弓取りと雨女   作:hirag

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11話

 昼食後、コーヒーを飲みながら俺はネットニュースに目を通していた

 

「あら、こんなところにいたのね。一矢」

 

 顔を上げてみると千聖が目の前にいた

 

「千聖……」

「相席いいかしら?」

 

「どうぞご自由に」

 

 千聖は対面に座り手慣れたように注文をした

 

「怪我の具合はどうかしら?」

「多少マシにはなった。明日の終業式には行けるだろうって医者も言っていた」

 

「そう。よかったわね。滑落したって聞いて本当に心配したのよ」

「心配してくれていたんだな」

 

「当たり前でしょ。あなたは直ぐに体を粗末にするのだから……」

「そうか?」

 

「えぇ、幼い頃に野良犬から私を守ってくれたり、すぐに喧嘩したり。無茶する所は変わらないわね」

「昔の話だろ……それより仕事の方はどうなんだ?」

 

「順調よ。映画の主演を任されるようになったし、バンドの方も順調よ」

 

「ヘェーよかったな。そんな名女優が俺なんかといていいのか?」

「私は名女優でもないし、貴方と私の仲だから今更でしょう」

 

「そんなこと言っても他人から見たらそうは思えないだろう」

「そうかもしれないわね。忘れる前にこれ渡しておくわ」

 

 千聖から封筒を渡され、中身を確認すると映画のチケット2組が入っていた。

 

 よく見ると小さくだが、特等席……っと書かれていた

 

「悪いが映画に興味がないのだが……」

「人の善意は快く受け取るものよ」

 

 口答えしたら絶対ろくな目に遭わない。ここは素直に受け取っておこう

 

「分かった。貰うよ」

「せっかくだから紗夜ちゃんも誘ったら?」

 

「どうかな。氷川さんはギターの練習で忙しそうだし」

「そこをうまいこと調節しなさい。そういえば、この前の大会は残念だったわね」

 

 先週の水曜日。弓道の県大会が行われたのだが……俺はこの折れた指のせいで参加することができなかった。部長も前日に捻挫をして不参加。結果は団体戦で惜しくも敗退……

 

「怪我さえ完治していれば……って思うところもあるが、来年はトップを狙う。先輩達には悪いがあの大会ではメンバーの実力不足が目立っていた」

 

「そうね。もし、あの大会に貴方やイヴちゃんと紗夜ちゃんがいれば全国に行けたかもね」

「全国に行くことが俺の力の証明になるはず……そしたら──」

 

「”理矢さんに比べられない”でしょう」

「あぁ、その通りだ」

 

「”弱いのが悪い”まだその考えは変わらないのね」

 

 弱いのが悪い……姉貴に比べられたら俺は弱い。弱いから俺は馬鹿にされてきた。

 

「だから今回の祭りであいつに出来ない事をするつもり」

「もしかして乗馬かしら?」

 

「正解。幸いにも神主さんからこの話が出てきてな」

「流鏑馬かしら? 今撮影しているドラマにも出てきたわね。あ、そういえばあなたドラマに興味ないかしら?」

 

「勘弁してくれ」

「そうね。あなたは弓と馬以外に興味ないからね」

 

 pipipi……

 

 携帯のけたたましい音が鳴り響いた

 

「失礼。ちょっと出るわね……もしもし……」

 

 ドラマの撮影か……やるとしたら時代劇とかだな。まぁ、そんなことはないな

 

「はい……わかりました。今すぐ向かいます。はい……ではまた」

 

 通話を終えた千聖は、小さくため息を吐いた

 

「もう行くのか?」

「えぇ、撮影の時間だからね。体に気をつけなさい」

 

 ______________________

 

 食事を済まし、千聖と別れた俺はそこら辺を散歩していた

 

 近くの公園のベンチに座り、池を眺めていると急に視界が塞がれた

 

「だ~れだ?」

 

「あなたは……えっと……今井さんでしたか?」

「正解~ねぇ、何しているの?」

 

 視界が開け、顔を横に向けると大きなケースを持った今井さんが座っていた

 

「池に飛び込めば気持ちよさそうだなって……」

「確かに、こんなに暑いと飛び込みたくなっちゃうかもね。あぁ! そうだった! 紗夜の事ありがとう」

 

「まぁ、人として当たり前のことをしただけです。氷川さんの具合はどうでしたか?」

「いつも通り練習に来ているよ。最初は包帯ぐるぐる巻きで驚いたけどね」

 

「そうですか。後遺症とかなくてよかったです」

「ふ~ん……」

 

「な、なんですか?」

「いいや~紗夜の事かなり気にしているじゃん?」

 

 今井さんは若干にやけながら聞いてきた

 

「なんでもいいじゃないですか」

「そういえば、理矢さん元気にしてる?」

 

「──⁉どうして姉を知っているのですか⁉」

 

「えっと……実はね」

 

 今井さんから俺たちが遭難しかけた日に氷川さんの妹と二人が姉と出会っていた

 

「大切な弟ですか……本当にそう言っていたのですか?」

「うん、日菜と言い争っているときに確かに言っていたよ」

 

「そうですか……大学も辞めて何処ほっつき歩いているのやら……」

「──?」

 

「いえ、なんでもありません。話は変わりますが、今井さんはどうして音楽をやっているのですか?」

 

「アタシ、友希那を……幼馴染をずっと傍で支えてあげたいんだよね。それにまた笑えるようになって欲しい……なんてね」

 

