暫く更新速度落ちるかもしれません。本当に申し訳ない……
「あ〜〜〜……」
ついに来てしまったメイクデビューの日。今日までトレーニングを積んできた私は万全の状態なのだがいざその日を迎えるとめちゃくちゃ緊張する。緊張しすぎてやばい。
「落ち着け……! 今まで頑張ってきたんだ……私なら大丈夫!」
誰もいない控室で自分を鼓舞する。まだ時間があるとはいえ集中する為に早めに準備をしていた。まあこんな状態なら集中するもないが……
ピコン
携帯の通知音が鳴った。誰からかなと思い確認するとマルゼンさんから謎のメッセージが届いていた。
『89-5110』
……? 数字? 何かの暗号なのか……? いや待てよマルゼンさんの事だから何か意図でも……?
とりあえず意味が分からないのでありきたりの返事をしておいた。
「『ありがとうございます。頑張ってきますね!』っと……
ん……? 気付かなかったけど何件か通知来てる……」
マルゼンさんのメッセージが来てから気付いたのだが数件LANEにメッセージが届いていたのだ。
「どれどれ……タキオンさんにデジタルさん……チヨノオーさんからもだ……」
アグネスの二人とチヨノオーさんとは珍しい。内容は……
タキオン
『やあ、今日がデビュー戦だって聞いたよ。これもまた一つの縁だ。時間があったからカフェ君と一緒に応援に来ているよ。君の活躍楽しみにしているよ。あ、それとまた今度実験に手伝ってもらいたいのだが時間のある日を教えてほしい』
まあ……あのヒトらしい文章だ。どうやらカフェさんも一緒に来てるみたいである意味珍しい状況だ。
デジタル
『アリスちゃん! 今日デビュー戦と聞きましたよ! 同志たるもの応援に行きたかったのですが……! あいにく本日は手を離せなくて申し訳ない……トレセン学園の方から応援してますのでアリスちゃんの全力、見せてくださいね!』
んんっ! デジタルさんありがとう……! いつもお世話になってたからこちらも走りで応えなければ!
チヨノオー
『いきなりすみません! さっきマルゼンさんからアリスちゃんが今日走るって聞いたので連絡しちゃいました! まだ出会って日は浅いですけど同じトゥインクルシリーズを走る者としてせめてもの応援をしたいと思っています!』
これは珍しくチヨノオーさんからのメッセージだった。どうやらマルゼンさんが話したことで知ったようだ。……待てよ? チヨノオーさんならさっきのマルゼンさんの暗号分かるのでは……?
『ありがとうございます。それと先程マルゼンさんから謎の暗号が届いたのですが意味わかりますか?』
『ああ! 私も前レース出るときにそのメッセージ届きましたよ! 確か……「バッチグーファイト」だったと思います。聞いた話ではポケベル? の暗号みたいですよ!』
ポケベルって……いつの時代だよとツッコミたいがマルゼンさんだからと考えたら納得しかなかった。
こうやって応援のメッセージを貰うだけで少しだけ気持ちが楽になった気がした。
コンコンコン
「入るぞ」
「トレーナー……?」
「よっ! そろそろ時間だが大丈夫か?」
心配だから見に来てくれたのか……
「はい、たぶん……大丈夫です」
「そうか……俺もお前なら大丈夫だと確信しているぞ」
「どこからそんな自信が湧いてくるんですか……」
「今までのお前を見てきたから言えることだよ。そしてお前は俺の大事な教え子だし大切な愛バの一人だからな!」
いい笑顔で恥ずかしいことをさらって言っていくあたり私達のトレーナーらしい。
そこまで信頼されてるなら余計負けるわけにはいかないよな!
