合宿が始まって、一週間経った。
普段のトレーニングと異なり、砂浜ダッシュや近くの山を登ったりと新鮮な環境でトレーニングするだけで気持ち的にもトレーニングの効果的にも大きな効果が出ているのではないかと思っている。
特に私にとっては純粋なパワーが他のウマ娘達に比べて足りていないのを自覚しているので、普段よりパワーが必要になるこの環境はとてもよいトレーニングになっている。
「よーし、お前らそろそろ休憩しろよー? ただでさえ暑いんだから水分補給は大事だからな」
「ふぅ……砂浜でトレーニングするだけで結構疲れるね」
「それでもいつもとほとんど変わらず走れるアリスも中々よ……」
さすがのスカーレットも疲れきっている。まだ本格化を迎えていないからなのかもしれないがそれでもついてこられるあたり才能なのだろう。
ちなみに私はスカーレット、ウオッカの3人で砂浜トレーニングをしている。他のチームメイトはまた別のトレーニングをしている。
「そういえばさ、アリスは来年くらいにはデビューするんだろ? 何か目標とかあるのか?」
「あー……」
言われて気付いたが私には明確な目標……それを持っていない。ただ漠然にトレセン学園に入ってトゥインクルシリーズに出たい、それくらいしか考えていなかった事にきづいたのだ。
「そうだね……まだ大きな目標はないけど……クラシックの三冠に挑みたいとは考えているかな」
「って言うことは三冠バ目指すのか! やっぱりイケてるぜ、アリス!」
「そうかな……? 正直今の私じゃまだまだ三冠なんて遠い話だと思うけどね」
三冠目指すって言っても私の適性距離的に皐月賞は少し短い。せめてダービー、いや菊花賞ならワンチャンありそうだ。
「そういう二人はデビューしたら何を目指すの?」
まぁ、あらかた回答は分かってはいるけど……
「もちろん、アタシは一番になることを目指すわ! そのためにまずはトリプルティアラを取りに行くわ!」
「オレはカッコいいウマ娘になりてーんだ! だからオレは強くなるって決めてんだ!」
それぞれ皆、夢を持っているんだ。
それに対して私は……
「うん……二人共いい夢だと思うよ。絶対叶うよ」
この二人だけじゃない。ここトレセン学園にいるウマ娘達はなりたい夢、目標を持ってこのトレセン学園に来ている。『日本一のウマ娘になる』『全てのウマ娘の幸福を目指す』『メジロ家の栄光の為』
私もデビューも控えてるし何か目標でも決めておこうかな。目標があるだけでモチベーションにもつながるだろうし。
「そろそろトレーニング再開しようか」
「だな! 特にアリスは来年にはデビューだし今のうちにレベルアップしとこうぜ!」
「うん……そうだね!」
その後、ウオッカ・スカーレットと共に地獄の砂浜トレーニングをこなした。
⏰
トレーニングが終わり、着替えて宿に戻ろうとしたらこの町の掲示板を見かけその中に「夏祭り開催の日程」があった。
開催日はどうやら私達の合宿の最後の土曜日にあるようだ。ほんとに丁度学園に帰る前の日でまるで狙って開催されてるように見える。
まぁ、まぐれだろうけど。
「あ! トレーナーさん、これ見てください!」
「どうしたスペ? ん、これは……夏祭りの日程か。おお! 丁度最終日の夜か」
「そうですそうです! どうですか、トレーナーさん? トレーニング終わって皆で夏祭りに行くのは!」
「そうだなぁ……折角の合宿だ。最後に夏祭りで思い出残すか!」
「やったぁ! ありがとうございます、トレーナーさん!」
スペさんがトレーナーに夏祭りの話を持ちかけて、最終日トレーニング後に皆で夏祭りに行くことになった。
今までこんな機会もなかったし、残りの合宿のモチベーションの維持にもよいだろう。
「ア・リ・ス!」
「ひょわぁ!」
後ろから唐突に抱きつかれる。あまりにも唐突すぎて自分の声とは思えない声が出てしまった。なんか情けない。
「ゴ、ゴールドシップさん!? いきなりなんですか!」
「なぁーに、最近のアリスなんだか悩んでるようにみえてな。今も結構神妙そうな顔してたぞ? 何かあったのか? このゴルシ様が相談に乗るぜ!」
はぁ……気遣い上手なこのヒトには敵わないのかな。
「ありがとうございます、ゴルシさん。あなたには色々と敵いませんね……でも大丈夫です。これは私の問題なので」
「ほんとか〜? アリスが大丈夫って言うなら信じるがもし本当に困ったら相談しろよ? トレーナーとかに相談しにくいことでもこのアタシに相談してくれてもいいんだぜ?」
「ゴルシさん結構口軽いのであんまり信用できないのですが……」
「大丈夫、大丈夫。本当に大事な事なら流石のアタシでも漏らさないぜ」
まぁ、このヒトのことだ。特に同じチームの仲間であるなら余計大切にしてくれる。影の力持ち的な存在だもんね、ゴールドシップっていう存在は。
「はいはい、盛り上がるのはいいが、まだ合宿は続くんだぞ?
