ナリタブライアン -轟轟・阪神大賞典1996-   作:巻野ぐるぐる

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第1話_ナリタブライアン

 ナリタブライアン三連敗!

 三冠はかつての栄光か。

 時代は次の世代へ……

 

 有馬記念の翌日、そんな見出しの並ぶ新聞を読みながら、ブライアンは嘆息した。ここまで負け込むのはデビュー直後以来のことで、新聞各紙も動揺しているようだ。

 紙面には不調の原因や復活時期を推測する記事が並べられている。一応専門家のコメントなども掲載されているが、毎日ハナからフィードバックを受けているブライアンにとってはあまり参考にならないものばかり。もう一度ため息を吐くと、今度は横から不機嫌そうな声が飛んできた。

 

「やめんか辛気臭い」

 

 声の方を見ると、左耳に黄色の飾りを付けたボブカットのウマ娘が腹立たしそうな顔で立っていた。彼女の名はエアグルーヴ。ブライアンと同じく生徒会で副会長を務めており、レースも学業も完璧にこなす逸材だ。

 

「珍しく生徒会室に来たかと思えば仕事もせずに新聞ばかり読みおって。休養明けに二度や三度負けたくらいで何を引きずっているのだ」

 

 エアグルーヴに説教され、ブライアンは顔をしかめる。

 

「別に引きずってはいない。終わったレースに興味はない」

「ならため息を吐くな」

 

 エアグルーヴは頭の固いところがあり、他人に対して立場相応の振る舞いを求めるきらいがある。実際正論ではあるのだが、目を付けられるとなかなか面倒くさい。

 そんな副会長たちを見かねてか、生徒会室にいるもう一人の人物が声をかけてきた。

 

「エアグルーヴ、そんなに責めてやるな。敗北も経験だ」

 

 生徒会長、シンボリルドルフ。無敗の三冠を含むGⅠ7勝を挙げた最強のウマ娘。冷静沈着だが親しみやすさのある、トレセン学園のリーダーだ。

 エアグルーヴもルドルフには頭が上がらない。会長がそう仰るなら、と引き下がった。

 

「ブライアン、君は焦りすぎだな」

 

 静けさを取り戻したのも束の間、今度はルドルフがブライアンに話しかけてきた。

 

「……焦りもするさ。私は今の自分が我慢ならない」

「だからと言って闇雲に行動するのは推奨しない。不撓不屈、苦しい時こそ我慢が必要なものだ」

 

 そういうものだろうか。ブライアンにはわからない。

 我慢の先に勝利があるというのなら、いくらでも我慢できる。だが今のブライアンはかつてないほどの勝利への渇望、癒えない『渇き』を抱えており、それが肌を焦がすような焦燥感を加速させていた。

 しかし実際、ブライアンにできることは多くはない。簡単に復活する術があればとっくに実践しているし、珍しく新聞など読んでみたが収穫ゼロ。そもそもメニューを考えることすらブライアン本人ではなくトレーナーであるハナの仕事だ。

 だから結局、ブライアンにできることはひとつだけ。

 

「……走ってくる」

 

 燃えるような『渇き』を糧に、自身の走りを完成に近づけることだけだ。

 

「おい待て。仕事をしに来たのではないのか」

「そうだ、走ってくるといい。君の仕事は私が代わりにやっておこう」

「会長!?」

 

 背後からエアグルーヴの制止の声が聞こえたが、会長の言葉に甘えて無視させてもらう。

 そのまま生徒会室の扉に手をかけようとしたところで、突然その扉がバンと開け放たれた。

 

「おっはよー!カイチョーいるー?」

 

 子供っぽい声でそう言いながら、青い瞳を輝かせた背丈の小さいウマ娘が生徒会室に入ってきた。

 ブライアンの中で、昨日見たビデオと目の前のウマ娘の姿が重なる。トウカイテイオー、奇跡の復活を遂げたウマ娘だ。

 

「おはようテイオー。今日も元気だな」

「えへへー、ボクはいつでも元気だよ!」

 

 テイオーはそのままルドルフの元へ直行しようとする。

 しかしブライアンは、彼女の襟首を掴んでそれを止めた。

 

「グエッ、な、なにするのさ!?」

「お前、ちょっと来てくれ」

「エッ!?なになに!?ボクはカイチョーに会いに来たんだけど!?」

 

 そのままテイオーをずるずる引きずるようにして、二人で生徒会室を後にした。

 

 

  □■□

 

 

「チョット、いったいなんなのさ!」

 

 抗議の声を上げるテイオーを、生徒会室から少し離れた廊下の端で解放する。

 

「すまないが少し時間をくれ。お前に聞きたいことがある」

「聞きたいこと?」

 

 ルドルフから引き離されたことがよほど不満なのか、こちらにジト目を向けてくるテイオーに対し、ブライアンは率直に、シンプルに、渇きを癒す方法を問いかけた。

 

「私は、どうしたらお前みたいに復活できるだろうか」

 

 ブライアンから真剣な雰囲気を感じたからだろうか。さっきまで騒いでいたテイオーが急に静かになった。

 少し考えた後、テイオーが口を開いた。

 

「ボクは……」

 

 しかし、テイオーから答えが告げられる前に、そいつはやって来た。

 

「テイオーちーん♪」

 

 いったいどこから現れたのか、橙色の髪を二つに結んだ小柄なウマ娘が、テイオーに抱き着いてきた。

 そのウマ娘を見て、ブライアンは目を見開いた。そのウマ娘には見覚えがあった。特に、後姿が強烈に目に焼き付いている。

 

「マ、マヤノ!?」

 

 急に抱き着かれて驚いた様子のテイオーが、彼女の名前を叫ぶ。

 マヤノトップガン。ナリタブライアンを下し、今年の有馬記念を制したGⅠウマ娘だ。

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