ダンジョンに鈴屋什造がいるのは間違っているだろうか   作:グリル鍋

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 本編のスタートです! ダンまち本編一巻、外伝一巻の時系列から始まります!


第2話「【ガネーシャ・ファミリア】の問題児」

 

 

 

 

 昼前のギルド本部は存外に暇である。

 午前中とは言え、この時間帯にはほとんどの冒険者達がダンジョンに潜っているため、例えば窓口受付嬢などの職員は何気ない時間を持て余している。

 

 チラホラと姿を現す冒険者も居るには居るが、多くの場合が張り出されている冒険者依頼(クエスト)の依頼書とにらめっこをしていたり、担当アドバイザーとゆったり座学を行なっているため、ギルド職員が忙しなく業務に追われることはない。

 

 そして、ギルド本部内の『換金所』も同様だった。

 

 ダンジョンで入手したモンスターの魔石やドロップアイテムを換金する場所である。勿論、ダンジョン帰りの冒険者達がここへ訪れるのは日が暮れ始める時間帯であるため、例に漏れず換金所も暇であった。

 

 だが、そんな時——三人の冒険者が換金所の長台(カウンター)のもとへ姿を現した。

 

「はてさて、今回はどれくらいの額になるじゃろうか」

 

「例の芋虫のモンスターによってほとんどの物資がダメになったからな。赤字を出さないためにも、それなりの額を期待したいところだが……」

 

「魔石による収入よりも、ドロップアイテムの収入の方が期待できるけどね。そこはティオネ達が頼みの綱かな」

 

 大きな麻袋を肩に担ぐ大柄なドワーフに、翡翠の瞳を覗かせる美しいハイエルフ。そして、柔い黄金色の髪を靡かせる碧眼の小人族(パルゥム)

 

 【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロック。

 【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 【勇者(ブレイバー)】フィン・ディムナ。

 彼ら三人とも——オラリオ屈指の派閥【ロキ・ファミリア】を束ねる重要幹部達だ。

 

 都市中に名の知れている冒険者がやって来たことで、ギルド本部内の空気が少し変わる。

 それも当然のこと。彼らの【ファミリア】の到達階層は『深層』に至っており、オラリオ随一の実力を誇る最大派閥の内の一つなのだ。

 

「商会と同じように、ギルドとも換金額の交渉ができたらいいんじゃがのう」

 

「魔石を買い取るのはギルドだけだからな。競争相手が居ない以上、向こうも商談には乗ってこないだろう」

 

 髭を弄りながら呟くガレスにリヴェリアが指摘する。

 

 ドロップアイテムに限った場合は、ギルドの他にも商人や商業系【ファミリア】へ持ち込む手もある。一定の市場価値より更に高値で買い取って貰いたいのなら、商人達と交渉をする方がメリットは大きい。

 

 だが、魔石に関して言えば取引相手はギルドのみ。

 魔石を加工することで生産される魔石製品を輸出し、莫大な利益を生み出し巨富を築き上げている迷宮都市(オラリオ)。その実態は、ギルドが魔石の利権を独占している。

 

 売買を始めとした魔石の権利は全てギルドが掌握しているため、ギルドの他には取引先が存在しないのが事実だ。それ故に、ギルド側には魔石の換金額に関する交渉に応じる必要性が皆無なのである。

 

 そんな会話を交わしながら、ガレス達は魔石の入った麻袋を長台(カウンター)の上にドサリと置く。

 

 職員の女性が換金作業を始める中、ドワーフとハイエルフに対応を任せたフィンは、彼らの後ろで手持ち無沙汰に佇んでいた。

 

「——息災だったか、フィン」

 

「! ……シャクティか」

 

 背後から聞こえてきた声に、フィンが振り向く。

 そこに居たのは長身の麗人。藍色の短髪をしたその女性冒険者は、【ガネーシャ・ファミリア】の団長シャクティ・ヴァルマだ。

 

 過去の闇派閥(イヴィルス)との戦いで何度も協力してきた彼らは、既に親しい顔馴染みとなっている。

 心なしか久々に感じる旧知の顔を見て、フィンは柔和な微笑みを浮かべて湖面の様な碧眼を向けた。

 

「『遠征』から無事に帰って来たようだな。少し早い帰還に感じるが、首尾はどうだったんだ?」

 

「生憎と、到達階層は増やせなかったんだ。『異常事態(イレギュラー)』が発生したせいで泣く泣く撤退を強いられてね」

 

