淀の坂を乗り越えて   作:krm.nc55

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あけましておめでとうございます。
今年もちまちま更新していけたらなと思っています。
何卒宜しくお願いします。


帝王

 正直、ボクも今このターフの上に立てていることに驚いている。

 医者からは復帰は来年の春だろうと言われた。だけどボクは三冠の夢を諦めたくなかった。走れないことがこんなにも辛いことだなんて知らなかった。本当に来年の春には復帰できるのだろうか? 三冠と言う夢を失っても走り続けることができるのだろうか? 

 不安しかなかった。だけどそんなボクをアリスは全力で支えてくれた。

 

 ボクの走りの弱みを見つけ、新たな走りを教えてくれた。そして、自分のトレーニングの時間を割いてまでもボクを支えてくれていた。

 どうしてアリスはそんなに優しいの? ボクは菊花賞に間に合わないかもしれないのに。それでもアリスは

 

「大丈夫! 私はテイオーを信じている。必ず三冠を取ってくれるって信じているよ!!」

 

 ……どこにそんな自信があるの? ボクには理解できなかった。早くても来年の春って言われてるのに。

 

 そんな杞憂に終わる。ある日、病院に通院し医者に言われた一言が

 

「思っていたよりも骨折の治りが早いですね。これなら菊花賞に間に合うかもしれません」

 

 ボクは驚いた。何回も何回も医者には早くても来年と言われていた。それなのに突然このようなことを言われるのだ。

 嬉しかった。本当に菊花賞に出走できるならボクの夢である三冠に挑戦できる。

 だけど、いきなりのG1レースになる。怪我からの復帰してすぐのG1レースで一着を取れるウマ娘は居ない。

 

 けれどそんなに弱気でいいのか? ボクは……ボクは……! 

 

「ボクは……! ボクは無敵のトウカイテイオーだ!!」

 

 負けられない戦いがある。こんな弱気なボクはトウカイテイオーじゃない! 

 ボクはカイチョーみたいになりたい! 無敗の三冠ウマ娘になるんだ!! 

 

(その意気だよ、テイオー)

 

 ……! 背中を押されたような感じがした。

 

(うん……! みんな、ボクの走りを見ておくんだぞ!!)

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『ついに、クラシック路線最後の一冠、菊花賞が始まります! 

 今回は特にトウカイテイオーが奇跡の復活、そしてまさかの復帰レースでこの菊花賞に帰ってきました!』

 

『そうですねぇ、復帰直後なのに一番人気に押されているあたり、さすがトウカイテイオーという感じですね。今回はどのような走りを見せてくれるのでしょうか楽しみですね』

 

 普通、復帰してすぐのレースで一番人気に押されることはまずないだろう。

 それだけテイオーは期待されているんだろう。

 

「さすがテイオーね……」

 

「だよなぁ~、テイオーの骨折が分かったときも結構話題になってたもんな」

 

「ったりめぇだろ。なんたってあのテイオーだ。ここまで無敗で三冠がかかってるから人気になるさ」

 

 それもそうか。有馬記念の走りも奇跡だが、今回の菊花賞も奇跡に近い。

 そもそも無敗で三冠なんて滅多に取れない。あ、でも私の前世の頃にコントレイルが史上八頭目の無敗の三冠バで親子で達成してたか。

 

 もし、テイオーがここで三冠を達成すればシンボリルドルフ、トウカイテイオーの親子無敗三冠達成になるのか? 

 んー、分からん。ここで起きていることが前世の世界に影響があるのか? それともこの世界が私の生きてきた前世とはまた別の世界線から来ているのか……

 

「おーい、どうしたアリス。そんな神妙な顔をして何心配してんだ?」

 

「ふぇ? あ、すみませんゴルシさん。別に気にするようなことじゃないです」

 

「本当かぁ〜? このゴルシ様の目を誤魔化すのは不可能だぞぉ〜」

 

 なんだ、その手は! や、やめろー! 

