人魚よ歌え、彼方に届くまで。   作:泥人形

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かくして青年の秘密は一から詳らかに語られ始める。

 戦況というものは、刻一刻と変化し続けるものだ。

 それはこの戦いも例外ではなく、俺とブルーベルの敵対関係がなくなり、和解したのと同様に、他の戦場でも様々な変化が起こっていた。

 例えば桔梗さんもザクロさんも修羅開匣をしたことだったり。

 γさんやその他の人たちもボコられまくったが、援護に来てくれたヴァリアーを含めた総力戦になってきていることだったりと色々だ。

 そんな訳で、一旦姫の下に戻ろうとしていた俺は急いで戦場へと向かうことになった。

 ここで畳みかけるのが吉だ、と赤ん坊──リボーンとも意見が合ったからである。

 

「つーわけで、ほら行くぞ。ブルーベル」

「にゅぅ……仕方ないなぁ。はいっ」

「は?」

 

 バッ! と両腕を広げるブルーベル。何となく見覚えがある光景だった。

 

「いやだから、しないから……」

「えぇ~? なんで?」

「それは俺の台詞なんだよね、明らかにこのタイミングですることじゃないだろ……」

 

 空気読めてなさすぎにもほどがあった。

 何でお前を抱えて戦場まで走って行かなきゃならないんだよ。俺はドラクエ1の勇者じゃねぇんだぞ。

 さっさと立て! と言おうとしたら、想像を遥かに超えるスピードでブルーベルが飛び込んできた。

 反射的に受け止める。大分いい勢いでボフンッ! と音と衝撃がした。

 

「にゅふふ~、じゃあこれで!」

「お前ね……」

 

 ビックリするくらい邪魔で思わず閉口してしまった。

 マジでこのままぶん投げてやろうか──なんて思うと同時に、パチパチと拍手が鳴った。

 遊んではいたが俺だって警戒を怠っていなかった訳じゃない。だというのに、接近に気付かなかった……?

 ブルーベルを強く抱き直し、音源から飛び退きながら目を向ければそこにいたのは、随分と見慣れた人だった。

 同時に納得を得る。ああ、この人ならば、気付けなかったのも仕方がない。

 美しい白の髪。左目の下の、特徴的な三つ爪の模様。常に浮かべられている、軽薄な笑み。

 

「……白蘭」

「あははっ、そう睨まないでよ天チャン──警戒したって、意味なんてないんだからさぁ」

 

 認識すると同時に、酷く呼吸がしづらくなった。不可視の圧力をかけられているようで、ブルーベルまで苦い顔をする。

 実力差は圧倒的だった──もちろんそれは、真六弔花であるブルーベルを含めても、だ。

 今二人で戦っても、ものの数秒で殺される自信があった。冷や汗が背中を伝う。

 やたらと愉快そうに眼を細めた白蘭は、面白そうに俺達を見た。

 

「それにしても天チャンは本ッ当に、いつでもどこでも人たらしだなぁ。ブルーベルを引き込んじゃうし……それに知ってた? 桔梗もね、君を処分するのは待って欲しい、だなんて僕にわざわざ言ってきたんだよ?」

「桔梗さん……」

 

 不覚にもジーン、としてしまった。

 桔梗さんのことは個人的には大好きだっただけに、あちらも多少なりとも情を持ってくれていたという事実が、単純に嬉しくて……同時にかなり複雑だった。

 俺はあの人のそういった気持ちも裏切ったことになるのだから。

 こうなることを承知で、ああいった日々を過ごしていたのだから、後悔はないけれど。

 

「ま、当然ながら許さないんだけどね、そんなことは……天チャンなら分かるだろうけど、怒ってるんだよ、僕は」

「何言ってんだよ、全然怒ってない……どころか、この状況を一番楽しんでんのはお前だろ、白蘭」

「ん~? ふっふっふ、やっぱり分かっちゃう?」

 

 肩を震わせながら、白蘭は笑う。

 傍目から見ただけでも、随分と楽しげなのが伝わってくるようだった。

 本当に──本当にこの人は、そういう人だ。

 自分に抵抗して来る何かを、その手で叩きのめしてる時ほど白蘭は心の底から喜ぶ。

 要するに、擁護できないくらい性格がカスなのだ。割と救いようがない。

 

「でも、そこまで分かってるんなら、僕のことも白蘭じゃなくて、昔みたいにランって呼んで欲しいなぁ」

「お断りだ……」

「酷いなぁ、僕はまだ、こんなにも天チャンのことが大好きなのに」

「うぜぇな」

 

 そう吐き捨ててなお、白蘭の表情は変わらない。どちらかと言えば、横抱きにしてるブルーベルが不思議そうな顔で俺達を何度も見ていた。

 まあ、それも仕方のないことだろう。

 ブルーベルからすれば、俺と白蘭の関係はただの上司と部下であり、ここまで対等そうに話す間柄ではない。

 多少贔屓されていたが、しかしその程度で、真六弔花ほど接してすらいなかったのだから。

 とはいえ、それは俺にとってもその認識だ──この世界においては、という枕詞は必要になってくるが。

 

