弓取りと雨女   作:hirag

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10話

 

 蚊取り線香の匂いと眩しい朝日が射す。

 

 目をあけると逆光のせいで見えづらいがショートヘアーの少女が見えた。

 

「誰だ……?」

 

 

「あ! 起きた! ちゃんと布団で寝てくださいね」

 

 光が遮られ顔が見える

 

「羽……沢……さん?」

 

 羽沢珈琲店の看板娘の羽沢つぐみさんだった。

 

「うっぐ!?」

 

 床で眠っていたせいか全身に激痛が走った

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫です。それよりどうして……貴女がここに?」

 

「大怪我をしたって聞いたので……」

「そうでしたか……裏口から入ったのですか?」

 

「ううん……玄関から。鍵開いていましたよ」

 

 鍵閉め忘れたか……

 

「それはマズいですよ。貴女が俺と会っていることが彼女達にバレたら……」

「怒られちゃうかもしれませんね」

 

 体を起こし、ヘアゴムで伸びた髪を束ねようとするが人差し指と中指が包帯で固定されてうまく結べない

 

「結びましょうか?」

「お願いします」

 

「結構伸ばしましたね」

 

「祭りに必要だから伸ばしているだけであって、本来だったらスポーツ刈りにしたい感じですよ」

 

「確かに似合うかもしれませんね。はい、結べました」

「ありがとうございます」

 

 眩しくて目を細めながら的を見る。的には2本の矢が刺さっていた……

 

 しかし、刺さった矢以外は地面に刺さったり落ちていたりしていた

 

「まだまだだな……」

「もしかしてその手で練習していたんですか?」

 

「えぇ、ただでさえ合宿で三日間練習できてないですし、時間が惜しい……ここでは難だですし、食卓の方に行きますか……よっと!」

 

 あの日から5日経った

 

 あの日、下山して直ぐに病院に向かったが、予約した覚えがないのに直ぐに検査を受ける事ができた。

 

 結果的に氷川さんは所々に打ち身と切り傷のみ

 

 それに対して俺は左足と右の中指、薬指の骨折。額に打撲

 

 滑落してこの程度で済んだのはマシな方だろう。もっと急斜面だったら死んでいた

 

 その件で現在、俺の両親と氷川家の人と共に金髪相手の両親とお話し中

 

「仏壇には手を合わせましたか?」

「はい。しっかりお供え物も持ってきました」

 

 仏壇を見るとリンゴが供えられていた

 

「お供え物なんて別にいいのですが……」

「ううん……私は香矢ちゃんに何も出来なかったからこれくらいは……」

 

「……ありがとう。香矢も喜んでるはずです。さぁ、こっちへ」

 

 

 慣れない松葉杖を手に食卓に向かった

 

 

「そういえば羽沢珈琲店さんは今年の厄払いの矢はどうしますか?」

「あ、そう言えば手続きまだでした! 締め切りはいつまででしたけ?」

 

「ちょっと待ってくださいね……よいしょ」

 

 戸棚から手続きの紙と封筒を取り出す

 

「締め切りは来週末までですね。いま書きますか?」

「えっと……ちょっと待ってください。おとうさんに聞いてみます」

 

 羽沢さんは携帯を取り出し会話をしている間に、俺は封筒に弓具店宛ての住所を記入する。

 

「じゃあ、私が書くね。うん……うん……わかった。また後で……お待たせしました」

「いま書いて行きますか?」

 

「はい。ただ、ハンコは家にあって……」

「それならハンコは後で押してポストに入れといてくれますか?」

 

「わかりました。えっと……ペン借りてもいいですか?」

「ああ、いいですよ」

 

 ボールペンを羽沢さんに渡し、ハンコにインクを馴染ませ、申請者のリストを確認する

 

 市ヶ谷家、北沢家、弦巻家、桐ケ谷家 あとは諸々

 

 ここに羽沢家と……

 

 リストを見ても常連しかいない。何とか新規の客を増やしたいがどうしたものか……

 

「書けました」

 

「では、右上にハンコを押しておきますからその隣にそちらのハンコ押してポストに入れておいてください」

 

「わかりました。でも、その体で舞は大丈夫ですか?」

 

 羽沢さんが心配するのも無理はない。俺の状態は良くない

 

「今年は踊りませんので心配無用です」

「そうなんですね」

 

「代わりに別のことを試みようと思っています」

「あまり無理しないで下さいね」

 

「わかっています。ですがこの程度で止まっている程余裕はないので」

 

 12時を知らせるアラームが食卓に鳴り響いた

 

「私、そろそろ行きますね」

「お見舞いありがとうございます。帰るときは裏口から出て下さい」

 

 羽沢さんは軽く頭を下げて玄関を出て行った

 

 ぐぅぅ~

 

「腹減った……リンゴだけじゃ腹が満たされないよな」

 

 冷蔵庫を覗くとブドウと調味料しかなかった

 

「ブドウか……好きだけど腹に溜まらないな」

 

 うん? ブドウ? 合宿に行く前に買った覚えは無いのだが……

 

 気のせいだろうか…… 

 

 ぐぅぅ~

 

「外食にするか」

 

 ジリジリ……

 

 5日ぶりの外、焼き付くような暑さだ。汗のせいで松葉杖を握る手が滑りそうだ

 

 親父達は何処まで話が進んだんだろう。できるだけ面倒なことにならないといいが……

 

 

 _________________

 

 ー羽沢珈琲店ー

 

「ただいま」

「お帰り! つぐみちゃん」

 

 カウンターで一人の少女がコーヒーを淹れる練習をしていた

 

「お疲れ様です。調子はどうですか?」

 

「う~ん……ボチボチな感じかな? あ、リンゴ持って行ってくれてありがとうね。本当はあの子に会うの嫌だったと思うけど……」

 

「いえいえ、久しぶりに一矢さんと話が出来て楽しかったです」

 

「そう言ってくれるとわたしも嬉しいよ。あの子は直ぐに自分で抱え込もうとするからね。それにわたしは恨まれているし……」

 

 三角巾を外し、背中まで伸びた髪をなびかせながら彼女……伊丹理矢はそう語った

 

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