このニートな堕天使に祝福を!   作:リムゼン

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出会いと仲間と冒険と
冒険?


「…って感じ。わかってくれたか?」

「わからないわよ!ねえ、このまま私達とのんびり暮らしましょう?ディーノさんはニートでしょ!?私と同じ匂いがするもの!」

「すげー不本意だけど否定はしない」

 

場所を協会へと変え、セシリーにこれまでの経緯を伝えたのだがこれがまためんどくさかった。

 

 

「いいじゃねえか、また会いに来るって!」

「やだああああああああああああ!ディーノさんも私を捨てるのね!利用してカラカラになればポイと簡単に捨てるのね!?」

「だから、違うって!」

 

急に言ったかは予想はしていたが、案の定駄々をこねられているわけだ。

 

「お金は?ディーノさんニートだからそんなに持ってないでしょ!?」

「『出世払い』だっけ、それでいいって皆貸してくれた」

「なんでよおおおおおお!」

 

手足をばたつかせてごねる駄々っ子(セシリー)に俺はドン引きである。ゼスタにも伝えたが、ここまでではなかったというのに。

 

『旅立つ前に思い出として風船を膨らませてくれませんか?』とか『おにぎりを「素手で」握ってくれると助かるのですが』と簡単な条件を出してきたものの、駄々はこねていなかった。他にもお願いはされたが、あれは駄々には入らないだろうし。

 

風船は空気を入れるのが上手いと評判の近所のおっさんに入れてもらったし、おにぎりは美味しい方がいいなと饅頭屋のおばちゃんに握ってもらった。ゼスタは鼻息を荒くしながら喜んでいたのでいいことをしたなと思ったものだ。

 

 

そこで、ふと思いついた。セシリーにも風船とおにぎりをあげればいいのでは?

アクシズ教徒は何を考えているかわからないものの、嗜好は似通っているはず。この二つをあげれば許してくれるやも。

 

「わかったわ!どうしてもというなら条件があります!まずは『今日一日、セシリーお姉ちゃんと……って、それなに?」

「見ての通り、風船とおにぎりだけど。俺のとっておきだ」

「許しましょう、許しましょう!ディーノさんのお願いですからね!」

 

勝った。なにがいいのかは全くわからなかったが、喜んで許してくれた。近所のおっさんと饅頭屋のおばちゃんに感謝だ。

 

 

 

「……ディーノさんの握ったおにぎり…………えへへ………」

 

勝った。なにがいいのかは全くわからなかったが、喜んで許してくれた。近所のおっさんと饅頭屋のおばちゃんに感謝だ。

 

 

 

 

 

 

 

「ディーノざぁぁぁぁん!!」

「帰ってくる予定はありますか?見ての通りセシリーさんが落ち着くまで数ヶ月はかかりそうですけど」

「えっと……多分また近いうちに帰ってくると思う。さすがに頻繁には帰ってこられねえかな……」

 

別れの日。数週間といってもかなり世話になったと自覚している。セシリーはセクハラは酷かったが見ず知らずの俺を助けてくれたし、ご飯だってくれた。ゼスタもセクハラは酷かったが、何も言わずにこの世界のことを教えてくれたり、お小遣いをくれたりと結構なことをしてもらった。

 

「ディーノさん」

「ん?これって……」

「是非旅の途中で役立ててください」

 

そう言われ、ゼスタから手渡されたのはずっしりと重たい袋。中を覗くとかなりの量の紙の札束が入っている。単純計算でも100万エリスほど入っているのではないだろうか。これも『出世払い』なのか?

