今作は紗夜さんメインヒロインの作品を作ってみました
因みに姉妹喧嘩こと、氷河期を終えた紗夜さんです
弓
時代を遡れば縄文時代から狩りや人を射貫く為に作られた殺しの道具
しかし、時代は流れ……銃が主流に使われ始め弓は狩りには使われなくなった
だが、弓にはもう一つの役割がある。
それが神事や祭りなど、めでたい時に使われるようになった。
現代では、日本の国技である「相撲」では、弓を用いた「弓取式」が行なわれる他、「破魔矢」や「破魔弓」などのように、家内安全を願うお守りとして浸透している
その他にも、弓道というスポーツとして弓が使われている。
俺の家は、代々神事を執り行う名家。そのせいか、名前には必ず“矢”の漢字が使われている
俺の名前は伊丹 一矢(いたみ かずや)
天才に負けた哀れな男だ
──────────
ポツポツ……
「冷た!」
首筋に冷たいものがあたる
「マジかよ……傘なんて持ってないぞ」
「ああ! もう! せっかく集中して射たのに外れたじゃないか!」
「確かに少しジメジメしてきたね」
俺が矢を抜き所定の位置に戻ろうとした瞬間、他の生徒たちがざわつきだした
「んでどうするんだ。伊丹次期部長」
一つ上の先輩が俺に訊ねてきた
えっと……雨の時は……
「はぁ~雨天の時は、各自に矢の回収と的に袋をかぶせる事、しっかりしてくれよ」
「は、はい! 分かりました。みんな、分散して作業に取り掛かってくれ!」
「「「「はい!」」」」
花咲川学園 弓道部
ここには男子5人、女子5人の部員が所属している
その内三年生が2人、二年生が4人、一年生が4人
全国大会が迫る中、部長は選択肢を迫られる。
それは次期部長の座。その中で俺は家業の事もあり次期部長に選ばれた
そんな次期部長の俺でも恐ろしい人がいる
「あ、あの……氷川さん。そろそろ終わりにしませんか?」
俺は腰を低くし、アイスグリーンの髪をした女性。氷川紗夜に話しかけた
彼女とは同じクラスだが……一年の時から話しかけても冷たい対応されるだけ。まさに氷みたいな人
名前は体を表すとはよく言ったものだ
「分かりました。ですが後一射だけ……」
「どうぞ……みんな! 一番の的から離れろ! 氷川さんが射るぞ!」
一年の生徒たちが的から離れる。その瞬間──
ザーザー
雨が急に勢い強く降り始めた。
道場内には雨の音だけが響き渡る。そして……
ヒューン!
氷川さんが一矢放つ!
的を見れば中央から右下。時計で表すならば五時の方向に矢が刺さっていた
「良し! 矢の回収をしてくれるか?」
「分かりました」
一年の元気な返事が返って来た、俺ともう一人は回収した矢の水気と土をふき取る
弓道部の矢はジュラルミン矢。耐久性に優れて安い。消耗が激しい初心者向けの矢である
ただし、風に流されやすい……
「伊丹先輩! 矢が抜けません!」
一年が氷川さんが射た矢が中々抜けなくて困っている様子
「俺が抜くから他の的から……ってもう抜き終わっているか。じゃあ、皆は着替えてくれ!」
袴は水を吸収しやすい。そのままにしていると体を冷して風邪をひいてしまう。
「氷川さんもそろそろ着替えていいですよ」
「ですが、矢の回収が……」
「いいからいいから、俺が抜いてくるから」
「そうですか。よろしくお願いします」
そう言うと氷川さんは控室に姿を消した
「はぁ~怖かった~」
「お前、よくあの人と話せるな」
茶髪の先輩。前部長が俺に話しかけてきた
「まぁ、僕も氷川と話すのは緊張したけどね……」
「俺だって怖いですよ」
「そんなんで部長なんか務まらないぞ」
「ねぇねぇ、そんなことより伊丹先輩の罰ゲーム決めませんか?」
小生意気な一年が急にそう言いだした
俺は一か月前に部長と勝負をした。
勝負内容は5本中何本中央に刺さった本数で勝負した
結果部長の4本で俺が2本……
「あの時は強風の所為で……」
「はいはい……言い訳はいいから……あ! いいこと思いついた」
女性先輩こと副部長が頬に手を当てながら最悪なことを言い始めた
「来週末までに紗夜ちゃんに告白する事!」
「マジかよ……」
「後見人は同じクラスの裕太(ゆうた)君ね!」
「了解!! 逃げるなよ~逃げたら理矢(りや)さんに──」
裕太の言葉に苛立ちを覚えた俺は奴の胸ぐらを掴んだ
「俺の前で姉の名前を口にするな!」
「お、オーケー……俺が悪かった」
「ふん! 分かればいい。先に帰る」
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俺には一人の腕の立つ姉がいる。
伊丹 理矢(いたみ りや)
親父や親戚の人はよく姉は 天才 だという
俺はそんな姉が嫌いだ。
どんなに努力しようとそのさきには必ず姉が立ちはだかる
強風が吹く中でも全ての矢を命中してもあいつは当たり前だといい放った。
気に食わない! 一度も努力したこと……いや、しようとしない奴に負けるなんて気に食わない!
