『スターラスターガール ~感応兵器・如月千早の夏休み~』   作:cyanP

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―普通っぽい娘に気をつけろ!―

 

 

姉の住んでいる所ははるか海岸線に巨大な製鉄所と宇宙港が見える以外は

何の取り柄もないような典型的な地方都市のさらにその中心部から外れた

山と河と海とに挟まれている場所で

 

三宮の駅を出発して海を右手に見ながら

山際を走る列車に延々乗って二度三度と夏草に覆われたトンネルを抜けて

ようやくたどり着いた。

 

 

駅前も自転車預かり所と鮮魚店があるくらいで

特にひらけているわけでもなくその前の道も狭かった

そしていきなりガラの悪い少年2人にからまれた

 

今思うとなんと迂闊だっただろう

荷物を遠足のようにリュックに背負って地図を見ながら駅から出てきて

不案内な様子で立っているなんてあからさまによそ者だ。

 

しかもたった一人で立っている。

 

そんな身長150センチたらずな少年は、

地元のワルから見ればどれだけ格好のオモチャに見えただろう。

 

僕は2人の不良少年に

旧知の仲でもあるかのように肩を組まれて路地裏に連れて行かれ

 

「1000円貸してくれよ」と言われた。

 

僕は(ああカツアゲだ)と当たり前のことを思い浮かべて

今の状況を再認識しようとしていた。

 

 

なんで自分がこんな目にあっているのか、何かの冗談であって欲しいと願っていた

少年たちが急に笑いだして

 

「冗談だよ」

と言ってくれるのを少なからず期待していた。

 

きっとそういう展開になるんだろうと。

 

二人の少年は一人は明らかに僕より背がずっと高く

170センチ以上はあって大人と遜色がなかった

もうひとりは僕より一回り大きいくらいの背丈だったが

育ちの悪さがそのまま顔に出ていた

浅黒い肌と細い目はマンガで見かける”小悪党”を

リアルに小型にしたような子供らしくないヒネた風貌だった。

 

そして手も早かった

 

うつむいたまま嫌だと言おうとした僕の頬を

小柄な方の少年がいきなりビンタした。

 

男の先生が悪さの過ぎた男子生徒を

呼び出してするように、何の身の覚えのない僕の頬は、

さして年の変わらない初対面の少年によって平手打ちされたのだ

 

僕は先生に殴られる男子生徒を何度も見ていたが

自分がそれをされるなんてことは今まで一度もなかった。

みるみる目が充血してツーンと鼻の奥からなんとも言えないニオイがして

熱くなった涙が目頭から湧き出てきたのは、

ビンタの際にその少年の手が僕の鼻骨を激しく打ったせいだけではない。

 

背の高い方の少年が当たり前のように僕の荷物に手をかけたが

ぼくは全力で身をよじってその手を強引に振り払った。

 

すると今度はお腹を殴られた。

 

ドンッとお腹をされたとたん

お腹の中の組織がギュッと収縮して苦痛で体が『くの字』に曲がって

息ができなくなる。

 

背の高い少年が再びリュックに手をかけた

ファスナーの隙間から宿題のノートやふでばこがバラバラと地面に落ちたが

もう僕は抵抗する気が起きなかった。

 

もうどうしようもないとハッキリわかった

これ以上余計なマネをしちゃダメだ

ようやく自分の置かれた立場を理解したとも言える。

 

いや最初からわかっていた

わかっていたけれどぼくのプライドがじゃましたんだ

 

(ばかやろう、おまえがじゃましなければ殴られずにすんだのに、ばかやろう・・・。)

 

僕は自分の靴先を見ながら自分で自分を責めていた

薄暗い路地には鮮魚店が水を循環させるポンプのジーーーーっという音と

地中の排水路へと流れ落ちるピチャピチャという音だけがかすかに響いていた

 

古びたコンクリートの塀や地面には

ところどころ苔がこんもり生えていて

そこをサワガニがゆっくり歩いているのが見えた

そのサワガニが何かを察知して急に早足になると

バンと音がして不自然な格好で背の高い少年が仰け反った

 

