今年の春の天皇賞はいつも以上の盛り上がりだ。現在、二連覇しているメジロマックイーン。そして去年そのマックイーンと激闘を演じたトウカイテイオー。最後は、クラシックにてミホノブルボンの三冠を阻止し、ステイヤーとしての才能を見出されつつあるライスシャワー。
しかも全員がスピカというチームに所属しているのが特徴であり、今回の天皇賞はスピカ内での最強のステイヤーを決定するレースになるだろう。
「どうした急に」
「もしかして声漏れてた?」
どうやら無意識に声が漏れてたようだ。すると
「今日の天皇賞はマックイーンさんが勝つよ!」
「テイオーさんだって負けてないもん!」
ここ最近よく一緒にレースを見ているウマ娘の子達だ。
「あ! お兄さん達じゃないですか!」
傍から見れば小さい子に声をかけてる怪しい人に見えるかもしれない。しかし何故か俺たちはこの子達と親しくなっていた。
彼女達は、サトノダイヤモンドとキタサンブラックと言うらしい。サトノダイヤモンドはメジロマックイーンに、キタサンブラックはトウカイテイオーに憧れているようでこの二人が出走するレースではよく言い争ってる姿を見かける。
「お兄さん達は今日のレース、誰が勝つと思いますか?」
「正直予想は難しい。メジロマックイーンは間違いなくこの京都3200mでは最強と言ってもいいだろう。しかし、トウカイテイオーも前回の春の天皇賞の頃よりも実力を付けてきてるから侮れない」
「ですよね、ですよね! 最近のテイオーさん、前より気迫が凄いですよね!」
「むぅ〜……マックイーンさんだって負けてないもん!」
メジロマックイーンとトウカイテイオーのこととなれば二人とも譲る気はないようだ。
「しかし、今回のレースには菊花賞でステイヤーとしての素質の片鱗を見せつけたライスシャワーもいる。200m伸びたとはいえほっとけない存在だな」
「ああ、パドック見たけど菊花賞の頃よりも明らかに強くなってるな。まるで鬼が宿ってるような……」
明らかにあの菊花賞の頃よりもライスシャワーが成長して強くなっている。ライスシャワーだけじゃない。メジロマックイーンもトウカイテイオーも今まで以上の仕上がりになっていた。
「今日の天皇賞、予想がつかないな」
「そうだな……」
このレース……一体誰が勝つんだ……?
◆
ライスさんを送り出し、スタンドにいるみんなのもとに戻った。
「なんかこうして皆と会うの久しぶりな感じしますね」
この一週間は、他のメンバーとは完全別行動していたので殆ど会うことが無かった。勿論トレーナーと話すのも久しぶりだ。
「お前ら二人だけ別行動だったしな……」
あはは……ソウデスヨネー
「ともかく今回の天皇賞はうちのチームから三人も出るなんてなぁ……」
「現在のステイヤー最強候補と言われればマックイーンはもちろん、ライスさんも居ますからね。この二人が同じチームの時点で戦うことは確定してましたよ」
「それもそうか……」
トレーナー的にはチームのメンバーには勝ってほしい。だが、同じレースにでればどちらかが負けることになるので基本的には同じレースに出したがらない。しかし、出走する本人たちの意思を尊重してくれる彼だからこそ思いが複雑になるのだろう。
◆
(春の天皇賞三連覇がかかってるこのレース……負けるわけにはいきませんわ!
テイオーはもちろんですが、ライスさんの仕上がりも恐ろしいくらいですわね……
地下バ道ですれ違っただけでもわかるその気迫……普段のライスさんからは想像もつかない雰囲気でしたわね)
テイオーもライスさんも今まで最高の仕上がり……私だって負けていませんわ!
(流石マックイーンだね……この中でもあの集中力、ボクも負けられないよ! 去年は負けちゃったけど今回はボクが一着になってみせる!!)