「ああ! イラつく! どいつもコイツも、姉! 姉!」
「クソが!!」
「いたっ!?」
蹴りとばした空き缶が少女に当たり足下に転がった
俺は冷静になり、女性に謝ろうと小走りで駆けつけた
「すみません……ってお前か……」
「人に空き缶をぶつけておいて……お前って……」
空き缶がぶつかったのは、金髪にツインテールの少女……市ヶ谷 有咲だった
市ヶ谷家と伊丹家は、俺の爺ちゃんの世代から繋がりがある。
有咲とは、幼い頃より親父の趣味の骨董品収集で何度か顔を会わせることがあった
それ以外でも、プライベートで話すことも多々あった
「本当にすまない……ところで何でここに……あぁ~さてはまた何かあったな」
「……」
市ヶ谷家と俺の家は方向が違う。
「家に来るか?」
「うん……」
何かあった時の有咲は、俺の家によく逃げ込んで来る
女の子を匿うのはどうかと思うが……
俺にとっては日常のような感じだから、特に気にしていなかった
~伊丹邸~
「理矢さんは?」
「知るか……それより風呂に入れ、寒かっただろう? この前置いていった服洗濯しといたから」
「あ、ありがとう///」
有咲が風呂場に向かったの確認した俺は、即行に袴に着替える
縁側を出て、屋敷の離れにある道場に向かう
「ノルマまで後15本……」
和弓を構え、心を研ぎ澄ませ正確に射貫く
姉を越えるために、父に認めて貰うために!
5分後
「フゥー……15本中10本命中か」
命中……俺の言う命中は中心を射貫いた数を表す
「この前より上手くなったじゃねぇか?」
声が聞こえ振り向くと有咲が姿勢よく座っていた
「まだまだ俺は未熟だ……あいつなら全て命中してるはずだ」
弓を置き、胡座をかく
「何も聞かないのか?」
「聞かない……俺は自分の事で精一杯だからな」
他人の悩みごとなんて聞いている暇はない
「じゃあ、今から言うことは独り言だから聞き流して」
そう言うと有咲は淡々と今日学校であったことを話し始めた。
クラスの授業の一貫でコミュニケーションを取るように言われたが上手いこと相手と話すことが出来なかったらしい
「よくばあちゃんが一矢くんを見習えって言ってくる」
俺を見習えか……
pipippi……
道場に備え付けている固定電話が鳴り響く
足の痺れを我慢し受話器に手を伸ばした
「はい、伊丹です」
『一矢くんかい?』
受話器から老いた女性の声……お婆さんの声が聞こえた
「はい、そうです。どうかしましたか?」
「有咲はそっちに居るかい?」
有咲の方を見ると首を横にふっていた
だが、敢えて俺は
「えぇ、居ますよ」
『やっぱり、そうかい……今から迎えに行くから申し訳ないが、しばらく我慢してくれるかい?』
「いえ、雨が強くなっているし今日は家に泊まらせますので、無理に連れ帰らなくていいです」
『そうかい? すまないね』
「その代わり、彼女をあまり怒らないでやってくれませんか?」
「どうしてだい?」
「迷惑に思っていませんし、それに今家には僕しかいないので、丁度話し相手欲しかったのですよ」
「そうか……確か君のお父さんもお母さんは今は島根に居るんだったね? お姉さんは……」
「姉は寮に入っており、なかなか帰ってこないので」
「分かった。じゃあ、有咲の事頼んだよ」
「承知しました。それでは──」
ピッ
「ってことだ。今日1日泊めてやる。その代わりに……」
「ご飯を作ればいいんだろう?」
「その通り、冷蔵庫の食材は適当に使ってくれていいぞ。俺は風呂に入ってくる」
シャワーを浴びながら、罰ゲームの事を思い出していた
あの氷川さんに告白とか……
「絶対フラれるに決まってるだろう」
まぁ、あの人には恋愛なんて興味ないだろうな
罰ゲーム執行まであと2日