『各ウマ娘、よいスタートを切りました!』
ゲートの開く音と同時に駆け出してゆく。殆どのウマ娘はそのまま内に入っていく。私は当初の作戦通りに集団の一歩外側に位置取り、展開を見る。
『先頭争いは3番人気のキングオブハート、そして2番ファントムが競り合っています!
そして今回の1番人気アリスシャッハは中団の位置、しかも大外に構えています!』
スタート直後の展開は予想通りだ。ただし、私をマークしていたのか先行策の娘達も少し後ろ気味が多いようだ。残念だったな! 私は誰にも邪魔されないように外から行かせてもらうぜ!
大歓声の中正面スタンド前を走り抜け、第1,第2コーナーを抜ける。
『先頭は変わらずキングオブハート、続いてファントムが続いています。バ群は縦長の展開になっています』
リバティは最後尾から静かに獲物を狙っているようだ。まるで狩りをするように……
少し予定よりも早いけどエンジンを掛け始める。別に掛かっている訳ではない。ここの場に居るウマ娘達は『全体の半分を切ってからスパートを掛け始めるはずだ』と思っているに違いない。自分が思っているよりも先頭との差があり、このままだと追いつけない可能性を感じ、さらにこの場をかき乱す目的もある。
さぁ、ここからが正念場だ。持てるスタミナ全部使ってぶち抜いてやる!
『おっと、アリスシャッハここで動き始めたか!? 自慢のスタミナを活かしたロングスパートか?』
『彼女にしては早めに仕掛け始めましたね。2度目の坂も控えていますが、これはスタミナが持つか心配ですね』
◆
(……ッ! アリスがもう動いた……? あたしが予想してたより早い!)
僅かにペースを上げ始めたアリスの背中をみる。確かにアリスはどう動いて来るか分からない。しかし、予想よりも早いタイミングで仕掛け始めたのだ。そして、あたしが思っているよりもハイペースなレース展開でスタミナを削られているのだ。
最後の坂を登りきる為にスタミナはできるだけ温存したかったけど……このプレッシャーは中々のものねっ……!
◆
後ろからの圧が僅かに変わったことに気づいた。多分これはアリスかリバティのものだろうとわたくしは理解した。レース前からあの二人の威圧感? 気迫は他の娘と違って迫力を感じていた。明らかに他とは違う圧力が後ろから迫ってきている。焦るな、わたくしの走りを崩しては駄目よ!
(このタイミング……この威圧感は一人しかいませんわね……いいですわよ! このわたくしが相手になってあげますわ!!)
◆
「あいつ、予定より早めに仕掛け始めたな……」
「あれ、トレーナーさんの指示じゃないの……?」
「まあな。いつも通りやれとしか言ってないしな」
確かにバ群が伸びている以上、早めに仕掛けてできるだけ前との距離を縮めておきたいのだろう。
しかし、これだけの高速バ場になっているのでスタミナの消費もいつもより多いはずだ……大丈夫か、アリス……!
◆
『さあ、第4コーナーを抜けて最初に上がってきたのはキングオブハートです! 注目のアリスシャッハは既に3番手まで上がってきています! さらにさらにその後ろには、アーセナルリバティもきています!』
私が仕掛けたタイミングが早かったせいでペースを乱された一部のウマ娘は沈み始めている。だけど一筋縄ではいかなさそうだ。
ハートは多分、今まで走ってきた中でもっともハイペースな勢いで逃げてるはずだ。つまり、スタミナももう余分には残ってないはず……!
しかし、後ろから来ているリバティはどうだろうか? 私から離されまいとついてきている筈なので近い位置にいるはずだろう。スタミナは消費しているとは言っても位置関係が近いとなるとあの子の末脚ほど怖いものはない。
でも……そんなこと関係ねぇ!! ありったけの力をぶつけて勝つまでだっ!!!
『おっと!? アリスシャッハ、ここでさらに加速した!』
(……っ! まだ加速できる余裕あるなんて……! でも……)
「あたしも……まだ負けていないっ!! はぁっ!!!」
「ははっ……いいねぇ! でも、勝つのは私だ!!」
「まだ……まだ、終わっていませんわぁ!!」
全ての力を使い果たす勢いで最後の坂を駆け上がり、最後の直線へ。
もうスタミナなんて残っていない。もはや気力だけで走っている状態に近しい。肺が、心臓がはち切れそうだ。でも、その先に勝利があるならば……!
『並んだ、並んだ! 最後はこの3人が並んだ! さあ、誰が最初にゴール板を駆け抜けるのか!?