 そう言って肩を竦めるフィンに対して、シャクティはほぅと息を吐いた。

 

 あの【ロキ・ファミリア】が撤退を選択するほどの脅威が存在するという事実。新種のモンスターが現れたのか、それとも厄介な強化種が現れたのか。もしくはそれ以上の恐ろしい異常事態(イレギュラー)が発生したのか。

 いずれにせよダンジョンが秘めている底無しの『未知』に対して、シャクティは瞠目する。

 

「そっちこそ、一人で居るのは珍しいね」

 

「もうじき怪物祭(モンスターフィリア)が始まるからな。ギルドと連携して安全に行事を進行させるために、上層部と何度も打ち合わせをしている」

 

 怪物祭(モンスターフィリア)——年に一度、闘技場で開かれる大きな催し。

 迷宮から連れて来た凶暴なモンスターを【ガネーシャ・ファミリア】の調教師(テイマー)が相手取り、倒すのではなく、手懐けるまでの一連の流れ——調教(テイム)を観客達に披露するイベントである。

 

 その際、闘技場周辺の警備や客の誘導など、【ガネーシャ・ファミリア】はギルド職員と連携をとり環境整備を行う手筈になっている。モンスターを地上に連れる以上、都市の住民達の安全を守るために最大限の厳戒態勢をとる必要がある。

 

 そのため、打ち合わせは入念に行なっておくべきだというのがシャクティの考え。フィリア祭に対する厳しい目も多くある事実を考慮し、市民の安全を保障するため【ファミリア】の団員やギルド職員の配置は綿密に計画しなくてはならないのだ。

 

「そうか、今年もこの時期がやって来たか……君ほどの実力者なら、手懐け難いダンジョンのモンスターでも容易く調教(テイム)できる。僕には真似できない芸当かな」

 

「だが、ただ調教(テイム)をするのではなく『魅せる』動きをしなくてはならない。毎年やっていることだが、中々骨が折れる仕事だ」

 

 フィンの褒め言葉にシャクティは頭を振る。

 やりがいはあるが、容易ではないと長身の麗人は言葉を付け加えた。

 

「これから随分と忙しくなる。我々の【ファミリア】には厄介な()()()もいることだしな。気を引き締めていかねば、想定外のトラブルが起きかねない……」

 

「…………その問題児って——」

 

 フィンが言いかけると、『遠征』で入手した魔石の換金を全て終えたのか、金の入った布袋を持ったガレスとリヴェリアが戻って来た。

 

 「久しいなシャクティ」「調子はどうだ」と声をかけてくるドワーフとハイエルフの方を振り向き、シャクティは顔馴染みの友人達と言葉を交わし始める。

 その光景を見て、フィンは開いていた口を閉じた。

 

 とにかく、やるべき作業は果たした。

 

 『遠征』の後処理である魔石の換金の他には、ドロップアイテムの商談や事前に受けていた冒険者依頼(クエスト)の納品など、【ファミリア】の収入に関する仕事は様々存在する。

 

 特にティオネ達に納品を任せた【ディアンケヒト・ファミリア】の冒険者依頼(クエスト)は大きい。ダンジョン51階層の『カドモスの泉』から採取できる泉水を要水量届ける任務で、その報酬は二十もの万能薬(エリクサー)と、物資不足に陥った【ロキ・ファミリア】にとってはありがたい仕事だ。

 

 【ファミリア】のホームに帰って収支の計算をしなくちゃな——と、どうか支出が収入を上回ることを期待しながらフィンは頬を掻いた。

 

 

 ——すると、ギルドの出入り口が騒然とし始めた。

 

 ザワッと冒険者達の大きな声が聞こえてくる。換金所まで届く騒ぎの大きさに、何かあったのかと【ロキ・ファミリア】の幹部三人はそれぞれ顔を見合わせる。

 

 その場に居合わせたシャクティも加えて、四人の第一級冒険者達は換金所を離れ、騒ぎが起こっているギルドのロビーへ移動した。

 

 

   ◆◆◆

 

 

「——だからよ、コイツに獲物を横取りされたんだよ!」

 

 怒りの感情を露わにして怒声を上げる冒険者。

 どこかの【ファミリア】のパーティなのか、複数人の男女を引き連れている。装備が心許ないところから、彼らは『上層』を探索する駆け出しの冒険者パーティであることが窺える。

 

