淀の坂を乗り越えて   作:krm.nc55

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第二章 ジュニア期
デビュー戦に向けて


 唐突のデビュー戦が決まった報告をトレーナーから受けて一週間。

 トレーナーに

「アリス、お前なら走りならなんとかなる。だがそれ以外……パドックの見せ方やゲート練習、ライブの練習を中心にやるぞ」

 と言われたのだ。

 

 確かにレース展開とかは今まで色んな子達を見てきたからある程度はわかるが……自分の走りと合わせないと難しくない? とは思う。

 トレーナー曰くレースに出ることで学ぶことが一番手っ取り早いとのことだ。一理ある。ただジュニア期だと最長2000mしかないからどうするのかとトレーナーに尋ねたところ

「なら2000mのレース全部出るつもりで行けばいいだろ?」

 ……? この人は何言ってるんだと思ったがそもそも2000mのレース自体も少ないので出れるだけ出たほうが私の成長にも繋がるだろう。そしてあわよくばジュニア期最長のG1レース……ホープフルステークスに出走できるかもしれない。

 

 

 

 トレーナーに言われた通りに普段のトレーニングをこなしながら他の練習をやるのは思ってたより大変なものだ。

 

「ふにぁ〜……」

 

「今日も疲れてるね」

 

「やること多すぎてうちのトレーナー、結構詰め込んできてるからね……」

 

 寮に戻りベッドにそのまま倒れ込んだ。ここ最近このような状態なのでルームメイトのクラインに心配させることも多くなった。

 

「そういやクラインはいつ頃デビューとか決まったの?」

 

「僕? 僕は6月頃だよ〜」

 

「時間あるの羨ましいよ……先にデビュー決まってる身から一つアドバイスあげるよ。早めにこういうのは用意しておいたほうがいいぞ……ガク」

 

「お〜い? 大丈夫かーい? ……し、死んでる……!?」

 

「死んでなーい!」

 

 正直ボケに付き合う体力はないが無意識で身体が動くんだなこれが。

 

「疲れてるのは分かるけど夕飯ちゃんと食べた? お風呂入った?」

 

「クラインは私のお母さんかな? ……まあ、とりあえず最低限の事は済ませたよ」

 

 流石にトレーニング後は汗臭いだろうしお腹もめちゃくちゃ空くので部屋に戻るより先に終わらせている。だって戻ったらもう動けなくなるの分かってるから……

 

 ともかく一日やることが終わればそのままベッドに倒れ込み大体はそのまま夢の世界へと行っているのだ。

 

 

 

 ──────────

 ──────

 ──

 

 

 

 目覚めるとそこはとても広い草原の上に居た。

 そこは何度も、昔から時々見てきた景色だ。最近はこの景色を見る機会も減った気もする。

 

 周りを見渡すといつも居るはずの()()()が居ない。どうしてだろう? 今までなら近くに居たはずなのに……? 

 

 そうやって不思議に思って考えていると後ろから()()が走ってくる音が聞こえた。()()()トップスピードを維持したまま私を追い抜いていった。

 私は無意識に()()を追いかけていた。それは私の意思ではない。本能的に追いかけていたのだ。

 

(速い……!)

 

()()()追いかけてるうちに私は何故か()()()追いかけなければならないと思った。追いつきたい、追い抜きたい。追い抜かなければならない。でも()()()()()は私よりも速く駆け抜けている。どうあがいても追いつけない。速すぎる。こっちはもう体力の限界だ。

 

 私は前を走っていた()()()()()を追うのを辞めた。いくらスタミナに自信があるとはいえあのスピードで走り続けていて疲れないのだろうか? 

 

 そのまま芝生の上に寝転がる。透き通ったその青空はとても綺麗だった。雲一つない晴天、温かい風が気持ちいい。

 

「はぁ……はぁ……きっつぅ……何あれ速すぎだしどんだけスタミナあんのよ……」

 

 いつもは近くに居るだけだったあの子が何故いきなり本気で走ったのか? 私に何を見せたかったのだろうか? 

