『スターラスターガール ~感応兵器・如月千早の夏休み~』 作:cyanP
衝撃的だった
ぼくが姉の名前を言うと
その二人組の女子は姉を知っていた
暴君竜のようなリボンの人や
そのリボンの人がヤクザのように不良を執拗に蹴り飛ばしているのを
なんにも気にしないでケロッとしている金髪の人らは
姉の同級生だというのだ
「あたしらねー、あんたのお姉ちゃんとおんなじチームなんやでぇ!」
と、金髪の人が誇らしげに言った
姉はウチではずっと帰宅部だったはずだけど
こっちにきてなにかスポーツチームの部活でもはじめたのだろうか?
◇
祖母と姉が暮らす団地は駅から15分ほど歩いたところにあった
よくある何の特徴もない古びた団地は
むしろ姉のイメージによくあっている気さえした―――――― 。
――――「あはははは」
姉は明るく笑いだした ――――
ふたりだけの夕食後キッチンで後片付けをしている姉の背に
昼間の出来事を話した
ぼくは不良に絡まれて為す術なく殴られた話なんて
おばあちゃんとはいえ大人には聞かれたくなかったから
いつどこで姉に話そうかと考えていたが
おばあちゃんは入院中?かなにからしくて
そのへんの心配はなかった
姉もこんな暴力的な話を聞いたら顔をしかめるかもしれない・・・
そう思って本当は話したいたぐいの話題ではなかったのだが
姉のクラスメイトだというあの強烈な二人組の存在が
姉にどのように影響しているのかを確かめるためには
あの暴風のような暴力のエピソードを抜きにしては
はじまらないのだ。
もしかしたら
姉はあの2人に酷いイジメを受けているかもしれない
いやそれはないかも知れないけれど
なんにしてもあんな荒武者のような人間達のそばにいて
何も起こっていないはずがない。
それを確かめるためには
僕自身がこの目で、この身で、一部始終を体験したことを
率直に姉に伝える必要がある
その反応によっては隠し事があったとしても
様子でわかるかもしれない。
しかし、
予想に反して姉は明るく笑いだす
僕は姉がこんな風に笑うところを初めてみたかも知れない
僕の姉のイメージは
決して目立つことはしない
良いことも悪いこともしない
あんまり泣いているところも怒っているところも
見たこと無いかも知れない
姉は普通より美人というかいやかなり美人な方だと思うが
誰もそれを意識しないほど影の薄い存在で
その影の薄さというのは控えめだというより
一緒にいると自分の影まで薄くなってしまいそうな
そんな危うささえ持っていた・・・。
その姉が
二人組が不良を容赦なく殴ったり意に介さなかったりした話を聞いて
明るく屈託なく笑ったのだ
「あのふたりはね~、特に強烈だから」
ぼくのあの衝撃的な体験に対しての姉のコメントは
クスクスという笑いを含めてそれだけで済んでしまった。
一体どういうことだ?
これは笑って済まされる程度の話なのか?
少なくとも
もしこれがクラスメイトのRだったら
「おいおいマジかよ!?キミの話はにわかに信じられないなぁ!
いやキミを疑っているわけじゃない
ただ心理学上人間というのは――― 」
だとか
「それは完全に犯罪だよ その不良たちの特徴を覚えているかい?
すぐ警察に連絡しないと
キミはその駅で毎回カモられる可能性があるよ、
今週のヤンキー漫画にもそういう場面が――― 」
だとか
たぶん休憩時間を十分埋めるほど
いや下校中もその話がぶり返すほどの反応が起こるだろう
Rほどでないにしても・・・
―――いや、ちがう
そういう問題じゃない気がする
「あのふたりは特に強烈だから」
という事は、あのふたり以外にも
特にじゃないが強烈なのがいるという事なんじゃないのか?
◇
夏休みだと言うのに
姉は毎日制服に着替えて登校している
だがどうも部活をしているのではないらしい
姉はこちらでは宇宙艦隊の付属校に通っているとの事だった。
帝国艦隊付属校というものが
普通の学校とは違うというのはなんとなく話には聞いていたが
具体的にどう違うのかなんて僕は知らない。
全国にいくつか艦隊が関係している学校施設があるっぽいけど
直接身内が通っていたり近所だったりしない限りは
ほとんどの人がその内容を知らないと言うか
関心すらないんじゃないだろうか?
姉に訪ねたら
「う~~ん、普通の学校っぽいところもあるし
そうじゃないところもあるし
ん~~~~
どこから説明したら良いのかわからない」
守秘義務とか?
「それは確かにあるんだけど、習うことの範囲がものすごく広いの、
あ、お姉ちゃん、
クルマの運転が出来るんだヨ?オートマじゃなくて難しい方でね!
あの金髪の子に教えてもらったの!」
え?無免許運転?
「あー、え~~~っと、
(艦隊施設の敷地内及び特別な事情の場合)は
外で運転しても良かったのかな?わたしは外ではしたことないけど」
厳しい?
「楽しいよ?でも向かない子は全然ダメかも」
イジメとかないの?
「みんな大人っていうか、そういう事してる暇がないというか
たぶんクビ(放校処分)になる。」
クビになるの!?
「宇宙じゃ狭い宇宙船内で長期活動しなきゃならないかも知れないのに
学校生活ぐらいで問題を起こすようじゃね~」
あー!・・・そうなんだ。
「どうしたの?ユウって宇宙に興味あったっけ?」
いや、
そういうわけじゃないんだけど・・・
お姉ちゃんは宇宙が好きだったんだね・・・!
すると姉の様子が少し変わった
テーブルの上にあるすらりと伸びた姉の白い手が
じんわりと動くのが見えた
「うーーーん、好きっていうか・・・
・・・そうだね・・・うふふふふ」
姉は視線を斜めに落として微笑んだ、
さっきまでとは違いその微笑みには、影というか隠し事というか
そういうものが少なからず感じられその瞬間、何故か僕には急に
姉が僕の姉ではない
どこか遠くの知らない世界の大人の女の人のように見えた。
そして、対象的にボクがひどく子供であるように思われて
そんな子供が詮索しているという光景を
客観的に虚空から見下ろしている錯覚に襲われ
なんだかすごく
バツの悪い気分になった。