このニートな堕天使に祝福を!   作:リムゼン

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ウィズ

 

 

 

 

 

「全くもう!危ないじゃないですか!悪魔に一人で挑むなんて命知らずにもほどがありますよ!」

 

ぷりぷりとお怒りの女魔術師……いや、ウィズは、腰に手を当てて完全に説教の体勢に入っている。そして、うげ……と思わず声を漏らしてしまった俺をギロリと睨む。

 

「あー……俺こう見えても冒険者なんだよね。いくらなんでもこんなピンポイントで襲ってくるなんておかしいなと思って、ぼーっと見てたら悪魔がいたから思わずっていうか……」

 

言い訳っぽくなったが間違ってはいない。

少しだけ罪悪感を抱えながらも、事情を説明する。ウィズは遮らずに話を一通り聞くと、ため息をつく。

 

「剣は持っていますが、見たところ初級冒険者なので待ってもらったんですけど、そうですか……」

 

「そーそー」

 

「でも一人で行くなんて危ないですよ!そんな歳で亡くなられたら親御さんが悲しみますよ!」

 

「ははは………」

 

思わず零れる乾いた笑い。

 

(親……か)

 

少しだけ今日の夢が頭に浮かぶ。

俺はあの方のことを親と呼べるのだろうか、作られた存在でも親と子といえるのだろうか。

 

言えないだろうな、と俺は自嘲気味な笑みを浮かべた。上司と部下、王と兵……親子とはかけ離れている。

 

昔、少しだけ家族に憧れていたことがあった。

暖かくて確かな絆の関係を求めてみたことがあった。今考えれば愚かだったと思う。

 

 

それに____

 

 

血の繋がりなどなくても、確かなものがあることは知っているのだから。

 

 

 

 

「私は普通の親子でしたけど、冒険者になって仲間ができたりしてやっと家族の大切さに気づきましたから」

 

何も言わなくなった俺を見て、ウィズは柔らかく微笑む。かなり若い見た目だが、かなり大人っぽいなとこの時ふと思った。

 

「自分が生み出した物は何でも愛着が湧きますが、長い時間を過ごした仲間は自分の命よりも大切なものになりますからね」

 

「……そっか」

 

「そうですよ。これは冒険者としての先輩からのアドバイスです。キビキビし過ぎると周りに引かれて将来が不安になるし、変な魔物にからかわれたりします。逆におっとりし過ぎるとポンコツ呼ばわりされるので気をつけてくださいね」

 

それは冒険者というより、人生のアドバイスではなかろうか……。口にはしないけれど。

 

しかし、アドバイスをした冒険者先輩の表情は、昔を懐かしむような少し寂しげなものだった。

 

 

外を見ると既にもう日は落ち、うす暗くなっていた。冬のせいか暗くなるのが早い。

 

 

 

「おー……あれか」

 

窓から見える景色がただの草原から舗装された道へと変わってくる。そして、先に見える街こそが『始まりの街アクセル』だ。

冒険初心者が集まるこの街でレベルを上げ、パーティを組み、レベルが上がれば次の町へと行くのが王道らしい。

 

最初から王都などでも活躍できると思ったが、レベル制限があるため無理らしい。この街で着々とレベルを上げるのが当分の目標だ。

 

 

 

馬車が止まる。

目的地であるアクセルに着いたということらしい。俺は馬車から降りると、同じく降りてきたウィズに話しかける。

 

「ありがとな」

 

「いえいえ、私も楽しかったです。もう会えないわけじゃない……というか、いつでも会えるので是非来てください!ディーノさんなら割引しますよ」

 

ウィズはこの街で魔道具屋を営んでいるらしい。今回も直接魔道具を買い付けに行った帰りらしい。彼女はテレポートも使えるらしいのだが、「たまにはこういうのもいいかと思いまして」とのんびり言っていた。

 

「マジで?」

 

「はい、マジですよ」

 

ウィズは「がめついですね」とクスクス笑う。

 

「お互い頑張りましょうね。ディーノさんも無理をしてはいけませんよ」

 

「ハイハイ」

 

俺はヒラヒラと手を振ると、背を向けて歩き出す。着いたらすぐギルドに向かうといいとアドバイスされたので、本当は宿で寝たいが従っておくことにする。

 

ウィズは良い人だったな。見ず知らずのやつにあそこまで親切にしてくれるとは、魔道具屋も人気店だったりするのか……?

