夜に散歩がしたかったから、世界を救うことにした   作:ジャオーン

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一話 夜

 空を眺める。

 

そこにはどうしようもないほどに綺麗な月が輝いている。

 

 

 

「――うん。今日も綺麗な月だ」

 

「さーて。今日のご飯はなーにかな」

 

「こっちは月ほど綺麗にはいかないか」

 

 

 

――誰も居ない裏路地で一人言葉を零す。

 

意味もない言葉が暗い空に抜けていく。

 

いや――。俺だって別に一人言を一人で話したいわけでもなんでもないんだが。

 

いかんせんこう――。人影がただ一つもない街中というのは違和感が未だに酷くてこまる。

 

なんせ俺の記憶では、人類はとっくに夜を克服していたのだから。

 

 

 

――24時間働けますか?

 

 

 

 全くもって一部の人間からは殺意を覚えるような言葉かもしれないけれど。

 

文字通り人間は24時間有り続ける存在になっていたのだから。

 

 

 

 街中にあっては、夜も昼と変わらない。そこには確かに太陽に変わらない灯りがあったはずだ。

 

だっていうのに、今はそれがどこにもない。

 

ここにあるのは、月灯りから零れる僅かな光りだけが、淡く俺が漁っている廃棄弁当を照らしてる。

 

 

 

 いや、別に灯りがないことも、人が誰も居ないということも必ずしも変という訳ではないのだ。

 

此処が人が居ない森や海のど真ん中だったりとか。

 

あるいは――。人が人工の灯りを手にいれる前の時代だったりしたのならば――だ。

 

 

 

 だけど、だけどである。

 

此処は日ノ本と呼ばれる国で、西暦と呼ばれる年号で言うならば2000年と少し立っているということも踏まえ。

 

そして、此処は帝都『京都』と呼ばれる街中のど真ん中であり、周りにはコンクリート造りの建物が並んでいる。

 

 

 

 細かな違和感が拭いきれないが、それでもまぁ――些細なことである。

 

けれど――。けれど、少なくとも産業革命以降の科学文明を築いている日本……日ノ本の首都にあって、時刻で言えば19時過ぎ程度の夜が始まったばかりの時間に、電灯一つつかず、人が誰一人歩いていないという街中は、やっぱり俺にある常識で言えば違和感を拭いきないのは仕方がない。

 

 

 

だが――。そんな現象すらも目の前に起きている事からすればその悉くが些細な事かもしれないけれど。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■――――――!!!!!」

 

 

 

 

 

 辺りに響き渡る不快な絶叫。

 

人では決して発することができない声。

 

そこにいるのは――鬼と呼ぶべき存在か。

 

腐臭をまき散らす穢れ堕ちた肉体にグールと呼んだほうがよっぽどましな爛れ落ちた顔をもち、けれどそんな肉体とは不釣り合いなほどにその額からは天に向けて立派な角がそそり立つ。

 

全くもって不快な空気をまき散らす。

 

 

 

鬼。オニ。おにである。

 

 

 

 おとぎ話にだけ出てくる妖怪。源流をたどればオヌと呼ばれる存在。

 

人が未だ夜を克服できていなかった時代に。未知への恐怖に名付けた名前。

 

故に隠。未知への恐怖そのものに対する名付け。そこから派生した日本最古の妖怪。

 

あらゆる妖怪の原点。そんな民謡やおとぎ話にでてくる妖怪。

 

――というのがまぁ……前世の俺の知識だけれども。

 

 

 

まあ――この世界では当たり前のように目の前を跋扈してたりするのだけれども。

 

ほんとにもう――。此処が俺の知っている世界ではないということを叩き付けてくる。

 

 

 

 

 

「わーお。今日はまた大群さまでいらっしゃる」

 

 

 

 

 

 そんな連中を俺は物陰に隠れながらにそう零す。

 

零しながらに俺はそんな連中から目を離して今日の晩御飯を漁る。

 

目の前に鬼と呼ばれる連中が歩いていようが人間は飯を食わねば生きていけない。

 

じゃあ、仕方ない。

 

どの道、気を付けようば気を付けないだろうが、運が悪ければ死ぬのだ。

 

けれどご飯を食べねば確定で死ぬんだ。

 

 

 

じゃあ――どっちの優先度が高いかなんて決まってるじゃないか。

 

 

 

 俺のようにストレートチルドレンよろしく推定年齢10歳ちょっとの子供が、生きていくには残飯漁って生きていくしかないんだから。

 

いやまぁ――。チルドレンなんて言ってるがこんなことやってるのは文字通りに俺だけだから正確にいうならチャイルドって言うべきか――。なんてロクに使えもしない英語で考える。

 

 

 

 それにである。

 

どうせもうしばらくしたらあいつら鬼も居なくだろう。

 

鬼といってもあそこにいるのは、所詮は生まれ落ちたばかりの腐りかけの連中だ。

 

だったら、そんな連中程度――。

 

 

 

「こちら帝都退魔師心鉄第6班――下級鬼「屍食鬼」を発見。これより討滅に掛かる」

 