「ふふっ……ありがとうございます、トレーナー。緊張はしてるけどそれでも負けるつもりはないですよ。チームの皆と見ててくださいね!」
「……ああ、行ってこい!」
右手を掲げ静かな返事をする。そして私はそのままパドックの方へと向かった。
◆
『いい仕上がりですね、これは好走を期待できますよ』
パドックの裏で出番を待つ。私の枠番は9番なので一番最後だ。他の娘達も気合が入っていて負けられないって気持ちがよく伝わってくる。
「すぅ〜はぁ〜……よしっ!」
あっという間に私の番が来た。
『それでは今回の一番人気、9番アリスシャッハです。あのスピカに所属しているということもあり、圧倒的な人気ですね』
一応控室に居たときには自分の人気は確認していたがいざ一番人気と考えると緊張もやばい。
一番人気に押された理由も「スピカに所属しているから」と言うことらしい。まあ確かにあれだけの功績を残してきたチームに居るってだけでそこから出てくる娘なら……って感じなのかな……?
『そうですねぇ、サイレンススズカやスペシャルウィーク、メジロマックイーンにトウカイテイオーが所属してるチームだけあってそれだけ期待されてるのでしょう』
『仕上がりも素晴らしいですね』
パドックから見る景色は不思議な感じだ。
周りを見渡すとチームメイトと応援に来てくれたクラインの姿も見えた。カフェさんとタキオンさんも居るらしいがパドックからでは見つけることができなかった。
⏰
地下バ道を歩いてターフに向かう。ここまで来てしまえばあとは走ってくるだけだ。
ターフに出るとスタンドに沢山の観客が居た。今日は大きなレースもあるわけでもないのにここまでヒトが集るということからやはりこの世界での競バというものがれっきとしたスポーツの一つだと実感した。
京都の2000mはスタンド前から始まるので余計観客達が近くに感じるのだ。
「アリスー!」
スタンドから聞き慣れた声が聞こえた。
「クライン……」
まだ出走まで僅かに時間があったので少しだけ会話をした。
「デビュー戦、頑張ってね!」
「もちろんさ、ここで勝って次はクラインがデビューするんだよ!」
クラインと一言交わしゲートへと向かった。
正直私はゲートの事はあまり好きではない。元々狭いところは苦手意識は無かったのだが自分が思っていたよりも苦手なのかもしれない。……いや、これはウマ娘として、元のウマが苦手だったのかもしれない。
「ふぅ〜……」
息を整えてゲートイン。
『各ウマ娘、ゲートイン完了。出走の準備が整いました!』
ガチャコン
ゲートが開くと同時に私達は飛び出した。
『今、スタートしました!』
私は予定通りにバ群の少し後ろめについた。
『さぁ、各ウマ娘第一コーナーに入ります。一番人気アリスシャッハは最後尾からレースを行います!』
『デビュー戦なのでウマ娘達の実力は未知数なのでこれからが楽しみですね!』
京都レース場は第三コーナーの前に約4.3mの坂がある。所謂淀の坂と呼ばれており、この京都レース場の大きな特徴でそれ以外は比較的平坦だ。
(そこそこのハイペース……消耗戦ならこっちのもだ!)
『第二コーナーを抜け向こう正面に入ります。どうでしょう、この展開?』
『4番、8番の娘が先頭争いしてますね。そしてその後ろに3番、2番、5番、1番、6番、7番、そして最後尾に9番アリスシャッハです。バ群も先頭から10バ身ほど開いています』
コーナーを抜けると先頭から縦長の展開になっていた。先頭の娘達がしのぎを削りあっている。
(さぁ……ここからだよ!)
私は少しずつペースを上げ始める。淀の坂に入る前に少しでもスピードを上げておきたいのだ。
『おっと! アリスシャッハ、ペースを上げ始めたぞ! 掛かっているのか!?』
『早めのスパートかもしれませんね。体力が持つか心配です』
(行くぞ……!)
淀の坂に入る。
(くっ……思ったより坂が急だ……! でも止まるわけにはいかない!)
持てる力を持って坂を駆け上がる。他の娘達も負けじと付いてくる。
あっという間に1000m地点を過ぎた。最初に比べて坂の緩急も緩くなり少しだけ走りやすくなった。……まぁこのあと急な下りが来るんですけどね……。
『アリスシャッハ、少しずつ位置を上げ既に4番手まで迫ってきてます! このまま先頭まで躍り出ることができるのか!?』
(もっと……もっと速く!!)