 疑問は尽きないが夢の中なのに疲れてしまった私はそのまま意識が遠くなるのであった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「ふわぁ〜……んっ……いつもより少し早く起きちゃったか」

 

 目が覚めると時計の針は5時過ぎあたりを指していた。夢を見ていたようだがあまりはっきりとは覚えてはいない。ただ、いつもと違ったとくらいしか……

 

 二度寝してもいいが最悪起きれない可能性もある。いつものランニングの時間まで余裕あるし少しSNSでも見ることにした。

 私は普段はウマッターしか使わない。一応ウマスタグラムのアカウントこそ作ってあるがほとんどが他のウマ娘達の投稿を見るようだ。前世の頃に同じようなSNSでもツイッターしか使わなかったから似たようなSNSであるウマッターは使いやすい。あとオタクの同士を探すのも一つの楽しみだったりする。

 

「あ、昨日見損ねたウマ娘ちゃん達の投稿見とかないと」

 

 色んなウマ娘達の投稿を見るのは楽しい。可愛い自撮り写真や食べ物などの写真など色々見るだけでも生きている価値を感じる。

 

 ちなみに私のおすすめはアヤベさんの夜景、カフェさんのコーヒーに関する投稿とか……あ、あとサクラチヨノオーさんの格言あたりも見てて面白い。

 実は最近マルゼンスキーさんに絡まれることが増えて(ライスさん関係で……)そのついででチヨノオーさんと知り合いにもなれた。あの世代の子達も中々癖があって面白い。マルゼンスキーさんもよくしてくれるのですごく助かっている。時々発言が古くて理解できないこともあるのでしっかり勉強しないと……

 

 と、SNSを巡回していたらランニングの時間が近づいていた。

 

「もう、こんな時間か。おーい、クラインそろそろいつもの時間だぞ〜」

 

 前までは早朝ランニングは一人でしていたがある日、

「僕も一緒に朝からのランニング付き合ってもいい?」

 と言われそれ以降ほぼ毎日二人で走るようになっていた。

 

 一人で走っていた頃と違って二人で居るだけで今まで見ていた景色と異なって見えた。共に同じ道を目指す友でありライバルでもある。そんな仲間がいるだけでも私は嬉しかったのだ。

 

 

 

 

 

 ⏰

 

 

 

 

 

 早朝ランニングを終えるとかいた汗をシャワーで流し制服に着替えて朝食に向かう。

 流石にオグリさんやスペさん程ではないが昔の私が見たら驚くくらいにご飯の量が増えていた。ここの食堂のご飯が美味しいのもあるけど明らかに本格化前に比べて燃費が落ちた気がする。その代わりにどれだけ走っても走り足りないと感じてしまうほどだ。

 

「あ、おはようございます! アリスちゃん!」

 

「スペさん、おはようございま……す? 相変わらずの量ですね……」

 

「そうかなぁ〜? アリスちゃんも中々の量だと思うよ」

 

「スペさんやオグリさん、ライスさんほどじゃないのでまだまだましですよ?」

 

 朝からどこにそれだけの量のご飯が入るのか疑問に感じるような量をたいらげる。ちなみにオグリさんに至ってはよそ見していたら何故か減っていたはずのご飯が復活していることもあるのであのヒト程の化け物はいないのかもしれない……

 

「そういえばアリスちゃんのデビューももうすぐなんだね……」

 

「ですね〜。転入したてのスペさんが一週間でデビューさせられた時よりはましかもしれないですけどそれでも詰め込みすぎなんですよね」

 

「あはは……確かに私のときはパドックの見せ方もライブのダンスの練習もしてなかったもんね」

 

 時が流れるのは早い。あのときのバタバタ感がつい最近の様にも感じるけどもうかなり時間が経っていると感じたのだった。

 

 その後、朝食を終えた私達は登校の準備をしていつもの日常に向かった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 デビュー戦まであと一週間を切った。

 地獄の様な毎日を過ごしていますが私は元気です。と言う冗談は置いといて私は元々アプリで何度もダンスを見てきたのもあって比較的すぐ踊れるようになったしパドックの見せ方もあっさりできるようになったので最近は殆どの時間をトレーニングに回せるようになっていた。

 

「おーい、アリス居るかー?」

 

「何ですかトレーナー」

 

「今度のデビュー戦の出走表が出たぞ!」

 