「あれ? 天チャン、もしかしてまだ、誰にも言ってなかったの?」

「言う必要性がないだろ……それで、何かが変わるわけでもあるまいし」

「そういうところ、変わらないね──そんなんだから、最後の最後に後悔することになるんだよ」

「言ってろ……ていうか、大体の場合後悔する時は、あんたのせいなんだよ……」

「あははっ、それはそうだ」

 

 ニコニコとしたまま、白蘭が歩み寄って来る。

 そこに殺意はなく、敵意もない──いいや、あるいは、白蘭にとってそんなものは必要ないのかもしれなかった。

 ただ、道端にある石ころを蹴り飛ばすみたいにして、人を殺せる人なのだ。

 そして俺は……俺達は、白蘭からすれば正しく石ころ程度の存在なのだ。

 合わせるように下がりながら、言葉を交わし続ける。

 

「でも、流石に不誠実だとは思わないのかい? 今だってブルーベルを口説き落としたって言うのにさ」

「にゅ?」

 

 私? という顔でブルーベルが俺を見た。

 マジで一旦黙らせたくなってきたな、ペラペラ喋り過ぎである。

 誰のせいで言う機会を逃していたと思ってるんだよ……。

 数歩下がりつつ、睨みつければ白蘭はやはり笑みを浮かべた。

 

「まあまあ、そう怒らないでよ。僕だって悪いとは思ってるんだ……折角だし、今言ったら? 待つよ」

「……は? あんた、マジで余計なお世話しかできないんだな」

「まぁね、でも、そこが長所でもあるって、かつて君は言ってくれただろう?」

「──昔の話だし、厳密に言えばあんたに言った訳じゃない」

「ふぅん……ま、そう思いたいならそう思っていればいいさ。僕はそう思わないけどね」

 

 と、そこまで話したところでグッと襟を掴まれた。

 目をやれば、いるのは不安げな顔のブルーベルだ。

 

「天雨……?」

「ん、問題ない──って言うのも、もう無理か……まあ、隠すことでもないから、良いんだけど」

 

 んんっ、と咳ばらいをする。

 いや、マジでこんなタイミングで言うつもりは無かったんだけどな……。

 もう少し腰を落ち着けられるところで、姫やγさんも交えて話したかったところなのだが──まあ、仕方ないだろう。

 如何にもヤバい隠し事しています、みたいな状態維持したくないし……。

 それにどうせ、姫は気付いている──あの人は、そういう人だ。

 予知云々に限らず、見抜いていることだろう。それこそ、目の前の白蘭がそうであったように。

 

「信用するか、しないかはお前に任せるけど……まあ一応、冗談抜きで、端的に言うぞ」

「うん、信じるよ」

 

 めっちゃ判断が早かった。ここまで信頼されてるんだという実感が微妙に重く、けれども心地いい。

 この場に、ニコニコと俺達を見ている白蘭がいなければ百点満点だったな。

 ブルーベルの澄んだ青色の瞳を見つめながら、ゆっくりと吐き出すようにして言葉を紡ぐ。

 

「俺は、この世界の人間じゃない……要するに、並行世界の人間なんだよ」

「え──」

 

 目を白黒とさせるブルーベルを見ながら、まあそうなるよな、と思った。

 まあ一口で呑み込めるような話では無いよな、分かる分かる。

 俺でもこんなこと言われたら薬でもやってるのかなぁって思うもん。

 しかし、信じると言った以上、信じてもらうしかなかった──実際、事実な訳だしな。

 別に大したことではないのだが、それはそれとして予想外なことだっただろう……なんて思っていれば、ブルーベルは震えた口調で言った。

 

「それって、G()H()O()S()T()()()()ってこと……?」

「え? 何それ?」

 

 マジで聞き覚えが無い名前が出てきて普通に聞き返してしまった。

 いや本当に誰? 全然知らない人なんだけど。

 ガチで困惑すれば、ブルーベルがバッ! と勢いよく白蘭を見た。

 軽薄な笑みが、深みを増す。

 

「そういうこと。正解だよ、ブルーベル……まあ、天チャンはGHOSTと違って、奇跡的な成功例なんだけどね」

「────」

 

 白蘭の回答に絶句するブルーベル。

 何か話のど真ん中にいたはずなのに、いつの間にか端っこまで弾かれており、絶妙に微妙な気分になっていた。

 マジでGHOSTってなに? こんな一瞬で置いてかれるとは思ってなかったんだけど……。

 思うと同時に、思案するような顔をしていたブルーベルがハッとしたように口を開いた。

 

「だから、ブルーベルの傍に……?」

「ま、そういう面もあったかな──でもやっぱり、一番の理由は手元に置いて、見ていたかったからさ。何せ成功した理由がさっぱり分からなかったんだから」

 

 そこさえ判明すれば、色々と容易になるだろう? と白蘭は言った。

 反面、ブルーベルが、相当険しい顔をする。

 因みに俺はと言えば、驚いたことに全く話についていけなくなったため、無言で白蘭を睨みつけていた。

 ま、まあ警戒するに越したことは無いわけだし……。

 それに、また白蘭が何かやらかそうとしているということだけは、話の流れから読み取れたから。

 じり、と半歩下がると同時にブルーベルが己の胸へと炎を打ちこみ、叫びを上げた。

 

