「……なあ、ちょっといいか?」
俺は意をを決して二人の紅魔族に話しかける。
二人は俺を見るとピシリと身体が固まった。
……しかし、数秒後に元に戻ると何やらコソコソ話し始めた。
「来た!来たわ!ほら見なさいよ、めぐみん!これでぼっちは卒業よ!」
「まだパーティーを組もうとも言われてないじゃないですか!それになんだか怪しいです。物事が急に上手くいく時は必ずなにか裏があるはずです」
「めぐみんったら悔しいの?それに裏があるとか言っちゃダメよ。きっとこれは神様からのご褒美よ!毎日エリス教会とアクシズ教会に祈りを捧げてただけの事はあるわ!」
「あ、アクシズ教会にまで行ったのですか!?」
「ええ、私今度から宗教の人には優しく接するわ!やっぱり神様はいるんですねって!」
「やめてください、全てを神のおかげにするとか完全に影響受けてますよ!と、とにかくこんな美味しい話なんてないはずです。私が見極めてやるのでゆんゆんは大人しく着いてきてください」
「えー……めぐみんに任せるとか不安なんだけど……」
「何か?」
「別に何も」
話は終わったのか、二人の紅魔族はグルンと勢いよくこちらに顔を向ける。
「なあ、一人って聞いてたんだけど二人なのか?」
さも当たり前のように二人一緒にいるので、ふと気になることを質問してみると、
「何か二人だと困ることがあるのですか?」
「ないけど」
挑戦的な顔で返された。質問に答えてほしいのだけれど、二人いたところで困ることは何も無いし。むしろパーティーは三人くらいの方がいい。
全くないと答えれば、髪の短い紅魔族に不満げに軽く睨まれた。なにか悪いことしたっけ。
髪の短い紅魔族はごほん!と咳払いをし、マントをバサりと広げる。
「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、最強の魔法「爆裂魔法」を操る者……!」
紅魔族は中二病だと聞かされていたが、本当のようだ。それに変な名前が多いということも。
続いて、隣の髪の長い紅魔族が顔を真っ赤にしながら弱々しくポーズを決める。
「わっ、我が名はゆんゆん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、やがて紅魔の里の長となる者……!」
……全員が中二病ではないらしい。その証拠にゆんゆんと名乗った少女は恥ずかしそうに頬を染めている。満足気にポーズをキメているめぐみんとはえらい違いである。
「ちょっと待ってください!なにが「紅魔族随一の魔法の使い手」ですか!私と丸かぶりじゃないですか!変えて下さい!今すぐ変えて下さい!」
「何よ!めぐみんなんて魔法は一つしか使えないじゃないの!そんなの紅魔族随一とは言えないわよ!」
「今言ってはならないことを口にしましたね!?爆裂魔法を貶すとは余程我が魔法をくらいたいようだ!」
名乗りが被っていたらしく、再び喧嘩を開始するめぐみんとゆんゆん。よく飽きないと思う。
「わかった!めぐみんが紅魔族随一の爆裂魔法の使い手にすればいいんじゃない?」
「それは語呂が悪いですし、私が変えなきゃいけないなんてなんだか不快です」
「えー……」
不満そうに話していたが、どうやら次考えるということで落ち着いたらしく、何事もなかったかのように席に戻ってきた。
それをぼーっと見ていると、めぐみんに目で自己紹介を促される。こいつ、俺にあたりが強くないか。
「ディーノだ…好きなことは寝ること。張り紙出てたのってゆんゆん達でいいんだろ?」
紅魔族の名乗りにノってやろうかと思ったが、考えるのがめんどくさくなったのでやめた。
俺も名乗りなんてあげたら中二病だと思われかねないからな。
「あっ、はい!そそそそうです!あああ……」
「あが多すぎですよ!はい、あれはゆんゆんのです」
……「ゆんゆんの」です?