……そして、並んだままゴールイン!』
ほぼ横一線、ヒトの目で見るなら同着と判断されてもおかしくない状態でゴール板を駆け抜けた。
私達はそのままターフの上に転がった。
「はぁ……はぁ……」
「えへへ……もう、立てない……や……」
「ぜぇ……ぜぇ……お二人共どんなスタミナしてるのですか……死ぬかと思いましたわ」
「あたしだって……アリスに離されるか! って思ってついてきたらこのざまだよ……」
「流石のスタミナ自慢の私でもきつかったよ……? ハートが想像より速いペースで逃げるし……」
「アリスさんとリバティさん相手に消耗戦を挑んだのが間違いでしたわ……なんか上がってきますわ……」
「ちょっと待って!? ここで吐くのは……」
「だい……じょうぶですわ。まだ我慢でき……ます……わ……」
割とぎりぎりのラインで耐えてるようだ。結果は写真判定になった。結果が出るまでもう少し時間がかかるようなので、リバティと一緒に死にかけているハートを保健室に連れて行った。
そして、暫くして写真判定の結果が決まった。
『写真判定の結果、優勝は18番アリスシャッハ、二着アーセナルリバティ、三着キングオブハートとなりました!』
湧き上がる歓声がここまで聞こえる。
「ありゃりゃ、僅かに捉えきれなかったみたいだね。おめでとう、アリス」
「今回は負けてしまいましたが……次はわたくしが勝ちますわよ!」
「うん……ありがとう、二人共……でも次も私が勝ってみせるから覚悟しておいてよね!」
「うん! 次こそは捉えてみせるよ!」「わたくしだって!!」
そして、私達はそのまま雑談をしながら疲れきった身体を休め、ライブに向けての準備をするのであった。
◆
全てのレースが終わりライブの時間が迫ってきた。あの後暫くそのまま三人で過ごし、その間に連絡先の交換などをしていた。
そして今はライブに向けての準備をしていた。今回のライブは『ENDLESS DREAM!!』だ。確かアプリの方のジュニア期のG1レースのウイニングライブはこの曲だったような……もう昔の頃なんて殆ど忘れてきているから記憶はあやふやだ。
まあ昔のことは置いといて、ライブ用の衣装に着替える。既に何度か着ているけどこう……お腹周り、おへそがちらっと出ているのが未だに慣れない。確かネイチャとかが「これどこ需要あるの?」的なセリフを言ってたのを思い出す。男の視線から見るとこのチラリズムとおへそが見えているのが良かった。
でもウマ娘として、女の子として新たに生きてきたからなのか、おへそが見える衣装を着るのが少し恥ずかしく感じるようになっていた。これでも慣れてきているけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。……もう慣れるしかないのだろう……
コンコンコン
「アリス〜もうすぐ時間だよ〜」
「んっ、分かった。今いくよ」
控室を出ると準備万端のリバティとハートが待っていた。
「今日のセンターが遅刻なんて許されませんわよ?」
「ごめんごめん。さぁ、行こうか」
⏰
ステージの裏側に来ると伝わってくるこの熱気。自分が推している娘がセンターで踊ったり、惜しくも勝てなかった推しに次こそは勝ってくれと思いを伝えたりと色々な思いが伝わる。
もう出番は目と鼻の先だ。既にファンのヒトにも新しくファンになってくれたヒトにも精一杯のファンサをしようじゃないか!
「よし、行こうか。二人共」
「もちろん」「えぇ!」
ステージに立つと観客席が一気に盛り上がった。さぁ、全力で盛り上げようじゃないか!
『夢のゲートひらいて〜輝き目指して〜
行こう! みんなで Go to the top!! 』
⏰
「二人共、ライブお疲れ様!」
無事にライブも終わり、それぞれの控室に向かって歩いている。
「アリスさんもお疲れ様ですわ。今日の主役として素晴らしいパフォーマンスでしたわね! でも、次はわたくしがセンターをいただきますわよ?」
「あたしだって負けないよ!
ところで二人は次のレース決めてるの?」
うーん……今の所の予定だと次はクラシック三冠の皐月賞が目標だ。その間に別のレースに出るかどうかはまだ決めていない。
「まだ、確定ではありませんが皐月賞を目指していますわ!」
「へぇ〜……奇遇だね、あたしもだよ」
「なら次は皐月賞が私達の次の戦いの場ってわけだね」
次の対決のレースが決まり二人の瞳に炎が宿ってるような気がした。『次こそは負けない!』っていう強い意志を感じ取ることができる。
多分だが、皐月賞にはこの二人に加えてクラインも出走するだろう。このホープフルステークスも激戦となったけど、皐月賞もそう容易く勝つことはできない。もっとトレーニングして強くならないと……そう感じたのだった。
◆
一日の日程が終わり、チームの皆で学園に帰った。その最中にトレーナーが「初めてのG1勝利記念」って言う名目で何かやりたいことはないかと尋ねられた。そして私は……
「ならチーム全員で食べ放題でも行きたいです!」
って言ったら、「おう、分かった!」と言ったものの顔が真っ青になっていた。そりゃあ、スペさんにライスさん。マックイーンも居るなら費用は馬鹿にならないだろう。
すまないトレーナー、反省はしている。だけど、折角ならば私は皆と楽しみたいんだ。
この仲間達と出会えて、そして一緒に頑張ることができて私は幸せだ。これからもずっとずっとこの仲間達と一緒に走り続けて行きたい……どこまでもずっと。