僕と姫様の対地球戦争   作:新動良好

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ケンジ君へのご褒美回です(吐)


Epilogue

 西暦2042年8月21日。

あの戦いから一週間が過ぎ、第七魔術兵団基地には、一時の平穏がおとずれていた。

 

格納庫では、損耗した魔術儀の修理が進み、さらに、物資、兵士、追加の魔術儀などが盛んに搬入されている。

 交戦中の前線に比べ、初戦で敵航空部隊を撃退したこの基地は、物資搬入等の拠点として運用し始められていた。

 

 第七魔術兵団に所属する僕達は準備が整い次第、新たな任務が与えられることだろう。

 慌ただしい日々の中、僕は僅かな時ではあるが、今日は休養をもらうことができた。基地内部の廊下を歩きながら、目当ての人物を探す。

 

 時折、通りすがりの仲間の魔術兵たちに、軽い挨拶を交わしながら、探し人の場所を教えてもらった。───初めの頃に比べて、打ち解けられたと自分でも思う。

 地球人である僕に向けられていた不信感が、同じ戦場を経験したことで、和らいだように感じる。

 

 しばらく基地を歩き、目的の場所へとたどり着く。

 木々と、美しい花々が点在し、整備された水路が張り巡らされている。基地の敷地の中でも、外れにある中庭のような場所だった。

 

 こんな場所が基地の中にあるとは知らなかった。しばらく探索すると、池のある広場に、探していた姫様がいた。

 

「む、ケンジか。君も今日は休養だったな」

 

 姫様は手に何か袋を持っており、周りを眺めていたようだ。

 近づきながら、僕は姫様がこちらで一体何をしていたのか尋ねる。

 

「うむ……下見をしていたというか。…まぁ、ちょうどよいか」

 

 どこか、気まずそうに視線を泳がす姫様の姿を、疑問に思っていると。彼女は近くにあるベンチに腰掛けた。

 すると、隣を一人分空けながら、僕の方をじっと見つめる。え?

 

「昼には少し早いかも知れないが、ここで軽食をどうかと考えていた……ケンジも一緒に食べないか?」

 

 ポンポンと自分の隣の席を叩く姫様。その顔は横を向き、一見何事もない表情をしているが、頬が赤い。…僕も似たようなものだが。

 

 ぎこちない動作で、姫様の隣に座る。

 

 ここまで、近い距離で彼女と過ごしたことはない。普段は凛々しい彼女だが、今は、どこが抱き締めたくなるような、儚げな存在に見えて……落ち着け、深呼吸だ、僕。

 姫様にそんな劣情を抱くなど不敬だ。あ、でも、近くにいると姫様のいい香りが……マズいマズい。

 

「地球出身の君の口に合えばいいのだが、王国産の紅茶と、あとはパンだ」

 

 そんな僕の様子に気づかないのか、姫様は自分の膝の上に、せっせと敷物を広げ、袋の中から、ランチボックスと、水筒を取り出す。

 

 ランチボックスの中身、これは…パンというか、確かホットサンドだろうか?何種類か具材は違うけれど、両面を焼いたパンの中にハムや、チーズが入れられ、美味しそうな断面が見えている。

 

「ほら、食べてみてくれ」

 

 では、失礼して。早速一つ食べてみる。……美味い。パンの香ばしさと食感が何とも言えない。中に入っているハムと野菜がさらに満足感を引き立てている。

 しかも、ほのかに残る食材の暖かさ。これはひょっとして───姫様が、自分で作られたのでは?

 

「ふふ、よく気づいた。今朝、外の市場で購入して作ったのだ。せっかくの僅かな休養くらい、やりたいことをしたくてな」

 

 当てられたことが嬉しかったのか、満面の笑みで微笑む姫様。

 一瞬、その姿を見たあと、直視できず、今度は僕が顔をそむけた。尊い。姫様の手料理を食べるなど、僕は、とても光栄なことをしている事実に内心悶える。

 

 意外、というと失礼に当たるが、姫様は料理をすることが好きなようだった。

 だが、両親が身近にいない彼女の境遇を思うと、王族といっても、苦労されてきたのだろう。

 

「しまった。コップがもう一つ必要だったか…」

 

 と、紅茶の用意をしていた姫様が、コップが一つ足りないことに気づいた。

 どうやら元々は一人で食べるためだったのだろう。水筒のコップ蓋だけで、僕の分が足りないようだ。僕は姫様のご迷惑にならないよう、自分は大丈夫ですと断る。

 

「……まぁよい、二人で使えばいいからな」

 

 ん?そう言って紅茶を注いだコップを僕へと差し出す姫様。

 いやいやいや、それは駄目です姫様。

 

「嫌なのか?」

 

 嫌では無いですけど──って違う違う。

 

「そう深く考えるな。互いに兵士であろうに、この程度で慌てるなど可笑しいぞ」

 

 この状況を楽しんでおられる姫様の挑発に、僕も覚悟を決め、コップを受け取り、紅茶を飲み干す。……ん?なんだろう、小さい頃に飲んだことがあるかもしれない。どこか懐かしい味だ。

 

「何?本当か。この紅茶は貰い物で、あまり一般には流通してないはずだが……」

 

 それっていわゆるロイヤル的なお茶なのでは?

 金額のことを考えたが僕は聞くのを止めた。というより、誰から貰ったのですか?

 

「メリル戦隊長だ。……実は、あの方には私の王族の立場のことで、かなり世話になっていて、それとなく気にかけてくださっているのだ」

 

 戦隊長と姫様に、そんな交流があったとは知らなかったが……少し安心した。彼女には頼れる人がいないのではないかと思っていたが、全くいないわけでもないようだ。

 

 と、気づけば、姫様が僕の方をジト目で睨んでいた。

 なんだ?何か粗相をしてしまいましたか?

 

「先程から気になってはいたが───今は二人だな、ケンジ」

 

 その言葉にドキリとするが、姫様が何を指摘しているか直ぐに気づく。

 すみません、やはり普段から呼んでいると、慣れてしまって。

 

「もう一つ、なぜ私を探していた?何か理由があったのだろう?」

 

 そっちは、その、既に目的を果たしたので、もう良いかな、と。

 

「どういうことだ?」

 

 首を傾げて、覗き込むように僕を見つめる姫様。僕は姫様の怒涛の質問に慌てつつも、なんとか呼吸を整えて、横に座る姫様の目を見つめて答えた。

 

 

 

 今日は、シンファと昼食を一緒に取りたいと思っていました。

 

 

 

「……同じだったか。ふふ、ちゃんと言えるではないかケンジ」

 

 そう言って笑うシンファにつられて、僕も笑う───これは、困難な戦いの中のほんの一時の安らぎだ。けど、きっとこれが、僕達が二つの星の戦争を乗り越え手に入れなければならない尊いもの。

 

 天球の空を超え、宇宙を超えて存在する星、地球。

 ───こうして、僕と姫様の対地球戦争は始まった。

 

 

 

 




ストックが無くなりましたので、毎日更新は一旦ここまで。
読んで頂きありがとうございました。

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