「はぅ〜……緊張するよぉ……」
今日はライスさんの皐月賞本番の日。その一つ前のレース、スプリングSでは4着に終わってしまい、ミホノブルボンの強さを実感させられた。
いやぁ……あれは強いわ。あれで長距離にも対応してくるあたり坂路の申し子の二つ名は伊達じゃない。
しかし、ライスさんもステイヤーのわりにはマイルの距離で4着は頑張ったほうだろう。
そして今回の皐月賞は2000m。ライスさんにとっては少し短いかもしれない。
大好きな先輩なのでこんなこと言うのは良くないかもしれないがあまり期待できない。
むしろ次のダービーの方が可能性はある。
「ライスさん、気楽に行きましょう。
緊張しすぎるといつもの走りができないですよ!」
少しでも緊張をほぐしてあげたいけど私はそういうことは苦手だ。
「う、うん……そうだよね……しっかりしないと!」
「ライスさんの今の全力見せてくださいね!」
ライスさんを送り出す。できるだけいい結果を残せてくれるといいのだが……
⏰
「お疲れ様です。いい走りでしたよ!」
「ありがとうアリスちゃん……でも、ライス8着だった……
ブルボンさん強かった……」
走りは悪くなかった。ただ、ライスさんにとってこの距離は短かった。そして、ブルボンさんが強かった……
強いのは知っていたけどここまでとは思ってなかった。
「ブルボンさんに追いつくためにもっともっとライス、トレーニングしなきゃ……!」
普段は気弱そうに見えるのにライスさんは本当に強いなぁ……
そういうところに惹かれたところもある。
そして、私にはある考えが浮かんだ。
「ねぇ、ライスさん。一つ提案があるのですが……」
「どうしたの?」
「ライスさん、次はダービーに出ますよね? それまで私達と一緒にトレーニングしませんか?」
「ふぇ!? で、でもそっちのトレーナーさんに迷惑じゃないかな……」
「その点は大丈夫だと思いますよ。あのへんた……ゴホン! トレーナーならきっと引き受けてくれるし、ライスさんと得意距離の近いマックイーンも居ます。
どうですか? 少しの間一緒に頑張るのは……」
あのトレーナーならもちろん喜んで協力してくれるだろう。あとはライスさん側のトレーナーの了承さえ得られれば可能性はある。
そして、ライスさんはれっきとしたステイヤーだ。同じ最強のステイヤーとも言えるマックイーンと協力できればより強くなれるのではないかと考えたのだ。
「そうだね……分かったよ、今度トレーナーさんと相談してみるね!」
「はい、楽しみにしておきますね!」
これは私の考えではあるが……ライスさんのトレーナーなら許可してくれそうだ。……多分。
◆
「ア、アリスちゃん!」
「あれ、ライスさん? どうしましたか?」
トレーニングが終わり、更衣室で着替えていたところライスさんに話しかけられた。
「あ、あのね……この間の話なんだけど……
ライスのトレーナーさんもアリスちゃん達とトレーニングしてもいいよって許可貰えたよ!」
ほほう? それは凄く嬉しいことだ。
「本当ですか!? それなら明日から一緒にトレーニングできますかね?」
「うん、大丈夫だよ!」
よし! ライスさんと一緒にトレーニングできるだけでも嬉しい。
ふへへ……ライスさんと一緒に……
「アリスちゃん……?」
っは!?
「あ……なんかごめんなさい……き、気にしないでください!
私、トレーニング終わったばかりで汗流したいのでシャワー浴びてきますね!! それでは!!」
「あ、待ってアリスちゃん!」
ライスさんの静止を振りほどいて逃げるようにシャワーを浴びに行った。
一切私は邪険なことなど考えてはいない! 断じて!!
ただ、大好きな先輩と一緒にトレーニングできると思うとつい……
「にへぇ〜……ふふふ……」
顔の筋肉が緩む。多分周りにヒトは居ないはずだから聞かれてはいない……はずだ。
「……よし! 明日から気合入れていくぞぉー!
頑張るぞ〜、おー!」
気合を入れ直す。トレーナーと相談し、ライスさんは私とトレーナー二人でトレーニングを考えることとなっている。
私は前世の知識を生かしてライスさんがもっとも力を発揮させる方法を伝えるだけだけど。
……楽しみだ。
◆
「よし、お前ら! 今日から暫くライスシャワーが一緒にトレーニングに参加することとなった!
よろしくな、ライスシャワー」
「ラ、ライスシャワーでしゅ! よろしくお願いしましゅ!
はぅ!? 噛んじゃたぁ……」
「ぐはっ……!」
……おっと、こんなところで死んではいけない。
「一人何故か死にかけだが今日からよろしくな!」
「は、はい!」
と、言うわけでライスさんが暫くの間、スピカに加入することになったのだ!
「そういう訳でライスさん、よろしくおねがいしますね!」
「うん!」
「大体のトレーニング内容はもう既にトレーナーから聞いていると思いますので私からは一つだけです」
「一つだけなの?」
「はい。今日はマックイーンと併走ですよね?
私からはただマックイーンに
「ついていく……?」
「はい、マックイーンに離されないようについていってください。
あ、ちなみに本番ではマックイーンではなく、ブルボンさんについていく事が大事です」
私が伝えたのはアプリ版でやったことと同じことだ。ライスさんならたとえマックイーンでもブルボンさんでもマークしてしまえば何処までも追いかけていけるだろう。
それを上手く使うだけだ。
「なるほど……よし! マックイーンさん、今日はよろしくおねがいします!」
「ええ、ライスさん。よろしくですわ!」
そして、二人の併走が始まった。
「ついてく……ついてく……」
マックイーンの背中を追いかけるライスさん。
マックイーンも天皇賞を制しただけあって強い。
「いやー、それでもあのマックイーンについていけるだけライスさんは流石だなぁ」
「おい、アリス。お前どうして急にライスシャワーをここに呼んだんだ?」
「トレーナーは知っていると思うけど、私はライスさんの事が大好きです。あ、これはlikeの方ですよ?
