淀の坂を乗り越えて   作:krm.nc55

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姉妹

 4月、それは新入生が新たに入ってくる季節だ。今年も多くの新入生がやってくる。

 だが、今私にとってはそれ以上に大きな問題(?)があった。

 

 それは先月のレースで勝利を収めた後のある一本の電話がかかってきたことから始まる。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「アリス、お疲れ様」

 

「とりあえず今日も勝てて良かったです」

 

 私はとあるOPのレースに出走して後続に2バ身つけての勝利だった。デビュー戦の頃よりもいいレース運びができたと思っている。

 

「次のレースだが暫く期間が開くがそれまでにもっと実力をつけるぞ!」

 

「はい!」

 

 プルル

 すると突然私のスマホが鳴った。画面を見て見るとそこには母さんと表示されていた。

 

「すみませんトレーナー、母から電話がかかってきたので出ても大丈夫ですか?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

 基本的にウマ娘は人間と違って耳の位置が高い。そのため普通のスマホでは人間の頃のようには扱えず大体はスピーカーに切り替えて電話をすることが多い。周りのヒトに会話を聞かれるのは最初こそは抵抗があったがさすがに何十年もウマ娘として生きてきたら慣れたものだ。

 

「もしもし? どうしたの母さん?」

 

『今日はアリスに報告があって電話しちゃた☆

 っとその前に今日のレース、優勝おめでと!』

 

「あ、うん。ありがとう。ところで報告って何?」

 

 何となくだが予想はついているんだが……

 

『本当はサプライズにしたかったけどあの子も東京は慣れてないから先にアリスにちゃんと伝えておいたほうがいいかなって思ってね。ほら、東京って広いし迷うでしょ? だからサポートをしてほしいなーってね!』

 

 あー……やっぱりか……

 

「それはつまりエシリアがトレセン学園に合格したということかね? ねぇ!?」

 

『察しがいいね! さすがあたしの娘だよ!』

 

「大丈夫? あの子私と離れてる間にシスコン悪化させてない?」

 

『多分大丈夫よ!』

 

 うわ〜……めちゃくちゃ心配なんですけど……

 

「分かった……とりあえずあの子がこっちに来るときまた連絡してよ。迎えに行くから」

 

『了解よ! あ、もしかして今トレーナーさんも近くにいるの?』

 

「えっ? うん、今一緒に控室に居るけど……」

 

『あら、それなら……トレーナーさん、まだまだデビューしたてですけど今後もうちの娘をよろしくおねがいしますね』

 

「ええ、任せてください。必ずG1に勝てるウマ娘にしますよ!」

 

 頼もしすぎるぞ、我がトレーナーよ。

 

『私の娘が選んだトレーナーですからね……きっと大丈夫でしょう。

 それじゃあ、伝えたいことは伝えたしまたこんどね!』

 

「うん、またね」

 

 そのまま電話を切った。

 

「はぁ〜〜〜〜……」

 

「どうした? そんなため息ついて?」

 

「さっきの話で私の妹が今年トレセン学園に合格したみたいなんですよ……あの子昔から私にべったりでかなりシスコン極めてて……」

 

 あの子……エシリアロールは歳こそは離れていたが昔から走るのは速かった。特に瞬発力に長けていて私とは逆の適性、つまり短距離よりになると思っている。

 

「根はいい子だし大切な妹なので一緒にこのトレセン学園で走れるのは嬉しいです」

 

 こうして同じ場所でまた二人で走れることは嬉しい限りだ。結構長い間あってないしちゃんと成長してるのだろうか……というか久しぶりにあってあの子だと分かるのか不安になってきた。……多分大丈夫だとは思うが……。

 

「お前……妹居たんだな……道理であいつらの扱いが上手いわけだ……」

 

「そんな意外でしたかね?」

 

「いや、なんか納得しただけだ。もう入学式まであまり時間なくないか?」

 