「え、めぐみんは?」
「私は既に違うパーティーに所属しています。この街一番のパーティーですよ!」
「この街一番の全滅しそうなパーティーの間違いじゃないの?……痛い痛い!髪を引っ張らないで!」
なるほど。
「めぐみんはただ友達が心配でいるだけか。別に俺は怪しいやつじゃないし大丈夫だと思うけど」
「んなななな!友達じゃあありません!ライバルです!ライバル!まあ、チョロいライバルが変な男に引っかかりそうになっているのを止めるのも私の務めですからね!」
慌てるめぐみんを俺とゆんゆんはニヤニヤしながら、見つめる。
「優しいんだな。俺なら放っておくぜ」
「この子は無駄に騙されやすいんですよ!信用出来ません!それにこの子は重度のコミュ障なんですよ?私なしでパーティーとか無理に決まってるじゃありませんか」
「待って、さすがにそれは失礼じゃない!?」
否定はしないのか。ゆんゆんがなんだか可哀想に思えてきたので、試しに話しかけてみることにした。
「なあ、ゆんゆん」
「あっ、えっ、はい!あ、面接とかは……ななななななしでいいですか?あ、胡散臭いとかなら喜んで今までの日々を綴った日記を渡しますけど!」
「いや、うん、大丈夫」
かなりの重症のようだ。とりあえず「あ」が多い。陰キャは会話の最初に「あ」がつくというのは本当なのだろうか?そもそも陰キャって何?
この一部始終を見てきためぐみんは大きなため息をつく。
「もういいです!仕方ないので私が仕切ります!いいですか、明日九時にここに集合ですよ!二人だけでは不安なので私もついて行きますからね!」
そう言って、めぐみんはギルドを出ていった。
なんだかんだ言って優しい。
「これがツンデレってやつか」
「ツンツンしてるように見えますけど、意外とデレ成分多めですよ」
「いいライバルだな」
「はい。めぐみんはバカなときもありますけど、紅魔族随一の天才と呼ばれたすごい子なんですよ?」
「ふーん…………」
そう言ったゆんゆんの顔は悔しそうな表情ではなく、自慢のライバルを誇る少女の顔だった。
「ちゃんと話せんじゃん」
「あっえっ、ああ!」
俺の言葉にゆんゆんは驚いたように視線をさまよわせる。道のりは長そうだが、ご丁寧に俺の飲み物を頼んでくれているあたりからまめな性格のようだし、大丈夫だろう。
「これからよろしくな、ゆんゆん」
「あ、はい!よろしくお願いいたします!」
ゆんゆんは恥ずかしそうに、俺の手を握った。
……ずっと最初に「あ」ついてたな。
翌日____
九時というニートにはキツい時間帯に俺はギルドへと来ていた。ああ、眠い。宿に戻ってもう一回寝たいと何度思ったことか。
「あ、ディーノさん!こっちです!」
中に入れば、既にゆんゆんがテーブル席でカードゲームをしながら待っていた。トランプタワーの出来具合からしてかなりの時間を注ぎ込んでいそうなのだが。
「一応聞くけど何時に来た?」
「六時に来ました!待たせたら悪いので……」
「そ、そっか……なんか……ごめん……」
三時間前とかドン引きである。
マジかよ……普通はギリギリまで寝るもんだぞ??俺なんて十分前まではベッドにいた。
こういう時の
ふと、あれだけ心配そうな雰囲気を漂わせていた中二病がいないことに気づく。
「あれ?めぐみんは?」
「めぐみんなら『ディーノが来るのは多分ギリギリの時間でしょうから、クエストはこちらに決めさせてもらいましょう』とか言って掲示板に……」
昨日知り合った仲だが、既にもう嫌な予感しかしない。慌てて掲示板の方向へ振り向くが、めぐみんは既に鼻息荒く紙を持ってくるところだった。遠目からでもかなり難しいクエストだと思うのだが……。
どうしよう。今からでも逃げるか?そんな思考がちらりと頭をよぎる。しかしそれではゆんゆんを裏切ることになってしまうので、腰が引けた。つまり、あの魔王にも恐れられるという頭のおかしい種族代表の紅魔族が選んだクエストを受けなければならないということ。やっぱり帰りたい。
「ああっ!タワーが!」
ゆんゆんが悲鳴をあげたが、俺とめぐみんは我関せず。俺はじっとクエストの紙を見つめる。
そこには『魔王幹部・デモンスライム「ハンス」の討伐』の文字が。
「さあどうです!?紅魔族随一の天才である私のチョイスは!」
「紅魔族随一のバカだと思うぜ」
「どこにお試しパーティーで魔王幹部を倒そうとする人がいるの!?ていうかタワー壊したこと謝りなさいよ!?」
めぐみんはどうだと言わんばかりのドヤ顔だが、魔王幹部とかオカシイと思う。
こいつ本当に紅魔族の天才なのか?
