『スターラスターガール ~感応兵器・如月千早の夏休み~』 作:cyanP
背は僕とさして差はないが
帝国艦隊の青いジャンプスーツを着て
黒いカチューシャできっちり髪をまとめた
ストレートヘアのいかにも切れ者という鋭い視線の女子が立っていた。
てっきり姉が来ると思っていた僕が面食らっていると
「わたしはキミのお姉ちゃんと同じチームで、
とりあえずチームリーダーをやっている水瀬だ
キミのお姉ちゃんに頼まれて来た」
と彼女は簡潔に述べた
するとその後ろに立っていたツンツンと尖った髪を
ベリーショートにした男子みたいな快活そうな子が顔をのぞかせて
「あ!ホントだチーちゃんと似てるぅー!
わたしも同じチームの菊地です、よろしくねー。」
とにこやかに手を差し出して言った。
ぼくは慌てて立ち上がって二人と握手をした。
「ぼ、僕は如月 ユウです。」
「ユウ君か、じゃ、説明するから座って」
と、うながされて僕たちは向かい合わせにソファに座った。
「えーと、千早。キミのお姉ちゃんねぇ
ちょっと調整に時間がかかって予定変更になったんでここには来れない」
「あ・・・そうですか・・・。」
「うん、でー、その艦隊の案内?っていうの?
せっかく各方面にも許可を取ったって言うから
じゃあ、わたしらが買って出ようか?という話になったワケ
――嫌かな?」
「え、いや・・・そんな事ないです!」
「そうか、なら決定だな。えーと・・・どっから行くか」
手に持った電子パネルを眺めながらリーダーの子は
テキパキと話を進めていくすると隣でモジモジしていた
キクチという人が口を開いた
「伊織ちゃん!」
「んー?」
「わたしお腹すいちゃったんだけど・・・」
「あー、そうだな」
「ユウ君!」
急に部下のように名前で呼ばれてビックリする
「はい」
「わたしらなー、今日は朝から訓練あってロクなもの口にしてないんだ
これからまず食事をしたいんだけど付き合ってくれるかな?」
「は、はい」
「よし、行こうか」
そういうと水瀬さんはサッサと淀みのない動作でラウンジを出て
カーペットの通路と艦隊職員用の簡素な通路とを隔てている
カモフラージュされた扉の電子ロックを解除し
ぐいっと体を預けるように押す。
フラットに見えた壁面に筋が入り
隙間ができたかと思うとそれが広がって入り口となった。
水瀬さんはそのまますっと入り振り返りもせずどんどん歩いていく
菊池さんもその後に僕を促すように見てから続く
入ってから振り返ると扉はゆっくりと元の壁の位置に戻りつつあった
鏡面仕上げみたいに姿が映り込む床の静まり返った通路には
足のない警備ロボットがこちらを監視している以外なにもなく
3人の靴のゴム底がかすかに立てる
キュッキュッという音だけが足早に小気味よく響いていた
前を歩くチームリーダーだという水瀬さんは何歳なんだろう?
僕と背も変わらない小さな人なのにどこか大人っぽくて落ち着いている
歩く姿も自信ありげというか
こういうのを『颯爽としている』って言うんじゃないだろうか?
チームリーダー・・・
チームっていったい何人くらいの規模なのかな?
そもそも何のチームかすら僕は知らなかった
そんな事を考えているとそばを歩いていた菊地さんが
通路の説明をしてくれた。
「ユウくん!今歩いているここの通路はすでに
制限区域(コントロールドエリア)に入ってるんだよ?」
「―― 制限区域・・・?」
「うん、つまり例え政府の偉い人でも、警察でも
許可なしには出入りできない特別なエリアって事ね?