 

「はいはい、バ鹿なことはその辺にしておけよ? 

 そろそろテイオーが出走するから目をかっぽじって見ておくんだぞ」

 

「へいへい、トレーナー」

 

「た、助かりました……」

 

 トレーナーの静止がなければどうなってたやら……

 でもそのお陰で少し笑えた。ありがとう、ゴールドシップよ……

 

「おう、何にやにやしてるんだ? もしかしてお前……やられたかったのか? そういう趣味が……」

 

「断じて違いますので気になさらずに!」

 

 やはりこのヒトの行動は読めない……だけどチームメイトを思いやることは誰よりもできる存在だ。

 このチームを支える大切な存在……普段はふざけてることも多いが大事な場面ではしっかりとしている。その存在は尊敬できる点だ。

 そうこうしているうちに……

 

 

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。出走の準備が整いました。

 今スタートしました!』

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 スターティングゲートに収まるときほど緊張するものはないとボクは思う。

 いや、今までは「もちろんボクが勝って当然だよね〜」って感じの軽い気持ちだったけど今は違う。怪我を乗り越えこの場に居ることができる。トレーナー、アリス、そしてチームの仲間たち……色んなヒト々の思いを背負って今この場に居る。

 だから負けられない。負けるわけにはいかないんだ! 

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

 大丈夫だ。ボクなら勝てる。信じろ。

 

『今スタートしました!』

 

 ゲートが開く。他のウマ娘達と一斉に飛び出す。

 今回は3000mと長丁場のレースになる。いつも以上に体力の管理をしなかければならない。

 

 ボクはいつもと同じようにできるだけ前の方につく。そして他の娘たちはボクをマークしているのかペースもボクにとって合わせやすくなっている。

 ならば……! 

 

 マークしてくる娘達のペースを崩すため少しペースを上げた。アリスから得た新たな走法は今回のような長距離において非常に強い。

 以前より体力の持ちもよくなり多少の無理も効くようになった。

 

(ボクのペースに……ついてこられるかな……!)

 

『おっと!? トウカイテイオーペースをあげた! 掛かってしまっているのか!?』

 

「……っな!?」「ペースが早い……!?」

 

 ボクの影響で周りのペースが崩れる。

 

「テイオー……! 強くなっている!?」

 

 ネイチャも焦っているようだ。ボクは……負けないよ! 

 

 

 

『さぁ、各ウマ娘正面スタンド前に入りました。依然として一番人気、トウカイテイオーはペースを上げたまま好位置についています! このまま逃げ切れるのか!?』

 

 

 

 ◆

 

 

 

「テイオー結構飛ばしてるな」

 

「ですね、でも今のテイオーならきっと……勝てますよ……!」

 

 かなりのハイペースで進むレース。正直テイオーのスタミナが持つか心配ではあるが、あの表情を見る限り……

 

 

 

 ◆

 

 

 

『向こう正面に入りました。依然としてペースは変わりませんがどうでしょう、この展開』

 

『かなりのハイペースですね、バ群も伸びているので後ろの娘達が追いつけるか心配です』

 

 

 

 

 もうすぐラストスパートだ。スタミナはまだある。

 

「ここからが……勝負だぁ!!」

 

 

 

『トウカイテイオー! ペースを更に上げ、ラストスパートに入りました! そのまま第三コーナーに入ります!』

 

 

 

 ついて……来られるかな!! 

 

「テイオーに負けるもんかぁ!!!」「私がテイオーより上だぁ!!!」「アタシも負けないっ……!!!」

 

 一気に先頭に躍り出てそのまま逃げ切ろうとするが他のみんなも付いてくる。

 

「負けられるかぁ……!!!」

 

 

 

『トウカイテイオー先頭のまま、正面スタンド前に入りました!! 後続も続々追い上げてくる!!!』

 

 

 

 はぁ……はぁ……っ! 苦しい。周りもこのペースに付いてくるので気を抜けない……! 