全身の筋肉が意志と無関係に萎縮したように肩や手が硬直して

爪先立ち気味にエビ反りに仰け反って顔は苦痛に歪んでいた

そしてそのまま背中に手を回す姿勢で地面に膝をついて動かなくなった

苦痛の声を漏らしたいが

それすら出来ないと言った様子だった

 

崩れ落ちたその少年の後ろには黒いリボンを髪の両側に付けた

オカッパの女子が悠然と立っていた

 

悠然と・・・

 

 

身長は160センチぐらい

いわゆる中肉中背の体つき

ちょうど姉と同じぐらいの年格好で中学に上がったばかりの

早生まれの僕なんかより背は高いが

日本人の女子としては至って平凡な体格だ

クラブ活動の帰りだろうか?

どこかの学校の夏服らしい制服を着ている

 

 

だがなぜだろう

僕にはそれが捕虜収容所の恐ろしい所長のように見えた

鞭をふるい、絶対権力者として振る舞い逆らう者には容赦しない

そういうものが現れたという有無を言わさぬ圧倒的な気配が

一瞬でその場を支配した。

 

不良たちが醸していたその場の空気が

薄いガラスを爆風がわけもなくうち破るように粉々に砕け散らした

 

もうひとりの不良少年は

膝をついた少年とそのひとを見て瞬時にすべてを察知したようだった。

 

『艦隊の・・・!』

という単語を発っすると顔をこわばらせ言葉をつまらせる

 

 ”意気揚々と

脱走するトンネルを掘っていたらその後ろに収容所の所長が立って自分らを睥睨していた”

 

 ―――そう思わせる凍りついた表情をしている。

 

 

そのひとは二人の少年を知らない様子にもかかわらず不良少年達は

そのひとを知っているようだった。

 

彼らは指先に至るまで萎縮し身動き一つ出来ずに完全にその女子に

その後の処置を委ねた形になっている

 

女子が一歩踏み込むと小柄な方の不良少年はビクッとして無意識に肩をすくませかけた

僕がそう感じた瞬間には

女子のビンタが不良少年の肩をすくませるのを上回るスピードで

顔の下半分を薙ぎ払っていた

 

よくある女の子が男に対してピシャりと叩く平手打ちなどではない

大相撲中継で小兵の力士が巨漢の関取を立会の一発で脳震盪させる

テッポウ気味の張り手のように

 

『バチッィィ』という肉と皮と骨がぶつかる音とともに、

不良少年の顔面がカクンと首を傾げるように折れ曲がり

足が意識外の動きをしてヨロめいたのを目の当たりにした。

 

そしてほぼ同時にその女子は体を鋭く半回転させたと思うと

今度は左の手の平を格闘マンガで言うところの

『掌底』を不良少年の右脇腹に食い込ませて聞き慣れない音を立てた。

 

グーではなくパーで叩いたのが

ボクシングのバンテージが巻かれた白い鉤手の軌跡で見えた。

 

いや、

打つ瞬間ではなく打って戻った手の形でそうだと分かったんだ

打つ瞬間なんて目にとまるはずもない。

 

シロウトの僕でもその女子が手加減を目的としているのがわかったが、

その割に的確に人体の急所である肝臓の位置をとらえていた。

 

テレビや映画で見かけるたぐいの派手なアクションではなく

『本物』の打撃

機械のように正確で無慈悲で息をするように自然なコンビネーション攻撃だった。

 

 

さながら

道路清掃車の激しく回転する巨大ブラシに巻き込まれた

古新聞かなにかみたいに

さっきまで僕を威圧していた不良少年は、引きちぎられるように

無様に体をゆがめて崩れ落ち

 

その目は許しを請う懇願に涙をにじませて

必死にリボンの女子を見上げていた。

 

いや、見上げたのは一瞬、

そのままじっとり濡れたコンクリートに

横っ面を預けてうずくまって苦しそうに細い息を必死で絞り出している。

 

叩かれた肝臓が放つ激痛の信号に呼吸がままならないのだ

知らない人が見たら

なんと大げさな芝居をするんだろうと失笑するかもしれないほどの苦しみようだったが

 

ついさっきお腹を殴られたばかりの僕には

それが芝居でも何でも無いことが文字通り痛いほどわかった。

 

 

 

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