あれは嘘だ(単純にモチベがあっただけ)。
それと、誤字報告ありがとうございます。
テイオーが骨折してから数か月。ギブスも松葉杖も外れ少しずつ練習に加わることも増えてきた。
まだ満足に走ることはできないが、確実に回復に向かっている。また、先日の診察で医師から「予定よりも治りが早い」と言われこのまま治れば菊花賞の参加にも間に合いそうだとのこと。
ただし、もし菊花賞に出れたとしても骨折からの復帰後すぐのレースともなる。あの有馬記念にも似たような状況でもある。もし、もしも負けるようなことがあれば……テイオーは自分の夢である「無敗で三冠ウマ娘になる」の両方の夢が打ち砕かれてしまう。
本来のテイオーは菊花賞に参加できず、三冠の夢が。復帰後の天皇賞・春でマックイーンに負け無敗の夢が破れてしまう。それで心が完全に折れてしまうが、そこから再び起き上がり強くなったテイオーが見れた。
私の影響でテイオーが菊花賞に出れたとしよう。そしたら、困難を乗り越えて強くなるテイオーではなくなってしまう。
それで良いのか? これはテイオーに対しての新たな試練なのかもしれない。そうなれば私の知らない未来になる。私はその責任をもって彼女を全力で支えよう。
「テイオーさ、少し走り方変わってきたよな」
「そうね。どうしてかしら?」
「なぁ、アリスなにか知ってるか?」
テイオーが少しずつ練習に参加するようになり、まだ全力ではないが軽く走るようになった。
その為、私の入れ知恵で走り方を変えつつあるテイオーに気付いたウオッカとスカーレットに聞かれた。
「ん? あぁ、実はね私が提案したんだよ」
「え? どうして?」
事の顛末をウオッカとスカーレットに伝えた。
「なるほど……テイオーの骨折の原因がテイオーのあの走りだと思ったのね」
「そうそう、実際に私も真似して走ってみたんだけどかなり脚に負担かかっていたんだよね。
テイオーだからこそできた走りなのかもしれないけどそれは思っていたよりも負担になっていた。それが積もって骨折に繋がったと思ったんだ」
「時々思うけどアリスの着眼点すげーよな……俺はそんなことすら考えたことなかったぜ」
「寧ろ気づかないほうが多いと思うよ……」
実際、私はテイオーの未来を知っていたこともありその悲劇を回避させたかった。ただ、その未来を乗り越えて強くなるのが本来のテイオーが辿る運命だったはずだ。
ちなみにテイオーに新たな走り心地を聞いてみたところ
「そうだね〜まだまだ慣れてないから変な感じだけど、なんだか走りやすいっていうか……上手く言葉にはできないけどいい感じだよ!」
とのこと。
うん、それなら良かった。もう菊花賞までそろそろ一ヶ月を切る。まだまだ出走登録は間に合うだろうがそろそろ決めなければならない。
◆
ある日のこと、トレーナーにテイオーについての相談をしにきたところ……
「あれ、テイオー……?」
テイオーがトレーナー室に入っていく姿を見た。
そういえば今日、通院の日と言ってたな。もしかして菊花賞についての話なのか? と思い、邪魔するわけにはいかないので外から聞き耳を立てて中の会話を聞くことにした。
『トレーナー』
『テイオーか、どうした?』
『前にした約束覚えてる?』
『ああ、脚の怪我が治らなければ菊花賞の出走を辞める……ことだよな』
『覚えててくれたんだ』
『当たり前だろ。……もしかしてテイオーお前……!』
『安心してトレーナー、医者からは走っても大丈夫って言われたんだ。でもね、もし今全力で走ったら脚が耐えれるかは分からないって言われたんだ』
……私の知っている物語と変わっているようだ。テイオーは菊花賞に出るのだろうか?
『それでね、菊花賞に出ようか悩んでるんだ。ここでまた骨折したら次はどうなるか分からない。でもここで菊花賞の出走を辞めればボクの夢が叶えられない。ねぇ、トレーナー。ボクどうしたらいいのかな……』
『……決めるのはテイオー、お前自身だ。テイオーはどうしたい?』
『ボクは……ボクは……!』
「テイオー!」
我慢できずにトレーナー室に入ってしまう。
「「アリス!?」」
「確かにテイオーは骨折してから頑張ってきた。実はね、私はテイオーは菊花賞に出れないと思ってた。正直、骨折が治らないと思ってたんだ。でも違った。骨折は完治した訳じゃないだろうけどこうして医者に出走してもいいって言われたんでしょ?
……無責任かもしれないけどテイオー、菊花賞に出よう。もし……もしここでまた骨折してしまったら次はどうなるか私も分からかい。けど……!」
「ありがとう……アリス。ボクも菊花賞に出たいよ。でも怖いんだ。また骨折したら? 今回は走れたけど次怪我したら走れなくなるかもしれない。そしたらボクは……」
「テイオーの夢はなんだ?」
トレーナーが尋ねる。
「ボクの……夢?」
「そうだ、お前はなんの為に走ってきた? なりたいものがあったんじゃないか?」
「ボクは……三冠ウマ娘……無敗で無敵の三冠ウマ娘になりたい……そうだよ……ボクは三冠ウマ娘になるんだ……!」
「テイオー……」
私達ウマ娘は誰しも何かしらの夢を持っている。その為ならどんな辛いことがあっても乗り越えれる。心が折れようとも、周りのヒト達に助けられ潜在能力以上の力を見せつける。
今のテイオーならきっと、きっと乗り越えられる!
