一度目は普通に生き、二度目は普通に生きれなかった物語。

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Q.普通とはなんぞや? A.人それぞれ。

習作。かなり省略して書いた。でも、練習になってたらいいな。


不幸と家族

 

 

 不幸なんてのがある。大中小の程度こそあれど、誰にでも普遍的に訪れるものだ。

 それは最初から決まっている事ではなく、必ず原因がある。

 

 一度目では特にそういった事はなく、貧しさなど感じることのない普遍的な家庭で育てられた。

 

 笑顔の素敵な母。同じ表情で頭を撫でてくれる優しい父。凡人である自分を慕ってくれる弟。

 どこにでもありふれた光景だったかもしれないが、私にとっては幸せそのものだった。

 

 母が死んだときも、父が死んだときも泣いた。泣き続けて、涙が枯れ果てても泣いた。それでも、それが自然なのだと自分を納得させた。

 弟が結婚したときはお祝いした。これで安泰だと。不出来な兄と違って、よくできた弟だと自慢だった。

 

 すべてがうまくいくはずがない。失敗が多くてつらい人生だったけど、途中半ばで死んでしまった。

 それでも後悔はなく、弟夫婦なら問題ないと思ってる。

 

 

 自分はこれから、再び同じような幸せを味わうのだと。彼らに奇跡的に出会えたなら自慢できると、盲目的に信じていたのだ。

 

 

 でも、そんなのはなかった。

 

 

 二度目は、不幸であった。

 私の存在を無視する母。情欲を込めた目で見てくる父。嫉妬と侮蔑の篭った眼で私を見る妹。

 

 私は悲しかった。私を無視する母に。

 私は恐怖した。私に情欲を向ける父に。

 私は寂しかった。私に昏い眼を向ける妹に。

 

 お金持ちの家。使用人が複数人もいるような大きな屋敷。

 でも、お金なんていらなかった。私はただ、一度目と同じような家庭のようにと願った。

 

 母の笑顔がみたくて。

 父の優しさが欲しくて。

 頭を撫でてほしくて。

 妹に慕ってほしくて。

 

 

 だから、私は頑張った。

 

 

 成績が良ければ振り向いてくれるだろうか?

 

「お前なんて生まれてこなければよかった!」

 痛い。ごめんなさい。

 

 

 優等生になれば優しい目で見てくれるだろうか?

 

「お前の――は気持ちいいな。」

 痛い。気持ち悪い。

 

 

 とことん尽くせば懐いてくれるだろうか?

 

「お姉さま、またお父様にされたんですか?あ、近づかないでください。」

 痛い。そんな眼で私を見ないで。そんなこと言わないで。

 

 

 私は凡人だ。頭の良い解決なんてできなかった。ただの駄々で、ただの我儘で、ただの貪欲だ。だから。だから。だから。

 どんなことをされても、どんなふうにされても。それでも、それでもと、すべてを受け入れた。

 

 

 でも、ダメだった。みんなかわらなかった。

 

 

 ふと私は立ち止って、空を見た。青く広がる空。私は鳥になって大空へ羽ばたくのを描く。

 そうしてから、何で駄目なのかと考えた。そして、結論を出した。

 

 

――あんなのは、家族ではない。偽物だ。紛い物だ。

 

 

 私の知ってる家族は暖かくて、傍にいて安心できて素晴らしいものだ。

 

 あの家族は、私に痛い事しかしてこない。そんなの家族じゃない。

 そんなものは捨ててしまえ。そんなものは壊してしまえ。

 

 

――そんな偽物は、そんな紛い物は、私の前から消えてしまえ。

 

 

 

 

 やっぱり彼らは家族じゃなかった。

 

 家族なら死んだとき、悲しくて辛くて泣けるはずだ。でも、彼らが死んでも私は泣かなかった。

 

 

 母の腹を刺したとき、母は初めて私を認識してくれた。

 嬉しかった。

 

 父を袈裟斬りしたとき、父は情欲以外の眼を私に向けてくれた。

 嬉しかった。

 

 妹の首を斬り落とそうとしたとき、妹は必死に懇願してくれて、純粋で綺麗な眼で泣いてくれていた。でもだめ。君は家族じゃないからと、首を斬り落とした。

 嬉しかった。

 

 

――嗚呼、燃える。すべてが。

 

 

 家族や使用人は放火に遭って、私以外滅んでしまった。

 紛い物でも、偽物でも、腐ってても、家族は家族だ。

 

 これで私は、二度も家族を失ってしまった。

 

 周りが心配だからと、養子の話もでてきた。でも、大丈夫。

 私は彼らなどいなくてもお金なんていくらでも稼げるし、方法も知っている。

 

 それに、家に帰ればほら。

 

 私に興味の色を出さない、母の瞳。

 私に情欲の色を出す、父の瞳。

 私に昏い色を出す、妹の瞳。

 

 前のように私を出迎えてくれる。だから、寂しくなんかない。

 

 

 




これも一つのハッピーエンド?


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