目が覚めたら異世界だったByカズマ 作:スーバル・フォン・ナッツキー2世
キャベツの収穫クエストから2日ほど経った頃、ギルドから召集がかかった。なんでもようやくキャベツ狩りの精算が終わったらしい。俺たちパーティーは無駄遣いを避けていたため、そこまで金には困っていないが、好景気な雰囲気で飲み食いに走る冒険者も多くいた。そう言う俺たちもここ数日は自由な時間に使っており、俺はこっちの世界の勉強を兼ねて、ギルドの事務仕事のお手伝いをしていた。と言っても簡単な書類整理くらいだったが、これが意外と大変だった。
膨大な書類の中から必要なものを探す。もちろん顧客情報には触れてはいないが、討伐クエスト関係の書類や、ギルドに届く嘆願書の整理などは触れる事ができた。後はギルドから王都に届ける手紙物品の仕分けもか。裏方作業はこんなにも大変なんだなと知る機会になったし、今度からギルド職員全員を労わろう。
「お待たせしました!キャベツ狩りへの参加ありがとうございました!皆様が納品したキャベツは無事完売し、市場へ流通するようになりました」
実はここら辺も手伝っていたりする。自分の手も加わって市場へと流通する姿を見て物流を担うのもありなのではと考えている。
「報酬金は順番にお渡しします!整理券を皆様にお配りしますので、呼ばれた方からこちらにお越しください!」
ギルドの職員さんが番号の振られた紙を配る。
不要になった資料の裏紙を活用した整理券だ。今までは我先にと列に並ぶ冒険者が多いとの事だったので、整理券渡して順番にやればいいのではという提案だ。元いた世界で言うアルファベット順で呼ばれることになる。俺はサトウ カズマで登録されてるから頭文字Sなので、だいぶあとの方になりそうだ。
俺らのチームだとクリスを先頭にゆんゆんが最後って感じだ。
「このような紙が配られるなんて初めてだ。しかも裏を見ると元々何かに使ってたものみたいだ。新しい紙を使えば良かったのではと思うが」
「古紙の有効活用だよ。ただ破棄するだけじゃ資源の無駄だからな。使えるところは余すことなく使わんと」
「まるでウチの食卓みたいですね。魚やお肉はご馳走だったので骨まで頂いてました」
そうじゃない。いやそうだけども。
「ふむ。普段要らぬ紙は暖炉の餌にしていたからな。そういった発想もあるのだなと勉強になったよ」
流石に紙の製法に紙のリサイクル方法までの知識は無いからこう言った使い方しか出来ないからな。あんまりコンプライアンス的な意識は低かったが。顧客情報も俺が意識して触れなかっただけで、普通に任されそうになったからなぁ。信頼されているのかもしれないが、ちょっと困ってしまう。悪人の手に渡ったらどうするんだろうな。
「18番さーん!窓口にお越しくださーい!」
「あたしの番だね!」
思いの外窓口の流れはスムーズだ。この調子で行けばそう遅くはならないだろう。
―――
これと言ったトラブルは起きず、最後にゆんゆんが来て総精算となった。
『こんなにお金が…こんなにお金が…』
めぐみんとゆんゆんが呆然とした表情をしている。
「あたしは70万エリスだったね」
「私は145万エリスだった。守りに徹していたが、めぐみんの収穫分を集めたからな」
「私は95万エリスでした!私は撃墜王です!」
「私は40万エリスでした!でも撃墜王は私です!キャベツの討伐数が物語ってます!」
爆裂魔法であんだけ気絶させ爆散させればそうなるわな。いくつが塵と化したか。
「カズマはどうでした?カズマの収穫数もすごかったではないですか!」
「…250万エリス」
『250万エリス!?』
幸運なことに収穫したキャベツほとんどが最高品質だったこともあり、通常1万エリスの所に泊が付いて値が上がったこと。それと窃盗スキルが驚く程に身体に馴染んだこと。中級魔法に比べて連発しやすいし。後はキャベツに刃を通す瞬間に快感を感じた。あれはいけない。脳が壊れる。
「やはりステータスに恵まれている人は冒険者でも大成するんですね。冒険者でここまで稼ぐなんて聞いた事無いですよ!」
「紅魔の里が外界と遮断されているからってのあると思うけどね?」
「もっと稼ぎのある者はいたが、変わり者の上級職だったな。こっちではあまり見かけない黒髪の背の高くない者だったイメージがある」
…やっぱ転生者は役に立つスキルばかり手に入れているのか。…そういや御剣は元気にしているのだろうか。王都に旅出たっきり帰ってこねぇな。俺も成長したところ、ちゃんと見せねぇとな。
それでも、まずはこの金の分配だな…。
「数字のキリは良いし5人で割って120万だな」
「か、カズマ?良いのですか?」
「カズマさん、折角それだけ稼いだのに」
「何言ってんだ?最初に分けると言ったのは俺だぞ?それにそれぞれの役割あってのこの報酬だ。何も遠慮すること無いだろ?」
俺1人でこれだけ稼げるかと言われたらそんなわけない。キャベツの集中砲火で下手したら死んでたからな。みんなのキャベツを集計するから、役割分担したのだから。
「そうだな。その為に役割を分担したのだ。それぞれの持ち前にしては、差が出てしまう」
「それに120万エリスだって十分とした大金。家は買えなくてもしばらく暮らしには困らないからね?」