気を抜くようなことは許さないからな!」
「「「はーい」」」
この合宿で私の夢は見つかるのだろうか? なんにせよ今は来年のデビューに向けて頑張りたい。
◆
合宿最終日、予定通りトレーニングを終え一旦汗を流し夏祭りに行くために着替えた。
この日は最終日と言うこともあり、比較的軽めのトレーニングだった。
この合宿で少しでも成長できたのかな? 今度学園に戻ったら誰かと併走でもするかぁ。
「うわー! すごくヒトが多いですね!」
「あぁ、地元民はもちろん今回の合宿に来ているチームも来ているみたいだな」
そこまで大きくはないが様々な屋台があり、見応えがある。そしてこの夏祭りの最後には花火が打ち上げられるらしい。
私は時間を見つけてこの周辺で見晴らしのいい場所を見つけておいたのだ。
「よーし、お前らここから自由行動にするがあまり遠くに行きすぎるなよ?
それと花火の打ち上げが終わったらまたここで皆集合だ。わかったな?」
「トレーナー」
「どうした?」
「もう皆勝手に行ってますよ」
「……」
一応既にこの後の行動については話してあるから多分大丈夫だとは思う……うん。
「それじゃあライスさん。行きましょうか」
「うん!」
私はこの夏祭りをライスさんと一緒に散策しようと約束していた。まぁ皆それぞれ連れ回してもう勝手に行ってるけど……
私とライスさんはゆっくりと屋台を見て回った。
射的や輪投げ、綿菓子や色々な食べ物も食べて回った。
相変わらず大食らいなところもあるライスさんなので物凄い量を食べている。しかも美味しそうに。そこがかわいい!
「あっという間に一周していましましたね」
「うん、アリスちゃんと一緒に居るとなんだか楽しくなってきちゃって……」
「ライスさんが楽しいなら私は嬉しいです。そうだ! 実は少し前に見晴らしのいい場所を見つけたんですけど一緒に行きませんか?」
「えっ? ここから離れちゃうけど大丈夫かな……」
「あまり遠くないので大丈夫ですよ。そこからなら花火も見やすいかなーって思うんです」
「アリスちゃんが言うなら……」
そして、ライスさんと共に予め見つけておいた見晴らしのいい場所に向かった。
⏰
その場所につくと夜景で非常にきれいだった。
あまり都会すぎず田舎すぎない町なのでちらちらと輝いている。
「綺麗だね……」
「空気も美味しいし夜空もよく見える……静かでいい場所だと思いませんか?」
「うん……」
二人で近くのベンチに座った。夏祭りの会場、そして町の灯りを見下ろして……
「アリスちゃん」
「……なんでしょう?」
「アリスちゃん、この合宿の間何か悩んでた?」
ライスさんにも見抜かれていたようだ。もしかして私って感情が顔とかに出やすいのだろうか?