 

 

実際の所はウィズは人気者だったりするのだが、魔道具はポンコツ品ばかりの貧乏店主なのだ。しかし、今の俺にそれを知る術はない。

俺達二人が再会するのはまだ先の話だ。

 

 

 

 

 

 

鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌の俺は、『ギルド』と書かれた木製の札の前で立ち止まる。

ここの言語にもだいぶ慣れてきたと思う。元々字を読むタイプではなかったが、染み付いた知識に新たなものを染み込ませるのは大変なのだと思い知った。

 

俺は緊張をほぐすため、息をふぅと吐き出す。

人は第一印象が大切だとリムルが言っていた。

それでほとんどの交友関係が広まるのだと。

 

「よし!」

 

俺は元気よくギルドへと、一歩踏み出した。

 

 

「あの人声だけは気合入ってるけど顔がついていけてないわね……」

「なんていうか、やる気に顔が反映されてない感じ?」

 

そんなことを言われてたとは露知らず。

 

 

 

ギルドのドアを開けた途端、突き刺さる視線。

探るようなその視線は冒険者ではよくあることらしく、舐められないような振る舞いをしないとならないのが常識……らしい。

チンピラに絡まれたり、チンピラに絡まれたりと面倒なことになるのだ……多分。

 

性格柄、面倒ことだけは絶対に避けたい。

さっさと登録を完了させようと、受付を探すためにギルド内をキョロキョロと見回す。

 

 

 

目に入ったのはカウンターのような所で揉めている冒険者と受付嬢の姿だった。

 

「これじゃあ割に合わないって!死にかけたんだぜ!?」

「しかし、これは危険度を測った上での賞金なので上げるわけには……」

「じゃあ、もっと稼げるクエストをよこせよ!」

「……これ以上言うならペナルティを課しますよ!?」

「あっ、逆ギレだ!いいぜ、冬を越すくらいの金はあるんだ、こんな仕事やってやれるか!」

「逆ギレはそっちでしょう!?もう何なの!?」

 

あんなやつの相手して受付嬢も大変だなというのが印象的だったが、ふと違和感を覚える。

 

冒険者と言えば貧乏。馬小屋生活やバイトの掛け持ちも当たり前らしい。だが、さっきの冒険者は「冬を越すくらいの金はある」と言っていた。

 

おかしくはないだろうか?宿に泊まるにしても、馬小屋に泊まるにしても必ずどこかでお金がかかる。そんな金があるのか。いや、あるから言っているのか。

 

首を傾げつつもまあいいやと開き直り、一番人が並んでいる受付に行く。

聖典(マンガ)から得た知識だが、こういう一番人気の受付嬢は実は凄腕冒険者だったり、フラグが建ったりするのががテンプレらしい。何のフラグかは知らないが。

 

俺がカードを差し出すと、受付嬢は手馴れたようににこやかに笑う。

 

「はい、カードは作成してあるようなので照会だけさせてもらいますね!偽物や犯罪履歴がないかなど確かめさせていただきます」

 

受付嬢が言っていることを何となく聞き流しながら、眠たくて回りにくい頭ではぼーっと考える。水晶自体の情報子を操ることでカードの偽装はできるが、カードにはそれを応用することはできるのだろうか。いや、別に大丈………思考がピタリと止まった。

 

水晶自体の情報を誤魔化して作ったこのカードだが、アルカンレティアとアクセルの水晶は別物だ。つまりこの誤魔化さず、抵抗(レジスト)もしていない状況ならば、嘘偽りのないステータスが____

 

 

「こ、これは凄いd……むぐっ!?」

「ちょっ、言うなって!」

 

俺慌てて受付嬢の口を塞ぐことで[[rb:情報>ステータス]]の流失を防ぐ。というか、結構な大声だった。この街でというかこの世界はこんな個人情報を大声で喋りまくる習慣でもあるのだろうか?迷惑極まりないと思う。

