「やだああああああああああああああああ!!」
教会に大きな絶叫が響く。
普通にうるさい。
「やだあああああ!ディーノさん、お姉ちゃんを捨てないでええ!」
「ちょっ、一回放せっ……はなっ、放せえ!」
騒ぐ俺たちを普通なら注意やら注目やらするはずだが、街の人達はいつもの事だと誰も気にしない。
「ここ街だし、場所を変えてで話そうぜ」
「ディーノさんがここで急に話し始めたんじゃない」
「…………」
余計な茶々を入れてくるセシリーは無視することにした。
「で?なんで、ディーノさんはアクセルの街に行きたいの?」
「そりゃあ、冒険者になりたいから?」
「ディーノさんは冒険者とかいう柄じゃないでしょ?」
「喧嘩売ってる?」
とりあえず人目につかないアクシズ教会に戻り、俺はぽつりぽつりとこれまでの経緯を話し始めた。
それは、数日前のこと_________
俺は身の危険を感じていた。
ここ数日、アクシズ教徒のセクハラが耐えないからだ。
『ウヘヘヘ……』
『なにやってんの?』
『あら、起きちゃった?寝癖がいい感じね!』
『あっ!こっちに目線お願いします!』
『………………』
『ちょっと待って!カメラは高いからやめて!蹴らないで!』
『踏むなら俺たちを!』
寝顔を撮ろうとしてきたり、
『ディーノさん!』
『_____!』
『いっしょに寝』
『いやだ』
『なんでよ!いいじゃないの!』
『絶対いやだ』
『ちょっとだけ!先っぽだけ!ね!?』
風呂やベッドに突撃してきたり、
『なあ、この服なに?』
『なにってパジャマだけど、どうかしたの?』
『女物じゃん』
『そうね、きっと似合うと思うの……待って!パジャマを斬ろうとしないでえ!だから一回だけ!ね!』
『断る』
『すこしだけ!』
『断る』
変な服を着せようとしてきたり。
流れるようにセクハラしてくるアクシズ教徒達のせいで、最近全く寝ていない気がする。
なんだかんだ言って入り浸っている俺も俺だが、絶えずにセクハラしてくるアクシズ教徒もアクシズ教徒だ。
ここにはあまり居たくないが、金がない地位もない知り合いもいないため、よくわからない世界で過ごせるとも思えない。
そこで、このアルカンレティアで楽そうな職業を探すことにしたのだ。働きたくないけど、セクハラされるのはもっと嫌だ。
俺と面識がある者がこんな考えをしていると知ったら、目をひんむいて驚くだろう。
それだけ生存本能がアクシズ教徒たちの暮らしを拒否しているのだろうか。
色々考えたのだが、結局教会にあったアルカン饅頭を片手に、街を探索してみることにした。
「今ならポイント二倍だから!タダだから!」
「ポイントやらタダやら耳障りの良いことばっか言ってんじゃねぇー!」
「この石鹸も食べれるし、タダだから!」
「入んねぇつってんだろ!これだからアクシズ教徒は!…………任務が終わったらこの街ともおさらばだ…我慢我慢……」
「キャアアア!そこの人、あのおぞましいエリス教徒が……!あいつを倒すにはアクシズ教に…」
「くそったれがあぁ!!!」
途中でアクシズ教徒に絡まれている観光客を見つけたが、見なかったことにする。
あの人もよくいるよなぁ……少しだけ毒されている俺は、絡まれている人を見る度になんというか生あたたかい目で見つめるしが出来なくなっていた。理由は簡単、アクシズ教徒に絡まれたくないから。俺は心の中で合掌をし、その場を後にした。
「…………あ」
かなりの量があったはずの饅頭がなくなる。
こんなに変な街なのに、飯はとても美味しい。アルカン饅頭も名物というだけあって、かなりの美味でパクパク食べれてしまう。大丈夫だと思うが、人間だったら確実に10キロくらいは太っていただろう。食べ物って恐ろしい。
「おばちゃーん、アルカン饅頭十個!」
「はいよ!」
俺には関係ないけれど。
ホカホカの饅頭を手にほくほくしていると、おばちゃんはニッコリと微笑む。
「最近あんたがたくさん買ってくれるから、売り上げも良くて助かるよ」
「俺的にはここの饅頭が一番美味いからな。お小遣いは少ないけど、毎日でも買いにくるつもり」
「あらもう上手なんだから!イケメンに毎日会えるなんて、おばさん嬉しいわぁ!」
何度も言うが、この街はどこかおかしい。
でも、話せば楽しい奴らばかりで明るくて思わず笑顔になる。
「あなたっ!破滅の相が見えます。このままではあなたに不幸が!でも安心してください、アクシズ教に入ればその不幸が回避できます!さあ、アクシズ教に入りましょう!?さあ!」
「ひいい!なんなんだ!?」
…………本当にあんな勧誘さえしなければ、良い街なんだけどな。
というか、
「なんでいんの?」
「ディーノさんディーノさん。そろそろアクシズ教に入信しない?」
「急に現れたと思ったら、それか」
「だってだって!いつも天使な寝顔のディーノさんが朝起きたらいないんだもの!」
「答えになってねえよ!」
必死にセシリーを引き剥がし、気を取り直して街をてくてく歩く。
さて、ここまでアクシズ教徒に五人ほどすれ違った。しかし、俺は一度も絡まれていない。……セシリーはともかく。なぜでしょうか!
