人魚よ歌え、彼方に届くまで。   作:泥人形

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されども少女は歌う。弔いの音が、彼方に届くまで。

 二つの大空が、空中で鋭く、幾度もぶつかり合う。

 その度に炎は反発し合い、火の粉が空を美しく彩る──しかし、それを戦いと呼ぶには幾ら何でも片方が勝り過ぎていた。

 ミルフィオーレファミリーボスにして、マーレリング保持者である白蘭が、まるで子供と遊ぶかのように、ボンゴレ十代目を翻弄している。

 しかしそれも、仕方のないことではあるのだろう。

 ボンゴレ十代目は強い。確かに、この時代においても彼は超一級の実力を誇っている。それは認めるべきことだ。

 真六弔花とまともに戦うことができるくらいに、過去のボンゴレ十代目の実力は洗練されていた──しかし、それでもまだ足りない。

 なにせ白蘭は、間違いなく最強なのだ──それは、数多の並行世界をすべて手中に収めてきたことからも良く分かることだろう。

 曲がりなりにもその白蘭に世界を滅ぼされ、なおかつ、この世界ではそれなりに傍で見続けていたのだ。

 実力の差が、はっきりと分かってしまう……今のボンゴレ十代目では、白蘭の足元にすら及ばない。

 というか、仮に全世界が白蘭と敵対したとしても、白蘭の方が有利であると言っても良いくらいなのだ。それくらい、白蘭という男には底知れない力があった。

 大空のマーレリングに選ばれただけのことはある、という訳だ。

 ──トゥリニセッテの、とりわけ大空のリングというのは所有者を選ぶ。

 かつて、大空のボンゴレリングがXANXUSさんを……正確には、ボンゴレI世(プリーモ)以外の血を拒んだように。

 大空のマーレリングは、白蘭を選んだ。

 現状における、最強の使い手が白蘭であると、他ならぬマーレリングがそう認めたということである──要するに、白蘭はかつて最強と謳われた、ボンゴレI世と同じ立場という訳だ。

 そう考えれば、想像を絶するほどの強さを誇るのも納得できるというものだろう。

 それに単純に考えて、白蘭とボンゴレ十代目では十年間の経験の差が存在するのである。

 生まれ持ったセンスと才能、積み上げられた短くも濃い修行によってここまで登り詰めてきたことは称賛に値するが、しかしどうしても足りないというのが事実だった。

 彼の渾身の一撃が、白蘭の指ひとつで防がれる。

 具体的な戦闘力の差は、その一言だけで充分に伝わるだろう──かといって、誰かが手出しをするのは不可能だった。

 単純にあの二人の実力が、この場にいる誰とも隔絶したものである上に、そもそも全員が死ぬ気の炎を搾り取られているのだ。

 ダメージどころか、気を逸らすことすらできないほどに、体力も精神力も持ってかれていた。

 尤も、この状況を作り出すまでが白蘭のシナリオだったのだろうが。唯一の計算外は俺が死んでいないということくらいだろう。

 最初にちょっとだけ驚いたように俺を見たのが、その良い証拠だ。

 ……まあ、だから何? という話でもあるのだが。

 万全だったとしても手が出せないようなレベルの戦いを前に、俺はただの観戦者と化していた。

 何かもうあとは祈ることくらいしか出来なくて、いっそ悲しくなってくるレベル。

 情けないやら、虚しいやらで、何とかボンゴレ十代目の無事と勝利を願っていたら──突如、それは来た。

 大空のボンゴレリングと、大空のマーレリング。

 世界を創造したとされるトゥリニセッテ。

 その内の二つから放出される大空の炎が混じり合い──鐘の音が、鳴り響いた。

 否、正確に言えばそれは鐘の音ではないのだが、しかしそう思わせられるほどの、言わば場違いな音が二人のリングからは鳴り響いていた。

 同時に、死ぬ気の炎の質が変わる。

 澄み渡った橙色の炎に白さが加わり、二人を中心にドーム状の結界が展開されていく──まるで、あの二人以外は誰も寄せ付けないと言わんばかりに。

 何だか嫌な予感しかしないな、と思った。

 何故かと言われればそりゃあ、あの白蘭が正しく狙い通り、みたいな顔で笑んでいるからである。

 ああいう顔している時は、大体の場合において碌なことにはならない。

 何とかして邪魔できないか、となけなしの炎を練り上げようとして──

 

「天雨!」

「──は? 姫!?」

 

 思わず喉から声が出た。

 いや、だって、は?