「天雨! 逃げ──」

「ダメだよ」

 

 ブルーベルの声を遮るように白蘭が言って──一歩、踏み込んできた。

 そこから認識できたのは二発までで、反応できたのは一発までだった。

 初撃を躱すと同時にブルーベルを投げ飛ばし、直後の二撃目が腹へと入り込む。

 ふわりと宙へと舞ったブルーベルが、狙い澄ましたように数発放ち、しかしそれを物ともすることなく白蘭は俺を担いだ。

 気軽に打ちこまれた掌底が、気持ち悪いくらい全身の制御を失わせている。

 

「さて、と。時間もそろそろだし、行こうか、天チャン」

「どこ、に、だよ……」

「そりゃもちろん、君が気になってるだろうGHOSTのところさ」

 

 グッと白蘭が力を込めると同時に、雨の炎が舞った。

 ギュルリと束ねられた高出力の雨の炎が、幾重もの弾丸になって降り注ぐ。

 

「逃がさない──!」

「ハハッ、本当、ブルーベルは可愛いなぁ」

 

 パァン、と手拍子が一回鳴った。ただ、それだけでブルーベルの全力が跡形もなく消し飛ばされる。

 ──白拍手。

 掌の圧力だけで、あらゆる攻撃を粉砕する白蘭の十八番であり、最も理不尽な技。

 純粋な実力差がこれでもかと露にさせられる、究極の一手。

 それでも果敢に飛び込んできたブルーベルに、「あぁ、そうだ」と嫌に不快な笑みで白蘭が言った。

 

「折角だし、ブルーベルも連れて行ってあげようか。その方が、僕としても都合が良いしね」

「なっ、え──」

 

 一瞬だった。

 ほんの、瞬き一回にも劣る刹那の間に白蘭は、ブルーベルの額に指を押し当てた。

 音すら置き去りにして、軽く押し飛ばす。

 ただそれだけで、空気を震わせるほどの大空の炎が爆発したような音を伴い破裂し、ブルーベルはガクリと意識を失った。

 ゆるりと落下していくブルーベルを、白蘭は片腕で抱き留める。

 

「さて、と。それじゃあ天チャン、実験を始めにいこうか?」

 

 そんなことを、白蘭が言う。

 随分と懐かしい台詞だった──尤も、正確なことを言えば、この人から聞くのは初めてなのであるが。

 実際、同一人物と言っても差し支えが無いだけに、かなり複雑な気分だった。

 文句の一つや二つ吐き出したいところであるが、そんな余裕があまりない。

 奥歯を噛みしめたままねめつけるが、白蘭はまあ、当然ながら意に介することはなかった。

 

「そう怖がらなくても良いよ……天チャンにとっては、感動の再会でもあるから、むしろ嬉しいんじゃないのかな?」

「再会……?」

「そうそう、ま、見てのお楽しみってやつだね♪」

 

 かなり不穏なことを言いながら、白蘭は猛然と突き進めば自然と戦闘音が耳朶を打った。

 元より俺とブルーベルのいた地点は他からそう離れてはいない──むしろすぐそこと言っても良いくらいだったから、それも当然ではあるのだが。

 徐々に高度を上げながら、呟くように白蘭は言った。

 

「この辺で天チャンには一つヒントを上げよう。GHOSTには一つ、特殊な能力があるんだ──周りの生命から死ぬ気の炎を吸収し尽くす、というね」

「────は?」

「見当はついたかい? それじゃあ、行ってらっしゃい。並行世界の人間同士がぶつかり合ったらどーなるのでしょうか? 実験、スタートだ」

「いやちょっ、まっ──」

「だーめ」

 

 パッと手を離されると同時に、急激に落下は始まった。

 遅れて落とされてきたブルーベルを抱え込み、F(フレイム)シューズを起動させようとしたが、しかしうんともすんとも言わなかった。

 どうやらあの短い間に白蘭に細工されていたらしい。

 このままでは、普通に落下して死んでしまう───それだけは流石に避けたい。

 ただでさえ、落とされたということは真下に厄ネタがあるということである。正直な話、ある程度予測がついただけに意地でも見たくなかった。

 否、会いたくないと言った方が正しいのか。まぁ、どっちでも良いんだけど。

 こうなったらルカを出して無理矢理二人乗りするか──と、思ったところで()()は現れた。

 肩まで伸ばされた白い髪、右眼の下にある三つ爪の模様。

 ──ああ、やっぱり、そうなんだ。

 全身が発光してるし、やたらとバチバチ電気を放出しているが、やはりそれに、俺は見覚えがあった。

 ……否、見覚えがあるどころの話ではない。

 俺はそれを──その人を、良く知っていた。

 

「ランさん──」

 

 ポツリと呟く。同時にランさんは、鋭く自身を起点に爆発を起こした。

 視界が真っ白に、それに染め上げられる──。

 




白蘭:だから天チャンがお気に入り。

GHOST:ッシャオラァ! やっと出番や!
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