人魚よ歌え、彼方に届くまで。   作:泥人形

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しかし銀髪ロン毛デカ声カスザメ剣士は師匠である。

『やっほー、久し振り(アマ)チャン。元気してた? 急で悪いんだけどさあ、イタリアの主力戦があるでしょ? アレに向かって欲しいんだよねー。

 ジルくんに一任はしてるけど、多分負けるだろうし。彼のリング回収できたならあげるからさ。

 ワンサイドゲームにだけはならないようにしてほしいんだよ。それじゃ、よろしくね~』

 

 ブツッと音を立て、壁にかけられた超巨大モニターが暗闇に戻る。

 それを俺は、寝間着姿でぼぉっと眺めていた。

 ……え? もしかして俺、今白蘭さんから直々に仕事の命令された?

 痛快なモーニングコールってレベルじゃねぇぞ。というか、寝起きから仕事モードにさせるの、やめてくれないかしら……。

 やれやれ、とため息を吐きながらソファから起き上がる……ソファ?

 

「おっはよー! 天雨!」

「……ああ、はい、おはようさん。ブルーベル」

 

 これこそがモーニングコールだぜ! と言わんばかりに室内に元気な挨拶が響き渡る。

 足元まで伸ばされた美しい青の髪。キラキラと潤う水色の瞳。

 朝から元気満々だぜ、と全身で主張している少女がそこにいた。というかブルーベルだった。

 そしてここはブルーベルの私室だった。

 あの後、風呂から上がったブルーベルに風呂に叩きこまれ、今日はもう寝ること! と休まされたのである。

 その際にベッドで寝る寝ない論争があったのだが当然のように勝利し、俺はソファで寝ることになったという訳だ。

 ふん……大人をなめるなよ、メスガキが。

 

「よく眠れた?」

「愚問だな、俺が何度このソファで夜を明かしたと思っている」

「それ、誇って良いことじゃないと思うんだけど……」

 

 ブルーベルが哀れむような目で見てくるんだけど、徹夜してる理由の九割九分くらいはお前のせいだからね?

 ザクロ隊に頼れなくなった分、あちこち人員をかき集めなきゃならなかったんだからな……。

 目の下の隈さんともすっかり友達である。

 

「……やっぱりさっきのって、俺宛てのメッセージだよな?」

「バッチリ天雨名指しだったねー。ま、ファイトッ。ブルーベアも応援してるよ~」

「誰だよ、ブルーベア……」

 

 この子のことだよ! とコップに入った水を見せつけてくるブルーベル。お前、水に名前つけてるんだ……。

 クソどうでも良いな、と思うと同時に深いため息が口の端から零れ落ちた。

 どうしよう。

 死ぬほど行きたくない。

 つーか何でブルーベルの部屋にいること知ってたんだよ、あの人……。

 

「そんなに行きたくないなら、びゃくらんに言えば良いのに」

「ばっかお前そんなことしたら『ああ、じゃあもう君いらないや』とか言われかねないだろうが!」

「うわっ、今のびゃくらんの物真似? ちょっと上手くて腹立つ……」

「マジ? 似てた?」

 

 風呂入るたびに練習していた甲斐があったな。その内桔梗さんの真似も披露しても良いかもしれない。

 ……俺、何やっているんだ……?

 

「まあ、ここで愚痴ってても仕方ねぇか……」

「にゅにゅっ、珍しくやる気だ」

「やる気っつーか、普通に逆らえねぇからな」

 

 この世で一番怖いと思う人は誰? と聞かれたら迷わず白蘭さん(あのひと)だと答える自信がある。

 ただ強いから、とかそういうんじゃないんだよな……。

 何だかこう、言葉にし難い底知れなさが、あの人にはある。

 まあそうでなくとも、あっちはいわば社長で、俺は平社員なのであった。立場的にも全然文句言えない。

 

「ま、行ってくる。なるべく部屋汚すなよ……俺がいない間、掃除する人間いないんだからな」

「はいはい、分かってますよーっだ。ブルーベルだってもう子供じゃないんだから」

 