 姫が空を飛んでいた──いや違う! 別にふわふわとファンシーな感じでパタパタ飛んでいる訳ではない。

 白蘭とボンゴレ十代目が放出している、異質な炎と全く同じものに包まれて、まるで引き寄せられるように姫は空を浮いていた。

 トゥリニセッテの大空同士が、引き寄せ合っている──白蘭の狙いはこれか!

 

「ぐ、っ……」

 

 反射的に飛び上がろうとして、膝を折った。

 たったそれだけの行動すら取れないほど、もう身体の自由が利かない。

 苦肉の策で、雨ペンギン(ペンペン)を開匣したが、あっさりと結界に弾かれてしまった。

 ペンペンの攻撃力の低さや、込めることの出来た炎圧が弱かったというのもあるだろうが、それ以上にあの結界は滅茶苦茶な強度を誇っているらしい。

 俺以外の人たちの攻撃すら、アレは全く寄せ付けることなく、結界は合流した。

 白蘭とボンゴレ十代目の戦いの場に、姫が投げ出される。

 

「なん、なんだよ……! ブルーベル、動けるか……?」

「にゅっ……うん、大丈夫。少しくらいなら、動けるよ」

「悪いな、少しでも、近づきたくて」

 

 言って、震える足に力を込めた。

 少しの休息で、ある程度持ち直したらしいブルーベルに支えられながら、結界内の会話が聞こえるくらいまでには歩み寄る。

 そうすることだけでもう、息も絶え絶えだった。心配そうに見つめてくる姫に、笑顔を返すことすらできない。

 ──まあ、そんな俺よりもずっと、ボンゴレ十代目が窮地に陥っているのだが。

 彼は完全に白蘭に首を決められていた。

 一見すれば、もう勝負は着いたって感じだ──実際、白蘭もそう思ったのだろう。

 生かさず殺さずの状態を維持したまま、姫へと楽し気に声をかける。

 

「やあ、いらっしゃいユニちゃん。これでやっと、誰にも邪魔されない三人だけの舞台が出来たね──ま、綱吉クンにはもう用がないから、すぐに僕とユニちゃんだけになるんだけどさ」

「──! やめて!」

「あははっ、今更やめてだなんて、どの口が言ってるのかな? そもそもこんな戦いになったのだって、元はと言えばユニちゃんが逃げたせいだろう?

 僕に勝てないことくらい、分かっていたはずなのに……ただ闇雲に逃げ回った──そんなんだから、ユニちゃんは何もかもを失うんだよ」

 

 ちらと、白蘭が俺に視線を送る。

 まるで「天チャンもそう思うだろう?」なんて言ってきている気がして滅茶苦茶反吐が出た。

 中指立ててやろうと思ったが、ここまで来ただけでもう限界だったらしい。

 息をしながら、睨みつけるので精一杯なことに奥歯を噛みしめる──と、同時に姫のマントの内側が、嫌に輝いた。

 白蘭が驚いたように目を見開けば、隠しきれなくなったかのようにそれは落とされた。

 

「アルコバレーノの、おしゃぶり……?」

 

 姫がミルフィオーレを抜ける際に持ち出した五つのおしゃぶり。

 亡くなったアルコバレーノ達の遺品とも言えるそれから、奇妙にも何かが飛び出ていた。

 

「アルコバレーノの肉体の再構成──あぁ、そっか、そういうことだったんだね、ユニちゃん……。

 大空のアルコバレーノは、仮死状態のアルコバレーノを復活させられるとは聞いていたけれど、なるほどなー。

 こういう形で蘇るんだ……確かに、今ここで彼らに復活されたら、流石の僕もちょっと面倒くさそーだ」

「──っ」

 

 アルコバレーノの復活とは、即ちトゥリニセッテの秩序──ひいては、世界の秩序が回復するということに他ならない。

 それに何より、最強の赤ん坊である彼らは、文字通り圧倒的な戦力を誇る。

 全員が揃ったのならば、白蘭を倒せる可能性は十分にあった。けれど──

 

