『スターラスターガール ~感応兵器・如月千早の夏休み~』   作:cyanP

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―鎮守の森の妖麗―

真っ青な夏空の下

 

じゃわじゃわと鳴く蝉の声がまるで液体の波紋が波打つように

強弱をつけてあたり一面に反響し住宅地から程ないこの神社を

周囲の喧騒から完全に遮断している。

 

そのあまりに大きな木々達が住宅地の家々の屋根のうえに

緑の小山となってこつ然と現れているのが

果てしない水平線に浮かぶ孤島のように団地から見えて

僕は炎天下を歩いてこのひっそりとした神社にやってきていた。

 

 

樹齢が千数百年と書かれた立て札の立っている

県指定天然記念物のクスノキは幹の周囲が10メートル近い大木だ。

 

そんな大木が何本も生えているこの鎮守の森に包まれた神社は

はるか平安の世から続いているであろうという歴史の重みに反して

普段から人の気配がなく少し寂れている感じで

 

蝉の声と僕が砂利を踏みしめる音とあとは時折気まぐれに吹く風が

木々を揺らして葉擦れの声をたてているのみだった。

 

 

木陰から見上げてみるとそれすら電信柱並に太い枝葉の向こうに

ギラギラと時折光を反射する灰色の物体が浮かんでいる

 

 

 帝国艦隊の巨大な航宙艦だ

 

 

あれはいったいどのくらいの大きさが有るのだろう

空には比べるものがなにもないのでまるで大きさを実感できないが

 

 それでも無骨な鉄骨を組み合わせた

製鉄所の高炉のような外観を持つそれは

海上を行く超大型の石油タンカーをいくつか束ねたぐらいには

大きいだろうと察しがついた。

 

 一隻だけじゃない、二隻、三隻、四隻・・・、と

遠近法の説明図のように遠く霞むまで並んで

あたかもデパートのセールを知らせる

アドバルーンのごとくポッカリ浮かんでいるのが見える

 

ぼくの住んでいる街にも宇宙港はあるけれど

あんな巨大な航宙艦が当たり前にプカプカ浮かんでいる光景は初めて見た

 

姉によると

あれは船が自力で飛んでいるのではなく

地上施設と二人三脚でちょうどリニアモーターカーのように

浮かんでいるという事だった

リニアモーターカーは磁力の力で浮上しているけれど

あの巨大な宇宙船はたぶん磁力とは違う力を

使って浮かんでいるのだろう。

 

 

帝国艦隊というのは日本の組織だが日本政府のものではなく

 

独立した民間の組織で宇宙探査と開発を担う

巨大航宙・防衛企業とされている。

 

 そして日本を除く世界中の政府から

嫌われているらしい

 

 

それは、ああいったとんでもない技術を宇宙人の遺物から手に入れて、

それを独占しているというのが理由らしいが

僕には政治のことはよくわからない

 

世界中から嫌われているというのも政治的な話であって

 

念積大戦や第三次世界大戦なんて呼ばれる

世界中を巻き込んだ大紛争も

 

結局誰が勝者かすらハッキリしないまま

ずっと未だに責任を押し付けあっているみたいに

誰の言うことが正しい認識なのか海千山千の大人たちが

したり顔で論争しているニュースを見ても何もわからないし

分かりたくもなかった。

 

 

 

 

だけど・・・

 

 

 

今は姉が帝国艦隊付属校に通っている

 

それも

いまいち釈然としない理由でだ

 

 

 この土地の人は

雲が浮かんでいるのが当たり前のように

あんな巨大なものが浮かんでいることを気にもしないが

 

 僕はその非日常感に不安になる

 

そして漠然と、すでに姉はその非日常の世界の住人になってしまって

いるのではないかという危機感

 

この土地の人も含めて、みんな騙されているのではないかという

本能的な懸念に苛まれている。

 

 

 

「航宙艦がお珍しいのですか?」

 

 

 倒錯したような空の景色に心を持っていかれて

すぐ後ろから声をかけられるまで人の気配に気が付かなかった、

 

 いや、そもそもこの人は人の気配が有るのだろうか?

