夢魔が生きるオーバーロード   作:アルトリア・ブラック(Main)

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カッツェ平野での戦いです。今回はガセフ、アインズ、ケイとマーリンが出て来ます


第10話『戦争の開幕』

ーガセフー

 

ガセフは門をくぐり、外周部の駐屯場所に到着すると深呼吸を一つし、体内に宿った精神的疲労を吐き出す。

 

(…本当に疲れた…)

 

自分が所詮は平民だと強く実感するのは、先程のよような会議に参加した時だ。

 

王のそばに侍り、貴族の社会を見て来たことによって、彼らの考え方は理解出来るようになってきた。

 

しかし、それでも貴族社会で生まれ育った者にしか分からない対応や思考などは頻繁に現れ、そういった時に彼らは何故そのようなことを考えるのかと思うことがある。

 

(…しかし、何故、自らの民よりも己の誇りを優先するのだろうか…)

 

ガセフは周囲に視線を走らせる。

 

騒がしく動き回る兵、様々な村から戦うために集められた王国の民達。

 

(…彼らを守ることが、上に立つ者のすべきことではないのか…)

 

ガセフは歩きながら脳裏に異様な仮面を被ったアインズ・ウール・ゴウンの姿が思い浮かんだ。

 

彼がカルネ村を助けてくれた時の事を思い出す。

 

彼は陽光聖典と戦って苦戦した様子は何もなかった。

 

「糞!!」

 

自分の考えがまとまらず、ガセフは吐き捨てる。

 

どうすれば良いのか答えは出ない、迷いは戦場において死に繋がる。

 

特に相手はアインズ・ウール・ゴウンだ。

 

ガセフは村を救ってくれた魔法詠唱者が戦う姿を確かに見てはいない。

 

彼自身も勝利したと言わず、逃げられたと言っていた。

 

しかし、その言葉が嘘であることは誰にだって分かる。

 

「そういえば、何故逃げられたとあの御仁は嘘をついたのだ…分からん」

 

ガセフが敗北した相手を無傷で殲滅すること魔法詠唱者。

 

それは一体どれほどの強さを持っているのだろうか

 

ガセフは視界の隅に白色の金属鎧を着た青年の姿を捉える。

 

そして、その横には飄々とした剣士・クライムとブレインだ。

 

「ガセフ」

 

「ストロノーフ様!」

 

先に気づいたのはブレインで、クライムはやって来たガセフを見て頭を下げる。

 

「集まって何をしていたんだ?」

 

「例の神人二人の話を聞いてたんだよ」

 

「例の神人二人?」

 

スレイン法国の使者でもきたのかと思ったが、王のそばに侍っていてもその話題は上がって来なかった。

 

「アルトリア・ペンドラゴン様と千子村正様の事です」

 

クライムの言葉に「あぁ」となる。

 

第二王子・ザナックとレエブン候が会談したという話をしていたのを思い出す。

 

「なんだ、王さまから聞いてないのか?ガセフ」

 

「貴族会議の話で王は疲弊されておられた。故にその話題は議題に上がらなかったな」

 

そう言うとブレインが『それは大変だったな』と返す。

 

「それで、かの御二人は何を言っていたんだ?」

 

「…今の王国の現状を鑑みれば帝国のように強くなるのは数百年を要すると言っておられました。それに、マーリン様は王国に関しては関心がないようで、今回の戦争も静観されるおつもりとのことでした」

 

「そうか…やはり、あの御仁は出て来ないか…」

 

マーリン卿は唯一と言って良いほど帝国の内情にも王国の内情にも触れられる存在だ。

 

しかし、近年、マーリン卿が動けばアーグランド評議国の白金の竜王も動いているのを見たので、恐らくは戦争に行けないのだろう。

 

「そもそも、マーリン卿が動いたところで貴族達は『たかが魔法詠唱者一人味方に入れたところで』とか言いそうだな」

 

ブレインの言葉に苦笑いする

 

マーリンとアインズ・ウール・ゴウンは旧知の間柄だろう。

 

ゴウン殿が会いたそうにしていた反面、マーリン卿は会いたくなさそうな顔をしていたのを思い出す。

 

彼らとの間に何かあったのかもしれないが、それを詮索するのはやぶさかだろう。

 

三人で高台に移動すると、この戦いが終わった後の話になる。

 

「王都には美味い飯を出す酒場がある。この戦争が終わったらそこで打ち上げをやるか」

 

「戦勝を祝してだと嬉しいもんだな」

 

ガセフの横にブレインが並び、同じ方角に目をやった

 

「クライム君は飲めるのか?」

 

王国には飲酒に関する規則はない。しかしながら10代半ばの若造に酒を出す主人はいない。

 