(ついてく……ついてく……マックイーンさんについてく……)
アリスちゃんとの特訓の成果を見せなくちゃ……!
遠くから見ててもあの三人は他のウマ娘達よりオーラが凄い。もちろん有名なウマ娘だからなのかもしれないがそれ以上にライバルがいるお陰でさらに強くなれるのだろう。
「あれ? マックイーン中々ゲートインしないけど何かあったのかな?」
本人はゲートに入らないといけないと分かっている。だけどそれを本能が拒否しているのだろう。
(ゲートに入らないといけないのに脚が動かない……?)
ゲートに入るために自ら尻尾を引っ張ってまで進もうとする。だけど身体がそれを拒否するように、本当に自分の身体なのか疑いたくなった。まさか私が負けるなんて思っていない。でも……
マックイーンは、背中を押されゲートイン。他のウマ娘もゲートインが完了した。
ガチャコン
ゲートが開くと同時に全てのウマ娘が一斉にスタートした。
先頭に立ったのは……メジロパーマーだ。あれ、このレースパーマー居たのか……他にもマチカネタンホイザ、イクノディクタスも居るようだ。
「先頭はメジロパーマーか……」
メジロパーマーはダイタクヘリオスと共に爆逃げコンビとして有名なウマ娘だ。
マックイーンとテイオーばかりに気を取られてて他のウマ娘の事を忘れてしまった……不覚……!
『メジロパーマーがバ群を率いて正面スタンド前に入ろうとしています!』
マックイーンとテイオーは前で先頭を狙っている。ライスさんはその後ろから静かに獲物を狙っている。
(ライスさんは……後ろに居ますわね……)
後ろからの物凄い威圧感……間違いなくライスさんでしょう。テイオーは……何処にいますの? 周りを見渡しても見えな……まさか私の後ろに……!?
「ほう……テイオーよく考えたな」
「えっ? どういうことでしょう……?」
スペさんが純粋な疑問をトレーナーに問いかける。
「スリップストリームていうやつだ。少しでも空気の抵抗を減らしてスタミナの消費を抑えるつもりのようだ。
というかスペ、お前もやってたぞ?」
「えっ……?」
本人は気付いて居ないようだが何処か忘れたがやってたな……無意識でやっていたのだろう。
(ごめんね、マックイーン……単純なスタミナ勝負になったら君には勝てない。だから少しでもスタミナの消費を抑えさせてもらうよ……!)
最強のステイヤーとも言われているマックイーン相手にスタミナ勝負は不利でしかない。ならばどうするのか? 答えは簡単だ。空気抵抗を少しでも減らしてスタミナの消費を抑える!
『先頭は依然としてメジロパーマー、メジロマックイーンは三番手に控えています。その後ろにはトウカイテイオー、マチカネタンホイザ、イクノディクタス……そしてライスシャワーだ!』
ライスさんは中団あたりについている。そこからならマックイーン、そしてテイオーの動きもよく見えるだろう。
『さあ、そのまま各ウマ娘達が向う正面に差しかかります! 先頭は変わらずメジロパーマーだ! しかし、後続も位置取り争いが激しくなってきたぞ!』
まだスパートには早いが後ろの娘達が少しづつ前を狙ってきている。ライスさんは大体6、7番手あたり、マックイーンはパーマーに対して僅かに追いつきつつある。テイオーも負けじとついていってる。
「そろそろ淀の坂だ。あれを超えてからが勝負だ」
「……そろそろですね、ライスさん」
淀の坂に差しかかったその瞬間、後ろからとてつもない気配を感じた。それはまるで殺気のような、するどいオーラだ。
「……っ!」
「たぁ!」
(ライスさん!? ここでスパートですの!? 流石のライスさんでもここから届きますの?)
「ふふっ、ライスが来るならボクも負けられないね……!」
二人がじりじり上がってくる。
(ライスさんは持ち前のスタミナを活かそうってことですわね!)