 

「ボクが……! ボクが一番だぁぁぁ!!!」

 

 この直線ほど辛いものはない。後続もすぐ後ろにいる。ネイチャもきっとそこに……! 

 

 無我夢中で走る。ゴール板もすぐそこだ! 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『トウカイテイオー! トウカイテイオーだ!! 一着はトウカイテイオー!!! 無敗で三冠達成!!! 偉業達成です!!!』

 

 

 

『うおおおおおお!!!』『テイオー! さすがの走りだ、おめでとう!!!』

 

 ……まさか、本当やり遂げてしまうとは……さすがトウカイテイオー。

 

「まじかよ……本当三冠取ってしまうとは……」

 

「えぇ、さすがテイオーね……」

 

「テイオー……さすがですわ」

 

「うおおお! おめでとう、テイオー!!」

 

「あいつ……まじでやりやがったな……」

 

 無敗の三冠バ、トウカイテイオーが生まれた瞬間に立ち会えるとは思ってもいなかった。

 奇跡の瞬間に立ち会えた、それだけでも価値があるレースだった。

 

 ……待てよ? それじゃあ有馬記念はどうなるんだろう? 

 テイオーは三度の骨折を乗り越え有馬記念で奇跡の走りをした。と言うことはもしかしてまた骨折する可能性が……? 

 考えてもきりがなさそうだ。

 

 

 

 ────テイオーの控室

 

「お疲れ様、テイオー」

 

「にひひ、ボクの走り見てた?」

 

「もちろんだよ。とっても……かっこよかったよ」

 

 ウィニングライブまで時間があるのでチームのみんなで控室で休んでいるテイオーの元に向かった。

 

「……ありがとうアリス。君のお陰でボクはこうして出走できた。そして、勝つことができた。

 ボクは無敗で三冠を取れたんだ」

 

「私は何もしてないよ、ただテイオーの背中を押しただけさ」

 

「むむぅ……」

 

「テイオーの言うとおりだぞ」

 

「トレーナー……?」

 

「お前が居たから、そして骨折の原因に気付いたのはアリス、お前だけだ。トレーナーである俺ですら気付けなかったところに気付き、テイオーを支えたのは大きな功績だ」

 

 ……褒められるのは慣れてない。ただ……そう言われると嬉しかった。

 テイオーだけじゃない。他の娘が同じ状況になれば必ず私は手を差し伸ばすだろう。

 

 一つ心残りがあるとしたらスズカさんの怪我を阻止できなかったこと。だけどスズカさんはまた前に向かって進んでいった。

 今頃アメリカで頑張っているのだろうか? スズカさんのことだから大丈夫だとは思うけどね。

 

「そうだ! テイオー、脚の方は大丈夫? 痛みとかない?」

 

「うん! 大丈夫だよ!」

 

「なら良かった……」

 

 とりあえず今の所は大丈夫そうだ。

 これでまた骨折とかされたら……割と洒落にならない気もする。

 

 

 

 テイオーは無事にウィニングライブも終え、この熱い菊花賞は終わった。

 その後、脚の様子を確認するために通院したようだが、特に異常はなかったとのこと。……良かったぁ。

 

 そして、次のテイオーの目標は……

 

「マックイーン! まずは天皇賞・春で勝負だよ!」

 

「えぇ、もちろん私は負けませんわ」

 

 "天皇賞・春"

 本来のトウカイテイオーの復帰後のG1レースになるレースだ。

 正直テイオーでは最強のステイヤーでもあるマックイーン相手に、しかも3200mで勝てるとは思えないが……

 菊花賞での走りを見たあとだとあながちそうとも言い切れない。もしかしたら勝てるかも……しれない。

 

 あぁ、でもその前にライスさんのクラシックレースがあったな。その応援にも行かなきゃ……

 次の年は大変そうだな。

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