 ふふんと胸を張るブルーベル。悲しいかな、喧しさの割に胸の主張はゼロに等しかった。

 ついでに言えば言葉の信憑性も限りなくゼロに近かった。

 帰ってきたら丸一日くらいは掃除に費やすことになるんだろうなあ……。

 思わず遠い目になる。

 本当であれば、テキトーに誰かを代わりに置いていきたいところなのであるが、ブルーベルがそれはもう激しく拒絶するので不可能なのだ。

 この部屋に出入りできるのは俺を除けば、真六弔花の面々と白蘭さんだけである。

 何で俺が出入りできてるんだろうな……いやマジで。

 

「はいっ」

「……? え、なに?」

 

 雑に荷物を纏め、サクッと準備を整えればブルーベルが両腕をガバっと広げて俺の前に立ちはだかった。

 

「だから、ほらっ。ぎゅーって」

「やらねぇよ! というか今までもやっていたかのような口振りで言うのはやめない? 一度もやったことないでしょう?」

「にゅぅ~……でもこの前見たドラマでやってたし」

「現実と創作は別けて考えような……」

 

 ついでにやる相手も考えて欲しかった。ちょっと俺に対する距離感バグり過ぎだから。

 実に不満げに俺を睨むブルーベルの頭へと手を置く。

 身長的にかなりちょうどいい位置に頭があるんだよな、こいつ……。

 

「ま、すぐに帰ってくるから」

「……また子ども扱いする」

「? 何か言ったか?」

「何でもない! いってらっしゃい!」

「うおっ、いきなりでかい声出すな……行ってきます」

 

 ベーッと舌を出すブルーベルに背を向けて部屋を出る。

 久しぶりの出張だなあ、と思いつつ、一先ずは自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──と言う訳でイタリアに来たのだが。

 何かもう既にミルフィオーレの指揮官が殺されていた。ついでに本拠地にしていた古城も占拠されていた。

 どうにもボンゴレの奇襲を察知し、上手いこと対応していたらしいのだが、飛び込んできたヴァリアーに一瞬でボコボコにされたらしい。

 まあ、ここは素直に流石と言うべきだろう。

 あの『最強』と謳われた、ボンゴレ独立暗殺部隊ヴァリアーが相手では、そうなるのも止む無しと言ったところだ。

 とはいえ大本のボンゴレ連合部隊自体はかなり追い詰めることに成功しているらしく、今の脅威はヴァリアーのみであるらしい。

 これはこれでどうなんだろう、と思い白蘭さんに連絡したが

 

『へぇ、中々面白いことになってきたね。ボンゴレの誇る最強部隊の本気、楽しみだなあ♪ 頼んだよ、天チャン』

 

 の一言で通話が打ち切られた。

 もしかしてあの人、俺のことが嫌いなのでは……?

 好かれたら好かれたで厄介なことになりそうだから、別に良いのだが。

 俺はどう動けばいいのかな、と思い指揮の権限が移行された六弔花の一人──嵐の守護者であるジルさんに聞いたのだが

 

「しししっ、白蘭様の使いだが何だか知らねーけどよ、邪魔だけはすんなよ」

 

 とだけ言い放って行ってしまった。

 彼の側近らしいマッチョの執事さんもペコリと頭を下げてついて行っちゃったし。

 あのさぁ……。

 こう、折角下手に出てるんだからもうちょっと優しくしてくれても良くない……?