正解は、
「あら!見ない顔ね。新入りのアクシズ教徒かしら?この街でアクア様の御加護を是非受けるといいわ!」
「ん。ありがとー」
アクシズ教徒のマークが入ったペンダントをつけているからだ。これを付ければ勝手に同士だと勘違いしたアクシズ教徒達は挨拶のみに留めてくれるのだ。無礼やらなんやら言われるかもしれないが、これはセシリーに押し付けられたものだし「知らなかった」で通せばなんとかなる。この街の住人はなぜか俺に弱いのだ。
…………いっその事アクシズ教徒に入ろうかと思ったが、俺が信仰というか信じている神はヴェルダナーヴァ様だけだ。さすがに何処の馬の骨ともわからない女神の教徒になるのは気が引けた。それに、アクシズ教徒として扱われるのは絶対にいやだ。
「あれっ、これも美味い……」
おまけだとおばちゃんに押しつけられた謎肉を頬張りながら、俺は美味しさに思わず呟く。今度これも買おう。
そう決心した俺の足が、看板の文字を見て止まる。
『ギルド』
元いた世界とは違う字体だが、慣れなのかスラスラと読めるようになってきた。
ギルドか…でも魔物とか狩るのめんどくせぇしなぁ……
しかし、中から聞こえる楽しそうな声が足を行かせまいとばかりに留まらせる。
ギルドに行ったら楽な仕事とかあるかもだしな、ウン。
決してちょっと興味があるとか楽しそうとかそういうことは思っていない。
心の中で言い訳を続けながら、少し重そうな木製の扉を開けた。
扉を開けると、冒険者達の視線が俺に集中し、顔から装備を見て……慌てたように逸らされた。
「?」
冒険者達の謎の行動に俺はクエスチョンマークを浮かべるが、まあいいやと割り切る。
中に足を踏み入れれば、冒険者がサササッと引いていく。俺になにかついているのか。いじめ?
どんな依頼があるのかと、掲示板に近寄ると意外にも豊富な依頼が溢れていた。
その内のいくつかをあげると、
『逃げ出した野良タコの捕獲叉は討伐』
『逃げ出したお嬢さまの捜索』
逃げてばっかりだな、オイ。
というか、野良タコってなんだろう。
疑問が頭を渦巻く中、他の依頼にも目を通す。
『ダンジョンに湧く謎モンスターの原因究明』
ダンジョン…あるのか。謎モンスターというのが気になるが意外とすぐに解決できそうだ。
そして何より目に留まったのは…
『城に住み着いた魔王幹部の討伐』
…魔王幹部?討伐?
思わず首を傾げる。魔王幹部をこんな指名手配なんかしたら魔王を敵に回すだろ?