 

「なっ、なんでですか?こういう所で褒めてもらった方がパーティのスカウトがグンと上がります!それに…このステータスは凄すぎます、幸運値以外全部人外級ですよ!?魔王か何かかと思いました!」

 

人じゃないし、魔王だからね。

 

「これはめっちゃプライパシーに関わる事だと思うんだよな。それに、大声で個人情報を喋るのはやめて欲しいっていうかさ……」

 

なにやら揉めている俺達を冒険者達はじっと観察してくる。居心地の悪さを感じながらも、受付嬢の説得に成功した。

 

「……わかりました。後悔しても知りませんよ?」

 

「なんでそんな喧嘩腰なんだよ……。イチャモンもつけないし、安心してくれていいぜ。ステータスを公開しなくても大丈夫なパーティに入るからさ」

 

「そんなパーティそうそうないと思いますけど……」

 

 

俺は受付嬢の言葉を無視し、テーブル席へと座る。そして、冒険者カードをじっと見、なるほどと納得した。運以外のステータスがおかしいことになっている。運は少し高いくらいなのだが、天に見捨てられていない堕天使にしては低くないかと少し不満を覚えたくらいで、後はどうでもいいとばかりに読み流した。

 

……読み流すってなんだろう。

 

 

「メニューは何にいたしますか?」

 

女性店員が営業スマイルで注文を聞きにやってきた。

 

メニューには『カエルの唐揚げ』や『ネロイド』など聞きなれないものが揃っている。『カエルの唐揚げ』はギリわかる。『ネロイド』ってなんだこれ。

 

試してみたいが怖い。

そんな感じで悩んでいると、

 

「オススメはカエルの唐揚げ定食です!淡白な肉が意外と合うんですよ!」

 

店員が助け舟を出してくれた。

 

「この『ネロイド』っていうのは?」

 

「ネロイドはシャワシャワしてるヤツです。路地裏などで小遣い稼ぎ目的でもとることのできる、捕まると「にゃー」と鳴く謎の生き物です」

「ごめん、もう一回」

 

食材についてだったはずだが、野良猫の話になっている気がする。慌てて止めると、さっきと同じ言葉をもう一度繰り返された。聞き間違いではないらしい。しかし、意外とこれも人気商品のようで、そこら辺の冒険者は必ず飲んでいるものらしい。

 

カエルの唐揚げ定食とネロイドを注文すればまたまた女性店員は微笑み、去っていたった。

 

俺はリムルに強請って作ってもらった『拡張空間付き機能性バッグ』を取り出す。

 

ドラ〇もんの二次元ポケットかよ……とお思いの皆さん、その通り。中はどんな大きいものでも取り出しが簡単で、食べ物も腐らないという優れものだ。

 

布団の運び出しがめんどくさかった俺にとって、それは唯一無二のお宝だった。別に枕が変わったら眠れないタイプでは全くないが、魔国製の睡眠グッズは肌触りがよく最高なので、よく愛用しているのだ。しかし、当然のことながらこれがかさばるかさばる。しかしこのバッグひ詰め込めば、どこでも俺の最高の寝床の完成というわけだ。

 

リムルにはそんなものに使うなと突っ込まれたが、頑張って真面目に働くと渋々といった様子で特別製の物をくれた。なんだかんだいってアイツは甘いと思う。

 

 

話が逸れたが、手持ち金は五万エリスほど。夜ご飯を食べ、宿に泊まればあっという間に無くなってしまう。

 

明日から働くのかー……と冒険者カードを持った途端に少しやる気が無くなってきたが、金がなければ宿も飯も食べれやしない。

 

厳密に言うと天使には食事も排泄も必要がないのだが、魔国連邦(テンペスト)の習慣が染み付いた俺には一日三食は欠かせないものになってしまっていた。

 

だがしかし金がない。

 

結局、世の中は金と地位だと思わず遠い目になってしまう。なんて残酷な世の中なんだ。

 

 

 

