『スターラスターガール ~感応兵器・如月千早の夏休み~』   作:cyanP

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―400メートル向こうから!―

2人の不良

大人の体躯をした不良と育ちの悪そうな人相の不良がその女子の眼前で

 

一人は大人びた値が張りそうなズボンで水たまりに膝を付き

一人はその濡れたコンクリートの路面に頬を付けてうずくまっている

 

夏服の制服に身を包んだリボンの女子は

2人を見下ろし何か言うのかと思ったが

 

まったくの無言でそれぞれの不良を

 

畑の野菜を出荷する農夫のようにめんどくさそうにも見える動作で

執拗に蹴り始めた。

 

その人のスカートは割りと短かったが

運動選手のような黒いスパッツを中に履いていて

その動作にはスカートがめくれるのを気にする様子なんてはじめから無い

 

静かな路地裏に何かの作業音みたいに無味乾燥に

「ゲスッ」「ボスッ」

 

と硬そうな合皮のローファーで不良が蹴られたり踏まれたりする音がして

 

「うっ」と息の漏れる音がして

 

不良だけが

必死で絞り出すような小さい声で

 

「すいません!」だとか

「ホントすいません!」だとか

「マジで!!ホントに!!すんません!」

だとか

 

乏しい語彙で必死に謝罪を繰り返し

 

小柄な方の不良は

あまりの恐怖に小学生のように顔をしかめて涙を流しはじめ

大柄な方の不良は鼻血を流してすっかり青ざめていた

 

なすがままにされている2人の不良

 

それはさっきまで僕を見下ろし

熱くタバコ臭い息を無遠慮に吐きかけていた

ヤクザのような高圧的自信に満ち溢れた姿ではなく

 

強大な大人に折檻されるただの怯えた子供そのものの姿だった。

 

 

 

ぼくは2人の不良がそのひとに折檻される様子を

ただ立ち尽くして見ているしか出来なかった。

 

その圧倒的な暴力と存在感

 

助けてもらったのかすらよくわからないほど

自分を襲っていた猛獣が

さらに巨大な猛獣に食い散らかされているだけのような

次は自分が食べられる番を待っているだけのような

そういう壮絶な状況にも感じられた。

 

ぼくはこのひとに

サイフを出せと言われたら祭壇に捧げるように

礼儀正しく両手を添えてサイフを差し出してしまうんじゃないだろうか?

そんな気すらしていた。

 

いやたぶん・・・

確実にそうしてしまう気がする。

 

初めて会って誰かも全くわからないのに、

すでにもうなにもかもこのひとに支配されたような、

責めさいなまれているのは2人の不良なのに

僕はこのひとの従者で女主人にいたらなさを叱責されているような

そんな不思議でどうしようもない気分を味わっていた。

 

 

 

すると

その空気を一瞬で変える存在が現れる。

 

 

 

「あんた誰な?」

 

見るとそこには

長髪をまっキンキンの金髪に染めた

いかにも素行の悪そうな女子が立ってまっすぐこちらを見つめていた。

リボンのひとと同じ制服で

 

自分の通学カバンとリボンのひとの通学カバンを持っている、

二人連れだったのだ。

 

リボンのひとが一見普通の女の子風なのに対し

こちらは400メートル手前からでも普通の女子ではないと

ハッキリわかる髪の色でしかも腰ほどまでも長さのあるロングヘア

 

サラサラのロングヘアなんかじゃなく

歌舞伎の連獅子というと大げさだけど

なんかそういうのを連想させる迫力のある跳ねた毛のロングの金髪だ

 

よくもまぁ、

こんなにもまっキンキンに染められるなぁ、

と感心するぐらいまっキンキンの金髪で

しかもやはり姉と同じくらいの年である

 

僕の地元にも

不良っぽい子はそれなりにいるが

ここまで髪を染めているひとは初めて見た。

っていうか普通の中高生はこんな風に出来ないだろう。

 

まず学校が許してくれるハズがない。

 

この子達はいったい

どんな学校に通っているのか。

 

僕の人生ではこういう子と話をする機会なんて

まったく想像していなかったのに

そのひとは人懐っこい公園のネコのように

警戒感をすりぬけて少し目尻の上がったキラキラした丸い目で

まっすぐ僕を見つめて話しかけてくる。

 

「あんた誰な?よそから来たんか?どこ行くんな?」

 

え?

いやいや

 

お姉さんの友達

今となりで不良をヤクザみたいに蹴り飛ばしてる最中ですけど

 

どうしてそれを止めるとか、

なにか言うとか、あるいはそう、カッコイイセリフを言うとか

 

そういうことをしないで一切関心を示さないで

初対面の僕の方にふつうに話しかけてくるの?

 

僕はお姉さんらのような不良っぽいタイプじゃないし

女子とは普段あんまり話したりしないし

なんで僕の事をそんな興味深げに見つめるの?

 

いつの間にか僕の緊張は別のチャンネルのものに

強制的に切り替えられていた。

 

(ああ、このひとはこのひとで、

リボンのひととは別の意味で只者ではないんだな・・・)

 

と、その時なんとなく直感した。

 

 そして、自分がもう、異世界と言うか、魔境と言うか、

とにかく

僕が今まで暮らしていた世界とはルールの異なる異次元に

すでに足を踏み入れてしまっていると感じていた。

 

僕の姉は本当にこんなところに住んでいるのだろうか?

 

今の姉は一体どうなっているんだろうか?

 

 

 

 

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