嫌われてしまったとしても   作:アルル・

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壱話

……私は嫌われている。この世界に転移した毒友による私の良くない噂は否定しても無駄だったので放置した結果鬼殺隊のほとんどに広まった。ほとんどの隊士がそれを信じ私は嫌われた存在になった。……柱である彼らにも。でも、たとえ嫌われたとしても私は……私は彼らを救いたい。鬼のいなくなった、夜を厭うことのない日々を過ごしてほしいと思った。だからその日を目指して今日も刀を振るう。

 

******

 

「ねえ、結衣課題ノート見せてー‼︎」

「はあ?また?自分でしなきゃ身に付かないでしょ」

「いいじゃん‼︎」

 

そう言って千里は私からノートをひったくると写し始めた。千里はいつもこうだ。別に写すのは構わないがそれが毎回だと流石に嫌になる。拒むと無理矢理ひったくるし。それを回避しても今度は泣き喚いて周囲を味方につける。千里は私と違って可愛らしい庇護欲を掻き立てられる容姿をしている。しかも演技が上手い。そのせいで周囲の男どもはもちろん、女友達でさえ嘘泣きする千里の味方になって私はいつも周囲から孤立した存在になっていた。それでもめげずに友達や彼氏をつくったことがあったがその人たちも千里が私の嘘の悪口を吹き込むせいで離れていった。縁を切るために千里に教えずに県外の大学に行ったのに何の執念か大学にまでついてきた。わかったことは千里は何故か私が幸せになるのが許せないらしい。だから私の人間関係をぶち壊しているらしい。……ほんと迷惑。ああ、どこか千里のいない遠いところに行きたい。そんなことを考えたからだろうか。この後私は寄っていたコンビニに居眠り運転で突っ込んできたトラックに潰されて死んだ。……そして目が覚めたら白い場所にいた。

 

******

 

「何処よここ」

 

いや、マジで。私は死んだはずだよね?

 

「お主災難だったのー」

 

声のする方に振り向くと白いローブを着た老人が立っていた。

 

「誰!?」

「神様じゃよ⭐︎」

 

軽っ‼︎ノリが軽い‼︎

 

「お主本当は死なんはずじゃったんじゃよー。本来なら大往生するはずじゃったんじゃよー。他の神がお主といつもお主といた……ほら、千歳とかいう」

「千里ね」

「そうそう、そのおなごと間違えたんじゃよー。あの事故本当は明日起こるはずじゃったんじゃよー」

 

ウッソでしょ⁉︎私間違えられて死んだの!?ショックで膝をついた。orzの体勢に。

 

「可哀想じゃからのー、別の世界に転生させてやるぞい⭐︎」

相変わらず軽いノリで提案してきた。

「そこはのー、そこそこヤバめじゃからのー、神様権限でちーととやらをやるぞい⭐︎……ほいっ、医学知識と技術詰め込んで肉体も努力すれば限りなく強化できるようにしたぞい⭐︎第六感も鋭くなったはずじゃ。おまけにスタイルも良くなるようにしてやったぞい⭐︎」

 

最後のおまけ何気にありがたい。……いや、神様がここまでするんだ。それほどやばい世界なら気を引き締めないと。

 

******

 

飛びに飛んで現在転生してから10年が経った。今私は何しているかというと5歳の頃に捨てられてから鱗滝左近次さんの元で生活している。……うん、そう鬼滅の刃の鱗滝さん。この世界鬼滅の刃の世界だった。鱗滝さんに拾われて気付いた。ちなみに捨てられたのは容姿と幼子にしては化け物じみた力のせい。容姿は真っ白な髪に紅い瞳という将来絶対美人になるという容姿だった。でも私が生まれたところでは忌み子扱いだった。あと力については……うん、動き回れるようになってから何があってもいいようめっちゃ筋トレとかしてた。だから5歳なのにめっちゃ力あるせいで化け物認定された。ぶっちゃけ力が決定打となって追い出されたので自業自得な気もするが。まあ、鱗滝さんに拾われたので日頃暴力を振るってた両親の元から去れたのはラッキーだったと思う。鱗滝さんめっちゃ優しいし。今、鬼殺隊に入るべく錆兎と真菰と義勇の3人と鍛練をしている。義勇が来た頃は義勇は泣いてばかりだったけど錆兎の叱咤と私たちによる慰めで今は仲良くなった。4人いつも一緒だった。あの時までは……

 

******

 

「結衣、真菰、錆兎、義勇、新しくともに住むことになった千里だ。仲良くしてやってくれ」

 

そう言って鱗滝さんは私たちと同い年くらいの少女を紹介した。嘘でしょ、何で?…………何で千里がこの世界にいるの?目の前にいる千里は幼くなっていたが紛れもなく前の世界の友達だった千里だった。

 

「よろしくね、千里」

 

真菰が優しく千里に挨拶をした。錆兎も義勇も笑顔で挨拶する。私も動揺していることを悟られずに笑顔で挨拶した。

 

「わあ!よろしくお願いします!」

 

快活な声で千里は言うと私の手を握った。そして、私の手を爪を食い込ませるくらい力一杯握りしめた。

 

「⁉︎」

 

鍛えていたので痛みはあまりなかったが千里がそんな行動に出たことに驚く。前の世界では千里は私に嫌がらせをするにしても直接的なことではなく間接的なことばかりしてきたからだ。表情に出さないよう努めると千里の表情が僅かに歪む。周りのみんなは気づいていなかった。

 

(でも何で千里がここに……それに私は初対面なのに何でこんな攻撃的なの?私の名前が結衣だから?前の世界の結衣って気付いたから?)

 

いくら考えてもわかるはずはなくその日は悶々としながら眠ることになった。

 

******

 

それからも日々は過ぎていった。千里は私を目の敵にし、自然な形で私と3人が一緒にならないよう妨害してきた。そのせいで3人と過ごす時間は次第に減っていき岩を斬る頃には私はいつも1人で過ごしていた。私が岩を斬った頃、同じ時期に錆兎と義勇も岩を斬ったらしい。私はその場にいなかったので鱗滝さんから聞いた。

 

(邪魔されなかったら今頃あの輪に入ってたんだろうな)

 

視線の先には楽しそうに話す4人の姿があった。少し前までは真菰も錆兎も義勇も私に話しかけてきたのに今では誰も話しかけて来なくなった。私から話しかけても3人ともさっさと話を切り上げようとしてしまう。ついこの間までは仲良くしてたのに。

 

(これじゃ前と一緒じゃない……)

 

顔には出さなかったがかなりショックだったのだ。おそらく前の世界と同じように千里に何か吹き込まれたんだろう。でも、千里に何か吹き込まれても出会ってから日が浅い義勇はともかく錆兎や真菰は千里よりも長く一緒だった私のことを信じてくれると信じていたのだ。

 

(ダメだ、切り替えよう。明日には最終選別に行かなきゃいけないんだから)

 

鱗滝さんからもらった赤い花の模様が入った狐のお面をそっと抱きしめ1人先に布団に潜り込む。囲炉裏のある部屋からは4人の笑い声が聞こえる。そこに私の居場所は無いと知らしめるかのように。私は涙を浮かべ堪えられなくなって耳を塞いだ。眠りに落ちた瞳からは一粒の涙が溢れていた。


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