「おはよう」
「おはよう。明日から夏休みだねー」
「だねー」
お喋りな女子たちの声が聞こえる。普段と何も変わらない教室内。まぁ、あれこれ聞かれるのはめんどいからありがたい
「おはよう!一矢!」
ただ一人暑苦しい男。裕太を除いて
「あ~おはよう」
「元気ないな~飯は食っているか?」
裕太が俺の首に腕を回して絡みついてきた
「ほどほど食べている。あと暑いから離れてくれないか?」
「つれないなぁ~あ、あいつの事聞いたか?」
「あいつ?誰の事だ?」
「あいつだよ!あいつ!ほら、お前を突き落としたやつ!ちょっとまってろ・・・」
あぁ、あの金髪か・・・今まで忘れていた。金髪はどうなったんだ?
そう思いながら不意に扉の方を見ていると生徒会の仕事を終えてたであろう少し疲れた様子の氷川さんと白金さんが入ってきた
氷川さんと目が合いこっちに向かってきた
「おはようございます。伊丹さん。怪我の具合は大丈夫ですか?」
「まぁ、何とか・・・」
「お、これだこれだ二人ともみろよ」
スマホに写っていたの新聞記事の一部。そこにはある生徒を退学処分になった事が書かれていた
「これがどうしたのですか?」
「多分だけどよ。処分を受けたのはお前と氷川を突き落としたあいつだと思う」
「ふ~ん・・・興味ない」
「面白くないな~氷川は知っていたか?」
「えぇ、退学処分については聞いていましたが、誰が何の理由で処分されたか知りません。大方予測は出来ますか…」
生徒会に所属している氷川さんも誰がどうなったかは必要以上に聞いていないのか
「それより伊丹さん。放課後生徒会室に来てください」
「え、分かりました」
生徒会室に呼び出されるほど何か問題行動を起こしたのだろうか
「そろそろ集会に行くか?」
「まだ早くないか?」
「いやいや、お前骨折してて鈍いだろう。ほら、手ぇ貸すから行くぞ」
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全校集会はとても退屈だった。終わらない校長の話と表彰式。何度かあくびを噛み殺したことか
俺の隣に座っていた丸山さんなんか船を漕いでいた。少し肩を小突いて起こしただけで教室に戻った時に何度も謝られた
まぁ、彼女も仕事があったりバンドの練習のせいであまり休めていないのだろう。
そして、ホームルームが終わった後の放課後、生徒会室に入って外を眺めていた
外ではサッカー部がグランドを走り回っている
はぁ・・・俺の足は何時になったら治るのやら
「もう来ていたのですね」
両手に大量ファイルを抱えた氷川さんが入ってきた
「すごい量のファイルですね。手伝いますよ」
彼女の右手にある大型のファイルを手に取り、机の上に置いた
「ありがとうございます」
「それで要件とはなんですか?」
「こちらの書類にサインをお願いいたします」
氷川さんは一枚のA4用紙を差し出す。紙には金額と数量が書かれていた
「これは?」
「弓道部の備品購入リストです。曽我根先生が代替わりを機に備品の調達をしようと」
なるほど・・・カーボン矢を30本、的と服の新調。少し値が張るが何処を参考して計算したんだ
「このリストは誰が作ったのですか?」
「私と豊中さんで作りました。部室にあった本を参考にまとめましたが・・・少し古い本でしたので値段は正確ではないと思います」
確かあの本は古かったはずだ。修正はしたほうがいいな。しかし、氷川さんはともかく脳筋の裕太がこれを作ったのか・・・意外だな
「では、少し確認します」
数分後
「伊丹さん。あの後の事聞きましたか?」
「え?」
電卓を叩いていると彼女は唐突に尋ねてきた
「須藤さんの事です」
「須藤?誰ですか?」
俺が首をかしげていると彼女は少しため息をつく
「私たちを突き落とした男子生徒です。須藤友介さんです」
「ああ、それなら裕太が言ったように退学処分になったんじゃないのですか?」
「すこし違います。正しく言えば退学ではなく転校です。私と伊丹さん、そして須藤さんのご両親で話し合いがありましたが・・・何も聞いていないのですか?」
「それはいつでしたか?」
「確か…一昨日…」
一昨日か。確かその日は親父達は社宅に戻っていったはず・・・