「あはは……ライスさんにも心配かけてしまってたみたいですね……私ってそんなに分かりやすかったですかね?」
「ううん、そんなことないよ。でも、何となく……上手く表現できないけど……そう感じたんだ」
「そう……ですか……」
私は、自身の夢や目標が漠然としていることについて話をした。
「ふふ、アリスちゃんも悩むことあるんだね」
「むぅ〜……でも、前ウオッカとスカーレットとトレーニングしてた時にそういう話になって言わてみれば……ってなったんですよ」
「そうだね……そういうものって難しく考えなくてもいいんじゃないかな?」
「え……?」
「だって、夢とか目標ってさ変に大きなもの考えるより漠然でもなりたいもの……そういうのでいいと思うんだ」
……なるほど……私は難しく考えすぎていたようだ。
夢なんて自分のなりたいもの……それでいいのか……!
「あはは……アハハ……! そうだよ、なんで私はそんなに難しく考えていたんだ!」
「アリスちゃん……?」
「ライスさん、私決めました。
私は……マックイーンにもライスさんにも負けないような最強のステイヤーになってこの名を全国に轟かせましょう!」
最強のステイヤー、マックイーンそしてライスさん。この二人に負けないようなステイヤーになる。それが今後の私の目標だ!
「誓いましょう。あの星に」
私は南の空に輝く一つの星を指した。
私は星には詳しくないから名前は分からない。
「ふふ、アリスちゃん元気になったみたいだね。
ところであの星の名前……分かるの?」
「いいえ、全く!」
きっぱりと言い切る。
すると……
「あれはアンタレスよ。さそり座でもっとも明るい星……一等星の一つね」
聞き覚えのある声が聞こえた。この気だるそうに話すのはこの合宿に来ているウマ娘で一人しかいない。
「アヤベさんではないですか!」
「えぇ……折角一人になろうとして来たのに先客が居るとは思ってなかったわ」
アドマイヤベガ。私がこの場所を見つけたときに知り合ったウマ娘だ。
「そんなに嫌そうな顔しなくてもいいじゃないですか……」
「そんなつもりはないわよ……?」
アヤベさんは何だかんだ優しいウマ娘だったはずだ。割と嫌そうな顔してたけど満更でもないようだ。
「アヤベさんこそどうしてここに?」
「オペラオーから逃げてきたのよ」
「そうなんですね……折角ここで会いましたしもうすぐ花火も上がるので一緒に……どうですか?」
「……仕方ないわね」
私、ライスさん、アヤベさんの三人で花火を待った。
その後は特に会話はせず、お互いに静かにこの時間を過した。
「ライスさん」
ライスさんの肩に軽く寄りかかる。
「ありがとうございます」
「……うん」
ひゅるひゅる〜……ドーン
花火が始まった。
こうやってまじまじ見る花火も良いものだ。花火は沢山打ち上げられるわけでも派手でもないが……それでもこうして居る時間が好きだ。
こういうものって風流……っていうのかな? あまり詳しくはないけど静かに過ごす時間もいいかなって思えたのだ。
⏰
「ん〜……花火も終わりましたし戻りましょうか」
「そうだね、トレーナーさんにも心配かけるわけにはいかないもんね」
「アヤベさん、お先に失礼しますね」
「えぇ、お疲れ様」
アヤベさんと別れをすませ集合場所に向かう。
こういう時間が続けばいいのにな……と思ったがずっとそのままになるわけにはいかない。私も前に進まないといけないから。
その後、皆と合流し宿に戻った。明日には学園に戻るので必要最低限のものを除いてすぐに帰れるように準備した。
一ヶ月と言う短い期間ではあったが成長できたと思っている。
◆
「ライスさん、併走トレーニングしませんか!」
「ふぇ? ライスなんかでいいの?」
「ライスさんだからいいんですよ。菊花賞も近いですしどうですか?」
「うん……いいよ!」
「相変わらずあの二人仲いいですわね」
「まるでアタシとマックイーンだな!」
「一緒にしないでくださいまし!」
併走トレーニングを終え、二人で反省会をする。
私も以前よりライスさんについていけるようになった。最後のスパートでどうしても離されてしまうのが当面の課題だな。
スタミナはあってもそれを活かすスピードとパワーを補わないと今後、クラシックやG1に出走できるようになる前にある程度克服しないとね。
「ありがとうございました、ライスさん! また併走しましょうね!」
「こちらこそありがとう、アリスちゃん。
よーし、菊花賞ももうすぐだし頑張るぞ〜……おー!」
「おー!」
ライスシャワーの菊花賞まであと一ヶ月。