ライスさんの菊花賞まで一週間を切った。
ライスさんの追い込みは他のウマ娘と比にならないくらい凄い。
どんなに厳しいトレーニングでも根を上げずとことん追い込む。これはライスさんだからこそできる芸当なのかもしれない。
そして、菊花賞のライスさんの作戦……それはいつものアレだ。
「ライス、菊花賞は……分かっているな?」
「はい、トレーナーさん! ブルボンさんについていく!」
「そうだ! 今回の菊花賞はミホノブルボン……彼女を徹底的にマークするんだ。今もっとも三冠に近いウマ娘だ。離されなければ勝機は十分にある。
そしてライス、お前は間違いなくステイヤーだ。今回は3000m……もっとも力を発揮できる距離だろう」
ライスさんは前回の日本ダービーにおいても本来の史実よりミホノブルボンに近づくことができていた。前回のダービーの頃よりも確実に成長しているので今回の菊花賞、どのような走りになるか楽しみだ。
⏰
「ライスさーん!」
トレーニング後に寮への帰り道でライスさんを見かけたので声をかけた。
「あ、アリスちゃんどうしたの?」
「ライスさんも帰りですか?」
「うん、トレーナーさんと来週の菊花賞のミーティングやってたんだ」
「もうすぐ菊花賞なんですね……時間の流れは早いですね」
そうか……もうすぐなのか。
ところでそろそろ菊花賞の出走順や人気も分かるかな。確か史実では2番人気にだったかな? そうなると大きな変化はなさそうだ。
「ライス、今回は負けないよ。見ていてね、アリスちゃん!」
「分かっていますよ。当日の走り、楽しみにしてますよ。
そうだ、折角なので少し寄り道しませんか?」
「どこにいくの……?」
「そうですねぇ〜……はちみーでも食べながら軽く歩きましょう。応援の意味を込めて奢りますよ!」
テイオーが大好きなはちみー。学園の近くで販売しているので私も時々買いに行ってた。さすがにテイオーと同じ注文は甘すぎて耐えれなかった。それでもこの身体になってから甘いものは好きになったんだよなぁ。にんじんくらいの甘さがちょうどいい。
「はちみー? 確かいつもテイオーさんが飲んでる飲み物……だっけ?」
「そうですよ、普通のはちみーなら丁度いい甘さで美味しいですよ。テイオーと同じ注文はさすがに甘すぎてきついよ……」
そうして、二人ではちみーを買い街を散策した。
もう見慣れた街ではあるがこうやって二人でならんで歩くだけでも普段とみている世界が違うようにも感じる。
ただ歩くだけ、どうでもいいことを話しながらまったりした時間を過ごすのもまた一興だ。時々、お店のショーウィンドウを見てこれいいなぁとか会話していた。まるで女子学生みたいなことしてるなって思ったけど今の見た目なら女の子だし間違ってはいない。
周囲も黄昏色になり門限も近づいてきたので寮に帰った。
「今日はありがと、アリスちゃん」
「いえいえ、私は何もしてませんよ!
ただこうやってのんびり時間を過ごすのもいいですね」
「うん! 最近はトレーニングを追い込んでいたしリフレッシュすることもなかったからいい気分転換になったよ!」
「そうですか? えへへ……そう言ってもらえると嬉しいです!」
本番前なのにこんなことしても良かったのか少し不安になったところもあったけど本人が喜んでくれているならよかった。
菊花賞はテイオーのこともあり思い入れの深いG1レースでもある。そこでライスさんが勝つことができればもしかしたらこのレースは私にとってもかかわりの深いレースになっちゃうなぁ。
「ただいま~」
「あ! おかえりアリスちゃん。
今日は遅かったね」
「うん、ライスさんと少し街に出ていたんだ」
「え? いいなー僕も行きたかったよ」
「これは二人のデートだったからまた今度一緒に行こうね!」
部屋に戻ると既にリラックスモードに入っていたクラインが居た。
クラインも私と同じく来年デビューになるそうだ。その為か最近はお互いにトレーニングの内容や走りに関する話も多くなってきた。ウマ娘としてアスリートとして私たちは一歩進んだのかもしれない。
「そういえば次の菊花賞、ライスさん出るよね?」
「うん。それがどうかしたの?」
「それなら僕も応援に行こうかな~。ライス先輩には僕もお世話になったし!」
「いこいこ! それなら私のチームと一緒に応援しようよ!」
クラインのチームはまだできたばかりのチームなのでまだデビューしているウマ娘は居ないらしい。なので実質来年デビュー予定のクラインが最初になるとのことだ。
だから基本的にはチームで応援に行くことはないので一人で観戦していたと言っていた。それなら寂しいだろ? じゃあどうせ私のチームが居るから最前席の特等席で一緒に応援しようという考えだ。
「ほんと!? じゃあ当日楽しみにしているね!!」
もしもの時のためにできるだけ仲間が多い方がいいだろう。
多分それは杞憂に終わるかもしれない。なんたって今のライスさんはあの頃のライスさんとは違う。精神的にも能力的にも本来のウマ娘の世界よりも成長しているはずだ。
大丈夫……大丈夫だ。
◆
────京都レース場
「ついにこの日が来てしまった……」
「なーに不安そうな顔してんだ! シャキッとしろアリス!!」
ぐふぇ! ゴルシさんから背中から思いっきり喝を入れられた。
普通に痛いんですけど!?
