淀の坂を乗り越えて   作:krm.nc55

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伝説、ここに集う

「ふふっ、こうして君と走るのは何時ぶりだろうか、マルゼンスキー」

 

「さぁ?でもルドルフちゃん達と走るのも久々よね!」

 

えっと……マルゼンさん???どうしてここに会長がいるんですか???

えっ……?

 

「まぁまぁ、いいんじゃない?こうしてアタシ達と走るの機会なんてそうそうないだろうし。ほら、肩の力抜いて」

 

「シービーさん……」

 

そう、確か私はマルゼンさんと併走する予定……だったはずだ。なのに何故、会長にシービーさんもいるのか。

 

私にもわからん。

 

しかも、どこから嗅ぎつけてきたのかギャラリーもそこそこの人数集まっている。いつの間にか併走が模擬レースに変わってしまったのだ。

確かにシンボリルドルフやマルゼンスキー、さらにはミスターシービーまでも……伝説級のウマ娘に挟まれてただのウマ娘が敵うわけないじゃないですか。

 

ただ、やれる分はやってやる。可能な限り、彼女達の走りを吸収して、これからのレースに生かせるようにしなければ。

 

「やぁ、アリス君。こうして君と何かやるのは久しぶりだな。緊張するな……っていうのは難しいだろう。せっかくの機会だ。存分に楽しもう!」

 

「は、ひゃい!」

 

「もう!ルドルフちゃん、あたしのかわいい後輩ちゃんを虐めないでよ!」

 

「マルゼンしゃん……だ、大丈夫……です!めちゃくちゃ緊張してますけど、きっと大丈夫でしゅ!」

 

「うん、少し落ち着こう……ね?」

 

シービーさんが笑うのを我慢しているようだ。こんな凄いヒト達に囲まれて冷静にいられるか!!

 

どうして、こうなったんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡ること数週間前……

 

「はぁ……はぁ……!タイム、どうでしたか?」

 

「ああ、いい感じだ!前よりもスパートの加速も良くなってきいるぞ」

 

 

私はいつもどおり、チームメンバー達とトレーニングをしていた。今年からクラシック級になり、さらに気合が入っていた。

 

「最近調子よさそうね」

 

「だな、俺達も負けてられねぇ!」

 

「奇遇ね。偶には意見があうじゃない!さぁ、行くわよ!」

 

私に感化されたのかスカーレットとウオッカの方もいい感じになっている。普段はよく喧嘩してるように見えるけどとても仲がいい。俗に言う『喧嘩するほど仲がいい』ってやつかな。

 

「あら、すっごく調子よさそうじゃない!」

 

「マルゼンさん!?どうしてここに?」

 

「あら……もしかして()()約束忘れちゃったの……?」

 

約束……?あ!そういえば去年、時間がある時に併走しようって言ってたものか!

 

「いや、忘れたなんてとんでもないですよ!あはは……」

 

本当は忘れかけていたのは内緒だぞ☆

 

「良かったわ、期間結構空いちゃったから忘れられてたらどうしようかなって思ってたのよねぇ〜」

 

「何言ってるのですか!マルゼンさんとの約束を忘れるだなんてそんなことありませんよ!」

 

嘘である。本当はこの娘、約束のことを忘れかけていたのだ。

 

「アリスちゃんも今年からクラシック級でしょ?だから忙しくなる前に併走の約束を果たそうかなって思ったけど……大丈夫かしら?」

 

「えぇ!いつでもウェルカムですよ!」

 

「分かったわ!日時決ったらまた連絡するわね」

 

マルゼンさんと併走かぁ……相手はスーパーカーと呼ばれるような存在だ。はっきり言って勝てるビジョンすら見えない。

でもレースに関して何かしらの収穫がありそうなのでもちろん手を抜くつもりは無いし勝つつもりで挑むさ。

 

 

 

あれから数日後、LANEでマルゼンさんから連絡があった。

 

『アリスちゃん!併走なんだけど来週でいいかな?』

 

『はい、大丈夫です!トレーナーにも報告しておきますね』

 

思ってたよりも早い連絡だった。皐月賞に向けて色々と学ばせてもらおう。

 