「確かに……!」

 

 ああ! これだからうちの親は……

 ドッキリが好きなのかそれともただ忘れていただけか……

 

「あとで母親にいつ来るか聞いておきます……」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「え〜と……とりあえずここで待っとけばいいかな」

 

 エシリアとはトレセン学園最寄りの駅で待ち合わせにすることになった。今日は休みの日だったので丁度よかった。

 

 ピロン

 

 LANEに連絡が来た。

 

『今着いたよ〜お姉ちゃんどこにいるの?』

 

『駅出てすぐのところだよ』

 

 思ったよりお早い到着だ。

 駅の出口を見て待っていたのだが中々やってこない。どうしたのだろうか? 迷ったのではないかと思いLANEで連絡しようとしたところ……

 

「だ〜れだ!」

 

 いきなり後ろから目を隠され声をかけられた。

 

「こんなことするのエシリアだけだよ……」

 

「さすがあたしのお姉ちゃん! 久しぶりだね!」

 

 振り返ると成長した私の妹……エシリアがいた。身長も大きくなっており少しだけ私より大きくないか? あれ、これ他の部位も負けてない?? くそ……なんか悔しい。

 

「大きくなったな……」

 

「お姉ちゃん……どこ見ながら言ってるの……?」

 

「さて、何のことやら? 荷物は先に運んでる感じ?」

 

「うん! だからまだ時間あるから二人で遊んでいかない?」

 

 まあトレセン学園に来てから姉妹で過ごす時間も無かったし再開の記念にいいだろう。門限までに戻れば大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「へぇ〜お姉ちゃんの周りって面白いヒトが多いんだ」

 

「まあそんな感じかな。でもそんな中で過ごす毎日が今とても楽しいんだ」

 

 正直今のこの生活ほど楽しいものはない。多くのウマ娘達に囲まれて一喜一憂して……エシリアもこれから同じようになるのだろう。

 

「ところでお姉ちゃん……服の趣味変わった?」

 

「えっ?」

 

「ほら……今までのお姉ちゃんなら絶対しないような服装してるし……」

 

 確かに今日はカーディガンにロングスカートという組み合わせではあるけど……

 

「まあ……私にも色々あったのよ……」

 

「ふーん……」

 

 すっごいにやにやしてるよこの子! 確かにトレセン学園に来る前は自らスカート履くこと無かったし……ああ……これか……

 

「そんなに珍しい? 私だってウマ娘だし少しくらいおしゃれしたっていいでしょ」

 

「……もしかして好きなヒトでもできたの……?」

 

 なっ!? そんな訳ないだろ! と言いたいが否定すると逆に怪しまれそうだ。まあ、勿論そんなヒトは居ないが……

 

「私にそんな空気感じるか?」

 

「ん〜……昔からお姉ちゃん、あまり男のヒトに興味無さそうだったけどトレセン学園に居る間に変わったのかなぁ〜って思ったけど大丈夫そうだね!」

 

 信じてくれて良かった。正直私にとって男のヒトと付き合う事なんて考えたこともなかった。ウマ娘に囲まれてるこの空間に居るだけで幸せなのに。

 

「くだらない話は置いといてどこに行く? お祝いがてらに奢るよ」

 

「ほんと!? お姉ちゃん大好きッ!」

 

 はぁ〜……本当にこの子は……どうして私はすぐ甘やかしてしまうのだろうか。まあいいか、レースでの賞金も少しだが入ってるので久しぶりの再開を祝ってあげることにした。

 

 

 

 その後、二人でお昼を食べに行き近くのゲームセンターへと向かった。

 

「あ! ぱかプチあるじゃん! ……さすがにお姉ちゃんはまだ居ないか」

 

「まだデビューして数ヶ月なのに居たら驚くよ……エシリアの推しって誰?」

 