間違いなく立派な金だ。使わなきゃ持ち腐れだが、あって困らない程の金額。これを決めるのにあーだこーだ言ってると余計な不和を招いてしまう。
「ほら、均等だ均等。みんなこれで文句無しって決めたんだ。俺1人じゃこんな額稼げねぇんだから遠慮しないでお願いだから!」
「…では、遠慮なく」
「3桁万円…」
「まだまだお子様には早い値段だったか?」
『お子様じゃないです!!』
そうムキになる所がまだまだ子供だなって、まだまだ対して年の変わらない女の子たちに思ってしまう。横でクリスとダクネスが微笑んでいる。なんとなく、姉や母って感じがする。俺に姉は居なくて生意気な弟が居たがな。
本当、家族に何も言えなかったな。
でも、ここで足踏みしたって何も変わらない。何も変えられない。
変化をもたらす為にはは行動を、必要なのは結果だ。
俺は、今自分が持てる全力で生きなければならない。出来ることを、出来ることを着実にこなす事が、人生の第1歩なのだから。
――――
――名が無き俯瞰――
「アクアーー!!アクアの大馬鹿者はどこだー!?」
「あ、アクア様は人気アニメの店舗限定初回限定盤を買うと日本に行きました!」
「またあの子仕事サボってるのね!?」
「だ、大女神様そんな胃の痛そうな表情されて大丈夫ですか!?」
「これが大丈夫に見える!?」
飛び交う女神という単語、出る者出る者美女ばかりのそこは、恐らくこの世の場所ではない事が推測できる。しかし、その中で一際美人な女性は、その美しい顔を歪ませて、額には皺が寄っていた。きっと何か大変なことがあったのだろうと、近くに居た天使たちは察していた。
「あーーもう!あのアホは居ないしあの子は楽しげにしてるし、これはもうロクでも無いことが起きたこと間違いなしだわ!!もうあのアホはクビだわクビ!追放よ!追放!顔合わせたらタダじゃ置かないわ!」
いつも以上にお冠な様子の大女神を、天使はただただ宥めるだけだった。
「一体何があったと言うのですか?それにあの子とは…」
「これを見なさい!」
大女神が突き出したそれは地方の新聞記事だった。『○○町の16歳男性行方不明』と見出しが始まる。本文には16歳男性(無職)と書いてあった。
「10代で無職ってそれ穀潰しが消えて良いのでは?」
「私だってそこら辺で野垂れ死にするくらいなら気にも止めないわ」
凡そ女神と天使がして良い会話とは思えないが、当人たちは気にする素振りを見せない。
「では一体何があってそんな慌ててるのですか?」
「…神隠しよ」
「神々が犯人なのですか?16歳無職の男性。大方学校にも通わず働かず親の脛を齧り続けネットやゲーム三昧で生きる価値無しな社会のゴミにいくら変わり者が多いと言えど神々が気にかけますか普通?」
「貴方口が悪いわよ?本当に天使なの?ちょっと怖いわ。なんと言えば良いのかしら。その変わり者の中の変わり者が居て、その子、こう言ったダメな男性好きなの」
「えー、なんですかその女神様。DVしてくるパチンカスの男がたまたま勝って半額ケーキ買ってきたら最高に幸せな表情しそうな」
「例えがよく分からないけどあなたは昼ドラを観るのは辞めなさい。話を脱線させないで?」
「あはは。でもその女神とダメ男になんの関連が?」
疑問を浮かべる天使の反応はごく一般的な反応だろう。関連性があるとは思えない。あったとしても何故そこまで慌てているのか。
「この男性、死んでないのよ」
「?それは良かったのでしょうか。一応。それならどこかほっつき歩いてるだけでは?」
「いいえ。その男性、もう元の世界に居ないわ」
「…それって変ですね」
今は席を外している死んだ魂を異世界に送る、クビを言い渡される手前の女神。自分の上司である彼女の仕業か、と思った天使だが、自分優先なあの上司がそんな下界の人間に一々干渉するとは思えなかった。
「こっちは何か変わったこと無かった?」
「変わったことですか?アクア様はいつもの事ですし…あ、今日知らない方が来ましたね?如何にも本に囲まれて過ごしてますって男出来たら人生捧げて尽くしそうな幸薄の女性が」
天使の喩えはイマイチな反応だった大女神が、額を抑えた。やはりと言った様子で、天使はもしかしたら自分が何かやらかしたかもしれないと、察してしまった。
「…犯人はやっぱあの子か…」
「犯人って、もしかして」
「生きてる人間を、他所の世界に持っていった。その人間の許可を得ず。関係を破壊するように」
深刻そうな顔をしている。その雰囲気に飲まれた天使は先程までの冗談めかした雰囲気をしまい込み、真面目な表情へと戻る。
「その女神様が…」
「…あの子、普段は古い書物を読み漁り、かなり古風な子なの。でも相当な力を持つ女神。お気に入りの子にはとにかく強力な呪いとも言える力を授けることが出来る実力者なの。並の神々が太刀打ち出来る子ではないの」
一体なんのために、その糸口が掴めない大女神達は、その自称を前に解決の糸口を見いだせなかった。
「ところで、一体何者なのですか、その女神様は」
「…彼女は―――――」
その名を口にした時、天使は目を見開いていた。
2日間、新一騎当千に11万溶けた。しばらくマル○ンにはいかない(豆腐の意志)