「いえ、飲んだことがないので分かりません」

 

「そうか、なら飲んでみると良いさ、その内付き合いで飲む時だってあるだろうしな」

 

「そうだな、その前に一回酔うということの感覚を覚えるのも悪くないな」

 

「分かりました。ではご一緒させてください」

 

「よし、また三人でここに無事で集まるとしよう」

 

ガセフが言うとクライムとブレインが頷き返した。

 

 

 

 

 

 

 

ーカッツェ平野・帝国陣地ー

 

「魔導王閣下に対し最敬礼!!」

 

騎士達の幾多の返事が重なり、一斉に最敬礼を取る。

 

「歓迎感謝する」

 

「ここより野営していただく場所まで、私ニンブル・アーク・ディル・アノックとケイ・ペンドラゴンがご案内させて頂きます」

 

「そうか、いろいろと迷惑をかけると思うが、よろしく頼む」

 

「畏まりました。それで、こちらが今回の帝国軍の総指揮官であるカーベイン将軍です」

 

「カーベインと申します。アインズ・ウール・ゴウン魔導王閣下、何か駐屯基地のことでお困りのことがございましたら、即座に対応致しますので、何なりと申し付けてください」

 

そう言ってケイが「よろしくお願いします」と言う。

 

帝国の中で唯一、アインズ・ウール・ゴウンに対抗できる存在。

 

「忘れていたことがあった。今回の戦争は私の魔法を開幕の一撃とするという手筈だが、この際、私の軍も一部参陣させてもらおうと思ってな。その許可を頂きたい」

 

「それはこちらとしては願ってもないこと……しかし、早ければ明後日には戦端が開かれますが…」

 

「問題ない。聞こえるかシャルティア、私のいる場所に《転移門》を開け、そして、兵をこちらに送るのだ」

 

言葉が終わるのと同時にどよめきが起こった。

 

アインズの背後に黒い半球のようなものが浮かび上がったのだ。

 

 

 

 

 

マーリンはあれから連絡がなく、今回の戦争には深入りしないと言ったのを思い出してケイはため息をつきたくなる気持ちを堪える。

 

魔導王のテント前にいる手前、下手なことをしたら首が飛ぶかもしれないのだ。

 

(…あのダークエルフ…子供の見た目なのになんであんな強いんだよ…)

 

確か、マーレと呼んでいたが、見た目で騙されやすいが、アレは気が弱いようなフリをしているだけで、実際の所の性格は残虐そのものだろう。

 

テント前で待っていると…

 

「あ、あの、アインズ様が呼んでます」

 

マーレの言葉に『失礼します』と言って入る。

 

「急に呼んですまない。要件という要件はないのだが、戦が始まるまで少し話をしないか?」

 

「話ですか?(めんどくせぇ…)」

 

下手に断ったら面倒なことになるのが目に見えていたので、話を待っていると、マーリンの話をしてくる。

 

「…マーリンについてですか…」

 

呼び捨てにした瞬間、マーレから殺気が出てくるが、それを見てアインズは咳払いをしていた。

 

(…アイツに様付けしたくないしな…)

 

話して良いことなのかは分からないが、いつまでも引き篭もっている夢魔に少しだけ嫌がらせをしたくなる。

 

「マーリンは確かに魔法については才能があり、私の妹が現在も魔法の勉学を教わってますね」

 

「ほぅ、妹さんがいるのか」

 

「はい」

 

「その妹さんは魔法詠唱者かね?」

 

「魔法詠唱者ですよ、少なくとも私より数十倍強いですね、マーリンは『この世界で初の100レベル!さすがアルトリア!』とか叫んでましたね」

 

「ひゃく…?」

 

何かに驚いたのかアインズが呟く

 

話をしていると、最終勧告が終わったとのことでアインズと共に戦場へと向かう。

 

アインズと共に戦場に出ると…

 

魔法陣を展開したアインズは辺りを見渡していた。

 

 

 

 

(…いないな)

 

アインズは魔法陣を展開しながら、そう判断する。

 

王国軍にプレイヤーはいない、と

 

ユグドラシルにおいて超位魔法は強大だ、そのため、超位魔法を発動する人間を最初に叩くべく行動するのが基本だ。

 

「…もはや、囮になる必要もなしか」

 

マーリンさんはきっとこの戦いを見ているだろう。

 

王国に打撃を与える事が出来れば、魔導国が誕生すればマーリンさんはきっと帰って来てくれるだろう。

 

「楽しみだ。ああ、楽しみだ」

 

動き出す王国軍に目を向ける。

 

これから、彼らを殺す

 

そのことに自分はおそらく何も感じないだろう。

 

蟻を潰したような、そんな感覚になるだけだろう。

 

