淀の坂を乗り越えて   作:krm.nc55

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新たなライバルと共に

 ────ホープフルステークス当日

 

 今日は平日ということもあり会場の人数はいつもの日曜日のレースのときよりも少なかった。それでももう年明け前ということもあってなのか、そこそこの人数は来ていた。

 既に何度かレース経験はしているけれど、G1という大舞台になると流石の私でも緊張している。

 

「ふぅ〜……はぁ〜……」

 

 少しでも緊張を和らげるために深呼吸をする。まぁ、何も変わった気がしないけど……

 

「珍しく緊張してるな」

 

「そりゃあG1ですもの、寧ろ緊張するなって方が難しくないですか」

 

「それもそうか。それじゃ、最後の確認しとくか」

 

 ホープフルステークスは、中山競バ場2000mの内回りだ。スタートして第1コーナーまでは約400m、そしてゴール前に高低差2.4mの坂がある。これはスタートとゴール前に2回登ることになるのでそれなりのスタミナを要求される。

 そこで私は、第2コーナーを抜けるまでは中団後方あたりで様子見、その後の展開しだいで早めに勝負を始める。特に最後の坂を登りきるだけのスタミナは残さなければならないので、いくらスタミナが他のウマ娘よりも抜けてるとはいえ甘えてはならない。冷静に前だけを狙って走る。そして、ここに戻ってくることが大事だ。

 

「まだ、時間はあるが何かやっておきたい事とかないか?」

 

「そうですね、強いて言うならライスさんを吸いたいですね」

 

「……え? ……それなら連れてこようか……?」

 

「いえ、やめときます。それをしてしまったら何か倫理的にもアウトな気もするし、今後吸わないと生きていけない身体になりそうなので……」

 

「そ、そうか……」

 

 流石にトレーナーにも引かれた。たまに自分の中の衝動が抑えられねぇんだ……

 

「ところでトレーナー」

 

「ん? どうした」

 

「そろそろ着替えたいんで一回出ていってもらえますかね?」

 

「あ、あぁ、分かった」

 

 無理やり追い出しても面白そうだったけど、可哀想だったのでやらなかった。それよりもこの人、そろそろ着替えの時間だったのに中々出ようとしなかったような……? 

 そんなことはとりあえず置いておいて、近くのハンガーに掛けてあった『勝負服』に着替える。

 

 あまりこういう服は着ないので少し手こずった。今後もお世話になる服だから大切にしなければ、って思うと雑に扱えないよね。

 しっかりと蹄鉄の確認、そしてエプロンの位置などを確認しておいた。少しでもずれるとみっともないから入念に確かめた。

 

「もうすぐ……ですね」

 

「あぁ」

 

「私、勝てますかね」

 

「今までやってきたことを信じろ。そして、周りの雰囲気に飲まれるなよ」

 

「……はいっ!」

 

「よし、もうすぐパドックに行く時間だな。俺は先に戻る、少し一人で集中したいだろ?」

 

 そう言い残し、トレーナーは控室から去っていった。

 そして、私は最後の確認をしてパドックへと向った。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『さぁ、やってまいりましたホープフルステークス! それでは、パドックの様子を見ていきましょう』

 

 時間となり、今日一緒に走るウマ娘達がパドックへと出ていく。

 

『さて、最初に出てきたのは1枠1番、2番人気のアーセナルリバティです。かなりリラックスしていますね。落ち着いた走りで彼女の鋭い末脚に期待です』

 

 アーセナルリバティ……確か私の記事が載ってた月刊トゥインクルに一緒に取り上げられてた娘だったかな。差し、追込が得意な娘で、この世代で最強の末脚を持ってるとかなんとか……

 

『そして、3番人気のキングオブハート。調子は悪くなさそうですね。安定した走りで強さを見せつけられるか!』

 

 そこ、普通ならクイーンオブハートだよねって思うよね。これだと「ハートの王」だもん。女王じゃないんかい! って思ったけどあの娘、右耳に耳飾りしてるから元は牡馬なんだよね。

 

『さぁ、最後に出てきたのは1番人気、アリスシャッハです。少し緊張してるようです。ここまで無敗のウマ娘はこの中山競バ場でも咲き誇るのか!?』

 

 期待されるのは嬉しいけどそれはそれでプレッシャーになる。私のことを推してくれるファンの期待に答えたい気持ちや周りのウマ娘からの「あの娘には負けないっ!」って感じの視線とか色々ある。

 とにかく落ち着こう。冷静になれ。

 

 だいぶ気持ちを落ち着かせたところで周りを見渡す。もちろん一緒にレースに出走するライバル達の様子を見るためだ。……というのは建前で知り合いが居ないかと探してしまっていた。