だからユウくんも今日は特別の許可ってワケなんだよ?」
そういうものなのか・・・
でもちょっとなんか大げさに脅かされてるような気もするというか
だいたいウチのお姉ちゃんにそんな大層な許可が取れるというのが
なんとも想像しにくいと言うか
警備だってマスコットみたいなロボがぽつんと立ってるぐらいだったから
いまいち実感がわかないというのが正直な気持ちだった。
水瀬さんが扉の前で立ち止まり
僕が戸惑ってないか一瞬振り返って確認すると
二重扉の空間を抜けて新交通システムのカプセル車両に乗りこんだ
これで離れたブロックへと移動する
新交通カプセルは大きめの
エレベーターバスケット程度のサイズで
基地のいたるところへと軌道が繋がっている。
外から見ると
電車の車両の前だけ切ったようなデザインであることが
他のカプセルがいくつも基地の壁面をうごめいている様子で分かる。
手すりはあるがイスは無い
縦横無尽に結構な速度で移動しているが
振動もわずかしか無い、だからなんだか
ただ立体映像の見える箱に入っている気分がする。
やがて直線約1000メートルの主要連絡橋へと差し掛かった。
側面に設けられた窓からは
さまざまな小型艇が忙しく行き来している様子や
無人機が荷物を運搬しているのが見えていたが
何より目を引いたのは
連絡橋と並行してすぐ側に係留している巨大な航宙艦だった。
いつも遠く空に浮かんでいるのを見上げていたが
間近で見るとまったく違う新鮮な感動を覚える
船体には
ひとつひとつが巨大サイズのパーツや配管がクッキリ見える
特に配管のパイプが中を大型トラックが
何台も行き来出来そうなほどの太さがあるのが印象的で
それらが縦横に組み合わさっているのを立体的に見ていると
自分がミニチュアサイズになって
機械の裏にでも入り込んだかのような錯覚を受ける。
「これは標準型の巡恒艦だよ」
ぼくが係留している航宙艦に見入っているのを見て
菊地さんが嬉しそうに教えてくれた。
「航宙艦とは違うのですか?」
「ううん、航宙艦というのは宇宙船の総体的な呼び方だね
これはその中の巡恒艦という種類
つまり太陽系と太陽系の間みたいな何光年もある超長距離を旅することが
出来る宇宙船なんだよ?」
「いつもプカプカ空に浮かんでるけどそんな遠くまで行くんですねー」
「そう!でね、どれも同じように見えるかも知れないけれど、
よく見ると構成パーツが変更されてて
それぞれちゃんと見分けが付くんだよ?」
「武器もついてるんですか?」
「だいたい基本装備的には大型目標用の長距離直射型プロトン砲が
予備と合わせて2門と小型目標用のターレット式
スレイザーが複数ついてるね」
「強いんですか?」
「たまに惑星間定期便が
宇宙生物に襲われたってニュースがやってるよね?
ああいうのに主に出てくるギャラガグループの強襲型旧第一世代
小型真空生物群程度ならビクともしないかな」
「すごいんですね~」
「う~ん、でも宇宙人の船の方がずっと強いかも」
「え?そうなんですか?」
「うん、だからむかしほど航宙艦では戦わないね」
そういうもんなのか・・・
帝国艦隊なんていうから、艦隊戦とかやっているのかと
勝手にイメージしてた。
そもそも帝国艦隊なんて名前が付いてても
別に他の国や星を支配しているわけでもなんでもないのに
おかしな感じだなと以前社会科の授業で習った
帝国主義の定義なんかを思い返していた。
確か帝国主義というのは
『政治、経済、軍事などにより他国、他民族を
侵略・支配・抑圧し強大な国家を創らんとする思想や政策』だったはず
でも僕が知る限り
帝国艦隊は世界を支配どころかむしろ
世界各国政府からの干渉を遠ざけようとしているように見える
どこらへんが『帝国』なんだろうか?