アインズは手の中にある砂時計を砕く

 

「《黒き豊穣への貢》!!」

 

黒い息吹が王国軍左翼の陣地を吹き抜けた。

 

そこにいた王国軍左翼七万。

 

その命は全て、奪われた。

 

 

 

 

 

「……!」

 

何が起こったのか、それを瞬時に理解出来たケイは褒められるべきだろう。

 

マーリンの元で教わって来た中でも、あんな凶悪な技は見なかった。

 

いや、マーリンの場合は凶悪な技を持っていたとしても、使う必要性を感じないのだろう。

 

王国軍左翼を構成していた人間と、馬も含めて今が切れたように地に転がったのだ。

 

「ば、馬鹿な…」

 

帝国最強の一角である四騎士の一人・ニンブルですら、あまりの恐怖にガチガチと歯を鳴らしながら無人の陣地と変わった王国軍左翼を見る。

 

「どうした?」

 

「ひぅ!」

 

情けない声を上げるニンブルと打って変わり、ケイはなんとか深呼吸をしたアインズの方を見る。

 

「素晴らしい魔法でした」

 

本心からそう思っているわけではない。

 

少しでも機嫌を損ねる事を言えばどうなるか分からない。

 

幸いにも、アインズは『マーリンさんの教え子を殺したりはしない』と言ってはいたが、何処まで真実かは分からない。

 

信用しない方が得だろう。

 

「ははは!!」

 

「……何か、ご無礼を…?」

 

ケイの気持ちは早く帰りたかった。

 

マーリンから教わった恐怖心への対策がなければ漏らしていただろう。

 

「いやいや、違う違う。素晴らしい魔法でした、そう言ったな?」

 

「はい」

 

「そんなに警戒しないでくれ、マーリンさんからは教わらなかったのか?」

 

「…この魔法は…聞いたことがありませんでした」

 

「そうか、そうなのか、まぁそんなに警戒しないでくれ。そうだな、この魔法はマーリンさんも知っているが習得していない魔法である。これからが本番なんだ、黒き豊穣の母神への贈り物は、子羊達と言う返礼を持って帰る。可愛らしい子羊達を持ってな」

 

「メェェエエエ!、!!」

 

山羊の鳴き声が、その亀裂から漏れ出る。

 

山羊の可愛らしいく、同時に気持ち悪いぐらい可愛らしい鳴き声が響き渡る。

 

「素晴らしい。最高記録だ、おそらく五体も召喚出来たのは私しかいないぞ?これは本当にすごい!やはり、あれだけ死んでくれたのには感謝しなくてはならないな」

 

人の死を何も思っていない言葉にケイは『あぁ、やっぱりあの夢魔と同じだな』と感じ取る。

 

「おめでとうございます!!さすがはアインズ様!!」

 

「ありがとうマーレ」

 

「……おめでとうございます」

 

「ありがとう」

 

 

帝国騎士達の鎧がガチャガチャという音が響き始める。

 

騎士達の体が震えているのだ。

 

その場にいたすべての騎士達が想いをひとつにした。

 

【アインズ・ウール・ゴウンの力が自らの上に落ちてこないことを】

 

 

 

 

 

 

 

ーマーリンー

 

「……人の気持ちを忘れたのはお互い様だとは思っていだけど、まさかそこまでとはねぇ…」

 

マーリンは幽閉塔の中で戦争の様子を見ていた。

 

「…こ、こんなことが…」

 

「…一方的な虐殺だな」

 

虐殺の様子を見ていたのはアルトリアと村正であり、オベロンは寝そべりながら「蟻がいっぱい逃げてる〜」と感心なさげに言い、モルガンは黙って映像を眺めていた。

 

マーリンは席から立ち上がると、花畑が見える方向に歩き始める。

 

「…どうしたものか」

 

そう悩むマーリンの横に珍しくオベロンがやってくる。

 

「八欲王の時みたいにやらねぇのか?」

 

「………」

 

「きれいな絵が汚れてるが、良いのかこのままで」

 

「…今日はよく喋るねぇ」

 

柵の所に寄りかかる。

 

「そりゃあ、楽しそうな展開になって来てるからな」

 

オベロンは笑いながら『で?どうすんの』と聞いてくる。

 

「…どうしようかなー…」

 

王国が滅びるのは時間の問題だろう。

 

彼らを守るつもりはないが…

 

「……このままだとだいぶヤバいよねぇ」

 

「そりゃあ、人間を良くてペット悪くて家畜扱いしている奴らだからなぁ」

 

愉快そうに嗤うオベロンにマーリンは苦笑いを浮かべる。

 

「…やるしかないなぁ」

 

花畑から視線を空に向ける。

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