 そう言われ一枚の紙をトレーナーから貰った。

 出走者は全員で9人、私はと言うと……大外の9番だった。

 

「大外かぁ……」

 

「大外は内よりもスピードが大切だからな……お前なら大丈夫だろ?」

 

「なんて楽観的な……」

 

 まあ内でバ群に飲み込まれて差し返せないよりましかもしれない。作戦としては後ろ気味について少しずつスピードを上げて一気に差す方が良さそうだ。

 

「で、トレーナー他の娘達の得意な脚質とか作戦とか何か分かりますか?」

 

「ん〜……まだデビュー前の娘達だから正直情報は少ないんだよな。ただ普段の練習からある程度予測は立ててはいるぞ」

 

「さすが私達のトレーナーっすね」

 

「今日のトレーニング終わったら少し話をしたいが時間大丈夫か?」

 

「はい、問題ないです」

 

 そしていつものトレーニングを終えたあとトレーナー室に向かっていると

 

「はぁい、お嬢ちゃん少し時間あるかな?」

 

「マルゼンさん? どうしましたか?」

 

 まるで待ち伏せしていたかのようにマルゼンさんが声をかけてきた。

 

「また私のかわいい後輩ちゃんがデビューするって分ったから挨拶がてらに来ちゃった☆」

 

「本番は今週末ですよ……」

 

「実は今週末応援に行きたかったけど用事が入っちゃってね……先に応援の言葉を伝えようと思ったのよね!」

 

「そうなんですか……それなら仕方ないですね、ありがとうございます!」

 

 うちのチームでもスペさんとライスさんもお世話になっているウマ娘だ。後輩思いの優しいヒトだけど少し古いっていうか……地味に流行が遅れてるところが個人的には好きだったりする。

 

「うんうん! 元気そうで何よりだわ。ここ一ヶ月かなり詰め込んでトレーニングとかしてたらしいから大丈夫かなって思ってたけど大丈夫そうね!」

 

「確かに大変でしたけど楽しかったですよ。ついに私もトゥインクルシリーズにデビューできる! って思うだけで頑張れました」

 

「なら良かったわ! この後何か用事ありそうだしこれ以上時間を取るわけにはいかないわね。それじゃあまたね〜!」

 

「はい! お疲れ様です、マルゼンさん」

 

 マルゼンさんに会って少しだけ元気を貰えた気がする。本当に不思議なヒトだ。

 

 

 

 

 

 ⏰

 

 

 

 

 

「……と言う感じだ。大丈夫か?」

 

「はい、これだけあればとりあえずは十分だと思います」

 

 トレーナーが事前に集めていた同じレースに出走する娘達の情報を貰った。逃げ・先行よりの娘達が多いようだ。ならばハイペースの消耗戦になる可能性もあるだろう。同期と比べればスタミナに自信がある私からしたら消耗戦に持ち込み豊富なスタミナで粘り勝ちしやすいと思う。……まだやってないからなんとも言えないけど。

 

「多分だが、前よりでの戦いになるだろうからかなりの消耗戦になるだろう。でもその条件ならスタミナがある方が有利だ。あとは分かるな?」

 

「もちろんです。トレーナー」

 

 トレーナーも同じ考えだったようで私の強みを活かしやすいだろう。

 

「後ろから行くお前はまずはスタート直後にできるだけ離されないようにしておけよ。あまり離されすぎると後半追いつくのが大変だからな」

 

 ふーむ……確かにあまり離されるといくらトップスピードで追いかけても追いつかない可能性もある。気を付けないと。

 

「ありがとうございます。トレーナー」

 

「なんだ? 俺はトレーナーとしてあたり前のことをしたまでだ。大事な教え子でもあるからな!」

 

「そうですね……ふふっ、それでは私は帰りますね!」

 

 そのままトレーナー室をあとにする。今週末の本番に向けて必要な情報は揃った。あとは本番のデビュー戦でしっかりと勝って帰ってくるだけだ。

 まずは私がこのトゥインクルシリーズで走るための第一歩だ。必ず勝とう、この脚で。




1〜3話まで少し文章弄りました。
とりあえず10話くらいまで手を付けたいと思っています。
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