「そうですわよ、あんまり不安な気持ち出ているとそれがライスさんに伝わってしまいますわ」
「そう……だね。ごめんマックイーン」
その場に居ないとはいえ、こういう気持ちでいるのは良くないよね……
信じよう、ライスさんを。
あの子なら大丈夫。だって、ライスシャワーは強い子だ。アニメでもアプリでも……他のウマ娘の何倍も育成してきた。最推しの子を信じられなくてどうするんだ!!
「そうだよ……ライスは強い……! 最後は見守ることしかできないのが辛いけど信じてあげられなきゃ元トレーナーとして失格だよ!」
「どうしたアリス、考えすぎておかしくなったのか?」
「ゴルシさんよ、私がおかしいのは元々でしょ?
それは置いといて……大事なことを……思い出しただけですよ」
「そうか……それなら大丈夫だな」
「ええ、そろそろクラインも来ますし迎えに行ってきますね」
予めスピカのメンバーで場所取りはしておいたので後で合流するクラインを迎えに行った。
ヒトも多く探すのに苦労するかと思ったが、毎日同じ部屋で過ごしているし案外すぐに見つけることができた。合流後はそのままチームの元に戻った。
そしてそのまま菊花賞を始まるのを待った。
⏰
今、私は地下バ場にいる。なぜかって? ライスさんを待っているのさ。
そのまま観客席で待っていても良かったが出走前に少し話したかったからここに来たのだ。
少し待っていると正面から勝負服をまとったライスさんが歩いてきた。
「アリスちゃん……?」
「ライスさん」
「どうしたの?」
私は一息ついて……
「信じてます……必ずここで待ってます。そして……」
「うん、見ていてねアリスちゃん!」
最後の一言を言う前にライスさんに遮られてしまった。
そのままターフに出ようとするライスさんを引き留めた。
「ライスさん! ……何があっても私はライスさんの味方です。それだけは……忘れないでください!!」
無言でうなずくライスさん。そのままターフにあがっていったのだった。
『さあ始まりました、菊花賞! クラシック路線最後の一冠の栄光は誰の手に渡るのか……各ウマ娘ゲートイン完了
今、スタートしました!!』
遂に始まった菊花賞。
綺麗なスタートを決めたウマ娘達。その中から二人バ群の前に出てきた。……ミホノブルボンとキョウエイボーガンだ。
『キョウエイボーガン、ミホノブルボンの二人で先頭争いだ! 一番人気ミホノブルボン逃げ切ることはできるのか!?』
『ミホノブルボン、彼女の脚質には合っていますね』
やはりか……ライスさんは……少し離されているがしっかりとマークしているようだ。
『最初のホームストレッチに入ってきます。順位を振り返っていきましょう……』
ふむ……ライスさんは五番手か。その前にマチカネタンホイザ……カノープスの子だっけな? 結局実装前に死んじゃったからどんな子かよくわからないんだよなぁ……
『さあ、先頭は変わらず第一コーナーに入ります。一番人気、ミホノブルボンは現在二番手。二番人気、ライスシャワーは五番手です!』
先頭集団はほとんど入れ替わりが起こらずそのまま第一、第二コーナーを回った。
京都の本番はここからだ。第三コーナーに入る前……ラストスパートに入る前にやってくるあの坂をどれだけ失速せずに加速できるかが勝負の分け目になる。
『向こう正面、二度目の坂が近づいてきました!』
◆
(ブルボンさんについてく……ついてく……)
もうすぐ残り1200m地点から始まる坂に入る。体力は……まだある。ライス……負けないよ……!
