XAF-04ルークが攻撃を諦め、距離を離そうとするこの状況こそが、私達が勝利するための最後の条件だった。
多重装甲盾を装備したケンジの魔術儀はあくまで『牽制』
敵に、これ以上の電磁投射砲での攻撃が無意味だと思わせ、退避行動に移らせるためのもの。
そう、本命は私の操る、
もう一儀の攻撃目的の改修を施されたナグルファルだ。
「後は任せよ!行くぞ!!」
その姿は、一見すると、通常のナグルファルとはそれほど変わっていないように見える。
右手には、通常の収束砲を装備。ただし、盾は重量を減らすために持たない───いや、この魔術儀の機動性ではそもそも、必要としない。
『高速空戦用改修ナグルファル』
この魔術儀の違いは一つ。連邦の戦闘機AF-25から鹵獲したジェットエンジンを背部に取り付けているのだ。次世代の魔術儀開発の研究材料として、元から、基地で実験されていたものを流用して形にした。
私がスイッチを入れると、背部から凄まじい音が内部に響く。
ジェットエンジンに火が入り、増設したタンクから燃料と、給気口から空気を吸い込み、加速を始める。
ナグルファルの姿勢制御尾を大きく振り回し、ケンジの魔術儀から回転するように飛び出した。
加速、加速───加速は止まらない。
「っう」
これまでに経験したことのない重圧が私の全身を押しつぶす。
息をするのがこれほど苦しいとは───地球の科学技術と、天球の魔法技術の突貫作業ではあるが、二重の加速力を得た魔術儀は、凄まじい速度でXAF-04ルークへと迫っていた。
そう、突貫作業だ。
安全性などほとんどない。かろうじて魔術儀が加速でバラバラにならないよう形を保てているだけだ。制御も私の体感操縦だよりなど、このような緊急事態でなければ絶対に乗るものか。
「だが…やってみせる!」
目標はとらえている。ジェットエンジンの加速にふらつくナグルファルをなんとか制御し乗りこなす。敵機との距離は、ほんの僅かな時間で、収束砲の有効射程に入るまでに近づいた。
右手に握られた収束砲を、前方のXAF-04ルークへと構え、撃つ。
だが、敵は気づいたのか、回避行動を取られ、外された。
「早すぎて照準も…ぶれている、か。もう少し…近づかなければ」
膨大なエンジンの推力に、私の照準も狂う。調整などしていないから仕方がないこととは言え、仕留め損ねたことに、もどかしさを感じる。
XAF-04ルークは私を突き放そうとするが、最早、互いの速度に差は無く、むしろ、私の方が速い。
敵の背後に張り付き、さらに距離を詰めていく。
もう少し、次こそは命中させる。引き金を引く指が痺れるが、元より長期戦など考えていない、短期決戦だ。
相手が隙を見せた──退避行動を止めて、直線的な飛行をしてしまっている。
「もらっ…た!?」
だが、違和感に気づき、咄嗟に今度は私がXAF-04ルークの上空に逃げるように退避行動をとった。
空気が揺れ、至近距離を通過した弾丸に、姿勢が崩される。
周囲の雲を裂き、後方の私目掛けて、電磁投射砲が発射されたのだ。
「馬鹿な!?どうやって後方に!」
事前の王国側の作戦会議において、XAF-04ルークの電磁投射砲は、前方の敵に対してのみ撃つことが出来ると推測されていた。
遭遇戦時に、後方から追いかけてきた魔術儀に対して、攻撃がなかったという戦闘記録から、そのことは作戦の前提に組み込まれていた。
(それが崩された!)
驚く暇もなく、XAF-04ルークは更に機体をロールさせ、砲門のある下部をこちらに向け───まずい!
今度は逆に、ナグルファルを急降下させる。間一髪、二発目の電磁投射砲を回避することが出来た。
激しいアップダウンにこみ上げる嘔吐感をこらえ、高速で揺れ動く視界の中、敵機の姿を改めて確認する。
(砲門が機体後方へと向いている!?可動式ということか)
XAF-04ルークの下部に取り付けられていた電磁投射砲二門。
その砲自体が回転し、前方から、後方へと向けられていたのだ。
◆
「やはり──後方射撃は命中率が低すぎますか。ですが!先に落とします!!」
後方への射撃も避けられ、焦りは出るが負けられない。
このXAF-04ルークの電磁投射砲は、正面の魔術儀を狙うように設計されている。CPUによる自動照準システムもそういった状況での運用のもと作られた。
しかし、機体テストをする中で、後方の敵機に対する自力での防衛手段にも電磁投射砲を利用できないか?といった意見が出るようになる。
他戦闘機との連携目的とは言え、せっかく装備されている強力な兵器を、さらに有効に活用する。
そのために砲塔自体に回転機構を追加し、後続の敵機、やがては、地上への攻撃すら行うことが出来るようにしようとした。
(けれど、完全に完成は出来なかった。後続とのドッグファイト中に、瞬時に自動照準をさせるのは技術的に難しかったから)
そう、この機体は厳密に言えばまだ、完成していない。
CPUによる自動照準システムの技術的課題点。自機と敵機が激しく動きあうような戦闘状態では、狙いを付けるには処理が追いつかないのだ。
(ならば、機械に頼らず、直接照準であなたを落とせばいいだけの話ということです!)
その問題を回避するために、私が実行したのは手動照準。
機体の操縦と並行して、電磁投射砲の照準を自力で合わせ、相手へと狙いを定めればいいだけの事だ。
勿論、それを実行するのは、難しいなどというレベルではない。最早、運が良ければという博打ですらある。
空を裂く、一機と一儀。
互いに相手を落とす有利なポジションを取ろうと、互いに絡み合う。
「しつこいです!落ちなさい!!」
「いい加減……落ちろ!!」
そして、その戦いにも遂に終わりが訪れる。
次回決着。