結局、森の近くで目撃証言が相次いでいるという黒豹こと初心者殺しを討伐することに決定した。かなりの強敵らしいが、紅魔族が二人もいるので大丈夫だとめぐみんが豪語していたので信じてみることにした。
「まずはコボルトやゴブリンを狩っていきましょうか。ゆんゆん、雑魚は任せますよ」
「ええ……なんでいつも私だけ……」
初心者殺しとはその名の通り駆け出し冒険者に恐れられるモンスター。ゴブリンなどの簡単な割においしいクエストの際に、油断している冒険者を襲うという狡猾なモンスター……らしい。
その初心者殺しをおびき出すにはある程度の雑魚を倒していかなければならない。面倒なことこの上ないが、その分報酬も上乗せされるので初心者殺しを倒せる冒険者にとっては意外と稼げるおいしいクエストだったりするのがこの依頼だ。めぐみんもこれを狙ったらしい。さすが知能が高いといわれている紅魔族だ、戦力を考慮した上でのクエスト選びである。
「ほら!今のうちにサッサっと狩っていってください!初心者殺しが目的とはいえ、こんなにおいしいクエストを見逃す訳にはいきませんからね!」
……もしかしたらお金にがめついだけもだが。
俺はそこら中に倒れているゴブリンを見て、少し微妙な気持ちになる。違う世界とはいえ、何となくテンペストのゴブリンがチラついてならないのだ。ああ、ケーキが食べたくなってきた。
そんな事を考えていると、めぐみんが絶叫に近い叫び声をあげる。
「来ました!出ましたよ!初心者殺しです!」
「ディーノさん!ボッーとしてないで早く戦闘に参加してください!」
ボッーとしてるとは失礼ではないだろうか。これでも援護はしていたというのに。罪悪感があるのでトドメは刺していないが。
俺がそんなことを考えている間に、初心者殺しは俊敏な動きで俺たちに近づいてくる。
「来てます来てます!初心者殺しは狡猾なモンスターですから、紙防御の魔法使いを狙ってきます!ディーノは少しでもいいので足止めを!私はその隙に詠唱を終わらせてぶっ飛ばします!」
「ちょっと待ちなさいよ!ここまで雑魚狩りさせといておいしいところだけ持っていくつもり!?私にやらせなさいよ!」
「いちいち茶々を入れないでください!ここはこの中で火力の高い私が相手をするべきです!」
めぐみんの指示にゆんゆんは不満の声をあげる。確かにゴブリン達を倒したのはゆんゆんだし、めぐみんはただぼーっとしていただけだ。それに、紅魔族的にもいいところを持っていかれるのはいただけないらしい。
「確かにめぐみんは心配でついてきただけじゃん。手柄と報酬を持ってかれるのはなんかヤダ」
「!?」
俺の言葉にめぐみんはぐるんっと、首がちぎれそうなくらいに思い切りこちらを向く。
1匹も倒していない俺が言えたことではないが、守れコラとか言われても(言ってない)はいわかりましたとはとはならない。
「何なんですか!二人とも協調性が無さすぎでしょう!ここは経験豊富な私が倒します!」
「あっ!逆ギレした!何よ、爆裂魔法しか使えないポンコツ魔導師のクセに!」
「ポンコツとは何ですかポンコツとは!爆裂魔法こそ最強の至高の魔法ですよ!これ以上侮辱することは許しません!」
喧嘩を始める二人にはめぐみんの言う協調性など一切感じられない。俺は睨み合う二人を傍観していると、初心者殺しがなんの
喧嘩をしていた二人もそれに気づいたのか、何も言わずに初心者殺しを見つめている。……片手で小突き合いをしてはいるが。
「……………」
初心者殺しは何も言わずにただこちらを見ているだけ。そいつからは敵意も恐怖も感じられなかった。あるのは理性というモンスターらしくもない本能。
涼しげな蒼色の瞳と目が合う。
やがて、初心者殺しは少しだけ尾を振るとゆっくりと森に去っていった。
………………………………。
……………………。
…………。
「クエスト失敗したらどうなるんだっけ」
俺は思わずポツリと呟いた。