(……! さすがに二度目の坂は……! でも、皆がライスのことを信じている。ここで負けたらスピカの皆にも……アリスちゃんにも顔向け……できない!!)
残りの体力を使い切るつもりで坂を上りスパートをかける。ブルボンも同じくスパートをかけはじめていた。
(ついてく……ついてく……!!)
「はあ!!」
◆
それぞれのウマ娘達が最後のスパートに入っていた。
順位は変わり、ミホノブルボンが一番手、ライスさんが三番手だ。
これだけ離れていても分かる。あの気迫が……!
『最後の直線に入ります! 後ろの子たちは追いつけるのか!?』
『いっけぇー!』
スピカの皆の思いが重なる。いけ、抜けライス!
お前なら……!
『一着はライスシャワー!! ライスシャワーです!!! ミホノブルボンの三冠を阻止したのはライスシャワーです!!!』
歓喜の声もちらほら聞こえるがそれ以上に……
「あー……ミホノブルボンの三冠見たかったなぁ」
……
⏰
「お疲れ様です。ライスさん」
私はレースを終えた直後、ライスさんの元に向かっていた。
案の定周りはブルボンさんの三冠を阻止してしまったライスさんへのブーイングも起こっていた。近くで聞こえた分にはゴルシさんがキレていたけど……
「……」
こういう時なんて声をかけたらいいの?
分からない……ゲームやアニメみたいに決められたセリフなんてない。今ここに居るのはちゃんと生きている存在だ。安直な言葉なんて……
「大丈夫だよ……心配しないで……」
「でも……!」
「ライスね……何となく分かってた。どうしてだろう……こうなる気がしていたんだ」
顔を見せないライスさん。その声は少し震えていた。
「ライス……ライスが勝っても誰も幸せにならないのかな……?」
「……! そんなことないです!
少なくとも……私はライスさんが勝ってくれて嬉しい! 私だけじゃない!! スピカの皆やクライン、ライスさんを応援してくれたみんながいる!!」
「アリス……ちゃん?」
「あなたは私に夢を与えてくれた。一度だけじゃなくて何度も……! 私は……あなたの喜んでいる姿を、笑っている姿が大好きなんです!!!」
「……」
感情的にただただ言葉を吐き出す。私はあなたに幸せでいてほしい、泣いてほしくない。
例えそれで敵を多く作ろうとも私は……
「始まる前にも言いましたよね。私は何があってもあなたの味方です。世界が敵に回ろうが私はあなたについていきます。
……だってライス、君は俺の……愛バだったんだから」
もしかしたら聞こえていたのかもしれない。わずかに耳が動いたのが見えたからだ。つい我慢できずに漏れてしまった本音。
「……ありがとう、アリスちゃん」
静かに立ち上がり私の元に歩いてくるライス。そしてそのままライスは私の胸に飛び込むように抱きついてきた。私の方が少し身長が高いので目の前にはあの大きな耳がある。
「ライス……さん?」
「……しばらくこのままでいて……いい?」
「はい……」
私も腕をライス包むように回した。
しばらくしてライスが離れると頭があった位置が少しだけ湿っていた。
「ごめんね、アリスちゃん。……えっと、もうライス……大丈夫だよ」
「……はい」
「ウイニングライブもあるから少しだけ休んでいいかな?」
「……はい」
……
「ライスさん」
「どうしたの?」
「ライブまで一緒にいてもいいですか?」
「……他の皆は?」
「観客席です。私だけ先にここに来ました。あ、トレーナーにもちゃんと伝えていますので安心してください」
そのまま無言の時間を過ごした。全力を出し切ったライスは疲れ切っていたのか控室にあるソファに横になって仮眠を取り始めた。
私はそのままだと少し寝ずらそうだったので起こさないようにそっと頭を持ち上げ膝枕をしてあげた。
⏰
「んっ……」
気づいたら私も一緒に寝てしまっていたようだ。
目を覚ますと膝が軽くなっておりどうやら先にライスさんが目を覚ましていたようだ。
「あ、アリスちゃん起きた?」
そこにはステージ衣装……いわゆる汎用服に着替えていたライスさんが居た。時間を見るとライブまで30分を切っていた。
