時間の流れとは残酷なものだ。毎日学園生活とトレーニングをこなしてきただけでいつの間にか冬である。
なんかついこの間まで春だった気がするのだが気の所為だろうか? まぁいい。ホープフルステークスも近づいてきているのだ。本番に向けて調子を整えないとな。
「お、いたいた……おーい! アリスぅ!」
「ウオッカ……? どうしたの?」
「今月の月刊トゥインクルみたか?」
「いや、まだだけど……」
「注目のジュニア級ウマ娘の代表としてアリスの記事が載ってたぜ!」
んま? あー……確か少し前に乙名史記者って人から取材受けたような……受けてないような……?
「『ここまで無敗、四戦四勝。次の時代はこの娘か!?』……なんか恥ずかしいな……」
よく見ると別のページには同室のクラインの記事もあるじゃないか。
しかもここまで私と同じでここまで無敗、特にマイル路線では中々の強さだとか。そして次は朝日杯FSに出るらしい。ホープフルステークスで被らなくて良かったよ……
でもクラシックでは三冠路線に来るだろうしいつかは戦うことにはなるだろうけどね。
「あぁ、それとトレーナーから伝言があって『勝負服』届いたらしいぜ」
「本当? それじゃあウオッカも一緒に行こうよ。どうせもうすぐトレーニングの時間だしね」
「もうそんな時間なのか!? しっかたねぇ……行くかぁ」
そういうわけでウオッカと共にチームの部屋へと向った。
部屋に入ると私とウオッカを除く全員が揃っていた。
「お、いいところに来たな。アリス、お前の勝負服が届いたぞ」
トレーナーから私の勝負服が入っているダンボールを受け取った。この中に私の……私だけの勝負服が入っているんだ。
「念の為サイズ確認のために一度着てもらえるか? まだホープフルステークスまで時間あるし修正があったら間に合うぞ」
「分かりました!」
楽しみだったのですぐにダンボールを開け着替えようとするが……
「まて、アリス。トレーナーが居るのにその目の前で着替えるのか?」
「お前は出ていけよ」
ゴルシさんがなんか何処かで見たことあるようなセリフと共にトレーナーを部屋の外に追放した。
私も嬉しさのあまりトレーナーが居るのに着替えようとしてしまった。というかトレーナー部屋から出ようとする素振りすら見せなかった気もする……
そして遂に私の為の勝負服に袖を通す。これからG1に出るときにお世話になる服だ。大切にしないとね。
「「おぉ〜……」」
着替え終わりトレーナーと皆の前でお披露目する。
「アリスちゃんの勝負服、なまら可愛いですね!」
「そうですわね、普段あまり可愛い服を着ないイメージでしたのですっごく新鮮ですわ!」
私の勝負服のデザインは自分の名前の由来になったであろうあの作品から来ている。何故だか分からないが自分の中でこのデザインが一番しっくり来たのだ。
黒色を基調としたワンピースに蒼色のエプロン部分、そこに一輪の菊の花が描かれている。スカート部分は膝に掛かるくらいあり、ふんわり広がっているお陰で走るときには邪魔にはなりにくそうだ。靴下はニーソでこちらは逆に白色になっている。それと靴はドレスシューズ……と言われるものらしくてヒールとかより走りやすそうだな。
最後にどうしてもこれだけは……! ってことで尻尾の穴があるところに大きな黒いリボンがついている。
「アリスちゃんのその後ろのリボン、ライスとお揃いのかな?」
「はい! 大好きで最も尊敬しているライスさんと同じにしちゃいました!」
勝負服としてのデザインは私自身の考えっていうよりは自分のウマソウルに従って決めた感がある。ただし、このリボンを除いて。
「なんか勝負服着ると走りたくなりますね……」
「分かります! なんかこう……とにかく走りたい! って気持ちになりますよね〜」
大事な大舞台で着る衣装なだけあってか、気持ちも高ぶる。本能って怖い……
「うんうん、とてもいい感じだな! これはホープフルステークスに向けてより頑張らないとな!」
「えぇ、そうですね!」
そして折角なので勝負服の写真を撮ってもらい家族の方にも写真を送った。両親の反応は凄く良かったし、妹からは『えっ……? あたしのお姉ちゃん可愛すぎ……!』とか送られた。やめて、恥ずかしい……
そういえば、クラインの朝日FSはもうすぐだったはずだ。友として、ライバルとしても彼女の走りを見届けなければ。