 恐らくはそのパーティのリーダーであるヒューマンの男が、ギルド内のロビーの一角で声を張り上げていた。

 

「横取りなんてしてないですよ、間違って倒しちゃっただけじゃないですか〜」

 

「うるせえ! どこから現れたのか知らねえが、魔石ごとモンスター共を倒しやがって……!」

 

 見ると、憤慨している男性冒険者の隣に——白髪の少年が、迷惑そうに眉を顰めて文句を垂れていた。

 

 ボサボサの白髪、その前髪には『ⅩⅢ』の形をしたピンが留められており、その大きな瞳の目元には不健康そうな隈が見られる。

 何より——首元や右腕の″縫合痕″が酷く目立っている。怪我をしている訳ではないようだが、その縫い目は見るからに痛々しい。

 

 

 ——フィンやシャクティ達がロビーに駆け付けた時には、既に彼らの口論が始まっていた。

 

「ダンジョン内での獲物の横取りはルール違反だ! 冒険者なら常識だろ! テメェの【ファミリア】でもそう教えられてる筈だ!」

 

「だからこうして謝ってるじゃないですか、僕」

 

 白髪の少年はそう言うが、両手をポケットに突っ込みどこか気の抜けた表情を浮かべている。とても謝罪の態度には見えない。

 更に、少年はフア…と大きく欠伸をした。その様子を見て男性冒険者の額に青筋が立ったのは、仕方のないことだろう。

 

「どこの【ファミリア】だ、教えろ! こうなったら文句の一つや二つ言ってやらねぇと気が済まねえ!」

 

「【ガネーシャ・ファミリア】です」

 

「嘘つけッ!! 不審者みたいなナリのテメェが【ガネーシャ・ファミリア】の団員なわけねえだろ!」

 

「ホントですよぉ、今すぐ確認してみてください」

 

 少年の態度もあり、言い合いは更に加熱する。

 

 その男性冒険者と同じパーティの仲間達は、目の前で繰り広げられている口論を心配そうに眺めている。

 ギルド内に丁度居合わせた他の冒険者達も、彼らの諍いを止めずに傍観していた。面白そうな喧嘩は手を出さずに観戦するのが、この都市のセオリーだからだ。

 

 そして、それを見ているフィン達はというと——彼らも同様に、別段手を出さずに成り行きを見守っていた。

 

「気性の荒い冒険者は困りものだな……。身に付けている装備からして、オラリオに住み着いたばかりの冒険者に見えるが」

 

「この都市にやって来る者は大体が野心家じゃ。気性が荒いのも仕方ないじゃろうて…………それに、()()が噂の【ガネーシャ・ファミリア】の問題児か」

 

 リヴェリアとガレスが言葉を交わし合う。

 その隣に立っているフィンは、ガレスの言葉を聞いて——白髪の少年の方に視線を移した。

 

 とても冒険者とは思えない華奢な体つき。

 まるで人形のように整った顔立ちは、一瞬少女と見紛うほど。肌も白く、屈強な冒険者のイメージと程遠い。

 

 防具は身に付けておらず、ラフな格好の衣服に身を包んでいる。「もしかしてこの格好でダンジョンに潜っていたのか?」とフィンは自身の双眸を眇めた。

 

 隣にいるシャクティはどんな顔をしているのか——そんな風に思ったフィンは、チラリと横を見やる。

 

「………………」

 

「…………シャクティ?」

 

 藍色の短髪をした麗人は、その表情を顰めていた。

 更に、心なしか不安そうに眉根を寄せるシャクティの様子を見て、フィンは思わず名前を呼ぶ。

 

 フィンの呼びかけに応えることなく、シャクティは早歩きで少年のもとへ向かった。

 

 

「全く……絶対謝ってくださいよ。【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者だって、ずっと言ってるんですから。絶対ですからねぇ?」

 

「分かったっての! ったく……それが嘘か本当かなんて、聞いてみりゃ直ぐに分かることだからな」

 

「ちょっと間違えて倒しちゃっただけじゃないですか……僕だってギルドのために働いてるんですからね? 分かってますう? モンスターを横取りしたぐらいでグチグチと……」

 

「分かってるっつってんだろッ! グチグチうるせえのはテメェの方だ!」

 

 険悪な空気が漂う中——ヒューマンの男性冒険者が率いるパーティ、そして白髪の少年が、受付の窓口の方へ移動する。ギルドの職員に少年の所属【ファミリア】を聞くつもりなのだろう。

 