「あ……ごめんなさい。そろそろライブですね。私は皆の元に戻ります」
「うん……ありがと、アリスちゃん」
……そのまま控室を後にする。多分結構小声で言ったのだろう。それでも聞き取れてしまう今の聴覚が不思議に思う。あ~……っていうことは前に呟いた声も聞こえてそうだ。恥ずかしい。
こうまじかにライブ衣装をまじまじ見るとなかなか……うん、アレだ。待てよ? あの服いつか私も着る可能性あるのか? うわ、結構恥ずかしいかも……
ライブまであまり時間がないのでささっと皆のところに戻ったのであった。
◆
「おかえり、アリス。ライス大丈夫だったか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「そうか」
ライスさんのことを皆心配していたが、彼女が一番信頼しているだろう私だけが彼女の元に行っていた。全員で押しかけるより本音で話せることもあるだろうしね。
「ほら、もうすぐしたらライブ始まるぞ」
「……はい」
⏰
ライブの時間になった。観客もミホノブルボンの三冠達成を見たかったためかあまり乗り気じゃない人も多かった。
だけどその中でもライスさんを応援してくれている人もいたのは間違いない。
ステージにライスさんをセンターにミホノブルボンとマチカネタンホイザが出てきた。そのままライブが始まるかと思うと……
『皆さん、今日はライスを……私たちを応援してくれてありがとうございます。今日の菊花賞でブルボンさんの三冠を見たかったファンの方々も沢山いたかもしれません。
でも……ライスはそれを阻止してしまいました。三冠を期待していたファンの皆様からしたらライスは……
例え
『ライスさんの言う通りです。今回私は負けてしまいました。ファンの方々には失望させたかもしれません。でもこの世界は勝負の世界です。だれが勝つか負けるかなんてわかりません。なのでライスさんを責める理由はないです!』
『ブルボンさん……?』
『ライスさん、今日の走りはさすがでした。また、戦いましょう』
ライスさん……昔のライスさんのままならこんなことをこの場で言えなかったと思う。堂々としているライスさんを見ると成長しているんだと感じた。
……蚊帳の外気味のマチカネタンホイザは置いといて……え? 何、この状況って顔してて可愛い。
「ああ……そうだな、ライスシャワーばっかり責めても仕方ないよな……」
「正直ミホノブルボンの三冠を見たかったけど……いい走りだったぞライスシャワー!」
周りの反応も変わってきた。いい傾向だ。
「ライスいいこと言うじゃねぇか」
「えぇ、普段はかわいらしいのにこんなにもかっこよく見えますわ」
チームの皆も、観客たちも数刻前の反応と変わっていた。その場にいた全員がライスさんを、その勝負の勝利者を称えている。
そしてそのままウイニングライブに入っていったのであった。
◆
「いや~、あの日は本当にすごかったよなぁ。なぁライス!」
「ふぇ!? あ、ありがとうございます? ゴールドシップさん」
菊花賞から皆のライスさんを見る目が変わった。あのまま終われば
⏰
「お、アリス丁度良かった。今時間あるか?」
たまたま学園内を歩いていたらトレーナーに声をかけられた。トレーニングの時間以外はトレーナー室に籠っていると思っていた。
「はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?」
「ああ、お前のデビュー戦の時期が決まったぞ。1月の京都だ!」
「えっ? ……えぇー!!」
唐突のデビュー戦の話、驚かないのも無理はない。
待てよ? もう12月だしあと一か月しかなくないか? ……トレーナーよそういうのはもっと早くだな……という文句は言えないな。
テイオーの有馬は……なんとかなるだろう。デビュー戦までしっかりとトレーニングしなければならないな。よーし、頑張るぞ~おー!
アリスシャッハの前世の頃の秘密①
実はライスシャワー名手持ち