スタミナが持つ限り加速しろ。まだだ、まだ伸びろ!!!
『第三コーナーに入り各ウマ娘、スパートをかけ始めました!』
私は3番手に上がり先頭の二人を追い抜くために追い抜き体勢に入る。
『第四コーナーを周り依然として先頭は4番8番が争っているぞ! そしてアリスシャッハ、大外から先頭のウマ娘に迫っている! 後ろの娘達も間に合うか!?』
いけ、止まるな。どこまでも駆け抜けろ。
「はあっ!」
最後の直線。直線自体はあまり長くないのでできるだけ早めに抜きたい。
「まだだ……まだ行けるっ!」
スタミナもあまり残ってない。肺が締め付けられるよう苦しい。でもこのレースは負けられないんだっ!
『残り200m、アリスシャッハ先頭に並んだぁ!』
「たぁっ!」
『アリスシャッハ先頭に躍り出た! そのまま後続を引き連れてゴールイン! このメイクデビューの勝利を飾ったのは9番アリスシャッハでした!! 続いて2着、8番。3着は4番です!』
「はぁ……はぁ……」
今の持てる全力を出し切り走りきった。掲示板を見ると1着に9と言う数字が表示されている。本当に勝ったんだ。
スタンドの方を見ると観客の拍手が聞こえた。チームの皆も喜んでいる姿が見えた。
私はそのままスタンドの方に一礼し、ターフの上を去って控室に戻った。
そのまま地下バ道を歩いているととあるウマ娘に出会った。
「やあ、今日の走りとても素晴らしかったよ!」
「……お疲れ様です」
アグネスタキオンとマンハッタンカフェだった。レース前に今日この場に来ていると連絡が確かきていたはずだ。
「ありがとうございます……どうしてここに?」
「なに、少しばかり君と話がしたくてね。調子はどうだい?」
「走り終わって疲れている以外は特になにもないですよ」
「……そうか。ならいいんだ。そうだ、今度君にまた飲んでほしいものがあって……」
「タキオンさん」
「おっと、すまない。あまり時間を取らせるつもりはないよ。君の仲間が待っているから行きたまえ」
「……? はい、それではまた学園で」
そのまま私はその場を去っていった。
「……カフェ君、今の彼女を見て何か感じたかね?」
「いえ……特に何もありませんね。でもまだあの子は……不思議と惹かれてしまいます」
「……そうかい。それは私も同じだよ。何故だか分からないが私も惹かれてね……本当に不思議な子だよ、彼女は」
◆
「おめでとー! アリス!」
「皆……! ありがとうございます!」
控室に戻るとスピカの皆が待っていた。そしたらゴルシさんには急に抱きかかえられ今日の主役はお前だと言わんばかりに盛り上げられた。
「いやー、アタシはお前ならば勝てると思っていたぜ!」
「いや、あの!? いきなり抱えあげるのやめてください!」
「なんだよ〜今更照れるなよ? ほら、今日の主役はお前なんだぜ?」
いやこれ普通に恥ずかしいよ!? これだからゴルシさんは!
「ゴールドシップさんの言うとおりですわ! 今日の走り、見事でした」
マックイーン、君まで……この祖父にこの孫あり……なのか?