「素敵ですね。さてと、もうそろそろ帰ろうかな。熱くなってきたし……」

「もう行っちゃうの? せっかくだし奢るよ」

 

 帰ってもすることも特にないし、暑いから別にいいか

 

「涼める場所ならいいですよ」

「なら、あそこにしようか」

 

 ______________________

 

 今井さんの後ろに付いて行くと辿り着いたのは羽沢珈琲店だった

 

「よりによってここですか……」

「何か問題があるの?」

 

「いえ、なんでもありません」

「うん? 暑いし早く入ろうよ」

 

 今井さんに背中を押され店に入った

 

「いらしゃ……い……」

「…………」

 

 店に入ってみると店のエプロンを身に着けた姉貴がいた

 

「こんにちは理矢さん」

「久しぶりだねリサちゃん。それに一矢」

 

「半年ぶりだな姉貴」

「それぐらいだね。こちらの席にどうぞ」

 

「あ! アタシ、ひまりとクッキー作る約束してたんだった! ごめん! また今度奢らせて!」

 

 そういうと今井さんは足早に店を出て行った。その姿を姉貴は笑顔で見送っていた

 

「あ、ちょ……は~」

「お客さんも落ち着いたことだし、二人で話さない? 注文は?」

 

「話すことはない。アイスティーストレート」

「私はある。アイスティーね。しばらくお待ち下さいってね♪」

 

 ー5分後ー

 

「注文のアイスティーです。それで最近はどうなの?」

「別に……」

 

「その体はどうしたの?」

「転んだだけ」

 

「ふ~ん。女の子を抱えて?」

「どうしてそのことを知っている?」

 

 姉貴は鼻歌交じりに俺の対面の席に座った

 

「学校の先生から連絡があったからね」

「病院に電話したのも姉貴か?」

 

「えぇ、そうよ。何か言う事あるんじゃないの?」

「ありがとう……」

 

「近々、祭りがあるわね。今年はどうするの?」

「姉貴には関係ないだろう」

 

「ふ~ん……去年みたいに失敗しないといいけどね」

「うるさい……そっちには関係ない。今年は姉貴にも代わりは出来ない」

 

「へぇ~いったい何をするの?」

「教えたら俺と仕合をしてくれるのか?」

 

「それはできない相談だね」

「なら話は終わりだな」

 

 空のコップと代金おいて立ち上がる。

 

「もう行っちゃうの?」

「勉強が残っているから帰る」

 

「そっか……あ、ちょっと待って!」

「なに?」

 

「一つ忠告しておくよ。今の時間はCiRCLEって名前のライブハウスに近づかな方がいいよ」

「怪我をしているのに遠回りしろってか?」

 

「あの子たち……Afterglowのみんなに絡まれるのは嫌でしょう?」

「わかった。こんな姿あいつらに見られたら笑いものになりそうだな」

 

 Afterglow……美竹蘭をはじめに幼馴染で結成されたバンド

 

「あの子たちはまだあなたの事を憎んでいるわよ」

「時間が経てば解決すると思っていたがそういかないか」

 

「いつか分かり合えるといいわね」

 

 俺と姉貴は分かり合えそうにないけどなっと……言いそうだったがグッと堪えて店を後にした

 ______________________

 

 一矢が去った後の羽沢珈琲店

 

「はぁ……相変わらず気難しなぁ~お釣りも置いて帰ってるし……」

 

 わたしが呟いた後、来客を知らせるベルが鳴った

 

「いらっしゃいませ! お好きな席をどうぞ」

 

 日菜ちゃんに似ているその子は窓際の席に座り、本を机の上に置いた

 

 日菜ちゃんイメチェンでもしたのかな? 

 

「ご注文は?」

「アイスコーヒーをミルク付きでお願いします」

 

 注文を済ませた彼女は本を読み始めた。仕草といい立ち振る舞いまで日菜ちゃんと全く違う

 

 この時、わたしは彼女が日菜ちゃんが言っていたお姉さんだと直感した

 

 3分後

 

「お待たせしました。アイスコーヒーのミルクです」

「ありがとうございます」

 

 わたしは彼女のテーブルにコーヒーを置く。今は彼女以外のお客さんもいなく退屈だから彼女の対面の席に指差し座っていいか聞いた

 

 すると彼女はどうぞ……っと静かに呟いた

 

「貴女ってもしかして紗夜ちゃん?」

「はい。そうですが……すみません。貴女は?」

 

「わたしは伊丹理矢。よろしく」

「氷川紗夜です。あの……どうして私の名前を?」

 

「日菜ちゃんから話を聞いているよ」

「それで私の名前を……あの、もしかして理矢さんは伊丹さんの……いえ、一矢さんの関係者ですか?」

 

「一矢はわたしの弟。ちょっと前までここにいたけどね。ねぇ、学校でのあの子どんな感じなの」

「普段はあまり問題行動は起こさなく大人しい人です。どうしてそのことを私に聞くのですか?」

 

「あはは……実はわたしたちはあまりうまくいってないんだよね。家の親はあまり家にいないんだよね。だからちょっと反抗期が長引いているのかなってね」

 

「……そうでしたか。もしかして合宿前に伊丹さん……一矢さんが身内と電話していましたが……」

 

「多分わたしだね。あの時は気を付けてねって伝えただけどね。あ、そろそろお仕事に戻らないとおじさんに怒られちゃう。じゃあ、ごゆっくり!」

 

 わたしは調理場に戻るとおじさんにお客さんと話過ぎって怒られた

 

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