 普通に泣きそうになってしまった。あの人が死にそうになってても絶対に助けてやんねー。

 が、かといって働かない訳にはいかない。

 もしこの戦いが終わった後、生き残った誰かに「あいつ、サボってましたぜ」と告げ口でもされたら面倒である。

 貰っている情報と地図を見るに、ヴァリアーが占拠している古城を攻めるルートは南と東の二つである。

 南にジルさんが行った以上、東に行くべきだろう。

 はぁ、とため息一つ。

 出来るだけ敵に会いませんように~と神様にお願いしながらゆっくりと出発したのであるが──

 

 

「ゔお゛ぉい、カスどもがぞろぞろ湧いてきたじゃねぇかぁ」

「うわっ、最悪……」

 

 ──初手で長い銀髪をなびかせる、一人の剣士と鉢合わせしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ──勝負は最初からついていたと言っても過言ではないだろう。

 反射的に開匣し、抜刀したまでは良かったが俺が剣士である以上、勝ち目というものは存在していなかった。

 同じ場にいたミルフィオーレの兵隊は軒並み瞬殺され、血の海が広がっている。

 匣兵器である愛しのルカ……暴雨鯱(オルカ・グランデ・ピオッジャ)は無残にも腹をがっぽりと食われ絶命している。

 ついでに俺も、肩から腰にかけて深い裂傷が刻まれとめどなく血が零れ落ちていた。

 直立しながら呼吸するので精一杯って感じ。

 まあ、仕方ない──どころか、まだ生きているという事実だけで称賛されても良いのではないだろうか。

 何せ相手は()()スペルビ・スクアーロなのだから。

 ボンゴレ最強を誇る、特殊暗殺部隊ヴァリアーを率いるXANXUSの右腕にして、この時代最強の剣士──()()

 十年以上前にその座を奪い取った彼は、今なおその名を誰にも譲ったことはない。

 それはつまり、もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを意味する。

 ミルフィオーレで最も強い剣士とされる幻騎士ですら、彼には敗北しているのだ。

 そして何より──

 

「ゔお゛ぉい、鈍ったんじゃねぇかクソガキィ!」

「ぜっ、はぁ……うざ……ていうかガキじゃない! もう二十歳だっつーの!」

「ハッ、全然ガキじゃねーかぁ!」

 

 ──俺は、スクアーロと面識があった。

 いや、面識があるというか、なんというか……。

 一時期剣を教えられたことがある──いわば、ちょっとした師弟関係だった。

 まあ、ほんの二年程度ではあるのだが。

 

「よえぇぞぉ!」

「あんたが強すぎなんだよ……!」

 

 青い、雨の炎が舞って剣が軌跡を描く。

 それとただ打ち合うのでなく、受け流すようにして刀をあてがった。

 踊るようにして、軽やかな金属音を響かせる。

 

「逃げ回ってばかりかぁ!?」

「うっ……さいな!」

 

 裂帛と共に、灯した死ぬ気の炎の圧を上昇させる。

 死ぬ気の炎の強さは、覚悟の強さ。死が近づけば近づくほど、溢れ出る死んでやるかという気持ちが覚悟を補強する。

 ついでにせめて一矢くらいは報いてやるこのクソサメ師匠が……という気持ちも混じっていた。

 

「ほぉ……少しはマシになったようだなぁ。クソガキィ」

「言いつつ俺より純度の高い死ぬ気の炎灯すの、大人げなさすぎだろ……」

 

 互いのリングに灯る炎の色は青。つまり属性は雨。

 リングのスペック差もあるが、それを抜きにしてもスクアーロの灯す死ぬ気の炎の純度は恐ろしく高かった。

 いや、これでも俺、ミルフィオーレ基準で言うAランクだから、六弔花クラスなんだけどな……。

 真六弔花には及ばないまでも、上から数えた方が早いくらいの実力はあるはずなのだが、現実は何とも非情だった。

 ゆらとスクアーロの匣兵器──暴雨鮫(スクアーロ・グランデ・ピオッジャ)が笑うように宙を舞う。

 牙にはべっとりルカの血液がついていた。ゆ。ゆるせねぇ……。

 

「マジでいつ見てもその鮫、クソ腹立つ顔してるし……絶対ぶつ切りにしてやる……」

「ほざくじゃねぇかぁ……やってみせろぉ!」

 

 絶叫と共に、振り下ろされた剣と激しくぶつかり合う。

 次いで、隙を縫うように暴雨鮫は喰らいついてきた。

 慌てて避けると同時にガチン! という正しくルカを一撃必殺したのであろう牙が嚙み合わさった。

 ギラギラと光を弾いている。

 

