魔法少女☆ワンショット語りて曰く   作:不死浪シキ

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2-1 要するに命の恩人

 ズズゥンなんて重々しく倒れ伏したのはバカでかいカブトムシ。甲殻の上から力任せに滅多刺しにしてようやく倒せた。苦戦というほどではないが手こずらされたな。

 

 光る粒子へと変化していく《マモノ》を眺める。

 

 これはCランク程度の強さらしく、パワーもスピードも兼ね備えた近接ファイターって感じの戦い方をされた。まあそこはどうでも良くて、なかなか死なないしぶとさが一番面倒だったのだけど。

 

 足元に触れるものがあって、視線を向ければナハトがいた。どうにも不満気な様子。

 

『──なぜ、魔法を使わなかった?』

「魔法なら使ってたけど」

『単純な身体強化のことではない、ワンショットを使わなかったのはなぜかと聞いている』

 

 ワンショットって、俺の魔法少女としての名前じゃん。そんな風に思ったけど、よく考えたら俺の切り札の名前でもあったわ。ゼロ距離でナイフを突き立てて薬液(魔力)を静脈にぶちこむ必殺技。

 

 ようするに静脈注射で毒物入れて即死させてるだけなので甲虫に通用するはずがないって──あぁなるほど。

 

「カブトムシは開放血管系。毛細血管とかがない」

『それが?』

「いや静脈ないでしょ? だから静脈注射(ワンショット)できるはずがない」

『いや、あるが?』

「え?」

『え?』

 

 スマホで開放血管系を検索する。

 なになに、動脈と静脈が毛細血管で繋がってないだけで静脈自体は存在する?

 

 あっ、ふーん。あるんだ静脈。これは俺が静脈エアプだった。

 

「………」

『そもそもだが、ハルカはワンショットという魔法を静脈注射のイメージで使っているだけで、実際には自身の魔力で敵の体内を汚染しているだけだろう』

「…そうなの?」

『──いや、やっぱりいい。魔法への確信を失わせるようなことを言った。この話は忘れてくれ』

 

 言われたとおり聞かなかったことにする。

 と、とにかく、今後は昆虫っぽい《マモノ》にもワンショットは通用するということだけ覚えとこう。それでいいや。

 

 疑似幽世結界の解除を確認して転送作業に移る。

 

 俺が魔法少女になってから、かれこれ一ヶ月。秋が過ぎ冬へと入り始めた寒空の下のことであった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 時間が過ぎるのは速いもので、ついこの間までは肌寒いで済んでいた天候もパーカー一枚で過ごせば風邪を引きかねないほど。中身はともかく外観は子どもそのものな俺は、表面積の関係上深部体温が下がりやすい。年越し前ではあるがダウンジャケットにネックウォーマー、手袋と完全防備だ。

 

 《マモノ》を倒し終えた俺はその足で近くのスーパーに買い物に来ていた。

 

 夕方ということもあり主婦、学生、スーツ姿のおじさんなど様々な人がいる。

 

 とりあえず、生鮮食品売り場から行くか。

 安くなってるものを見繕って、料理はまた後で考えればいい。

 

 あとナハトは置いてきた。周りの人間は気付かないらしいが、なんか認知機能を妨げる結界に頼るのは健全ではない、気がする。

 

「白菜、安くなってる。えのきも残ってるし鍋がいいかな」

 

 他人には聞き取れないように小さな独り言を漏らしつつ、買い物かごに品物を放り込んでいると、周囲のおばちゃんから生暖かい目で見られた。まあまあ偉いわねぇみたいな感じの目だ。

 

 中学生、ともすれば小学生に見られかねない容姿である以上、そういう視線を送られてもおかしくはないのだが、なんか詐欺みたいで申し訳ない。ごめんな。こんな中身で。

 

 商品棚を見回しつつ自宅の在庫を思い出す。鍋の素は残っているし、あと必要なものは豆腐と肉と──

 

 半額のシールが貼られた豚バラを発見。

 鍋に丁度いいものを見つけた俺は、すかさず手を伸ばし。

 

「わわっ!?」

「──、すみません」

「あ、ごめんね。こちらこそ不注意で…」

 

 ちょうど同じものを取ろうとしていた見知らぬ誰かの手にぶつかってしまった。反射的に手を引っ込め謝る。

 

 顔を上げれば見知らぬ少女。買い物かごを持ち、どこかの中学校の制服を着ている。へぇ、まだ子どもなのに買い物をしてるのか。感心感心。

 

 俺が学生だった頃はおつかいなんてしなかった気がする。あれ、どうだっけ?