「なあなあ、これって」
「ヒイッ!あの、えっとそれは魔王幹部の指名手配書ですね。最近は魔王軍との戦いが過激化してますし、賞金もかなりのものになってるみたいです」
「へー」
「じゃ、じゃあ自分はこれで!」
逃げるように去っていった冒険者を横目に俺は考え込む。どうやらこの世界の魔王は完全に人類の敵となっているらしい。しかし幹部を指名手配とはな………賞金もかなりの額のようだし…。
唸っている俺に対し、
「あ、すみません。この依頼は他のパーティーに達成されてしまったようなので…あれ?見ない方ですね」
話しかけてきた受付嬢らしき女性はディーノを見ると優雅な笑みを浮かべる。
「あ、いや。冒険者じゃないし」
「まあ!ではカードを作りにいらしたんですね?ここはレベル制限はありますが、カードの作成は可能ですよ!」
「えーっと……」
カードを作るのもアリ…なのか?
いや、でも………ウーン……
「はい!作成完了しました!」
好奇心に負けた。
お姉さんから笑顔で渡された冒険者カードを覗く。すべての値が平均より少し高いくらいの数値らしい。
無論、これは偽装した。さすがに人間より飛び抜けて高い数値が出たら怪しまれる。
からくりは水晶に手をかざすことにより魂の情報が読み取られ、それを記載する。そんな感じ。なのでその水晶事態をちょちょいと弄ればいいだけ。セキュリティもクソもないので簡単だ。
すると、俺の後ろにヌッと大男が現れる。
ゴツくて目つきが悪い、チンピラの上位版のテンプレだ。
「おい、兄ちゃん。あんたも飲むか?今ならおごりだぜ?」
「お、おい!やめとけって!そいつは……!」
見た目に反してめちゃくちゃいいやつだった。
後ろで何やら騒いでいる人がいたが、俺と目が合えば「な、なんでもないですっ!」と逃げられた。マジでなんなんだろう。
俺は疑問に思いながらも、大男に向き合う。
「いいのかよ?冒険者って貧乏だろ?」
「し、失礼なこというなよ!俺だってそれなりに稼いでる高レベル冒険者なんだぞ」
偏見からの発言に男冒険者は酒で赤い顔を更に赤くする。怒ったかなと思ったが、突然豪快に笑った。
「ブハハハハ!俺にそんな口聞くとはいい度胸だ、気に入った!早速飲もうぜ!」
酒でテンションが高いのか俺の背中をバシバシ叩き、テーブルに案内する。
「さあ、新人!大先輩の俺たちが大冒険をとくと語ってやるからな!」
大男がニカッと笑う。
「すまんな、今夜は付き合ってくれ」
「そしてお姉さんたちをたくさん誉めて甘やかして!」
鎧を来たクルセイダーの女性は苦笑し、ネックレスをさげたプリーストらしき女性が嬉しそうに笑った。
「初めてのお酒!」
女物魔法使いは俺なんかどうでもいいとばかりにジョッキを前に目を輝かせていた。
なんか、愚痴聞き係的な役目を押しつけられてしまった感じだろうか。
しかし、案内されたパーティーのテーブルは皆いい感じに酔っているので適当に相槌を打てば大丈夫…なのか?
「……そして俺たちは見事ドラゴンを打ち負かし、皆から感謝されたってわけだ!」
「………」
「次は私の話ね!あれは数年前のことだったわ________」
ついに酔っ払い過ぎてジョッキに話しかけている二人を横目に、俺は「ねろいど」という謎の飲み物をすする。酒は苦手だが、これはおいしい。キンキンに冷えていて最高だ。
「「ヒャッハーー!」」
世紀末みたいに叫んでいるやつがいたが、知らない人の振りをしておく。
俺は少しくらい金は出しておこうとポケットの中を探ってみる。しかし、饅頭を買いすぎたのか中々見当たらない。手に当たったのはコインでもお札でもなくちょうどいい形のカード。
少しだけ憧れていたカードは、意外にもあっさり手に入れることができた。
冒険者カードをしばらく見つめ、酔っ払た4人を見て思わず笑みがこぼれる。
もしも冒険者になったら。
仲間と一緒にダンジョンに行ったり、強敵に立ち向かったり、楽しく飲んだり……。
あれっ?冒険者も意外といいかもしれない。
俺はもしかしたら一緒に冒険するかもしれない仲間を想像して顔が緩んだ。
この先、問題児達とハチャメチャな冒険をするということも知らずに。
ディーノには是非カズマ達とバカやらかしてほしいですよね。