振り返ると菊池さんと目が合った
菊池さんは、何かを言いかけていたが急に
恥ずかしそうに頬を赤らめ「へへへっ」と照れ笑いしてごまかした
それは菊池さんが航宙艦というかああいうモノがとても好きな様子で
つい夢中で話してしまいそうになるのをなんとか思いとどまった
そんな感じの飾り気のない素直な遠慮の現れであると感じられた
ぼくよりいくつ年上なのかわからないし
第一印象は男子っぽく見えたけれど、
なんだか可愛いらしい人だなと思った。
それまで
艦隊の人はみんな腹に何かあるような底知れない人ばかりなのかと
すっかり思い込んでいたので僕は菊池さんを見てここで初めて
同級生にでも会ったような気持ちで少しホッとしていた。
◇
カプセルが到着した先にあったのは宇宙空間を眺めながら食事のできる
食堂というかファミレスというかそういう感じの場所だった。
入口の外の通路には食品サンプルのガラスケースがあり
そこの券売機で食券を購入するというシステムになってるらしい。
到着ロビーにあるものほど洒落た店舗ではないが
観葉植物が配置されたパーテーションに区切られており
明るく清潔感があってメニューは各種定食やデザート等あり
どれも美味しそうに見えた。
まだ午前11時前だったがじゃあもうここで昼食として
済ませてしまおうと思った。
「ユウくん、ウチのチームの
おごりだから好きなの選んでいいよ」
と水瀬さん。
「え、いや、そんな・・・」
と僕が辞退しかけると
「あー、遠慮とかいらんから。
ここは艦隊の生徒に配布されるチケットのポイントで
注文出来るんだけどなぁ、
うちのチームのおっちょこちょいが
今日中に消費しなきゃ抹消される臨時のポイントを
アホほど稼いできてなぁ
融通も利かないしどのみち使いみちが無いんだわ」
「美希ちゃんポイントが消えるの知らないのかなぁ?」
「あの様子じゃ知らんだろうなアイツは
前にちゃんと教えたんだけどなぁ」
「まだ航宙機の戦闘シミュレーターやってるの?」
「やってる、春香と一緒にA組をボコボコにして荒稼ぎしてる」
「あちゃ~~」
水瀬さんと菊地さんの会話を聞きながら
なぜか僕は、駅前で見た
あのリボンと金髪の二人組のひと達を連想していた。
たしかあの二人も同じチームのはずだ。
食事は菊地さんの
「エビピラフが美味しいよ?」の一言で
三人共エビピラフとサラダとアイスコーヒー
という組み合わせになった。
じつは、情けない話
初対面の女子のひと達と一緒に食事するという
しかも
ごちそうしてもらうという状況で
いままでそれが経験したことの無い非常事態であることに気がついて
これはちゃんと振る舞わなきゃいけない場面なんだと
急に意識してしまってぼくはドギマギしはじめた
食品サンプルが並ぶガラスケースの前で
両サイドを女子のひとに挟まれた状態で
返答を待たれる形となって
僕はとにかく何か早く決めなきゃという焦りで
メニューもなにも目が回って見えなくなっていた。
『こんなとこの食事ぐらい
なんでも良いんだ適当に決めろよ~』と
心の中で架空のおじさんを想像して
自分を落ち着かせようとするのだが
そうはいっても現実の僕はただの中学にあがったばかりの
男子なワケであり
こういう場面に直面して冷静に振る舞おうとすると
よけいに変な感じになってくる
親と行く外食の感覚で注文したらやっぱり変だろうか?
そりゃ変だ
子供っぽく思われたらどうしよう
かっこ悪くないのはどれだろう?
思考がグルグル巡って答えがサッパリ分からない。
すると水瀬さんが
僕が決めあぐねてるであろうことを
いち早く察してくれて
「それじゃあ」と言いながら
手早くパパッと僕の分の食券も買って
「足りないものがあったら追加してね」
と手渡してくれた。
僕がホッとして視線を向けると
水瀬さんは何も気に留めていないように
よそを向いていた
知らない人が見たら人の注文まで勝手に決める
なんとせっかちで自分勝手な人なんだろうという風に
見えるかもしれないけれど
水瀬さんは初めから慌てたりしていない
先に食事をすると決めたのも菊地さんの希望だからだ。
僕がテンパっておかしな振る舞いをして
恥をかいてしまわないようにあえてそうしてくれたのだ
水瀬さんの後姿を見ながらぼくは
最初見たときは少し近寄りがたい頭は切れても冷徹なタイプの人かな
という印象を持っていたけど
決してそういうつまらない人ではないのだと
考えを改めていた。
姉が言っていた『みんな大人』というのは
こういう事を指していたのかもしれない。
そしてこんな人がリーダーなら
僕よりさらに人馴れの悪い姉であっても
ちゃんと上手くやっていけるのじゃないだろうかと
姉がここに並んでいる姿を
なんとなく想像していた。