「ほらほら、そのへんにしとけよ? アリスはこのあとウィニングライブもあるんだからそっちの用意もしないといけないだろ?」
「そ、そうですよ! だから今すぐ、降ろしてください!」
「んだよ〜まだ時間あるだろ? んま、アリスがそう言うなら仕方ないか」
そっと降ろしてくれるあたりゴルシさんらしいっていうか……さすがにいきなり抱えあげられると驚く。
「ともかくアリスの祝勝会は後日やるとして……ライブ、大丈夫か?」
ライブの練習ならしっかりとやってきたしましてや踊りはあの頃見てきた動きと同じなので頭に入っている。
「はい! しっかりと準備してきたので大丈夫ですよ!」
「そうか、ならいいんだ。まだライブまで時間あるからな、しっかり休んでおくだぞ?」
「はーい!」
「ほら、お前ら先にスタンドに戻るぞ!」
そうやってトレーナーは他の娘達を連れて戻っていった。
控室に戻った瞬間から割と忙しかったが祝われるのは嬉しかった。仲間って……いいものだなぁ……
◆
「ふぅ……ちゃんと着れたかな?」
ステージ衣装……通称汎用服と呼ばれていた衣装を身にまとい鏡の前で最終チェックをしていた。
ライブで踊りやすいようにか装飾も必要最低限なので着替えるのには手間取らなかったが……
「う〜む……やっぱり気になる……」
前にも気にしていたのだがやはりこの衣装の特徴でもあるへそ出しの部分が気になる。どうしてこういう設計にしたのか製作者に小一時間ほど問い詰めたいがそれをやるわけにはいかない。
見ている分にはいいのだが実際に自分で着ると考えるとどうか? 普段からこういうへそ出しの服を着ていれば何とも思わないだろう。
コンコンコン
「はーい」
「あの……ライスだけど……入っていいかな?」
「はい、大丈夫ですよ!」
ライスさんが私の控室に来てくれた。
「少しだけお話したくて来ちゃったけど大丈夫だったかな?」
「はい! むしろライスさんなら何時でもどこでも歓迎しますよ!」
「えっ……? あ、うん……ありがと……?」
なんか少し引かれた気もするけど気のせいだろう。
「ところで話ってなんですか?」
「うん……今日ね、アリスちゃんの走りみてライスもまだまだ負けられないって思ったんだ……アリスちゃん……ライスからの宣戦布告だよ。アリスちゃんがシニア期に上がってきたとき……ライスと戦おう」
……ライスさんからこういう提案をされるのは予想外であった。シニア期か……今がジュニア期だからまだ先になるがライスさんと戦えるなら……
「いいですよ……3年後の春の天皇賞……ここでどうですか?」
マックイーンと対をなす最強のステイヤーと名高いライスシャワーに対して天皇賞・春で戦う以上にいい場所はないだろう。
「うん……!」
まだまだ遠い未来ではあるが大丈夫なヒトとの約束だ。必ず守るさ。
「あ! そろそろ時間なのでステージに向かいますね!」
「もうそんな時間なのね……初めてのライブ、頑張ってね!」
「もちろんですとも! 私のライブしっかりと見届けてくださいね!」
にっこりと笑顔をライスさんに向け、私はライブが行われるステージへと向かった。
ついに私達のライブの時間になった。もうここまで来ると緊張してるとか言えない。
「ふぅ〜……よし! 行きますか!」
ライブの曲は何度も聞き慣れたMake debut! だ。全力で楽しんでこようじゃないか!
⏰
「いい、ライブだったぞー!」
「アリスちゃんこれからも応援するね!」
ライブが終わりステージから降りようとすると観客から様々な声が聞こえた。私を応援してくれる声に、一緒にライブをした娘達にも多数の応援の声が届いていた。
『ありがとうございます! 私達はこれからも頑張っていきますので応援よろしくおねがいします!!』
私達がレースに出られるのはファンのおかげでもある。ファンを大切にしておくことも私達にとって大事なことだ。応援してくれるファンに対してライブ等でお返しをする……どちらもwinwinの関係だ。
今までは応援する側だったのだが応援される側になると応援されてるってだけで力になる気もする。ファンの大切さも学ぶいい機会にもなった。
◆
後日、トレーナーと共に今後のレースについての相談をしていた。
「うーむ……暫くはOP戦で経験を積みたいと……」
「はい。重賞の方に挑戦してもいいですけどもっと経験を積みたいと思ってるんです」
まずはしっかりと下地を固めたい。レース展開についても学べる上にファンの獲得にも繋がる。ここである程度のファンを獲得しておけば後々役に立つだろう。
「分かった。出るレースはこっちが決めても大丈夫か?」
「はい、それでお願いします」
「おう! 任せとけ!」
まだまだデビューしたばかりだが、ここから私のトゥインクル・シリーズでの戦いが始まるのだ。
私にも自分の未来は分からない。だって私と同じ名前の馬は聞いたこともないからだ。だが、今後何が待ち受けていても乗り越えてみせよう!