 

「こんなポンポン渡しても大丈夫なのかよ?」

「大丈夫です。私の勘が言っています」

「いや、このまま持ち去るとかさ」

「いえいえ、この程度いくらでも発行できますからね。最悪の場合はトイレットペーパーが切れたときの救いとしても評判ですよ」

 

お金をトイレットペーパー代わり?何かがおかしい。アクシズ教団は温泉が収入源なはずだが、ものすごくお金持ちというわけでもない。なのにこんな大金を手渡すわけ…………。

 

「ディーノさんが勧誘してくれたならばきっと信者が増加することでしょう!頼みますよ!アクシズ教団名誉教徒ディーノさん!」

 

俺は無言で袋の中に入っていた大量のアクシズ教入信書を切り刻んだ。

 

 

 

「……本当にお別れなんて寂しいです」

「俺はもうせいせいするけどな」

「まだ怒ってるんですか?もう!ディーノさんったらかわいんだから!」

 

突然態度が一変し、頭を撫でてくるセシリーの手をかわしながら俺はゼスタに問う。

 

「そういや冒険者って、テストとかランクとかあったっけ?」

「今更ですか?いえ、ありませんよ。あやふやですが振り分けるならば、レベル10までほどが初心者、20らへんが中堅、30が高レベル、60あたりまでいけばエリート冒険者でしょうね」

「ふーん………どーも」

 

冒険者カードは元々がどれだけ強くあるにもかかわらず、皆レベル1からのスタートとなる。ステータスが高いとカンストやらするらしいが、俺の場合は誤魔化しているのでどうなるかは知らない。

どうにでもなるか精神でいこう。

 

 

「もうすぐ出発しまーす」

 

馬車の運転手がのびやかに声をあげる。

俺は馬車に乗ろうとしたが、思いとどまり後ろを振り向く。そこには、馬車に乗ってきた冒険者達を勧誘するゼスタ達がいた。

たくましいな。

 

「…………じゃ」

 

ボソリと呟き、馬車に乗ろうとすると、

 

「ディーノさん、よろしいですか?」

「なんだよ。セクハラなら受け付けねえぞ?」

 

俺の言葉にゼスタは否定もせず、何かをブツブツと呟いている。そして、俺に手をかざすと、

 

「あなたの旅が良いものとなりますよう……女神アクアの祝福を!『ブレッシング』!」

 

光の粒子が俺を包む。どうやら、運のステータスが一時的に上がる魔法のようだ。

 

「では、いってらっしゃい!」

 

ゼスタは満面の笑みで俺を送り出した。

 

「……ああ『いってきます』」

 

少しだけ心が暖かくなったような気がした。

 

 

 

 

「あっ、ディーノさんが笑った!ずるいですゼスタ様!ディーノさんになにしたんです?マジ天使ですよ!」

 

セシリーはもう知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Noside....

 

 

 

馬車に揺られ、うつらうつらと眠気に負けそうになるが何とかこらえる。でもやはり眠いものは眠い。馬車に乗ったのは初めてだが、これがまた心地いい。草原から流れる爽やかで優しい風が頬を撫でる度に眠気が襲ってくるのだ。

 

ガクンガクンと寝そうになっては我に返りを繰り返していると、隣の席の女性がクスリと笑う。ディーノが視線を移すと、すぐさま申し訳なさそうな顔をした。

 

「ごめんなさい、とても眠そうだったので……。モンスターは殆ど出ないですし、着いたら起こしますので寝ても大丈夫ですよ?」

 

そう言ってニコリと笑う女性は冒険者、魔法使いだろうか、ダボっとしたローブに身を包み、手には紙袋を持っていた。

 

ディーノはしばし熟考する。

起きているのはアクシズ教団にいた時にセクハラされないようにと警戒したため癖がついていただけなのだが、おばさんはそれをモンスターが怖いのだと勘違いしたらしい。

しかし、ついにあそこから開放されたのだ。これには逆らわないほうがいいのか。

 

「んじゃあ、お言葉に甘えて…………」

 

ディーノは優しく夢へと誘う眠気に身を任せ、目を閉じた……。

 

 

 

 

 

 

あの人(・・・)はケーキを前にした子供のように純粋な笑顔を向ける。

 

 

笑顔を返せば、嬉しそうに頭を撫でてくれた。

 

 

その時のあの方(・・・)がいつになく眩しく、儚く見えてしまったのはなぜなのだろうか。

 

 

 

 

「……!起きてください!」

 

意識が浮上する。久しぶりに昔の、それも嫌な夢を見てしまった。心做しか頭が重く、目覚めが酷く悪い。ディーノは深くため息をつき、起こしてくれた女性に向かい合う。

 