『当日はよろしくお願いします!』

 

『えぇ、楽しみにしてるわね!』

 

この時は、まさかあのような事になるなんて想定もしてなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルゼンさん……これはどういう状況ですか……?詳しく説明してください……」

 

周りはトゥインクルシリーズにおいて伝説を残してきたレジェンド達ばかりだ。

 

「実は今回のことたまたまルドルフちゃんに話したのよ。そしたら『ほう、面白そうじゃないか。私も一緒にいいかね?』って言われてね〜。

シービーちゃんもそこに居合わせたから付いてきちゃった☆」

 

なんだよそれ……しかし、これはまた一つのチャンスだろう。

マルゼンさんは逃げ、ルドルフさんは先行or差し、シービーさんは追込でそれぞれ脚質が違う。

これからはレース馴れしていないジュニア級の頃と違い周りの練度も上がってくるだろう。これから相手にするだろう強力なライバル達と戦って行くために勉強させてもらおう。

 

「さて、今回のレースだが事前に伝えた通り2400m左回りで問題ないかね?」

 

「あ、はい!大丈夫です!」

 

正直このメンツでダービーと同じ距離である2400mは厳しい戦いになる。だからといって手を抜くつもりはない。私の全力をぶつけるまでだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、聞いた?今日、会長達が模擬レースするんだって!」

 

「ほんとに!?会長が走る姿、生で見れる機会ないから行こう!」

 

「うん!」

 

始まる前に軽くストレッチをしているといつの間にか観客ができていた。分からなくもない。あまり表舞台で走ることの少ないレジェンド級の3人も居るんだ。私かそっち側だったら絶対見に行くもん。

 

「うむ……いつの間にか観客も増えているようだな」

 

「そりゃあ、ルドルフさん達が居れば皆見たくて来ますよ……」

 

「なるほどな。でも、私達が目的ではない娘も居るようだぞ?」

 

「あぁ……あれは私の同期の娘達ですね。敵情視察でしょうね」

 

自分で言うのもなんだけど確かに私は同期の中でも注目されている。情報収集にはこれ程適した場面は中々ないだろう。だからといって私は手の内を隠すつもりはない。全力で挑むのみだ。

 

「さて、準備はいいかしら?スタートはアリスちゃんのトレーナーくんにお願いしたわ。ゴール板はヒシアマちゃんが担当してくれてるわ」

 

「ありがとう、マルゼンスキー。二人も問題ないかね?」

 

「もちろん」

 

「大丈夫です!」

 

模擬レースとはいえきちんとゲートまで用意してあり、それぞれ事前に決めておいたバ番に入る。

 

1番:マルゼンスキー

2番:アリスシャッハ

3番:シンボリルドルフ

4番:ミスターシービー

 

よし……行くぞ

 

ガコンとゲートが開く。

 

(やはりマルゼンさんが飛び出るか!)

 

スタートして間もなく、一気に逃げるマルゼンスキー。すぐ隣にシンボリルドルフ、後ろからミスターシービーが睨んでるようだ。

 

(まずは、マルゼンさんに離され過ぎないようについていかなきゃ……!)

 

「いいわね!アリスちゃん!どこまで着いてこられるか見せてちょうだい!」

 

さらに加速するマルゼンさん。うっそだろ……まだ始まったばかりなのにそこまで飛ばせるのか……!

 

「私から逃げられると思うなよ!」

 

ルドルフさんも負けじとついていく。私も離されないようにルドルフさんの背中を追いかける。

かなりハイペースのレースなのでスタミナも削られてくる。

そしてあっという間に1200mを過ぎてしまう。

 

(ペースが早すぎて観察する余裕もない……!ついていくので精一杯だ!)

 

前では激しい削り合いが起きている中、後ろから唯一人チャンスを伺っているシービーさん。いつどのタイミングで仕掛けてくるか分からない。

そして、レースも終盤に入る。

 

「ふふっ♪久しぶりに楽しくなってきちゃった……さぁ、行くわよ!」

 

「逃がすものかマルゼンスキー!」

 

その瞬間、周りの空気が変わる。二人からはさっきまでとは違う気迫を感じた。これは……!

