弓取りと雨女   作:hirag

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15話

 

 頭からシャワーを浴びながら鏡を見る。そこに写る顔は酷い顔をしていた。

 大きな達成感があるはずなのに、どうしてそんな顔をしているんだ。

 

 どうして……満たされているというのにこんなに心にぽっかり穴が開いたみたいに感じるんだ。

 

 身体に伝う水滴を拭き取り、脱衣所を後に自室に向かっているとある一部屋で仏壇に向かって手を合わせている千聖の姿があった。

 

 千聖の横に座って手を合わせる。蝉の声だけが静かな部屋に響いていた

 

「この家も寂しくなったわね」

「あぁ……」

 

 俺たちが小学生の頃。この家では祭りがある日は親戚一同が集まり飲んだり歌ったりとても賑わっていた。今では誰もいない静かな部屋

 

 ぐぅ~お腹の音が静かな部屋に響く。

 

「少し食べ物を買ってくる。千聖は?」

「私はもう少しここにいるわ。次に会えるのが何時か分からないからね」

 

 千聖の姿を後目に財布と携帯を手にし家を後にした

 ______________________

 

 

 商店街にたどり着き、人目を掻い潜りながら適当な屋台で買ったりんご飴を片手に次の屋台を探していると

 

「うん? あれは……」

 

 目の前に何かを探している氷川さんの姿が見えた。

 

「どうかしましたか?」

「伊丹さん。日菜を見かけませんでしたか?」

 

「見ていません。電話をしてみましたか?」

「何回かかけてみましたが、あの子は出なくて……」

 

「とりあえず見通しがいい広場の方に移動しましょう」

「はい。もしかしたらそっちにいるかもしれませんね」

 

 広場に移動し周囲を見渡すが日菜さんらしき人物は見当たらない

 

「先ほどの流鏑馬ですが、お見事でした。まさに人馬一体と言ったところでしょうか?」

 

「ありがとうございます。山で何回か練習した甲斐がありました。そういえば、そろそろ合同ライブの日が近付いていましたか?」

 

「それについてですが……合同ライブは延期になりました。なんでも機材トラブルだとか」

「初耳です。しばらくの間はライブはしない感じですか?」

 

「いえ、来週末にSMS(SWEET MUSIC SHOWER)というフェスに出場します。参加すれば目標のFWFにつながるはず」

 

 彼女は力強い目をしていた。俺が見に行くのはかえって邪魔になるかもしれない

 

「頑張ってください。応援してます」

「ありがとうございます。しかし、ファスに向けて練習を増やす必要がありますので、しばらく部活を休んでもいいでしょうか?」

 

「構いません。しばらくは大きなイベントも特にありませんので……」

 

「おねーちゃんー!」

 

 大きな声が聞こえてきた方向を見ると日菜さんがポテトを両手に持って走ってきた。その姿を見た氷川さんは頭を抱えていた。本当に元気な人だ。

 

 時間を確認すると14時……上原達のライブの時間まであと少しそろそろ向かうとしよう

 

「あの子ったら……」

「では、俺はこれで失礼します」

「待ってください。これを──」

 

 彼女の手にはくじ引き券があった

 

「くじ引き券? いいのですか?」

「余りましたので差し上げます」

 

 確か景品は生活用品と商品券とかだったか。洗剤とか当たればいいかな

 

「では、ありがたくいただきます。また明日」

 

 ______________________

 

 会場にたどり着くとこっちの方でも人が集まっていた。

 

 人波に呑まれそうになるが、ある会話が気になった──

 

「Afterglowってロックバンドだったけ?」

「うん。青春っぽい歌詞でアタシは好き。絶対ハマるから」

 

 ロックバンドと聞いてイメージするのは髪を染めてファンキーな衣装を思いついた

 

 黄昏時のステージに5人の少女たちが出てきて音楽をかき鳴らす

 

『なんでも言うコト聞く。イイ子ちゃんはいらない。従う必要ないから』

 

 ステージ中央で赤いギターを弾きながら歌う少女。彼女の歌を耳を澄まして聞きくとこれは歌ではなく詩に近いと思った。

 

『地面に這いつくばって、何も見えずにダメになる。Why,dont you know?』

 

 彼女の歌を聞いているだけで何故か胸が苦しくなる。

 

 聴きたくない……そんな衝動に駆られる。

 

 ふと、気が付くと商店街に戻ってきた。胸の苦しみが治まってる

 

「あれ? 偶然ね」

 

 一息つくことを許されず、不快な声が聞こえ顔を上げるとあいつがいた。憎くて仕方がない姉の姿が

 

「……」

「怖い顔……そんなに睨まなくてもいいじゃない。少し話があるんだけどいいよね?」

 

 おどけた態度から一変し、真面目な表情を見せる。

 

「分かった」

「よかった~早速、今日の流鏑馬。あの姿を見てお爺ちゃんを思い出したよ」

 

 記憶の片隅にしかないが祖父は流鏑馬達人だったらしい

 

「わたしはあの子達に乗れない。貴方たちの大切なこだからね。流鏑馬ができる貴方がとても羨ましいよ」

 

 羨ましい……初めてあいつの口からそんな言葉が聞こえた。

 

「そろそろ教えてくれないか。なぜあの日俺を裏切った」

「あの日? あの日ってどの日?」

 

「とぼけるな! 2年前の秋。お前は!!」

 

 怒号を浴びせるが、あいつは顔色を変えず俺の手を掴み、無理矢理路地裏に連れ込む

 

「いまはまだ話せない。あと少し待ってくれる?」

 

 分からない。こいつが何を考え、企てているのか……

 

「でも、これだけ言っておくよ。弱さを見せちゃダメ」

「どういうことだ?」

 

「それ以上は言えない……お互いに体に気を付けようね。じゃあね」

 

 路地裏に差し込む光があいつの顔を照らし出す。何故かあいつの頬に一滴光る物が見えた気がした。

 

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