「あたしは〜……サイレンススズカさんとかメジロパーマーさんとダイタクヘリオスの爆逃げコンビとかも好きだなぁ〜。あ、あとね! 去年のクラシックの菊花賞見ててライスシャワーさん見て何故かとても惹かれたなぁ〜」

 

 なるほどねぇ……エシリア自身が逃げよりの脚質だからなのか逃げのウマ娘達が多いようだ。その中でもライスさんの名前が出てきたときは驚いた。どうやら何かを感じたようで、私と近い何かがあるのだろう。

 

「どれどれ……一応全員居るみたいだ。やってみる?」

 

「ん〜あまりお小遣いも無いしなぁ……」

 

「よし、なら私がやろう」

 

「えっ?」

 

 念の為に多めにお金を下ろしておいて良かった。エシリアの推しウマ娘を取ってやろうじゃないか! 

 

 

 ⏰

 

 

「やっと……取れた……ぜ……バタ」

 

「お姉ちゃん……無理し過ぎだよ……」

 

 一応取れるぶんには取れたがそれなりにお金がかかってしまった。財布は薄くなったがまだ賞金の残りはきちんと通帳に残ってるのでまだ大丈夫ではあるさ……

 

「でもありがとう、お姉ちゃん。大切にするね!」

 

 喜んでくれて良かった。それだけでも十分にお金をかけた価値はある。

 

「ねぇお姉ちゃん、折角だからさプリクラ撮っていかない?」

 

「構わないけど……どうして?」

 

「そんなの思い出に決まってるじゃん! お姉ちゃんの事だしプリクラ初めてでしょ? あたしは何回か撮ったことあるから任しておいて!」

 

 そりゃそうだろ。プリクラなんて元々縁が無かったしゲームセンター自体になかなか寄ることもないし……どうやら慣れてるようだから任せてみるとするか。

 

「なら任せるよ。こういうの……慣れてないからさ」

 

「だと思ったよ! それじゃあ……これにしよう!」

 

 エシリアに引っ張られてプリクラの中に入る。内装自体はよくある証明写真機のようだが目の前の機械では色々設定ができるらしい。

 

「お姉ちゃん、加工とかどうする?」

 

「私はそのままがいいかな」

 

「えー! 加工したらもっと可愛くなれるよ?」

 

「そう? 私にとっては今見えてるままのエシリアが一番可愛いと思うけど?」

 

「〜〜ッ!」

 

 あ〜あ、真っ赤になって。実際、エシリアも私に似て黒鹿毛の綺麗なストーレートヘアーで瞳も透き通った青色をしていて美しい。昔から双子と間違われるくらい容姿が似ていた。ある意味自分を客観的に見ているのと同じようだ。

 

「もうッ! お姉ちゃんの妹たらし!」

 

「お前だけには言われたくないな……」

 

「お姉ちゃんがそう言うなら殆ど加工無しにしておくね……それじゃあ次は……」

 

 その他にも色々な設定をエシリアにしてもらった。そして二人でどのようなポーズで映るかを決めた。派手なポーズではないが二人で身体を寄せ合って可愛くピースをし微笑んだ。

 

 撮影が終わると最後の加工? があった。

 

「お姉ちゃん何か書き込む?」

 

「いや、エシリアに任せるよ」

 

「おっけー! それじゃあ……」

 

 最後の加工が終わると写真が出てきた。そこには『お姉ちゃん大好き!』と大きく書かれた文字が……

 

「ちょっとこれ……恥ずかしいんだけど……」

 

「あたしに任せたのお姉ちゃんだよね? なら何書いてもいいよね♪」

 

 やられた……念の為確認しておくべきだったと反省。しかしよく見ると他にも……

『あたし達姉妹は永遠に!』

 ……粋なことするじゃないか。大丈夫さ、君が私の妹である限り私も君のことが大好きだよ。

 

「はい、お姉ちゃんの分」

 