 

(この空気……!まさか領域(ゾーン)!?)

 

ピリピリと伝わるこの空気はあの時と同じだった。あの時と違い観客席で感じる物と全く別物だ。

 

(やばい……この空気に飲まれ……ッ!)

 

その瞬間だった。

 

「アタシのこと……忘れられちゃあ困るな!」

 

後ろから物凄いプレッシャーをかけられる。一気に追い込んでくるその末脚はただただ恐怖でしかない。

最後の直線、シービーさんにも抜かれ差が着実に広がり始める。

 

(追い……つけない……!でも……)

 

「まだだ……まだ、終わってないッ!!」

 

「「「!?」」」

 

……

………

…………

 

最後の抵抗も虚しく、開ききったその差は埋まることはなかった。『強すぎる』これ以外の言葉で表現しようがなかった。

 

「はぁ……はぁ……やっぱり、駄目かぁ」

 

ターフの上に大の字に寝転がりながら呟く。圧倒的実力差を見せつけられて私なんてまだまだだと実感した。

 

「ルドルフちゃん……最後……」

 

「あぁ、分かってる。まさか領域(ゾーン)に入ってた私達が()()()()()とはな」

 

「あれはアタシ達の領域(ゾーン)自体を弱められた……って感じだった気もするな」

 

「ふむ、なるほど……」

 

少し離れた場所で何やら3人で話してるようだがはっきりと聞き取ることが出来なかった。ルドルフさんが何やら面白いものを見つけたと言わんばかりに微笑んでる。

ターフの上に倒れ込み、ぼーっと空を見ていると一つの近づく足音がした。

 

「お疲れ様、アリスちゃん」

 

ドリンク片手に私の視界に入ってきたライスさん。

 

「ありがとうございます、ライスさん。流石にあの3人相手は厳しかったですね……あはは」

 

「アリスちゃんはよく頑張ったと思うよ……!最後の直線のアリスちゃんは凄かったよ……」

 

ライスさんの声が少し震えてるような気がした。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

「えっ?う、うん!大丈夫……だよ……良かった……いつものアリスちゃんだ

 

「……?」

 

まるで何かにビビってるようにも見える。あれ……私、何かやらかしました……?

そうこうしてる内にルドルフさん達が近くに来ていた。

 

「お疲れ様、とてもいい走りだったよ」

 

「いえ、こちらこそ……私もまだまだ力不足だと感じました。また機会があればもう一度やりましょう」

 

「あぁ、いいだろう。そして君はまだクラシック級に入ったばかりだ。これからもっと強くなる。その時を楽しみにしておくよ」

 

「はい……!ありがとうございます、会長!」

 

そうして、マルゼンさんとの併走改め模擬レースは幕を閉じた。しかし、ライスさんの反応といい、ルドルフさん達の会話……色々気になるけど次に備えてまた頑張らなきゃ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……やはりあの娘は他の娘と何やら違う……ようだね?」

 

「はい……あの瞬間、僅かではありますがいつものあの娘とは違うものを感じました……何か不思議な感覚です……」

 

「やはり君もそう感じたかい?あの時の件といい、私にとってとても興味深い……」

 

「……無理やりは駄目ですよ……?」

 

「分かってるとも。前にやらかしてる以上、変なことすると周りから何やられるか分からないからね。大人しくするさ」

 

「貴女にしては珍しいですね」

 

「まぁ……色々あったのだよ。察してくれ」

 

「そうですか……それじゃあ私はここで」

 

「あぁ、付き合ってくれてありがとう。今度最高のコーヒーを淹れてあげようじゃないか」

 

「紅茶派の貴女が……?遠慮しておきます」

 

「そうかい……それよりもだ。今日はわざわざすまなかったね」

 

「私もあの娘のことは放っておけないので……では」

 

「…………私も同じさ」




気付いたら約3ヶ月経っていました……スマヌ……
また少しずつ続き書いていきましゅ……

割と忙しすぎてモチベが死んでたのもありますがのんびりやっていきます。
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