たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!?   作:織葉 黎旺

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クラシック冬『お前も次は』

 

 

 

「はー、寒っ」

 

 身を抱くようにしながら、トレーナーは足早に歩く。一歩引いてそれを追うエアグルーヴは「ジャケット一枚では当然だろう。きちんと防寒しないからだ」と、マフラーに手袋、セーターにコートでバッチリ防寒した状態で答えた。

 

「冷えるなら冷えるって教えてほしいんだが」

 

「ニュースでも連日言っていただろう。それに、寒いのは当然だ」

 

 ──時は寒さも厳しくなってきた、十二月末日。二人は中山レース場にやってきていた。

 本日は有記念。今年最後の大一番である。今年のティアラ三冠を成した注目バであるエアグルーヴは、当然この場所に──

 

 

「今日、誰が勝つかなあ。やっぱカイチョーか?」

 

「昨日お会いしたときも、調整はきちんと済んでいるようだった。調子も悪くないようだったから、順当にいけば会長が勝つだろう」

 

 ──応援に来ていた。

 今年の有記念には、我らがトレセン学園の生徒会長たるシンボリルドルフやオグリキャップ、タマモクロスなど、錚々たるメンバーが集まっている。その中でもやはり、注目を集めているのは前年の優勝バであるシンボリルドルフと、大きな人気を誇ったオグリキャップの二人だった。

 席について、プラスチック製の冷たい椅子の感触に少しだけ眉を動かしてから、トレーナーは口を開いた。

 

「ほーん、やっぱ片腕たる副会長サマ的にはそう思うか」

 

「貴様もそうではないのか」

 

「まあカイチョーが勝つようには思うが、正直どうでもいい」

 

「貴様、少しは関心をだな──」

 

「あー、言うな言うな。しょうがないだろ、()()()()()()()()。それに──」

 

 戦わない以上は誰が勝っても同じだからな──と、トレーナーはドライに言い切った。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

「有に出る気は、ない」

 

 時は遡り、秋華賞後。

 次の目標レースに向けてのミーティングで、トレーナーはそう切り出した。

 

「ふむ、なるほどな」

 

「お、文句ナシか?」

 

「ないわけではないが、貴様の言わんとすることもわかる」

 

 少し驚いたように目を開いたトレーナーに、エアグルーヴは淡々と続ける。

 

「出走バが粒揃いなのもあるが──何より、距離適性の問題だろう」

 

「せいかーい。これまでのトレーニング考えても、スタミナが怪しいからな」

 

 ──有記念は長距離、2500mを走るレースである。

 エアグルーヴは長距離よりも2000m前後の中距離を走ることを得意としており、少しスタミナが心許ない。

 これまで走ってきた中でいえばオークスは2400mであり、ほとんど長距離と言えないこともないが、クラシック級限定で出走できるあちらと違い、今回はシンボリルドルフなどのシニア級たちとも渡り合わないといけない。その中で、スタミナのハンデを背負うのは由々しき問題である。

 

 それに、たった100mの差と侮るなかれ。エアグルーヴがこれまで勝ってきたのは、俗に言う根幹距離のレースばかりである。繊細な足を持つウマ娘たちは、その数百mの差でペースに狂いを生じさせてしまい、同じ感覚では走れない場合が多い。

 

「大事な時期だし、ここまでの流れを崩さないためにもここは様子見が一番だろ。エアグルーヴがどうしても出たいってんならワンチャンあるが──」

 

「いや、いい。私も、貴様の選択に間違いはないと思う」

 

「ならよかった」

 

 そう言って肩を落としたトレーナーは、苦笑して続ける。

 

「まあここサボると間違いなくブーイング起きるけどな、ちょうど槍玉にあげられる(おれ)がいるしどうにかなるっしょ」

 

「そんなことにはさせん」

 

 エアグルーヴはトレーナーを見つめた。

 

「頷いた以上、それは私()()の選択だ。貴様一人が負う必要はない──それに」

 

 いずれ掴む栄光の為の選択に、余計な口出しは許さない──そう真っ直ぐ言い切った。

 

「ハッ、それはそうだな。野次ウマの言葉なんて、念仏程度に聞き流すぜ」

 

「聞き流すのは貴様の得意分野だからな」

 

「ああそうそう、慣れてるからな──って一応ちゃんと聞いとるわ!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

『さあいまゲートが開きました──! 最初に飛び出したのはオグリキャップ! タマモクロス、シンボリルドルフがそれに続きます』

 

『序盤から早めのレース展開になりそうですね』

 

「お、始まったな」

 

 缶ビールを煽りながら、トレーナーはレース展開を見守る。最近は情報収集など、ある程度気を張って観なければいけない時が多かったから、自然体でレースを眺めるのは久しぶりだ。

 

「貴様、真昼間から……はぁ」

 

「ため息つくなって。ほら、飲酒くらいレース場の正装みたいなもんだろ」

 

 ライブハウス入る時のワンドリンクと同じだな──と続けた。たぶん、間違いなく、違う。

 

「……前後不覚にはなるなよ」

 

「缶ビール一缶くらいよゆー!」

 

 雑談してる間に、レースは終盤戦を迎えていた。先頭を走る逃げウマの後ろから、まずオグリキャップが飛び出す。続いてタマモクロスがオグリキャップのすぐ後ろに着いて、そのまま最終コーナーへ。

 

『残り400mを通過。おおっと、外から現れたのはシンボリルドルフ! 先頭との差は二バ身、ぐんぐん縮んでいく! 負けじと食い下がるタマモクロス、オグリキャップも脚色は衰えない!』

 

「アツいねえ」

 

 トレーナーは、いつの間にか自分が酒缶を置いていたことに気づいた。やはり仕事を抜きにしても、レースはいいものだ。隣の相棒に同意を求めたくて視線をやれば、彼女の視線はターフに釘付けになっていたので、小さく嘆息して自分もそうする。

 

『タマモか!? オグリか!? いや──一着は皇帝! シンボリルドルフだああ!! 二着オグリキャップ、三着タマモクロス共にレコードタイム更新です!』

 

「うおマジか、やるなアイツら」

 

 エアグルーヴは、拳を握り締めてターフを見つめ続ける。視線の先では、一着となったシンボリルドルフが客席に向けて手を振っていた。

 

「お前も、次はあそこだ」

 

「ああ」

 

 女帝は強く頷く。気づけば寒さは消え、身体はすっかり熱くなってしまっていた。

 

 

 

 

 

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