 そうして印刷されたプリクラの一部を受け取った。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 久しぶりの再開で二人で様々なことをした。今まで積もりに積もった話やゲームセンターでの出来事。ある意味忘れられない一日となった。

 そうして門限も近づいてきたので寮へと帰ることにした。エシリアらまだ入学前だが遠方から来ているので少し早めの入寮だ。

 

「今日は楽しかったね!」

 

「こうして姉妹水入らずにできるのって中々ないしいい息抜きにもなったよ」

 

 次のレースまでまだ余裕はあるけどこうやって息抜きも大切だ。そのほうがよく集中できるしパフォーマンスも上がる。

 

「ねぇ……お姉ちゃん」

 

「ん? どうした?」

 

 さっきまでの明るいエシリアからとは思えないような少しだけ寂しそうな声だ。

 

「お姉ちゃんって前世とかそういうの信じる? 

 例えばこうやって二人が出会えたのも何かしらの運命……だったりとか」

 

 信じるも何も私自身が転生者だしなぁ……さすがにそれは口にはできない。

 

「……あると思うよ。私達がこうやって惹かれ合うのも何かしらの運命だと思う」

 

「……」

 

 ウマ娘の関係性も前世の頃……というのか何て言うのか……元々の競走馬の影響が大きい。

 例えばシンボリルドルフとトウカイテイオー、彼女たちは親子だった。そのため二人はとても仲がいいしテイオーにとってシンボリルドルフは憧れで目標なのだろう。

 メジロマックイーンとゴールドシップも母父と孫の関係だ。本人たちは接点が全く無かったのに気がついたら同じチームでともに競い合い、弄り弄られる関係でもある。

 多分だけど……私の中のウマソウルがライスさんに強く反応したのは何かしらの強い縁があるのだろう。

 

「あたしね……むかーしに見たある夢を……未だに忘れられないんだ。

 真っ暗で寒くて……何も見えないし身体も動かない。あたし、ここで死んじゃうのかなって思ったんだ。でもね、急に目の前に光が現れて『あそこに行かなきゃ!』って強い衝動に駆られて……そしたらついさっきまで動かなかった身体が不思議とその光に向かって動き出したんだ。そしてその先には……お姉ちゃんが居た。優しく手を差し伸べてくれたんだ」

 

 エシリアを暗闇から助け出した……? 私にはそんな記憶ないしエシリアの夢の中での話なのだろう。自慢ではないが私は幼少の頃の記憶もしっかりと残っている。私が、エシリアが何をしてきたのかはっきりと思い出せる。

 

「それ以来、あたしにとってお姉ちゃんは何よりも大切で憧れで……あたしの目標でもあるんだ。あたしに走る意味を、理由もくれたのもお姉ちゃんが居たからなんだよ」

 

「そう……か」

 

「だからあたしはお姉ちゃんを追い続けて……そして超えるんだ……!」

 

 エシリアは私を追ってここまできた。私の背中を追って追い続けてそしてこの背中を超えるため。ならば私はエシリアの為に前を走り続けよう。エシリアが私を超えていくその時まで。

 

「分かったよ。それならまずはデビューしないとね!」

 

「そうだねお姉ちゃん! お姉ちゃんに負けないようにトレーニング、頑張るよ!」

 

「えぇ! その先で待ってるよ!」

 

 久しぶりの再開で色々な話で盛り上がった一日だった。何故エシリアがそこまで私のことを慕ってくれていたのか分かった。小さい頃から一緒に過ごしてきてもお互い知らないことも多い。だけどこれからまた一緒に、しかも同じ学園で過ごすからもっと色々知れるだろう。

 

「そういえばエシリアの寮ってどこなの?」

 

「栗東寮だったはず……お姉ちゃんはどこだっけ?」

 

「美浦寮だよ……」

 

「……えぇーーーーー!?」

 

 そこには今まで聞いたこともないようなエシリアの悲鳴が鳴り響いていたのだった。

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