少し前に勝負服の写真も見せてもらったし、私のも見せておかないと不平等だよね。
……っというわけでその日の夜、写真を見せたところ好評だった。お互いが勝負服を着てぶつかり合える日もそう遠くはないだろう。
◆
────朝日杯FS当日
私は少しでも良いところでクラインの活躍を見たくて早めに現地入りしていた。今回は私一人である。普段ならトレーナーがついてくることが多いが今回だけは時間がなかったらしい。一応、私達の保護者的役割でもあるので殆の場合で一緒に居るが、今回は「まぁ、お前なら一人でも大丈夫だろ」って感じだった。
信頼されているのは嬉しいけどこんな美少女を一人にさせるのは……って思ったが、単純な力なら成人男性より強いし、結構一人で応援に来てるウマ娘も多いのでおかしくはないか。
朝日杯FSは1600mのレースだ。クラインは、特にマイル路線においては無類の強さを見せている。まぁ、今回も勝つとは思うがこれはG1である。何が起こるかは分からないのがレースの楽しみの一つだろう。
実はクラインの生勝負服は初めて見る。写真でこそ見せてもらっているがやはり生で見るのが一番だろう。
そろそろ出番かな……お、出てきた。
『5枠10番、グローサークライン、1番人気です。仕上がりはとても良いみたいですね』
『気合も十分ですね。これは好走を期待できますね』
『今回はどのような走りをしてくれるか期待ですね』
ほほう、中々の評価されてるねぇ〜。
クラインの勝負服は軍服をイメージとしている。グレーを主体に白色と赤色のラインが入っていて凄くイケメンになっている。段普は可愛らしいのにかっこいい服はギャップ萌しちゃう。ボトムはスカートで靴は膝下くらいのブーツになっている。装飾品も中々多い。
まじまじとクラインを見ているとこちらに気付いたのか手を振ってくれた。
「応援、来てくれたんだ!」
パドックからはそこそこ離れた位置に居るがしっかりとクラインの声を聞き取れた。これ、普通の人間なら聞こえないぞ……
「あたぼうよ、親友でありライバルでもある君が出るからね」
「僕の走り、その目に焼きつけるんだよ?」
にっこり笑顔を向けながらこちらに向かってピースをしてきた。
う〜ん、これだけ離れても会話できるの便利だけど他の観客にはお互いの会話聞こえてないから「何しているんだこいつ」状態になっていそうだ。
今のあの子なら負ける要素はなさそうだ。しかし、いつか共に同じ舞台で競う時の為にレースはしっかりと見させてもらうよ。
⏰
『圧倒的逃げで優勝したのは、グローサークラインです!』
クラインは最初から最後までハナを譲らずに一着でゴールした。このレースは完全に彼女のペースに支配されていたのだ。
スズカさんみたいに大逃げするわけではなく上手く周りをコントロールしながら走っていた。これは対策を考えなくてはならないようだ。
「あそこまで綺麗に逃げられると流石に中団から差すのは厳しいか……?」
「あら? 見たことある娘が居ると思ったらアリスちゃんじゃない!」
急に声をかけられ、振り返るとそこにはマブいオーラを解き放っているマルゼンスキーがいた。というより何故ここに?
「マルゼンさん……? どうしてここに?」
「こっちに遊びに来たついでにレースを……って思って観に来ちゃった☆
丁度いいタイミングだったみたいで中々面白いもの見せてもらえたわ」
「クラインの事ですか?」
「そうねぇ、あの子中々いい逃げっぷりじゃない? でもただ逃げるだけじゃなくてしっかりペース配分もしてる。この頃からそこまでしっかりと管理できる娘は少ないわ」
流石は大ベテランの先輩だ。一回見ただけでクラインの事を分かるなんて……
「なぁ〜んか不満そうな顔ね? 一発走っちゃう? ……カッちゃんで!」
「走るってそっちですか……」
マルゼンさんの運転する車の助手席はやばいって聞いているけどちょっとだけ……ほんのちょっとだけ好奇心が湧いた。
「それなら……今度暇なとき、併走してあげるわ!」
「……分かりました。いいですよ、ちょっとだけ好奇心がくすぐられたので」
「えぇ、任せてちょうだい! それじゃあかっ飛ばして帰るわよー!」
「ところでマルゼンさん、どうしてそこまで助手席に誰かを乗せたがるのですか?」
「そりゃあモチのロン誰かと一緒に居るほうが楽しいでしょ?