「でも、その様子じゃあ、復活するのにあと一時間はかかりそうだね」

「──っ!」

「あは、図星だ」

 

 笑いながら、白蘭はボンゴレ十代目の首をひねった。

 ゴキリ、という鈍い音がしてボンゴレ十代目はその場に倒れ伏す。あれほど燃え盛っていた死ぬ気の炎が、呆気なくしぼんで消えた。

 

「さて、と。ここでさっさとユニちゃんを手に入れちゃうのも良いけど、気付いてないみたいだから、ちょっとお話してあげようか」

「話……?」

「そう、お話──アルコバレーノを復活させるには、命の炎を灯す必要がある……仮に僕を倒せたとして、その後に僕みたいなのが現れないようにするためにも、それは絶対なはずだ」

「詳しい、のですね……」

「あははっ、そりゃそうさ! 僕がこれまでどれだけの並行世界を見てきたと思ってるんだい? 八兆だよ。八兆の世界を、僕は壊してきたんだ。知らない訳ないだろう?」

 

 倒れ伏したままのボンゴレ十代目を足蹴に、如何にも面白そうに白蘭が言う。

 姫はグッと拳を握り、白蘭と見つめ合っていた。

 その全身からは、不思議なくらい美しい大空の炎が発せられている。

 

「ユニちゃん、確かにその考えはとてもスマートだ。徹底的に僕を封じ、かつマーレリングを封じるにはそれしかないとも言えるだろう──でも、さ。良いのかい?

 僕を倒し、マーレリングを封じ、アルコバレーノを復活させ、世界の秩序を元に戻すということは、即ち僕がこれまでしてきた、全ての物事が無に帰るということなんだよ?」

「分かっています──だからこそ、やらなければならないのです。他でもない、私が」

「ん~? あははっ、何だ、ここまで言っても分からないのかい?」

 

 笑いながら、白蘭は何故か俺を指さした。

 姫がそれにつられ、俺を見る。

 え? いきなり何?

 こっちはただでさえ、姫が命をかけるだとか何だかと言う話で、頭がパンクしそうになっているというのに。

 何だよ、こっち見んな、という気持ちで睨めば、白蘭は嫌に笑みを深めた。

 

「知っての通り、天チャンはこの世界の天チャンじゃない──他でもない、この僕が並行世界から連れてきた、並行世界の天チャンだ。

 それってつまりさぁ──僕のやってきた、全ての……ふふっ、そうだなぁ、()()とでも言うべきものが無くなれば必然、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことなんだよ」

「────え」

「当然だろう? 天チャンは僕の気まぐれでそこにいるようなものなんだから……。それにね、消滅するって言うのは、ただ死ぬってことじゃあないんだよ。

 世界の秩序が取り戻されたその瞬間、そこの天チャンは存在ごと消滅し、()()()()()()()()()()()()ということなんだ。

 もちろん、それに例外はない──天チャンは、誰よりもユニちゃんに仕え、支えてくれたんじゃなかったっけ?」

「あ、あぁ、あぁぁぁ……!」

 

 姫がその場にくずおれる。

 全身から発せられていた麗しい炎は徐々に収縮していき、やがて消えた。

 しかしそれを俺は、何処か他人事のように聞いていた。

 

「ま、今の天チャンなら放っておいても死んじゃうだろうけどね……手厚く看病しても、もってあと数日ってところじゃないかな?

 なにせGHOSTにあれだけ間近で炎を吸われ尽くしたんだ。天チャンはか弱いからなー♪」

「そん、な、嘘、嫌……」

「嘘でも嫌でもないだろう? ユニちゃん、こうなった原因は君なんだから──でも、だ。僕も今のこの、奇跡的に存在する天チャンを見殺しにするのは忍びない。だから、取引をしようじゃないか」

 

 ──取引。

 まったく嫌な言葉である。特に、白蘭の言う取引が本当に公正なものであった試しがない。

 

「僕なら、今の状態の天チャンでも助けることができる。だからユニちゃん、君はその代わりに僕のものになるんだ」

「それ、は──」

「嫌なら嫌でも良いんだよ。予定通り自らを犠牲にして、それに天チャンまで道連れにして殺せば良いさ。ま、その場合は実力行使になっちゃうんだけどね。

 どちらにせよ綱吉クンはもうこのザマだし、そもそもアルコバレーノ相手だって負ける気もしないから、従っておいた方が賢明だと、僕は思うけどなー」

「──っ」

 

