「さて、本当ならここでお姉さんのレディー的な豊満ボデーで君を抱きしめてあげたいところだが...君の個性、触ったものをどうにかしちゃう個性だろう?」
ハグという行為にはとんでもなく大きな力があるらしい。特に幸福感が伴うハグは別格らしい。興奮したときや気持ちが高ぶったときに分泌されるドーパミンがドバドバ、あまりの効果に幸せの麻薬とも呼ばれるほどだ。
私の言葉にあっ、と小さく声を漏らし手を組む力がより一層強くなる転弧。
依存による懐柔のためにこれを使わない手はないが、今の転弧の個性の能力値はとんでもなく高いところにある。直接触っていないものまで崩壊が伝播する、異能解放軍のリーダーであるリ・デストロと戦った時と同じくらいだ。
幼いころにこれほどの力を持っていたのかと改めてビビらされてしまう。
ともあれ、そんな使えばほぼ確実に堕とせる技を使わないかと言われればそれはNoだ。
使えないなら使えるようにしてしまえばいい、なぜなら今の私は魔法使いなのだから。
「そんなに悲しそうな顔をするな転弧、これを君にあげよう」
そして取り出したるは、この街に向かう途中の100円均一で商品を並べているお店で買った手袋。ただ買ってきただけの手袋ではない、とっておきの魔法をかけた代物だ。
「これは私の魔法が掛けられたその名をまほーのてーぶーくーろー」
思わず便利な青狸の顔が浮かぶようなリズムと共に手袋を転弧に手渡した。
「ほらほら付けて付けて」
「あ。えっと...」
後は勢いだ。これでうまくいかないならプランの成功率はかなり渋い。事の成り行きはおそらく私を転生させただろう神にでも祈るとしよう。まぁ、ネット小説のように神にあったわけではないが。
手袋と私の手が
「さて、これで私の魔法は完成だ」
当の転弧くんは手袋と私の顔を交互に見るばかり。しばらくニコニコして謎時間を意図的に作る。
ホラーゲームでも静かな廊下を歩いているときにお化けが急に出てきたらびっくり度合いも数倍に跳ね上がる。それと同じようにこの時間は意識を最大限にひきつけるタメの時間であるのだ。そして同時に私の覚悟を決める時間でもある。
触れれば即死、そら触れるのに覚悟もいるわ。
しかしやらねば、生存プラン(仮)には転弧の懐柔が確実に絶対的に必須要項なんだ!!
やるぞ、私はできる女だ!!
将来一生残り続ける幼少期の記憶、ずたずたに破壊された転弧の心象に私の存在を叩きつけて刻み付けてやれ。
動きは一瞬だ、静から動の動きは無駄がなければないほうがいい。前世にやったホラゲの記憶を思い出せ、何もないと思われた襖から出てくるあのくそったれな青い鬼を思い出せ。
転弧の視線を一瞬だけ個性でそらす。目が動いた瞬間に私は転弧のほうに一気に近づく。しゃがみ込み。五本の指をすべて包み込むように握る。
息を呑む音が聞こえるがもう遅い。賽は投げられたのだ。
私の手は五本の指に触れている。果たして崩壊の個性は
「...私の勝ちだ」
発動しなかった。
私の手は、五本の指に触れているにもかかわらずひび割れていない。
緊張の反動、そして成功した嬉しさで転弧を精一杯抱きしめてやった。感情を処理しきれていなことが表情から見て取れるが気にせず腕に一層力を入れる。今ばかりは計画どうこうより生き残った事実にただただ安堵するばかりだ。
私が見た通り、発動型個性は発動条件さえ押さえてしまえば能力は発現しない。それに全てをかけた私が手袋に施した魔法は実に簡単な原理だ。手袋の親指と人差し指の部分をハサミで切り取っただけだ。
これにより手袋には五本の指が触れていないため崩壊は起きない、同様に手袋を付けた状態ならモノに五本の指が触れることもないので崩壊は起きない。
実に簡単なトリックだ。最も個性覚醒後レベルだった場合、どの指でも触れたらお終いだった。見知らぬ神様に感謝したほうがよさそうだ。
腕の中の転弧を見やる。幸せの麻薬は転弧のウィークポイントだったようで、原作では絶対に見ることができないような表情をしている。
さてさて、作戦の第一段階は無事成功したと考えて差し支えないだろう。
少し余裕が出た私は転弧の後頭部を撫でてやりながら次に起こすべき動きを考える。私サイドといういわゆる第三勢力の戦力強化も同時に進めていきたい。
その中でも特に強いのがトゥワイスこと分倍河原さんだ。そろそろ勤め先のお得意さんを轢いてしまって大変な時期になると思うがいかんせん場所が特定できない。ので情報を集めつつ接触できそうだったら接触する形にするべきだろう。余り期待はしないほうがいいだろう。
それよりか転弧の次位に抑えておきたいやつがいる。
荼毘だ。原作でもかなり早い段階でヴィラン連合の構成員として登場する彼だが、その正体は轟焦凍の兄である轟燈矢。こいつの何が面倒かというと父がNo.2ヒーロー、オールマイトなき未来のNo.1ヒーローであるエンデヴァーという点だ。
全面戦争の折には、複合個性という最高傑作である焦凍を生み出すにあたり行われた悪行を暴露しヒーロー側の信用を失墜させるという強すぎる毒となるのだ。
もし戦争が起きたとして、私が安全に暮らすためにもなるべくヒーローの方には強くいてもらわなければ困るのだ。
燈矢くんがどこにいるかは原作で触れられていた。瀬古杜岳である。が、おそらく時期はまだまだ先なのでひとまずは転弧との関係を強固にする方針で進めていこう。
とりあえず、いつの間にか眠ってしまった転弧くんの運搬方法について考えなければ...
私は非力な小学4年生なので。
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転弧くんprpr