でも何故か皆、私のカッちゃんに乗った後、もう一度乗るのを嫌がるのよねぇ……」
あ〜……なんとなく嫌な予感がしてきた。
これはある程度覚悟して乗ったほうがよさそうだと思ったのであった。
◆
「〜っということがありましてね。まぁ……なんと言うか皆が断る理由がわかったんですよね」
「その前にお前……あのマルゼンスキーと併走する約束したのかよ!?」
まぁそこ突っ込みたくなるよね。なんたってあのマルゼンスキーだからね。
正直、勝てる確率なんて0に近いだろう。本格化をほぼ終えているはずなのにチヨノオーさんとのJCでの戦いは忘れられないもん……まじでスーパーカーだよ、あのヒト。
「いつやるかまでは決めてませんけどね。遅くても皐月賞前にはやりたいですね」
「ん? どうしてだ?」
「多分そこでクラインと初対決になると思います。あの娘は逃げが得意ですよね? なら同じ逃げが得意なマルゼンさんなら……」
「だがスタイルが違うぞ? クラインは確かに逃げが得意だけどマルゼンスキーとはまた別だ」
それくらいは分かっている。マルゼンさんはとにかく速い。誰も彼女のペースに合わせれなかったから逃げている状況になった……っと聞いたことがある。本質は別の脚質だとか……?
「分かってますよ。でもこういう機会、次はいつ来るか分からないしやれるときにやりたいんです!」
私はマルゼンさんと走ったらどうなるのか? 何か学べることもあるのだろうか? という好奇心に動かされていた。
あの、シンボリルドルフやミスターシービーと並ぶ伝説のウマ娘を相手にするなら誰でも戦いたいと思う。それがウマ娘という存在だろうね。
「あぁ、分かった。時間や場所の調整は俺がやるから決まったら教えてくれよ」
「はい!」
「あぁそれと、ホープフルステークスの出走表が届いたぞ」
そう言われ出走表を手渡された。自分の名前を探してみると……
「大外……しかも8枠18番ってガチの端っこじゃないですか」
「正直なところ普通なら不利な条件ではあるな」
私としては内枠よりはましだけどね。どうもバ群に飲まれると落ち着かなくて冷静な判断が出来なくなってしまうんだよね。
「しかも今回はG1となると周りのウマ娘も実力者だ。外の娘達もスタートしてすぐに内を取りに来るだろうな」
「トレーナー、私がバ群の中に入るの嫌いなの知ってますよね?」
「あぁ、だからこそ大外枠なのは好都合だってことだ」
はは〜ん? もしかしてこの人、私に大外走ってこいってことを言いたいんだな?
確かに私ならスタミナに自信あるし、多少距離が伸びようとも関係はないがそれはそれで不利になるのでは? って思う。
「常に外を走るなら距離もスタミナの消費からみても明らかに不利になる。だが、お前なら……あとは分かるだろ?」
「……G1という大舞台でもいつもどおりやれ、ってことですね」
いつもどおり、私の持てるスタミナを使って誰よりも速くスパートをかけ、外からぶち抜く。
「ただ、それは既に他のウマ娘に手の内がバレてるのでは?」
「だろうな。いつもやってきたことだし」
それならば対策されてる可能性もある。……待てよ、わざわざ外側まできて私をブロックしようとするか? 私をブロックするためにわざわざ外を走る利点はないのでは?
「なんとなく分かったような顔しているな。まぁ、大体予想通りだろうが、外……誰にもマークされないような位置を走れ」
「だろうと思いましたよ」
少しだけ呆れた感じになってしまったが、今の私が取れる最善の策だ。
トレーナーが言うには、スタートしてすぐは内に入りすぎないように様子を伺う。前半は、中団より少し後方で待機しながらマークされないように外を走る。中間地点を過ぎてからは少しずつペースをあげ、最後は大外から差し切る……という作戦らしい。
「こんなこと本人の前で言うのもなんだが、はっきり言ってお前はズブい。特に先頭から離されそうと判断したら早めに仕掛けろ。いいな?」
うわっ、さらっと傷つくこと言われた……何となく感じていてたものの、ズバッと言われると流石に傷つくなぁ〜?
でも、それを見越しての作戦何だろし、本番に向けてトレーニングしなきゃ。
残り一週間、できる限りのことはやる。勝つために。
最近時間の流れが早く感じます。
本当ならもっと早く完成するつもりだったのにもう5月後半だなんて……