 

振り向いた僕はそう思わずにはいられなかった

 

 

そこには長い髪の女の人が立っていた

 

艷やかに輝くその髪は気品そのままにゆるやかにウェーブしており

モデルかなにかのように背が高く姉とはまた違うタイプの美人だった。

 

 姉もそうだが可愛いのではなく美人なのだ

一見、落ち着いた大人の女性のようにも見えたが、

その目は思いのほか初々しい素直さのようなものを残しており

そしてどこか人間離れした怪しさが見て取れた

 

 それはその人が

木陰とは言え真夏に着物を着てまったく汗をかく様子もなく

涼やかにすら見えるというだけではなく

 

とても姉ぐらいの年頃の女子のものとは思えない

遠い太古の日本からやってきたような佇まいだったからだ。

 

 

「艦隊の人ですか?」

 

なぜか直感的にそう確信した僕は彼女の呼びかけに返答もせず

思わず問い返してしまった

 

そして彼女は

 

「はい」

 

と答えて

 

「あなたが私のお友達に似ていたので、つい声をかけてしまいました」

 

と、涼し気な目を細めてほんの薄っすらと微笑んだ。

 

 

 ザワザワと夏風がクスノキを揺らし

手水舎にある龍の像から流れ落ちる水がわずかに飛沫を立てて

キラキラと乱反射している様子が彼女の背景にぼやけて見えた

 

 

 僕が姉の名前を言うと彼女はコクリと頷いたあと

不思議そうに少し首を傾げて

 

「わたしの顔に何か?」と言った

 

 僕はそれで自分が

すっかり彼女を凝視し続けてしまっていた事に気がついて

慌てて目をそらして弁解した

 

「いや・・・!その・・・!」

 

 弁解しようにも見惚れていたなどと言えるはずもなく

そしてそれは彼女の外見だけでなく

現し世を離れた存在感に対して、人外、物の怪の正体を

見破ろうとするような意識が少なからずあったなどという

とても言葉に出来るものではなく

 

急激に動悸が激しくなった

 

 あからさまに挙動不審な振る舞いであることが

自分でも痛いほどわかって首から頬に伝わる強い脈動と共に

ますます顔が紅潮してゆく

もう地面を見つめるしかなくなってしまって

 

「姉が・・・お世話になっています」

 

とだけやっとのことで答えた。

 

 

その様子を見て彼女は

 

「あなたは・・・

お姉さんにとても良く似ていますね」

 

とクスリと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木々の木陰を抜けて少年の後ろ姿が

遠く白昼の日差しの中へと溶け込んでいくころ

御神木の幹の後ろからもうひとりの娘が現れた

 

 

 

 

「貴音!あれが千早の弟か?」

 

 そう、妖麗の娘に声をかけたのは

貴音とは正反対の健康的に日焼けしたポニーテールの娘だった

 

 猫科を思わせるしなやかな身のこなしで

大木の太く張り出した根をひょいひょいと飛び渡ってくる

 

「響・・・! 

見ていらしたのならご挨拶すれば良かったのに」

 

貴音がそう言うと

 

わざと呆れたように肩をすくめて見せながら

 

「私は貴音を守らなければならないからな」

 

「わたくしも響を守らなければなりません」

 

「まぁ、そうだけどさ」

 

「あの方が何か私達に仇なすと?」

 

「ん~~~、そうじゃないけどちょっと様子が・・・」

 

「様子ですか?」

 

「尋常じゃないな、心ここにあらずで

なにか憑き物に憑かれているようにさえ感じる」

 

 

「そのような大事に・・・!」

 

 

「ま・・・気の回しすぎかも知れないけどさ!」

 

「そんな事はありません、

カンナキ(神御嶽主子)である響がそう感じているのなら

きっと何かの流れが淀んでいるのでしょう。」

 

 

「まぁ・・・

帝国艦隊にもそうだし

自分ら感応兵器部隊の人間にもいろんな思惑を持って

あの手この手で接触してくる勢力が有るんだからさ

 

当然その親類でも

何かに巻き込まれている可能性を常に考えておくべきじゃないかと

思わなきゃな。」

 

 

響きの言葉に

貴音は悲しげに表情を曇らせ

 

 

「そうですね・・・」

 

そう言うと

少年の消えていった陽炎の立つ真っ白な路地の向こうへと

もう一度視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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