 スピカの面々はすぐ見つけられた。そして……クラインの姿も見つけることができた。やっぱり来てくれていたんだ。

 私はクラインの方向を向きながら微笑みながらピースをした。これは勝利のV、必ず勝って戻ってくるという意思表示だ。

 

 

 

 暫くして出走が近づいてきたので地下バ道を通ってターフへと向かう。すると、とあるウマ娘に声をかけられた。

 

「君が……アリスシャッハだね? あたしはアーセナルリバティ。今日はよろしくね!」

 

「えぇ、お互いいい走りをしましょう。えっと……」

 

「リバティでいいよ。年の差無いし、気軽に話してほしいな♪」

 

「分かった。よろしくね、リバティ」

 

 互いにいい勝負をしようと言う意味を込めて握手をした。

 

「あら? 二人だけいい雰囲気になるのは許せませんわね! わたくしも混ぜてくださいまし!」

 

 何処から湧いたかキングオブハートが現れた。なんか君、少しキャラ被りしてないか? いや、同じ"キング"だからなのかもしれないけど……

 

「もちろん貴女の事も忘れてないですよ。キングゥ」

 

「ちょっとあなた!? わたくしはキングですわよ! キングゥだと別のものになりますわよ!?」

 

「だってキングだと先輩のキングヘイローさんと被るし……じゃあキンハは?」

 

「それもアウトですわ! 色んな意味で!!」

 

 あぁ、この娘ツッコミ側か。ますます被ってるじゃないか。

 

「それならハートの方が分かりやすいと思うなぁ」

 

「「それだ!」」

 

 結局1番分かりやすいハートになった。でもまぁキングでお嬢様気質だと……ポンコツ要素は無さそうだし、キングさんとは違う路線の娘なんだろうなぁ。

 

「今回は3番人気でしたけどあなた達二人に負けるつもりはありませんわよ!」

 

「あったりまえじゃん! あたしの末脚、舐めないでね!」

 

「もちろんさ。二人だけじゃない、他のライバルにも負けるつもりはないよ」

 

「それじゃあ」「「行きますか!」」

 

 

 

『続いて出てきたのは……なんと今回の上位人気の三人だぁ!』

 

 うわおおおおおおおおお!! 

 

 スタンドの盛り上がりがよく分かる。普通のG1の時より観客数こそは少ないけどかなり盛り上がってる。

 

 

 

「なぁ、今日のレースどう思う?」

 

「あぁ、1番人気のアリスシャッハは今回も無尽蔵と言われるスタミナを全力で使った勝負に出るだろう。多分だが、第2コーナーを抜けた向う正面の何処かで仕掛けるだろう。

 アーセナルリバティは、アリスシャッハより後方に構えてマークするだろうね。できるだけ離されないようにして最後の310mの直線で一気に追い抜くつもりだろう。ただ、アリスシャッハの最速のスパートタイミングから付いていこうとなるとスタミナ面ではしんどいはずだ。

 それにキングオブハートは今回の面子相手に場を支配するのは厳しい。いつもみたいに自分の支配したレース展開にならないはずだからどう対応してくるか……」

 

「どうした急に」

 

「なぁ、お前的にはどう思う? このレース」

 

「あくまで俺の予想だが……今のアリスシャッハに勝てる娘はいないと思ってる。アリスシャッハに勝てるとしたらアーセナルリバティかキングオブハートだろうな」

 

「奇遇だな。俺もそう思う」

 

 

 

 ゲートインする前の最後の時間。私は集中するために深呼吸をしたり、軽く身体を動かしていた。

 正直なところここの時間はプレッシャーも大きく、精神的に追い込まれる気持ちになる。しかし、ここでのメンタルの強さがレースで勝つためにも必要なことだろう。

 

 着々とウマ娘達がゲートに入っていく。私も心の準備が出来た。ゲートの中は相変わらず狭い。私自身は身体は大きく無いので他の娘より広めになるけどそれでも窮屈に感じてしまう。ましてやリバティはめちゃくちゃデカいので余計に狭そうだ。

 周りの様子を見ていたら最後の娘のゲートインが完了した。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。出走の準備が整いました』

 

 ……行くぞ。

 

 ガチャコン! 

 ゲートの開く音とともに一斉に駆け出してゆく。

 

『ゲートが開いた! 各ウマ娘、よいスタートを切りました!』




6月です。前回から一ヶ月が経ちそうです。
本当ならもう少しペースを上げたいんですけどいかんせん時間が……
ゆっくりですが、これからもよろしくお願いします。
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