「何かあったのか?」

「モンスターの群れが襲撃してるみたいです。私は冒険者の資格も持っているので援護にいきますから、あなたはここで待っていてください。」

 

口早にそう言うと、慌てて冒険者達のところへ向かう魔術師の女性。

 

冒険者の護衛があるんじゃなかったのか。

聞けば冒険者が馬車を守るために出撃したようなのだが、何せ数が多いらしく苦戦しているらしい。

 

窓から覗けば、外にいたのは白く美しい毛並みをもつ狼たちが冒険者と激闘を繰り広げていた。たしかあの冒険者達が白狼(ホワイトウルフ)とか言っていたような気がする。雪山を根城に群れで行動する危険なモンスターらしい。

 

……ここ草原なんですけども___ディーノはげっそりとした表情になりながら思う。

雪山の要素など一つもない…というのに突然のモンスターの群れの襲撃。意図的なものだと考えるのが普通だろう。

 

ディーノは異質な気配を感じる空へと視線を向ける。そこには満身創痍で戦う冒険者達を満足そうに見つめている悪魔がいた。

 

 

 

 

馬車から少し離れたここは確かに見通しがよく魔物たちの群れを操り、状況を見るにはうってつけの場所だった。そして、そこにいるのは満足げな顔で冒険者達を見つめる悪魔が一人。

強さは上位魔将(アークデーモン)にいくかいかないかくらい。ゼスタから聞いたが、この世界の悪魔はディーノの元いた世界の悪魔族(デーモン)とは少し違うらしい。だからどうしたというわけでもないのだが、一応。

 

 

 

「よう、悪魔」

 

ディーノが片手をあげて挨拶すると、女悪魔はビクリと肩を大袈裟に揺らす。ゆっくりと振り向くと、安心したように得意げな顔に戻った。

 

「人間風情が急に話しかけるな……お前、馬車の乗客か?冒険者のようだが残念だな。お前では私を倒せない」

 

ドヤ顔で言う悪魔。ディーノは既にもうウンザリとしていた。

 

まず、人間風情呼ばわりする時点でオカシイ。次にお前には私を倒せない的なセリフを吐いているが、人間だと思い込んでいる相手に果たして勝つことができるのだろうか。

 

面倒なので倒すことはしないけどな、とディーノは心の中でこっそり呟く。

可哀想な人を見る目で見られていることを察したのか、女悪魔は不快そうに顔を歪めた。

 

「おい……おま」

「俺、さっきまで気持ちよく寝てたんだよな」

 

まあ、あんまり見たくない夢だったのだけれど。それでも、ディーノの唯一の楽しみである睡眠をガッツリ妨害された。それは揺るぎない事実だった。

 

「はあ?」

 

悪魔は訝しげに目の前の眠たげな男を見つめる。そんな悪魔を気にかけることなくディーノは不満を続けた。

 

「何を満足してるのかは知らねえけどそんなよくわからない趣味で人に迷惑かけるのやめようぜ?どうせアレだろ?『私がけしかけた警官がエリス教徒を追いかけ回している!両者には憎しみの感情…………そして、私が真犯人だと気づいた途端あの目が私を襲うのです!ああっ、イイっ!』とか言うんだろ?」

「な、なんだそれは!というか警官って!エリス教徒とはなんのことだ!」

「わかってるわかってる。そういう性癖でもあるんだろ?それを否定はしないけどさ、人様に迷惑をかけるとアクシズ教徒みたいな扱いになるぜ?」

「貴様が今その扱いをしているのだろうが!というか私をアクシズ教徒を前にしているように話しかけていたのか!?」

 

律儀にツッコむ悪魔は一気に叫んだからなのか、ゼイゼイと激しく息切れする。

 

ディーノはといえば、どっかの変態達のおかげでそういう性癖の人達の対処法もわかってきた。話を聞いて、否定はせずに「他の人に迷惑をかけるな」ということだけを約束させればそれでいいということを、経験から学んでいたのだ。

 

「何があったかは知らねーけど、八つ当たりで人様に迷惑かけるのはどうかと思うワケ」

 

