僕と姫様の対地球戦争   作:新動良好

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Invasion_11

 

 異変が起きたのは、シンファの操る高速空戦用改修ナグルファルであった。

 

「なんだ?───加速が、止まらない!?」

 

 背部に取り付けたジェットエンジンが遂に限界を迎えようとしていた。

 急遽用意した問題か、故障し、操作を受け付けず、推力を吐き出し続けている。

 

 かろうじて制御している状態だが、そもそも、載せている燃料すら多くはない。エンジンを強制停止させてしまえば再稼働するもわからない。

 この機会を逃せば再び追いつけはしないだろう。

 

(いや、速すぎる。このままでは逆に相手を追い抜いてしまう!)

 

 オーバーシュート。

 敵戦闘機との近距離でのドッグファイト時に、追随する敵機を行き過ぎてしまうこと。このまま加速を続け、XAF-04ルークの前に出てしまえば、ただの言い的である。

 

(だが……駄目だ、止められない…)

 

 そして、シンファ本人の限界も近づいていた。

これまで経験したことの無い激しい加速と戦闘は、彼女の意識を刈り取ろうとしていたのだ。

 

 落ちる瞼。意識を失いかけていく。幼い記憶、最後に会った父と母の顔。走馬灯の様にこれまでの記憶が駆け抜けていく。

 

 その最後にして、最新の記憶の中には、彼の───

 

 

 

「    !」

 

 

 

 シンファは最後の力を振り絞り、目を見開く。

 

 ナグルファルの脚部推進術式を更に、加速させ、これまでにない最大加速で、目標であるXAF-04ルークへと翔ぶ。

 

「まさか!?正気ですか!!」

 

 その動きを見たエリー少尉は気づく。

 相手はこのままぶつけるつもりだ!尋常ではない加速を得て、こちらへ向かってくる魔術儀を見て、その目的に思い至る。

 

 特攻。

 自分の命すら賭けるつもりの相手パイロットの行動に、エリー少尉は恐怖した。

 

 回避しようと、機体をなんとか敵の進路から外そうとするが、それは、あまりにも遅い動きだった。

 追随するシンファのナグルファルは、逃げるエリー少尉のXAF-04ルークへと、向かっていき、

 

「一本くらい──くれてやる。落ちろ」

 

 右腕に持った収束砲ごと、相手の左翼へと叩きつけた。悲鳴のように、互いの機体と儀体が衝突した破壊音が空中に響く。

 

 飛び散る残骸。

 交差したのは一瞬で、少しでも衝突角度が違えばシンファの命はなかった。

 

 しかし、シンファは見事に操縦した。

 ナグルファルは収束砲を握った右腕ごと千切れたが、まだ、脚部推進機関は健在であり、自力での飛行はできる。

 

 一方で、XAF-04ルークには致命傷であった。

 

 片翼を失った黒鳥は、落ちる木の葉のように、煙と炎を上げ、地上へと落下していく。落ちていく視界の中で、エリー少尉は空に浮かぶ王国の魔術儀の姿を見上げる。

 

 敗北だ。

 涙がこぼれ、視界が滲む。

 

「次こそは、負けません」

 

 脱出装置のレバーを握りしめ、墜落するXAF-04ルークから脱出した。

 パラシュートを開いた彼女の下へ、翼をもがれた黒鳥が落ちていき、地上へと激突。炎を上げる自分の機体を最後まで眺め続けた。

 

「……戦闘は、まだ続いている…私も加勢しなければ」

 

 作戦目的であるXAF-04ルークの撃墜を見事、シンファは達成した。

 

 しかし、周囲では未だ、王国の魔術儀と連邦の戦闘機が戦闘を繰り広げている。シンファは味方の援護に向かおうとするが、彼女の気持ちとは裏腹に彼女のナグルファルは、これ以上の戦闘は不可能だった。

 

 攻撃手段の収束砲の喪失と、想定以上の加速にさらされ、儀体各部が破損している。

 そんな彼女の魔術儀に向けて、一機の戦闘機AF-25が攻撃態勢に入っていた。

 

 XAF-04ルークの援護に向かいながらも、間に合わなかった連邦のパイロットは、撃ち落としたシンファを逃しはしない。

 

「何とか、エンジンを再起動させて───無理か」

 

 逃れるために再度、ジェットエンジンを使用しようとしたが、先程の衝突時に、どうやら燃料系をやられたらしい。どのみち壊れていたかもしれないが、もう、この状況では彼女に出来ることは何もなかった。

 

 ミサイル発射の警告音。

 彼女へ向けて一発のミサイルが放たれた。

 

 迫るミサイルを、どこか冷静な瞳で見つめるシンファ。

 諦め?いや、違う。それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫様あああああああああああああ!!」

 

 ───頼れる相棒が来てくれているのを知っていたからだ。

 

 ミサイルとシンファの魔術儀の間に滑り込むように、残った右腕の多重装甲盾を構えたケンジのナグルファルが駆けつける。

 

 同時に、敵ミサイルが盾に命中。

 爆煙があがり、二人の魔術儀はその姿が見えなくなる。

 

「お怪我はありませんか!?姫様!」

「ああ…助かった。だが、窮地なのは変わらないな」

 

 煙が風に流れ、そこにはボロボロの姿ながら、空に浮かぶナグルファルが二儀いた。最後に役目を終えたように、右腕の多重装甲盾は、ミサイルの攻撃が決め手となり、ほとんどが失われていた。

 

 闘えない二人に、なおも迫る戦闘機。

 だが、彼らの健闘は戦況を大きく変えた。雲を裂き、何儀もの魔術儀がまるで、群れのように、二人を守るように集まってくる。

 

「全儀!!防御陣形を再構築!二人がやってくれたのよ、今度は私達が答える番よ!!」

 

「やるじゃないか、地球人!少しは見直したぜ」

「ようやく、まともに戦えるな」

「若いのにやるものだ、後は任せろ」

「王国魔術兵の意地を見せてやるぞ!」

 

 散らばっていた味方の魔術儀が、メリル戦隊長の号令と共に集まってきたのだ。無論、それでも状況は五分と五分といったところだが───不思議と、その光景を見て、恐れる気持ちなど、ケンジとシンファにはなかった。

 

 

 

 西暦2042年8月。

 第二次ラーズ連邦侵攻。

 

 

 

 後の歴史において、そう記されることになる一連の騒乱はこうして始まった。いくつかの新兵器を実戦投入したラーズ連邦の奇襲的攻撃により、複数のエルクラム王国基地で激しい戦闘となる。

 

 第七魔術兵団は、敵の航空部隊と戦闘になるものの、これを撃退。その際に、敵の新型戦闘機を撃ち落とした二名の魔術兵が、一躍、注目を浴びることとなる。

 

 シンファ・ユーク・エルクラム。王国第四皇女。

それまで、王族でありながら表舞台に姿を表さなかった彼女が、初めて、その名を人々に知られることとなる。

 

 ケンジ・ナガイ。地球出身の志願兵。

難民上がりの異例の経歴を持つ彼の存在は、姫ほど取り沙汰されはしなかったが、人々の間で話題となる。

 

 それは、ほんの小さな影響なのかもしれない。しかし、何かが変わりはじめた。地球と天球、二つの世界の戦争が終わる。その時に向けて───

 

 

 

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