「ちょっ、ズル……ズルじゃん! 剣だけでも勝てないのにズルだろそれは!」

「ゔお゛ぉい! なに甘っちょろいこと言ってやがるクソガキがぁ! 貴様は今、俺の敵なんだぞぉ!」

「……!」

 

 有無も言わせない超ド正論だった。

 俺は何も言えずに奥歯を噛みしめ──ガチガチッと音を立てながら()()()()()

 バシュッ! という音を立てながら、雨ペンギン(ペングイノ・ディ・ピオッジャ)……通称ペンペンが飛び出した。

 鋭く炎を靡かせながら勇猛果敢に暴雨鮫に飛び掛かる。

 

「ミルフィオーレはヴァリアーと違って匣たくさんくれるんだよ……いやまあ、ペンペンはサブ匣なんだけど」

「嘗めた真似するじゃねぇかぁ……時間稼ぎにもならねぇぞぉ!」

 

 早くもペンペンが鮫にボコボコにされ始め、スクアーロの剣圧が目に見えて膨れ上がる。

 打ち合う度に死ぬ気の炎は純度と大きさを増していき、このままではこちらがぶった切られて終わるのは明白だった。

 ──そう、このままでは。

 もう何度目かも分からない鍔迫り合いが起こった瞬間、それは起動した。

 突然だが俺の持つ匣は合計三つだ。

 一つはメイン匣の暴雨鯱。

 一つはサブ匣の雨ペンギン。

 そして最後の一つは、スペアの刀である。

 先程炎を注入しておいた匣から、刀は切っ先を真っ直ぐ向けて俺の懐から撃ち放たれた。

 

「────!」

「くた、ばれ!」

 

 ──そこから起きたのは、最早夢か何かでないと納得できないような事象だった。

 ほぼゼロ距離から撃ち放たれた刀は確かな勢いを以てスクアーロの腹へと迫り、しかし彼は避けるでもなく、防ぐでもなくただ雨の炎を放出した。

 雨の炎の性質は『鎮静』。

 放出されたスクアーロの雨の炎は、一瞬にして刀の運動エネルギーをゼロにまで鎮静させた。

 カラン、と刀が地に落ちる。

 ……は?

 

「うっそだろおい……」

「ゔお゛ぉい、しまいかぁ!?」

「ぐっ、っ」

 

 弾き合った後に振りかかってきた剣を辛うじて受け止める。

 ガクン、と膝をつき、完全に押し込められた形だ。

 ギリギリと音を立てつつ、スクアーロを睨みつけてたらペンペンが血塗れで吹っ飛んできた。

 マジで五分も保たなかったの、信じたくねぇな……。

 

「降参するか? クソガキぃ」

「死んでも嫌だ……つーか降参つっても殺すでしょ」

「わかってんじゃねぇかぁ!」

 

 バキリ! と悲鳴のような音を立てて、刀に罅が入る。

 

「……てめぇがその気なら、ヴァリアーには受け入れる体制がある」

「いや絶対ごめんだし……もし裏切ったとしても、今度は白蘭さんにぶち殺される未来しかないんだって」

「俺達が負けるとでも言いてぇのかぁ」

「事実、負けてるでしょ。確かに一人一人の質はそっちの方が高いけど、数が違いすぎる。

 一対一じゃこのザマだけど、俺が百人いればアンタだって殺せる。数の暴力って、そういうことだろ」

「そうかぁ……じゃあ、今ここで死ね」

 

 その言葉を最後に、スクアーロの剣が刀へと完全に食い込んだ。

 俺の纏わせた雨の炎を食い破るように刀は砕けていき──

 

『いいや、小休止だよ』

 

 俺の通信機から飛び出した、ホログラムの白蘭さんが突然そう言った。

 

 




スペルビ・スクアーロ:今をときめく剣帝。オリ主くんを育ててくれた。
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