 

「あの、えーっと。これ2パックありますし。1個ずつでもいいですか?」

「…ありがとう」

 

 少女の言うとおり1パックずつ豚バラ肉を分け合う。なんか申し訳ないな。俺のほうが歳上なのにリーダーシップとってもらってる。

 

 すんなり話がまとまったのでこれにて失礼しようと思ったのだが、少女はなぜかこちらをまじまじと見つめていた。言っちゃ悪いが不躾だ。爪先から天辺までなんども視線が動いて、深く考えてるような顔されると流石に気になる。俺の顔になんかついてるか?

 

「わたしになにか?」

「あー、いえ。そのですね。あなたと私、昔あったことありますか?」

「──ナンパ?」

「いや違うんです!そういうつもりじゃなくて!」

 

 ベタベタなナンパの常套句に思わず一歩引いた。とはいえ相手は中学生の少女。こんなおっさん──あぁ、いや、今は女の子か──にわざわざナンパなんてするはずもないか。

 

 今度はこちらから慌てふためく少女を観察する。赤みがかった茶髪を後ろで結んだ可愛らしい子だ。発育がいいようですらりと背が高く健康的な肌の色をしている。見るからに快活そう。

 

 とはいえ、こんな子とどこか出会ったことあるだろうか。言われてみれば見覚えがあるような気がしないでもないけど。たしかに、見たことある、かも?

 

 うーんどうなんだ。他人の顔あんまり覚えられないタチだから微妙。

 

「ごめん。よくわからない」

「あーそうですよね。なんだか良く似た雰囲気の人にあったことがあるような気がして」

「無理して敬語使わなくていい」

「本当?ありがとね。きみも敬語使わなくていいよって、言おうと思ったけどもうタメ口だったね」

「…私の方が年上だから」

「え、ほんとに!?今いくつ?」

「二十八」

「……いや、さすがにそれは無理なんじゃない?」

「む…」

 

 言い返したい気はやまやまだが、まあたしかにこの外見で二十八は無理か。半分にしてようやく納得してもらえるような見た目だからな。なんか、こう、背伸びしたいお年頃ってかんじで納得してもらおう。

 

 ちらりと少女の胸元を見れば名札があった。

 

 ───ちがうぞ。こんなこどもに劣情催して胸を見たとかではない。顔を見上げようとするとどうしても、そのご立派なものが視界に入るというだけで他意はない。マジで。

 

 それは置いといて、名札を見る限りは近くの中学校の二年生で島崎というらしい。うーん。知らないな。近所の中学生とはいえ二十八の男が名前とか顔把握してたらさすがに不味い。犯罪の気配がそこはかとなくする。もしかしたら以前の職場で患者として来てたとかなら見たことあるかもしれないが、その時の俺はまだ男だ。今の俺にどこかであったことあるかなんて聞くはずもない。

 

 彼女の気のせいだったということにして俺はそそくさと退散した。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 慣れというものは恐ろしい。

 前の職場とか自動車講習センターとかでは慣れた頃が一番危ないみたいな話を散々にされたが、今のそれはそういう意味ではない。

 

 浴槽から上がって軽く背を伸ばす。ばしゃりと揺れる水量は男だった時とは比べるまでもなく少ない。体格が目に見えて小さくなったからだ。湯気に曇ったガラスを擦れば頬を上気させた少女の姿。黒髪に一房真っ白の前髪が垂れている。金色の瞳も相まってまるで猫みたいだ。