 瞳に涙を溜めて、姫が俺を見る。

 そこでようやく俺は、色々なことを飲み込み始めることができた。

 あんまり大きな話になってくると、理解がすぐ追いつかなくなるのは、俺の悪い癖だ──。

 だがまあ、ようするに今俺は、姫の足を盛大に引っ張っているのだろう。

 白蘭はアルコバレーノだって敵ではない、だなんて言っているがまるっきり本音という訳でもあるまい。

 そうでもなきゃ、ここでわざわざ姫の心を折りに行く必要はないのだから。

 ──本当なら、今すぐにでも自決なり、なんなりするべきなのだろう。

 それが己がボスの覚悟を揺るがせないものにする為ならば、無理をしててでも。

 まあ、普通に考えて俺がこれからも生き延びるのと、白蘭という男が働いた悪事を一切合切まるっと消してしまうのでは、天秤が釣り合わないのだから当然だ。

 しかしながら、まったく困ったことに俺の体はもう全然言うことを聞かなかった。

 ペンペンも匣に戻ってしまったし、刀を握る力も残っていない。

 ため息を一つ、長々と吐く。

 

「なぁ、ブルーベル……」

「やだ」

「まだ、何にも、言ってねぇだろ」

「やだやだやだ! だってもう、天雨が言おうとしてること、わかるもん。だからやだ、絶対にいや」

 

 こうやって話している間にも、時間が過ぎ去っている。

 一言一言話すたびに、身体が悲鳴を上げているし、このままでは気すら失ってしまいそうだった。

 だっていうのに、ブルーベルは首を横に振った。

 泣き虫だってのに、必死に涙をこらえながら。

 

「俺さ、眠るように死ぬのが、理想だったんだよな……」

「知らない」

「……頼むよ」

「やだ」

「ブルーベルは、俺のものって、話だろ?」

「だから、そういう言い方、ずっこい」

「大人ってのは、ズルいもの、なんだよ」

「……良いの? 本当に、本当に天雨は、それで──」

「良い」

 

 端的な答えに、ブルーベルはくしゃりと表情をゆがませた。

 そのまま何も言わずに、俺を姫のすぐそばに連れてくれる──もちろん、結界越しではあるのだけれども。

 

「姫──姫、聞こえますか?」

「あ、天雨……」

「先に、謝らせてください……。申し訳、ありません。貴女を、守れなかった。

 貴女が命を捧げることを、俺は止めることも出来なければ、代わりの案すら出せない……どころか、こうして貴女の覚悟すら、多分、鈍らせている。

 本当に、足枷のような真似ばかりで、何の役にも立てていない」

「──っ、やめて。そんなことを、言わないで……私は、私は、天雨がいたからこそ、今ここにいるのに」

 

 姫の瞳から雫が落ち始める。

 最近、女の子泣かせまくってる気がするな……。

 出来れば掬ってあげたかったけれど、それは叶わなかったから、声だけ届けることにした。

 

「姫の覚悟が大きなものだとは分かっています。本当なら、こんなことで揺らいではいけないくらい、大切なことなのも、分かります。

 だから、最期にその背中だけは押させてください。救えなくても、支えることくらいなら俺でも、出来ると思うから」

「天雨……?」

()()()()()()()()()()。勘違い、しないでくださいね……俺は、貴女のせいで死ぬのではなく、自分の判断で、白蘭に嫌がらせするために、今ここで死ぬんです」

「ま、待って天雨! 待って、お願いだから、天雨!」

「──姫、絶対に、白蘭のやつに一泡吹かせてくださいね」

 

 姫が一際大きな声を上げると同時に、倒れそうになって、後ろからブルーベルに抱きすくめられた。

 その身体は震えていて、苦笑が浮かぶ。

 

「悪いな、ブルーベル」

「本当だよ……でも、ブルーベルは天雨のものだから。そうなんでしょ?」

「……ああ、そうだな。まあ、なんか、ありがとな……実のところ、死ぬときは、お前の傍が良かったんだ」

「──うるさい」

「そう言うなよ……お前は、絶対に追ってくるなよ。命令だ」

「──ばか」

 

