魔法少女ガーネット、もとい島崎茜はベッドの上で目を覚ました。
「──あ、れ? 私、なんで」
『わ、わわ! アカネ起きたのだ! お医者さん呼んでくるのだ!』
思いの外頭はスッキリしていてこうなる前の事もすぐに思い出せた。
強力な《マモノ》が出て、慌てて出撃したら返り討ちにされた。救援を待ちながら遅滞戦闘をしてたら、結界内に一般人が巻き込まれていてにっちもさっちもいかなくって。勇気を振り絞ってドカーンとやってみたけれどあんまり上手く行かなかった。
体に痛いところはない。少し疲れはあるけれど問題ない。
ここはどこだっけ。魔法少女協会の病棟かな。じゃあきっと救援が駆けつけてくれて《マモノ》もどうにかしてくれたんだろう。
「あ、そうだあのお兄さん無事でしょうか」
茜の妖精──ポムが飛び出していった扉がコンコンコンとノックされる。とっさに居住まいだけ正してどうぞと言った。しまった寝癖くらい直すべきだった。
「失礼するよ、ガーネット」
「あなたは…!」
入ってきたのは白衣をたなびかせる真っ白な髪の少女。『医者』の魔法少女Dr.J──日本に10人しかいない二つ名持ちの魔法少女だった。ただの魔法少女でしかないアカネにとっては雲上人もいいところ。写真とかでは見たことがあるけれど実物をお目にかかるのは初めてで、ごくりと唾を飲んだ。
「うんまあ一応名乗っておくね。私はDr.J、昨日搬送されてきた君の手当てを担当させてもらった者だ」
「私はガーネットです。その、ありがとうございます。ドクターにも、それから救援に来てくれた方にもお礼が言いたくて」
「まあ待ちたまえ。ひとまずこれでも飲んで落ち着くんだ」
ドクターはあわあわと話し始めるアカネに微笑みかけると、飲み物を差し出した。一目で作り笑いと分かる微笑だったが、それでも相手を安心させるような温かみがあった。
今更のように喉の乾きを覚えたアカネはひとまず受け取ったお茶のボトルに口をつけて、一気に半分ほど飲んでしまった。緊張はすこし解けたけれど今度は自分の身だしなみが気になる。顔くらい洗っておけばよかった。ベタついている気がする。
「すみません、落ち着きました」
「よかったよ。一応今の君の状況を説明すると、普通の体の方はまるで問題ない。いつもどおり生活してもらって大丈夫だ。
「そう、ですか。じゃあ1ヶ月は戦えないってことですか?」
「そうなるね。君の地区は他の子に防衛をお願いしてるし、しばらくは安静にしてることだ」
結構酷い怪我をしていた覚えがあるのでなにも言えない。他の地区の子に迷惑をかけてしまうのが申し訳なく思える。
暗い顔になってるのを茜は自覚していた。もっと自分が強ければよかったのにななんて思う。
「あとこれはね、それとは別件なんだけど…」
「はい、なんでしょう?」
ドクターはそんな茜に対して、なにか言葉を選ぶような素振りを見せていた。形のいい眉を何度かしかめ、最後には諦めたような顔。
「…昨日の結界内にさ、誰か他の人っていたかな?」
「はぁ、いえいましたね。一般の男の人が巻き込まれてました」
「男? どんな人だい? 見間違えではなく?」
「えっと間違いなく男性でした。少し背が高くて痩せ型で、すごく驚いたって感じの顔してたような」
「──間違いなく、男なんだね。なら君の妖精が言ってたことは間違いじゃないと見たほうがいいのか」
「あの…?」
ドクターはなにか考え込んでしまったようでぶつぶつと時折独り言を呟いている。完全に自分の世界に入り込んでしまってる。
なにか言ったほうがいいだろうか。茜は無言で過ごすのは得意ではないのだ。
「あの私を助けてくれた救援の方の名前ってわかりますか? 直接お礼を言いたくって」
「──助けてない」
「え?」
「救援は君を助けていない。彼女たちが駆けつけた時点で《マモノ》は倒されていて、君は結界の消失とともに病棟に転移してきたところを保護されたんだ」
「えっと、どういうことですか?」
「ガーネット、君が倒したわけじゃないんだろう。救援が倒したわけでもない。結界内に君以外が入った形跡もないんだ。なら最初から結界内に巻き込まれていた人間が倒したと考えるのが妥当だ」
《マモノ》を討てる人がいないはずなのに、《マモノ》が倒された。じゃあ結界の中に巻き込まれてしまった男性が倒したのだろうか。
いやいやそんなのありえない。《マモノ》を討てるのは魔法少女だけだ。男のヒトが倒したなんておかしい。
そうしてアカネが頭上に疑問符を浮かべていると、ポムが帰ってきた。
『あ! ドクターもう来てたのだ! アカネはもう大丈夫なのだ?!』
「そうだねそれは大丈夫そうだ。あとさ、しつこいようだけどもう一回キミが見たことを教えてくれるかい?」
『あーそのことなのだ? ポムもちゃんと見れたわけじゃないのだけど…』
ポム──アカネの妖精である赤い人魂はふよふよと周囲を飛び回ったあとこのように続けた。
『結界の中にいた男の人、彼が変身して戦ったのだ。名前は確か』
魔法少女ワンショット、前代未聞である男の魔法少女。それが意味することを島崎茜はまだ知らない。