言いながらディーノは大きめのあくびをひとつする。これは馬車に帰れば爆睡だろう。

 

「お前は本当に冒険者か?こんなにやる気のないやつを初めて見たぞ。見逃してやるからあっち行け」

 

怪訝な表情を向ける悪魔に向かって、首を横に振る。

 

「いやいやまだ話は終わってねーし。散々迷惑かけられたし、だからちょっとイタズラをさ…………」

「……?私はただ魔物の群れを襲わせただけで……分かったお前は私を倒したいのだな?まあ、上級悪魔を倒したならばかなりの名声と経験値が手に入るからな!」

 

勝ち誇った顔で急に迷推理をし始める女悪魔。正直言ってイタイ。イタすぎる。

そんな目の前の彼の思いを知る由もなく、悪魔は名乗りを上げた。

 

「私はアーネス。邪神ヴォルバグ様に仕える上位悪魔だ。あの忌々しい紅魔族に残機を減らされイライラしていたところだ!今日は貴様の首くらいで勘弁してやろう!」

 

ディーノの無言を肯定と判断したのか、悪魔はどんどん自分の世界に入っていく。紅魔族とやらに刺激されたのだろうか。確かな情報ではないが、紅魔族は高い魔力と知力を持つ中二病集団らしい。キレやすく血気盛んな者が多いとか。中二病の名乗りにも、ノってあげると喜ぶらしい。

 

「……ふーん」

「あれっ」

 

しかし、中二病とかマジでやめてほしいのが本音だった。なんか熱いバトルが繰り出されるみたいな雰囲気だったが、この悪魔では勝負にすらならない。

 

だが、悪魔は本気だったようで「この私が紅魔族に感化されるなど……!」と呟いている。しばらくして、落ち着いたのかキッと睨みつけてくる。どうやら落ち着いたわけではなく、怒りの矛先をディーノに向けたらしい。

 

「なんてノリの悪いやつなんだ……!まあいい、お前は私にかなわないが、せめて一発で昇天させてやろう『カースドライトニング』っ!!」

 

「お前のノリが良すぎるんだよ」やら、「悪魔がせめて一発で昇天させてやろうとか言っていいのか」やらツッコんだらキリがない言葉がディーノの頭を駆け巡る。

 

そして、いつの間にか詠唱を終えていたのか女悪魔__アーネスの手から黒い稲妻が打ち出された。光速でディーノの左胸へと突き進むそれは、

 

「『カースド・クリスタルプリズン』っ!」

 

ディーノとアーネスに突如できた氷によって防がれた。

 

「なっ!」

「大丈夫ですか!?」

 

駆け寄ってきた女魔術師にディーノは頷くと、事情を説明する。彼女はできるだけ簡潔にまとめた説明をきちんと意図を汲み取ってくれたようだ。

 

「__なるほど、数が多いと思っていましたがそういう事でしたか!ディーノさん…とおっしゃいましたね、ここは私に任せてください」

 

彼女は詠唱を開始する。長い詠唱、つまり上級魔法などの高威力の攻撃のときのものだ。

アーネスはそれを感じたのか、一気にディーノ達と距離を取る。

 

「邪魔が入ったか……まあいい、次は違う者を襲えばいいだけだ。ところでお前たち、ウォルバグ様という漆黒の魔物を知らないか?その方さえ見つかれば私はここに用はない」

 

ビビって離れておきながら、図太い神経だなとディーノは逆に感心する。

ウォルバグ様とやらだが、もちろんディーノにも心当たりはない。隣の女魔術師も見たところ知らなそうだ。

 

アーネスは「そうか……」と残念そうに呟くと、一気に飛翔し大空へと消えていった。

 

 

そんなアーネスに向かってディーノは一言。

 

 

 

「とんだ小心者(チキン)だったな……」

 

 

 

 

「だれがだ!」

 

消えたはずのアーネスのツッコミが聞こえたのは多分、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 





ディーノさんもね……魔王ですからね。普通に強いんですよ。普段の行いからしてそうは見えませんけど。可愛いからね!寝てる姿は天使だからね!
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