 言って、ブルーベルは雨の炎を放出した。

 緩やかに身体を包み込むそれは、静かに俺の生命活動を停止に近づけていく。

 自然と目を閉じれば、待ち受けていたのは目もくらむような光だった。

 声が、音が、遠ざかっていく。

 全身を蝕む痛みも、疲労も、何もかもが解け落ちていく。

 ──やっとか。

 そんなことを思えば、何だか肩の荷が下りたような気持ちになった。

 随分と勝手なことだ。やり残したことも、置いてきたことも沢山あるというのに……。

 でもまあ、許してほしい。

 結局この世界に骨を埋めることになったのは、ちょっとだけ不満だけど。

 これで何もかもが元通りになるのなら安いものだろう……姫の命が必須だってのも、不満だけど。

 意外と不満まみれで、我ながらどうかと思うけど──やっと、やっと死ねたのだから。終わったのだから。

 

 もう、武器を振るう必要はない。

 誰かを疑ったり、誰かを騙したりもしなくていい。

 壊れた世界を踏みしめなくてもいいし、世界の為に戦う必要もない。

 それは──ああ、それは、なんて素晴らしいことなのだろう。

 次に目が覚めた時、平和な世の中であるならば、もう一度学校に通いたいな。

 ブルーベルのリハビリも手伝ってやらないと……いいや、出来れば今度はちゃんと、ブルーベルに被害がないように助けてやらないと、だな。

 あいつが泳いでる姿、好きなんだ。

 それに、妹なわけだしな。

 でも、それはそれとして、やっぱりランさんに会いたいな。また、色々なことを教えてほしい。

 あー……でも、アリア様にも、姫にも、γさんにも、会いたいかもしれない。

 ──いいや、そんなことを言えば、こっちの世界のブルーベルにも会いたいんだけどな。

 まあ、こっちの世界で会った人たちは、どこにいるかもさっぱりなんだが。

 何か上手いこと、どうにかなったりしないかな。

 そんなことを思ったのを最後に、意識は俺の中から滑り落ちた──。

 

 

 

 

 

 

 かくして、水無天雨という青年は死んだ。

 予定調和のような死だった。

 大局に何か、大きな影響を与えるような青年ではなかった──精々が、親しかった誰かに、ほんの少しだけの影響を与えた程度。

 しかしそれによって、数多の世界を統べた男の動きは鈍り、とある赤ん坊たちの長は迷いなくその炎を灯した。

 そうして、過去から呼ばれた希望の光は立ち上がり、世界を賭けた戦いは、彼らの勝利に収まった。

 過去から訪れていた少年少女たちは元の時代に戻り、虹の赤ん坊たちが蘇ったことで、世界の秩序はゆっくりと正常な形へと戻っていく。

 文句なしのハッピーエンド──そう、文句なんて本当は、言うべきではないんだ。

 そんなことくらいは、分かっている。

 

「──!」

 

 声にならない声と共に、少女は海へと飛び込んだ。

 空に浮かぶは丸い月。その光を浴びながら、少女は足を尾ひれに変えて、踊るように泳ぐ。

 ──水の中は、少女の領域だ。

 だからこそ、海にいるのは不自然なことではない──決して、流れる涙を隠すためではないと、言い訳をした。

 自らの記憶から零れ落ちていく、もう顔も思い出せない誰かのことを想いながら、少女は声をあげる。

 それはまるで、歌のように、旋律のように。

 自身の中から無くなるまでずっと、ずっと。どこまでも、どこまでも届けるかのように、響き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その日はやたらとでかい地震があって、授業が午前中で切り上げられた。

 先生方も「寄り道せずに、さっさと帰るように」なんて耳にタコができるくらい言うものだから、つい歯向かいたくなって俺は部室でごろ寝していた。

 俺の所属する文芸部は、今年の春からついに俺一人だけになってしまったくらい過疎っている部活だ。

 お陰で何をしていても、誰かにバレることはなかった。顧問も早々顔出さないしな。

 ていうか多分、俺の顔とか覚えてすらいない。

 そんなこともあって、まあ、一時間くらいゴロついてから帰るとしよう……なんて、如何にも小市民っぽいことを考えた俺は、文芸部部員っぽく読みかけの小説を開いた、その時である。