 

 ボディ用スポンジ───フェイスタオルを使っていたがこの体には刺激が強く痛かったため買った───に石鹸を擦りつけながら益体もないことを考える。

 

 慣れたな、と。

 

 こんな体になった初日は自分でも驚くほど冷静でいられたが、さすがになんでもかんでも平静だったわけではない。トイレや風呂など勝手の分からないことは数多く、スマホの検索履歴がどんどん人に見せられなくなっていきながら、なんとか生活様式を確立した。

 

 まあ勝手が分からないとはいえ職業柄最低限の知識はあったのだが、あくまで自分は手技を行う方。自分で自分の体にというのは難しかった。

 

 ふんふん鼻歌を歌いながら体を洗っていく。少女の体とはいえ、それ以前に自分の体。ましてや子どものそれだ。違和感こそあったのも性的な目で見るのは無理がある。なによりこの体になってからその手の欲求が薄いため、特に思うところもなく風呂にも入れる。

 

 我ながら恐ろしい話だ。全く違う体になったにも関わらず、平然と生活を続けられている。手順をいちいち確認していたのはもう一ケ月も前。もう無意識にでも生活ができている。

 

 慣れというものは恐ろしいな。

 

 洗顔を済ませ、最後に頭。シャンプーも男の頃と同じものを使っているが特に不都合もない。ナハトが俺の匂いを嗅いで『(ヒノキ)のようなさわやかで落ち着く香り』と称してたのを思い出すが、別に石鹸もシャンプーもそんなにおいはしない。たぶん体臭だろうな。この体臭がベッドとかに染み付いたら高級感あふれる布団にでもなるのだろうか。かなり変態っぽい考えだがナハトがしょっちゅう俺の布団に忍び込んでいるのを見る限り、あながち間違った思考ではないのかもしれない。

 

 泡を落とし終えて湯船につかる。

 

 風呂はいいものだ。体が小さくなったことで相対的に広くなった浴槽は、体を横たえてもぎりぎり収まりそうなほどだ。流石にはしたないし、髪を湯につけるのはマナー違反なのでやらないが。体の芯まで温まる感覚が男だった時より速い。これも身体の体積の問題だろうが、長風呂するとのぼせやすくなってしまったのはいただけないな。

 

 そうして鼻歌交じりに風呂に使っていたら、なにやら外でやかましい音が鳴り始めた。

 

 ピピピピピ! ピピピピピ!

 

 アホかと思うほどデカいアラーム音が響く。響くというかまるで脳内で直接鳴っているみたいだ。

 続いて器用にもスマホを加えてきたらしいナハトの声が脱衣所から聞こえてくる。

 

『ハルカ、《マモノ》だ。出れるか?』

「…、出れるよ。適当に押しといて」

『そうか』

 

『ピピ! 精霊反応を検知、検索開始。精霊ナハトに相違ありませんね! 精霊による代理を確認。魔法少女ワンショット、承認しました! 規定に基づき《マモノ》出現予報のデータを開示します!』

 

 気分よく風呂に入っているというのに傍迷惑な《マモノ》だ。

 

『出現位置、三輪座町□△東、国道△〇沿いの寺田商店前。出現まで残り20分程度。《マモノ》の推定危険度C+。《マモノ》の出現数を考慮して出撃推奨人数を算出───()()()()()()()()()()()()()! 出撃エントリー受付開始。定刻まで残り15:00:00』

 

 え、なんだそれ。

 

『ふむ、大した強さではないが数が多いということだろう。結界を抜けられないように人手を確保すべきとのことだろうな』

「…、それ大丈夫かな。わたし一人で」

『ハルカなら問題ないだろう。他の者がどう思うかは別としてだがな』

 

 まあナハトが言うのなら大丈夫だろう。

 俺は風呂を上がって最低限の身だしなみを整えるてから出撃(エントリー)をタップした。

 

『──承認。これより魔法少女ワンショットの転送を開始します。衝撃にお備えください──2、1、』

 

 視界が、光に包まれる。 

 

 

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