「流石、私のライバル達ですわ……ですが、私だって負けません!」
二人が来るなら私だって……!
『おっと! ここでライスシャワーが動いた! そこにテイオー、マックイーンが続いていくぞ!』
アリスちゃんとの特訓のお陰でまだ脚は動く……
最後の勝負所は……第四コーナー出てすぐだ!
「ライスは……ライスはマックイーンさんにもテイオーさんにも負けないッ!」
外よりだが行ける! ここからが最後の勝負だ!!
「流石ですわ……ですが、今日勝つのは私ですわ!」
さらに加速するマックイーン。
「まだだよ……まだ終わってないッ! たぁ!」
「逃さない……!」
『第四コーナーを抜けて最後の直線。メジロマックイーン、トウカイテイオー、ライスシャワーが並んだ!』
苦しい。胸を締め付けられるような苦しさ、そして脚が重い……!
(負けられない……ここで負けたらアリスちゃんにもブルボンさんにも顔向け……できないッ!!)
…………
…………
………………
『この戦いを勝ったのはライスシャワー! 最後の最後で見せつけたその強さは本物でしょう!』
1着、ライスシャワー
2着、メジロマックイーン 一バ身
3着、トウカイテイオー クビ差
「何だったんだ……あれは……!?」
限界を超えていたはずのライスさんが最後に見せたあれはまさか……
「まさかあれが……
まだマックイーンもテイオーすらもその力を見せていないとなると今後が怖い。
「本当に存在していたとはな……てっきり誰かが見た幻想だと思っていたんだが本当に目にしてしまったら信じるしかないな」
どうやらうちのトレーナーはトレーナーなのに
◆
ライスさんの優勝で終えた春の天皇賞から数ヶ月、未だにその熱気は収まらかった。世間は二連覇を果たしたメジロマックイーン、そして三連覇を阻止したライスシャワーのどちらが最強のステイヤーか論争がよく起こっている。
もちろん私にとって最強のステイヤーはライスさんですけどね! でもまぁ私も負けるつもりはないですけど? ウマ娘としての本能なのか「一番になるのは私だ」って気持ちが強い。例えそれが仲のいい友達であっても、尊敬する先輩であってもウマ娘ならばレースで勝ってなんぼだ。
「お、アリスここにいたか」
たまたま学園内をフラフラ歩いていたらトレーナーとばったり出くわした。
「実はお前に渡したいものがあってな、後でトレーナー室に来てくれるか?」
「えぇ、分かりました」
何の用事だろうか? 一応次のレースの予定は決まっていたはずなのだが……ともかくトレーナー室に向かうとしよう。
「おお、来てくれたか! よし、アリスに渡したいものは……あった、これだ」
そう言ってトレーナーは一つの封筒を渡した。中身を確認すると……
『勝負服について』
……ゑ?
「アリスもG1狙ってるならいつかは必要になるだろ? サイズとかデザインとか時間かかるし早めに作っておこうと思ったんだが……大丈夫か?」
G1……このあいだの天皇賞もG1レースの一つだし今の私の目標であるホープフルステークスもG1に分類されている。まだ確実に出走出来るわけではないが、早めに越したことには問題ないかな?
「それはいつでもいいから考えが纏まったらまた持ってきてくれ。あぁ、それと次の次のレースだが、ホープフルステークスにむけてG3の京都ジュニアステークスで大丈夫か?」
「構いませんけど……それいつ頃でしたっけ?」
「まだ詳しい日程は決まっていないが11月の後半だ」
ホープフルステークスの一ヶ月前ってところか。ふむ、問題はないだろう。
「分かりました。そのローテーションでお願いしますね、トレーナー」
「おうよ! まずは、次のレースを勝ってから……な?」
「任せてくださいな。次も勝ちますので!」
ジュニア期のローテーションについては大体は決まった。年末最後の大舞台に向けて頑張らなくちゃ!