「何も聞いてないです。すみませんが何があったか教えてくれますか?」
「私も昨日の夕方に聞いた話なのであまり詳しくありませんが・・・」
弁護士事務所で両家の両親と須藤側は父と老人が話し合いに参加したらしい。俺の親が仕事柄こういう諍いに馴れていたからか。治療費や接近禁止令とか話は淡々と進んでいたように思えたが・・・
『うちの孫は悪くない!お前たちの子供が・・・』
須藤の爺さんが孫が悪くない事を熱弁していたらしい
だが、父親はまともなおかげて俺と氷川さんの治療費は翌日に支払うことになった。老人は不服だったのか話し合いが終わる前に事務所を飛び出して行ったらしい。
その後、転校にする話が進んでいき解散となったが父親が家帰った時に須藤友介はどこかに消えたそうだ
全くもってバカバカしい話だ。きっとこの老人の教育で須藤友介の性格がねじ曲がったのかもしれない
「逆恨みだけは勘弁してほしいですね」
「それには同感です。さて、私は帰りますが伊丹さんはどうしますか?」
「こっちも確認が終わりました。所々金額に関して見直しが必要な個所がありますね。今から行き付けの弓具店に行きますが氷川さんも来ますか?」
「えぇ、少し気になる物がありますので」
「ありがとうございます。ところで胸当ての新調はどうしてですか?」
「はぁ・・・それを私に聞きますか?」
「あ、すみません・・・」
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「どうして伊丹さんはあの時、馬を呼ぶことを思いついたのですか?」
「偶然的に馬笛を持っていただけです。三田さんにあれを返していたら二人とも死んでいたかもしれなかったですね」
「あまり考えたくない話です。普段から馬に乗っているのですか?」
「小さな頃から乗馬をしていますよ。俺の親は職業上普段家にいないのでずっと三田さんの所に居ましたから」
「ご両親の職業は?」
「二人とも公務員です。今は島根県に出張で行っています。あ、着きましたここです」
店に入ると竹の独特な匂いが漂っている
「いらっしゃいませ。お、伊丹さん今日は何をお求めで?」
「このリスト物を買いたい。見積書は家に送ってください」
「在庫を調べてからになりますので少し時間が掛かりますが大丈夫ですか?」
「問題ないです」
「了解しました。あ、例の品物見ていきますか?」
「もう出来たのですね?お願いします」
店主は店の奥に引っ込んでいった
「例の品物ってなんですか?」
「それは・・・」
「伊丹さん。お持ちしました」
店主が品物を白い布に包んで持ってきた。
布を捲ると黒い羽が付き矢先が二つに割れた矢が顔を覗かせる
「これは鏑矢ですか?」
「そちらの方もご存知のようで?これはうちの特注で作っている物です。破魔矢も破魔弓もうちで作っているのですよ」
「どの時期から破魔矢を作っているのですか?」
「8月ぐらいから作りますね。この辺は自宅が集中していますからね。それぐらいの時期に作らないと間に合わないのでね」
「鷲の羽に竹製の箆、今からでも射るのが楽しみです」
「そういっていただけて嬉しいです。こちらは預かっておきます。では、後はごゆっくりどうぞ」
再び店主は店の奥に引っ込んでいった
「えっと・・・何を探しているのですか?」
「いま使っている弦が切れかかっているので、少し見てみようと」
「確か氷川さんの弓は学校の支給品でしたね。あれは合成弦って言って・・・」
合成弦は安くて耐久に優れている。学校で使用しているカーボンファイバー製の弓と相性がいい
俺の使っている竹製の弓には麻弦が適正。しかし、柔らかくて切れやすい為弓に負担がかかりにくい
それに、射た時にいい音が出る
「なるほど・・・太さはどれがいいのでしょうか?」
「弦の太さは『普通』がいいと思います。ですが個人によって合う遭わないもありますので選ぶ時は気を付けてください。っと・・・こんな感じの説明で大丈夫ですかね」
「はい。大丈夫です」
今度、部活の時にそれぞれの弓を持っていくとしよう
「ほかに何か見るものはありますか?」
「いえ、弦だけで十分です。ところで伊丹さん。この後の予定は何かありますか?」
「特に何もありませんが・・・」
「もう1ヶ所、寄りたい場所があります」