが高給取りというのは知られているので、合コンなどでも人気が高い。その分休日が取りづらいなどのデメリットもあるが、合コンで男を探す女はその辺り心得てるので、何ら問題はない。――しかし、女帝のトレーナーとなれば話は別である。メディアに露出している気高くお固く立派なイメージを考えれば、いかに目の前で道化を演じようとも、その杖たる彼の人柄もそういったものであると思うのは当然なので。
「俺別にお前と違って堅物でもなんでもないんだけどなあ……どちらかといえば正反対の水と油なんだけどなあ……」
「一目でわかりそうなソレに気づけない女なら、初めから付き合わない方が正解だろう」
「それもそうだけどさ」
「…………あるいは」
いや、とエアグルーヴは思考を振り払う。だとすれば、彼女は見知らぬ誰かに気を遣われたことになってしまう。そもそも自分がこんな軟派者と。
「…………ないない」
こんな堅物と、
「とりあえず料理を作ってくる。貴様は大人しく寝ていろ」
「うっす」
「あと、日頃の行いを反省しろ」
「はい……」
トレーナーは、小動物じみた表面上だけの反省顔を見せる。