 この男性冒険者は、一つ勘違いをしていた。

 オラリオに来たばかりの駆け出し冒険者である彼らは、オラリオの情勢についてはあまり詳しくない。故に、その白髪の少年の所属【ファミリア】を知らなかった。

 

 知らないが故に、少年の言葉を嘘だと決めつけ信じなかった。それがこの男性冒険者の勘違いであり、失敗だった。

 

「——すまない、()()()が世話になったらしいな」

 

 横からそう声をかけたのは、怜悧な面差しの麗人。

 身に付けている装備には像の顔のエンブレムが刻まれており、紛うことなき【ガネーシャ・ファミリア】の団員であることが直ぐに分かる。

 

 そうして、派閥の団長である【象神の杖(アンクーシャ)】シャクティ・ヴァルマが、彼らの前に姿を現した。

 

「私は【ガネーシャ・ファミリア】の団長だ。そこの馬鹿がまた何かやらかしてしまったか」

 

「あんたは…………な、何だ、本当だったのか……」

 

 現れたシャクティの姿を見て、先程まで憤っていた男性冒険者は驚いたように目を見張った。

 それに対して白髪の少年は「だから言ってるでしょう」と口をすぼめながら不満そうに文句を垂れている。

 

「いやぁ、すいやせん。まさか本当に【ガネーシャ・ファミリア】の団員だったとは……」

「いや、そちらの判断は間違っていない。こんな怪しい奴は疑って当然だ」

「しかしねぇ、急に飛び出して来て獲物を横取りされたもんですから……」

「それに関しては本当に申し訳ない。後で我々の方から厳しく言って聞かせておく」

 

 第一級冒険者の登場に、男性冒険者の怒りが徐々に鳴りを潜める。声量も少し下がっていた。

 

 オラリオで随一の規模を誇る【ファミリア】で、更にその団長が出て来れば、駆け出しの冒険者は否応なしに萎縮してしまう。いくら怒りを覚えていても、自然と態度が軟化し始める。

 

 そして、申し訳なさそうに頭を下げるシャクティの姿を見て、毒気を抜かれた男性冒険者は何とか溜飲を下げるに至った。いや、溜飲を下げざるを得なかったと言うべきか。

 

「そして……什造、お前は何をやっていたんだ」

「暇潰しにダンジョンに潜ってました」

「……【ファミリア】の防具はどうした。エンブレムを見せていればこんな揉め事は起こらなかったろう」

「あれ重いので脱ぎました」

 

「私はあまり顔を合わせたことがないが……中々に破天荒な性格だな、あの什造という冒険者は。流石のシャクティも手を焼いている様に見える」

 

 事の成り行きを見守っていたリヴェリアは、ふとしてそう呟いた。まるで宝石の様に美しい翡翠の双眸が、白髪の少年——什造の姿を捉える。

 

「それに、あの縫合痕……痛々しくて見ていられない。まともとは思えん」

 

「ピアスや刺青の類ではないのじゃろうが……」

 

 リヴェリアの言葉にガレスは目を細める。

 自身の髭を片手で触りながら、団長に叱られている什造の姿を見つめた。

 

 

 何はともあれ、なんとか怒りを沈めることができたその男性冒険者は、溜息を吐いてその身を脱力させる。

 

「やれやれ…………」

 

「…………」

 

 ジロリと、隈を伴う大きな瞳が男性冒険者を見抜く。

 

「——「やれやれ」でなく」

 

 怪しい微笑を浮かべる什造は、ズイッと目の前の男性冒険者の顔を覗き見た。

 

「ねえ、僕ホンモノの【ガネーシャ・ファミリア】の冒険者だったでしょう? 約束ですよね? 謝ってください」

 

「…………いや……確かに俺も悪かったが、そっちも悪いところはあるだろ。……そんだけ大きい【ファミリア】んとこの団員なら、もっと相応しい身なりに整えた方がいいんじゃないのか?」

 

 ばつが悪そうに顔を顰めて言う男性冒険者。

 確かに彼の言う通り——現在の什造の身だしなみは、『オラリオの憲兵』とも名高き【ガネーシャ・ファミリア】に関わる人物には到底見えない。

 

 どちらかと言えば、冒険者ではなく浮浪者にさえ見える。屈強で健康的な冒険者とは正反対の相貌を鑑みるに、その男性冒険者が什造を疑うのも無理ない話だ。

 

 ——しかし、ギルド内の空気は異様だった。

 