「ボク……出るよ、菊花賞。無敗で無敵の三冠ウマ娘になるために!!」
「……そのいきだ、テイオー。よし! 菊花賞に向けてもっともっと力をつけるためにしっかりとトレーニングメニュー作らないとな!」
「トレーナー……! ありがとう! ボク、頑張るよ!!」
少し涙目のテイオー。本来ならあり得ないトウカイテイオーの菊花賞出走。それが叶ったのはいいが大丈夫だろうか? この改変が悪い方に進まなければいいのだが……
あの日以降、テイオーはよりトレーニングに力を入れていた。新たな走りもだんだん定着してきていた。また、以前よりタイムも伸び、菊花賞に向けて仕上がってきていた。
「そういえばテイオー、今回の菊花賞3000mだけど走りきれそう?」
テイオーは長距離での戦績が少なく、3200mの天皇賞・春では結果が振るわなかった。
菊花賞も3000mと長く、正直不安である。
「もー、ボクを誰だと思ってるの? 無敵のテイオー様だぞ!
そんなに気になるなら今から3000m走ってこようか?」
「いや、大丈夫だよ。今はまだ無理するわけにはいかないからね」
心配するだけ無駄だったようだ。普段の練習の様子見てる限りは大丈夫だとは思う。
テイオー曰く、新しい走り方にしてから体力が以前より減りにくくなったらしいし今回の長距離でも大丈夫だろうね。
「おーい、いつまで休憩してるつもりだ? そんなに余裕あるならもう一本行ってこーい」
「げげ、トレーナー……んもー、分かったよ。それじゃ、アリスまたあとで!」
「んー、せっかくだし私も一緒に行ってもいい?」
「もちろんだよ! アリスの走り、もっともっと見せてもらうよ〜」
念の為トレーナーに一言伝え、許可を貰ったので二人で併走した。
「ほらほら〜、もっと速く走らないと追い抜いちゃうよ!」
「くっそ……! まだまだぁ!!」
二人で駆け抜ける。まだ、私はテイオーには勝てないがたまにはこうやって走るのも悪くない。
「はぁ……はぁ……、お疲れ様、テイオー」
「ふぅ……おつかれアリス! まだ本格化してないのに流石だね」
「私なんてまだまだだよ」
「んもー! 謙遜なんてしないでいいのに!」
私は割と全力に近い走りをしていたが、テイオーは私に合わせるため少しペースを落としていた。だが、さっきの発言はテイオーの本心のようだった。
着実に菊花賞に向けて調子を整えるテイオー。かなり調子は良いようで本番では最高の走りをしてくれそうだ。
「テイオー! しっかりクールダウンしておけよ! もう来週に迫ってるんだから無理はだめだぞ!」
「わかってるよトレーナー!」
菊花賞は来週、完璧な状態に仕上がりつつあるテイオーは楽しそうに毎日のトレーニングをこなすのだった。
◆
────菊花賞当日
テイオーが怪我から復帰して直後のレースと言うこともあり、レース場に訪れている観客の数も凄いことになっている。
無敗で三冠達成目前と言うこともあるだろうが、やはり骨折をして菊花賞を回避するのでは? と思われていたテイオーが出走するので必然的に注目度もあがったのだろう。
「スズカさんの復帰レースのときみたいにヒトが多いですね!」
「ここまで無敗でしかも三冠目前……ということもあったり怪我からの復活したテイオーの走りを見たいってヒトが多いんでしょうね」
あまりにもヒトが多すぎて観客席に入りきれるのだろうか? と思うくらいヒトが多い。
一応応援用の場所は既に確保済なので安心だ。
「さて、そろそろパドックに移動するぞ」
「トレーナーはテイオーのところに行かなくていいんですか?」
「あぁ、大丈夫だ。集中したいときに俺が居たところでなんの役にも立たないからな」
それもそうか。怪我からの復帰して直後のG1レースだ。有馬記念の時と異なるがそれでも一人で集中したほうがよいのかな?
んー、私にはよく分からないがいつか分かる日が来るんだろうなきっと。
パドックにおいてやはりテイオーが出てきたときその場に居たヒト達が物凄く盛り上がっていた。さすがテイオーだな。
そういえばテイオーのバ番いくつだっけ?
本来出走しないはずのテイオーが居るので誰かしらが居なくなることになるのだが……
「8枠18番……か」
なるほど、そうきたか。本来の1991年菊花賞の一着とった馬と同じですかそうですか。
つまり……確定演出みたいなものかもしれないね。
18番と言うこともあり最後にターフに出てくるテイオー。その瞬間、観客席が盛り上がった。
あの日、スズカさんの復帰レースみたいに。ただ、こちらはG1なのでよりヒトが多いため盛り上がりは物凄いものだ。
「さすがテイオーって感じだな……」
観客席に向かって手をふるテイオー、こちらに気付いたのか近づいてきた。
「みんなー! にひひ、ボクの走りしっかりと目に焼き付けて置くんだぞぉ!!」
「ああ、いい走り楽しみにしてるぜ!」
「テイオー、勝ってきなさいよ!」
「あなたの走り、楽しみにしていますわ」
「頑張れよ!」
「もちろんだよ! じゃあ行ってくるね!」
「テイオー!」
「アリス……」
「ここで待ってる。勝ってここに帰ってこいよ!」
「うん! 最高の勝利、待っててね!」
そのままゲートの方に向かっていく背中をみて、とても大きく感じた。
あぁ、こんな短期間でも彼女は成長したんだな……どこまでも駆けてゆけ、テイオー。君はどこまで行けるのだろうか? もっともっと君の可能性を見せてくれ、トウカイテイオー。
そして今、菊花賞の幕が開ける!