たわけはいつもそうだな、私のことなんだと思ってるんだ!? 作:織葉 黎旺
「どうでもいいんだけどさ、大阪杯なのに阪神競馬場で開催なのムカつかね?」
「本当にどうでもいいな……」
「東京ドイツ村だとか、東京ぱかランドとか、ああいうインパクト優先の名前許せねえんだよな。自分の存在にプライドを持て! お前らは千葉の希望だろうが!」
有名テーマパークをディスりつつ、トレーナーは屋台で売っていたたこ焼きを口に運んだ。本場の味というべきか、東京の屋台で売っているものよりは具沢山で美味しい。
「やっぱり郷に入っては郷に従えっていうからな、その地の名産品のパワーを取り込めば強くなれるだろ」
「貴様の小腹が空いただけだろうが」
「フクキタルも『これで運気アップ間違いなしです!』って言ってたぞ」
ほんとは、串カツがよかったんだけどな。より縁起がいいし。
そう言って最後のたこ焼きに爪楊枝を伸ばしかけて、やめて、不安そうに「本当に全部食べていいのか?」と聞いた。エアグルーヴは呆れたように答える。
「たわけ、レース前のウマ娘にたこ焼きを食べさせるトレーナーがあるか」
──時は三月後半、阪神競馬場。控え室にて、トレーナーとエアグルーヴは時が来るのを待っていた。
大阪杯当日の天候は、初春の麗らかな陽気の良バ場である。有馬をスルーして調整に充てていた甲斐もあり、エアグルーヴの本日のコンディションは絶好調である。
「まあ、さっさと勝ってこいよ。そしたらたこ焼きでもお好み焼きでも、何でも奢ってやる」
「ほう、言ったな? ウマ娘の食欲を
「そのくらい安いもんだぜ」
(優勝した際に貰える報奨金に比べれば)と言いかけて、流石にゲスいからやめとこうと下の句を噤んだトレーナーだったが、普通にエアグルーヴには見透かされていた。それをマイナスにしてやれるくらいにいい店に連れて行かせよう、とある種のモチベーションすら生まれた。
「まあ『理想』の前ではこのくらい、アップみたいなもんだろう?」
「──フ、それはG1レースに臨むトレーナーの態度ではないだろう」
「厚い信頼といってほしいね」
そんな話をしている間に、レースの開幕が迫る。軽くストレッチした後、地下バ道を歩く途中で、エアグルーヴはおもむろに振り返った。
「いまのうちに、祝勝会の店の予約をしておけ」
「──んなもん、とっくに取ってるわ」
手の甲をひらひらと振って、エアグルーヴは光の中へと消えていく。臨んだ大阪杯、女帝は後続に三バ身差つけ、そして焼肉屋に向かったという。