 まるで死に急ぐ者を止めるかの様に、周囲の冒険者達が不安そうな眼差しで彼のことを見つめている。それは、決して彼を擁護する目ではなかった。

 近くに立っているシャクティも「ソイツにはあまり構うな」と焦燥の色を浮かべて呼びかける。

 

 そんな周りの反応に男性冒険者が疑問を抱いていると——その時は訪れた。

 

「——!?」

 

 唐突に彼の頭を腕に抱き、その耳の穴に自身の舌をヌロリと入れ込む什造。

 「なっ……!?」と短い悲鳴を上げる男性冒険者を無視し、什造はそのままプクッと頬を膨らませる。

 

「馬鹿ッ! 何を——」

 

 シャクティが止める暇もなく。

 そして、噴射。

 勢いよく空気を耳の中に吐き出した瞬間、パンッと軽い破壊音が鳴り響いた。

 

「ぎゃッ……あああああああああああッッッ!!!」

 

 白目を剥いて叫び声を上げるヒューマンの男、そして続けてズルルと何やら吸い込んでいる白髪の少年。

 

 その光景に、シャクティは顔を一気に引きつらせた。

 

 「こりゃいかん!」と走り出すガレスに、リヴェリアとフィンも血相を変えて走り出す。什造に傷害を加えられた男性冒険者の応急処置にあたるべく、彼らの元へ急いで向かった。

 

 ——ギルド内が騒然とし始める。

 

 事務スペースで作業をしていたギルド職員達が、盛大に顔を顰めながらバタバタと動き回り始めた。その男性冒険者と同じパーティの仲間達が青ざめ、周囲で傍観していた他の冒険者達も、什造の奇行を目の当たりにして流石に顔を顰めていた。

 

 男性冒険者は力なく床に倒れ、体を痙攣させている。

 そんな中、什造はコリコリと肉の塊を咀嚼し、

 

「べっ」

 

 血塗れの肉の塊を床に吐き出す。

 

「あーやっぱり耳がお腐れのようですねえ、くさし」

 

 鼻を摘みながらそう言う什造は、続けて「こりゃもう駄目です、廃棄!」と()()を勢いよく踏ん付けた。

 その表情に罪悪感は一切ない。道端の虫でも踏む様に、什造は平然としてグリグリと踏み付けていた。

 

「この馬鹿者がッ!! こっちへ来い什造!」

 

「イテテ、何を怒ってるですか」

 

 険しい顔で声を張り上げるシャクティに腕を引っ張られ、什造はキョトンとした表情を浮かべる。

 

 そして、フィン達三人は床に倒れ伏せている男性冒険者のもとへ駆け寄った。

 彼の傷の処置をするべく、リヴェリアが回復魔法を用いて応急治療に取り掛かる。

 

「リヴェリア! 早よう治してやれ!」

 

「……いや、駄目だ! 傷が複雑過ぎる……! 【ディアンケヒト・ファミリア】の治療にあたらせた方が早い!」

 

 ただ傷口を塞ぐわけではなく、鼓膜という耳内部の複雑な器官を修復させなくてはならない。専門的な治療術が必要になってくるため、リヴェリアは自分よりも医療に精通している【ディアンケヒト・ファミリア】に任せた方がいいと判断した。

 

 そんな中——リヴェリアやガレスの隣にしゃがみ込んだフィンは、その理知的な碧眼を各々に向けて口を開く。

 

「——ガレス、彼をアミッドの所へ連れて行ってやってくれ。リヴェリア、君はお金を持って先にホームに帰っておいていい。もうじきラウルやティオネ達も戻って来る頃だろう」

 

「! 分かったが、フィン……お前は?」

 

「この場の後処理を手伝うついでに……()を観察しておきたい。あの少年は、僕が思っている以上に問題のある人物らしいからね」

 

 リヴェリアの問い掛けにそう答えたフィンは、チラリとある場所へ視線を移す。

 

 倒れた男性冒険者から少し離れた場所で、シャクティがその怜悧な顔立ちを歪ませて叱りつけている。

 ガミガミと説教を食らっている什造は、怒られているのが不満なのか、口をすぼめて目を逸らしていた。

 

「(——噂はかねがね聞いているが…………やはり曲者(くせもの)か、スズヤ・什造)」

 

 小人族(パルゥム)小さな瞳が——しかし油断なく見据えられたその鋭い眼差しが、什造の姿を捉えていた。

 

 

 

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