「かーっ!本当に世の中は残酷だよな!結局皆顔か!顔なんだな!」

 

俺と同じようなことを横のテーブルの冒険者が叫ぶ。片手にジョッキを持った冒険者は金髪赤眼の酔っ払いだった。

 

気が合うなと言いたいところだが、その鋭い視線の先はしっかりこちらだ。酔っ払いに構われるのはもう嫌なのだけれど。アルカンレティアの酔っ払い達を思い出し、顔を顰めていると、

 

「お前もどうせ俺の事バカにしてんだろ!?悪かったなあ!こんなでよお!」

 

顔色ひとつ変えず何も言わない俺に冒険者の何かが切れたのか、顔を真っ赤にして突っかかってくる。

 

見たところ未成年ではないと思いたいが、この飲みようは大丈夫なのかと逆に不安になってしまう。というか、この国の条例やら法律をゼスタ達に聞き忘れたな。

 

誰か助けてくれないかと周りを見渡すが、次々に目を逸らされた。皆意外と薄情でショックだった。

 

「ううっ……!お前もどうせチートでも持ってんだろ?それで美人の仲間引き連れてハーレム作るんだろ?それで俺みたいなやつは当て馬扱いかよ!もうやだ!働きたくねえよ!」

 

勝手に妄想して、大声で罵るチンピラ。

チートはともかく……ハーレムってなんだ?

とにかくなんかすごい奴だと勘違いされているようなので、俺はとりあえずチンピラの口にいつの間にか置かれていたカエルの唐揚げを突っ込む。

 

「むぐぅっ!!」

 

ついでに俺も試しに一口。

 

「「……うま」」

 

しみじみとした声が思わず漏れた。なるほど、確かにしっとりとしたカエルの肉に程よい脂がご飯を進める。カリッとした皮とジューシーな肉か口の中で素晴らしいハーモニーを奏でている素晴らしい一品だ。

さすが人気メニュー、ものすごく美味い。

 

ご飯をかっこんでいると、チンピラに肩を叩かれる。

 

「いや、人の口に唐揚げ突っ込んどいてほっとくとかお前……!」

 

なにやら怒っているようだが、俺には関係ない。ネロイドもちびちび飲んでいったがこれは美味い。酒類や果実水(ジュース)類は得意ではないが、これならグイグイいけそうだ。

 

 

 

「無視すんなって!」

 

再度、チンピラに肩を叩かれる。今度はさっきより強めだ 。

 

「お前こそ人の食事の邪魔すんなよ。2大欲求って知らないの?睡眠欲と食欲だぜ。俺は睡眠欲の方が圧倒的に強いけどさ」

 

「一個足りなくねぇか?」

 

即座にチンピラにツッコまれた。

リムルには二個だと聞いていたが違うのか。

そういえばシンジが「あれ?性よ……」と言った瞬間にリムルにビンタされていた。「魔王に性欲もクソもねーんだよ!そんな赤子の保健体育レベルのやつに性欲なんて教えられるか!俺が変態みたいでなんか恥ずかしいだろうが!」とか何とか言っていたが、全く意味が理解できなかったのを何となく覚えている。

 

 

「まあ、欲求なんて二つも三つも変わんないだろ。俺がいいたいのはさ、ニートやるのは構わないっていうか、むしろ仲間が増えるのは大歓迎だけどさ。それで人の唐揚げ取るのはどうかと思うんだよな。言っとくけど窃盗だぞ」

 

「お前が押し付けてきたんだろうが!」

 

本格的にキレてきたチンピラを俺は無理やり隣の席に座らせる。そして、隣のテーブルに置いてあった酒をこちらに移動させると、男の肩をそっと叩く。

 

「何があったかは知らんけどさ、話なら聞くぜ?奢れないし、寝てもいいならだけどさ」

 

「お、おお!あんたいい人じゃねえか!……ん?ちょっと待て後半なんて言った?」

 

「あ、おねーさん。ネロイド二つね」

 

 

俺たち(俺は途中で爆睡したが)は互いに愚痴りながら、朝まで飲み続けた。

 

 

 

 

 

 

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