 ガララァッ! と物凄い勢いで扉が開け放たれた。

 

「なになになに!?」

 

 その先にいたのは、顧問────ではなく、何だか嫌に見覚えのある、女子×2だった。

 片方は思わず見惚れてしまうくらい美しい、青くて長い髪に、同じ色の瞳を持つ少女。

 片方は黒のショートで、何だか吸い込まれてしまいそうな不思議な魅力を持つ瞳の少女。

 ちらと足元に視線を移せば、二人とも青色のラインが入った上履きだった──つまり一年生。

 後輩、か。

 マジで何しに来たんだろう、と思えば二人は俺の前にやってきた。

 え、なに? もしかしてカツアゲ?

 こ、こわい……と震えていたら、緊張したように目の前の二人は大きな声で、揃って言った。

 

『入部希望です!』

「えぇ……」

 

 何で今日、だとか。

 どうしてこんな半端な時期に、だとか。

 俺の安息の場所が、だとか。

 色々なことを思ったが、圧に負けて俺はそれを受け取った。

 サラッと目を通せば、青髪の方はブルーベル。黒髪の方はユニというらしい。

 一瞬、バチバチッと電流が頭に走ったような気がしたが、まあ多分気のせいだろう。

 だから、やたらと見覚えがある気がするのも、きっと気のせいだ。

 うんうん、と一人頷いて、取り敢えず俺は定番の言葉を口にした。

 

「それじゃあ……ようこそ、文芸部へ」

「はい、よろしくお願いしますね、天雨!」

「にゅふふ、よろしくねっ、天雨!」

「何で俺の名前知ってんの???」

 

 あとやたらと距離が近いのはなんなの? 精神的ならまだしも、にじり寄ってくる二人に俺はそう思わざるを得なかった。

 何だか奇妙な懐かしさのようなものがあって、どうにも拒否しづらい、と思えば二人は飛び込んできた。

 受け止める、と同時に何だか色んなものがフラッシュバックして──俺は仰向けに倒れ、頭をゴツンと打つ。

 意識が薄れていく中、聞こえてくる二人の声。

 何故だかこれすら懐かしいな、と我ながら気持ち悪いことを思いながら俺は気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




天雨:死んじゃった! BADEND(白蘭世界征服成功ルート)でしか生き残れない男。
ブルーベル、ユニ、白蘭(!?)を誑し込んだ天性の人たらし。
何なら真六弔花も大半誑し込んでるし、仮にボンゴレ側に最初からいたら全員誑し込んでいた。まあまあ無自覚なので性質が悪い。
最後は「何か上手いこと、どうにかなった世界」に生まれ、現在高校二年生。
この後ブルーベル(記憶あり)とユニ(記憶あり)と壮絶なラブコメをする。
因みにバイトをしているのだが、バイト先の名前は「探偵事務所ミルフィオーレ」。
白蘭(記憶あり)に勧誘されまくり、半ば拉致までされた結果バイトすることになった。

ブルーベル:死なせちゃった! なんやかんや生き残った。
あの世界線のブルーベルは天雨のリングを形見代わりに持っているが、今はもう誰のものだったのかも覚えてない。でもなんとなく大事にしてる。
「何か上手いこと、どうにかなった世界」に生まれ、地震と共に記憶覚醒。
親友のユニちゃんと天雨攻略作戦を始めた。

ユニ:死んじゃった! 何をどうしても死んじゃう女の子。
「何か上手いこと、どうにかなった世界」に生まれ、地震と共に記憶覚醒。
親友のブルーベルちゃんと天雨攻略作戦を始めた。

白蘭:だいたい全部こいつのせいだった。天雨が好き。


と言う訳で、長々と続きましたが完結です。
改めて、今回「復活杯」という企画を立ててくださった柴猫侍様と、
令和の時代にリボーン二次を求め彷徨う亡霊と化していた読者くんたちに感謝を……!

それじゃあまたどっかで会おうな。

ちなみにアンケ、ずっと接戦してるから見ててめっちゃニコニコしてました。最高。
君たちには片方だけ選んでもらいましたが僕はどっちも好きです。がはは!
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