まぁ、そういうこともありライスさんには勝ってほしいんです。もっともっと強くなってほしくてトレーナーの力を借りたかったのです」
「はぁ……お前ってやつは……逆にそれがお前らしいか」
呆れられてんなーとか思っているが私のライスさんへの気持ちは本当だ。
ミホノブルボンの三冠阻止、そしてマックイーンの天皇賞・春三連覇阻止……
ブルボンさんや私達の
大好きな彼女の為なら……
「はぁ……はぁ……流石ですわね、ライスさん」
「あ、ありがとうございます! マックイーンさん!」
気がつくと二人の併走が終わっていた。
あのマックイーンが疲弊しているあたり流石ライスさんだ。最強のステイヤーについていけるのは同じ最強のステイヤーでもあるライスシャワーだけだろう。
「お疲れ様です。マックイーン、ライスさん、これで水分補給してくださいね」
予め用意しておいたスポーツドリンクを渡した。
「マックイーン、ライスさんとの併走どうだった?」
「えぇ、私についてこられるとは流石ですわね」
「え……? あ、ありがとうございます?」
ライスさん本人はあまり気付いていないようだがマックイーンについていけるだけでも凄い。
「おーし、お前ら併走終わったな?
二人共次行ってこーい」
「わかりましたわ!」「ひゃ、ひゃい!」
「それと、アリス。少しいいか?」
珍しくトレーナーに呼び止められた。
「今度のライスシャワーが走る時、お前も併走しないか?」
「えっ?」
呆気に取られる。私なんてまだまだついていくのにも必死なのに???
「お前、最近少し食べる量増えてきただろ?」
「ギクッ……」
まぁ、確かに最近今までよりご飯の量増えましたが……いや、でも体重自体は変わっていないはずだ!
一応、毎日確認しているからね!!
「いや……そんなに身構えなくていいぞ……
最近お前の走り見ていると前よりも力強く感じてな。そろそろ本格化が始まってきたんじゃないかと思ったんだ」
まじ? 本人すら気付いていないのにトレーナーが先に気付くの?
いや、このトレーナーの事だ。私達、ウマ娘の事はしっかりと見ているから案外気付くものなのかもしれない。
「元々ステイヤー気質のお前ならライスシャワーと併走したら丁度良さそうだなって感じたんだが……どうだ?」
「わ、私でよければ! ライスさんと一緒に走れるならなんでもしますよぉ!!」
「でもまぁ、まだ本格化も始まったばかりだろうし無理はするな。
こんなところで怪我されても困るしな」
と、言うことで私とライスさんの併走が決まったのであった。
◆
「ぜぇ……ぜぇ……し、しぬ……」
いくら本格化が始まったとはいえ現役、しかもクラシックを走ってるウマ娘と併走するのは割としんどい。
てか後ろから追われるの怖くない……?
ライスさん普段は大人しくて優しいのにこうやって走ると気迫やばいよ?
え? 本当に同一人物なの??
「だ、大丈夫? アリスちゃん……?」
「大丈夫……です……えぇ、私思ってたより逃げるの苦手かも……」
前やった模擬レースでさえ最後尾から抜き去っていく戦術だったし差しか追込の方が向いてるんだろうなぁ……
「さすがに本格化始まったばかりのお前に現役のウマ娘と併走させるのは辛かったか……」
「いえ……今後の参考になりました……ぐへぇ……」
想像以上に疲弊していた私はそのまま倒れ込んでしまった。
⏰
「はっ……ここは!?」
見慣れない天井……と言うこともなく普通にベンチに横にされていた。
「あ、アリスちゃん。目が覚めた?」
「ア、ハイ」
目が覚めて気付いた。頭に触れる柔らかい感触。目の前にライスさんの顔。
「あぁ……ここが天国か……」
「アリスちゃん!?」
そのまま私はあまりの尊さに耐えれずに再び意識を失ってしまった。
◆
日本ダービー、それは(略
二度目の解説、いらないよなぁ!?
……あれから一ヶ月、ライスさんとスピカの仲間たちと毎日楽しくトレーニングを積んできた。
ライスさんも気づいたらスピカに馴染んでいた。
ちなみにこの間に行われた天皇賞・春ではマックイーンの二連覇で幕を閉じた。しかし、テイオーも負けじとついていき、史実では5着であったはずが2着に食い込んできたあたり、菊花賞に向けてのトレーニングの成果もあったのではないかと思う。
「ついに本番ですね、ライスさん」
「うん……」
とても緊張しているようだが……
「大丈夫だ、ライス! このゴルシ様達とトレーニングしてきたんだ! ブルボンだが知らねーがきっと勝てる!」
「あなた、何もしてませんわよね!?」
マックイーンとゴルシさんのコンビは好きだ。ゴルシさんがボケてマックイーンが突っ込む……
あれ? これスピカって言うよりもシリウスに近くね……?
「ライス、頑張れよ」
「はい! スピカのトレーナーさん!」
ライスさんを地下バ場で見送る。
「よーし、お前ら! スタンドに戻ってライスの応援するぞ!
短い間だったが、スピカの一員だったんだ。その勇姿、見届けないとな!」
そして、ライスシャワーの日本ダービーが始まるのであった!