「了解。神域結界の展開を認証。――――。結界同調を確認。以降1刻における対魔術の行使を許可する」

 

 

 

 その瞬間、世界が変わる。

 

淡い桃色のような空間に世界が包まれる。

 

先ほどまであった鬼連中から溢れでていた不快な空気が消える。

 

 

 

そして――次の瞬間には前世では決して見ることができなかったであろう景色が目の前に広がる。

 

 

 

――風が炎を纏い、鬼に襲う。

 

――指向性をもった雷が、連鎖的に鬼の体を貫く。

 

――見たこともない色をした刀が何本を中に浮きあがり、次の瞬間には残っていた鬼を悉くを掃討する。

 

 

 

「わおわーお」

 

 

 

とりあえず俺は漁った弁当を食べながらに、感嘆の言葉をあげる。

 

昔誰かに言われたが、何かに感動した時は素直にそれを声にだした方が良いと教わったから。

 

何度も見た光景だけれども、何度見たところで驚きに変わりはない。

 

 

 

――何よりも。今日は普段では決して見ることが出来ない光景が目の前に広がった。

 

 

 

「――下がりなさい。以降は私が祓います」

 

 

 

 辺りに一面に響くような鈴ような女性の声が聞こえる。

 

普段は黒い衣装を纏った者達しか居ないはずだけれども。

 

 

 

 そこにはどれほどの言葉を尽くしても表現することができないような美しい少女――あるいは女性といった方が適正な人が、黒ずくめの衣装を纏う者達を引き連れて現れる。

 

白い和服。――打掛というものだったか。公家とは違う武家の女性が纏う服――。

 

それをやや動きやすくしたような美しい衣装。

 

月あかりだけが淡く光る夜の世界においてなお――黒く輝く長い髪。

 

年頃は少女から抜け出し、なれども未だ成人には至らぬくらいか。

 

 

 

 そんな少女が未だ蠢く腐り落ちた鬼達を前に一人前に進む。

 

端から見ればなんという蛮行。

 

けれど先ほどまで鬼達を相手にしていただろう自ら心鉄と名乗った黒衣装の男達は誰もそれを止めず。

 

ただ頭を下げ、敬うように彼女の歩みに道を譲る――。

 

 

 

そしてそんな彼女が口を開く。

 

 

 

「カテゴリー3の鬼達がこれほどまでに……。穢れが止まらない。伝承でもこれほどまでにの記録はなかったはずなのに……」

 

 

 

 静かな声である。

 

周りには未だ鬼の呻き声にも溢れ。雑音ばかりのこの世界において――なおもその声がよく響いた。

 

 

 

――あぁ。

 

その声は――なんて美しい言葉だろうと思った。

 

 

 

「――それでも私たちにできることは一つだけでしょう。ならば――私がやることは決まっています」

 

 

 

――その瞬間に彼女を中心に爆発的な力が溢れる。

 

力――という言葉が正しいのかは分からないけれど。

 

ただ、純粋に――人が人たらしめるその源流。

 

この穢れ溢れる世界において、光輝くそうなその根源。

 

それがこの空間領域を支配する。

 

 

 

「――――展開:神域結界舞桜」

 

 

 

 ――静かに呟かれたその瞬間に――世界から雑音が消える。

 

俺は持っていた弁当を落とした。目の前に鬼が迫っていたときですら弁当だけは死守したというのに。

 

 

 

 その瞬間。世界が生まれ変わる。

 

鬼。鬼。鬼。世界を抜根する魔。穢れのような存在。

 

夜を抜根する魍魎。世界から人間を弾き出されたかのように感じていたけれど。

 

夜の世界は人間の領域は無いかのような、この世界において。

 

しかし、そこに数枚の桜が舞い上がれる。

 

 

 

たかが数枚。

 

それこそ、前世においていえばおよそ目にしたところ気にもしない日常の風景。

 

なれども、この世界において――その数枚の桜の何と美しいことか――。

 

 

 

 ならばその美しさの前にしてみれば――。

 

きっときっと世界に滞在していた鬼は、その舞い散る桜に触れた瞬間に塵芥へと帰るしかなくなるだろう。

 

あれほどこの場に溢れていたうるさいまでの鬼。

 

腐食した体から瘴気をまき散らしていた鬼達は、けれども次の瞬間には悉くがいなくなる。

 

 

 

 

 

 俺は、この光景を見るまでに夜は既に鬼のモノに堕ちたと思っていた。

 

此処は人間の住まう場所では無いのだと――。

 

 

 

 

 

なれども――。

 

あぁ――。

 

 

 

 

 

「わーお!わーお!わおわーお!」

 

 

 

――此処に人は確かに生きている!

 

夜の世界においてなお、此処は人の領域だと。

 

あれは結界などという生温いものなんかでは決してなく。

 

もっと強力な何か。何も知らない俺にだって感じる生きる何か。

 

世界が彼女の領域で埋まる。

 

 

 

あぁ――!

 

彼女が居れば、夜だって人間が住まる世界だ――!!

 

 

 

「あら――。何て無粋な結界でしょう」

 

 

 

――しかし、次の瞬間。

 

世界が止まった――。

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