弓取りと雨女   作:hirag

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17話

 

 本来の用事を思い出し、何を買うのか悩んでいたらいつの間にか夕方になっていた。

 

 色々悩んだ結果、限定シュークリームという謳い文句についつい衝動買いをしてしまった。

 

 まぁ、有咲なら全部食べるだろう

 

 そんな事を考えていると、市ヶ谷家に近づいてきた。

 

 軽く身だしなみを整え、インターホンを鳴らすと直ぐに有咲のお婆さんが出てきた。

 

「まぁ、一矢君。いらっしゃい、今日はどうしたの?」

「お久しぶりです。ちょっと物を返しに来たので……有咲いますか?」

 

「あの子なら今はいないわよ。よかったら待っていきなさい」

「いえ、今日はこの前のタッパーを返しに来たので……あと、つまらないものですが皆さんでどうぞ……」

 

「これは親切に……あら、きれいに洗ってありがとうね」

「いつもご飯とか頂いているのに、これくらいしか出来なくて……」

 

「いいのよ。普段から忙しいのだから」

「はい。では、俺はこれで……」

 

「あ、少し待って」

 

 お婆さんが家の奥に入りしばらくすると、大きな袋を持ってきた。

 

 中には大きな本とリンゴが5個ほど入っていた

 

「こんないっぱいリンゴ。それにこれは……本ですか?」

「この前、理矢ちゃんが来た時に忘れて行ったみたい」

 

「そうですか。本人に返しておきます。それでは、失礼いたします」

 

 どうせ碌でもない物だろう。嫌がらせとして燃やしてやろうか

 ______________________

 

 市ヶ谷家を離れ、向かったのは人気の少ない川原

 

 適当な木陰に腰をおろし、袋から本を取り出す

 

 見た目は何処にでもある市販のノート。違う点といえば、いくつものノートを重ねたせいか3㎝ほどの厚さがあった。

 

「燃やす前に少し読んでみるか」

 

 表紙を捲るとお世辞にもキレイとは言えない文字が並んでいた

 

 ノートには5年前の日付と出来事が書記されていた

 

「これは……日記か?」

 

 読み進めると最後のページには短くこう記されていた

 

 ”〇月×日 今日あの子が寺に向かった。本当はわたしが行くはずだったのに……あの子に押し付けてしまった。”

 

「……」

 

 ああ、そうだ。あの日……俺は理由もわからないまま山中にある寺に連れていかれた。

 

 そして、誰も来ず孤独な日々を過ごしていた。

 

 三年前の高校卒業後、姿を消したあの日までは……

 

「何を読んでるの?」

 

 振り向くと日菜さんが立っていた。

 

「誰かが落としたカエルの解剖記録です」

「なにそれーおもしろそう! みせてみせてー」

 

 普通そんなもの見たくないはずだが、日菜さんには逆効果だったみたい

 

「読むことはあまりお勧めしませんよ。それに、誰かのものを勝手に読むのは良くないです」

「でも、カズ君は読んでたじゃん」

 

「落とし主を知るためですよ」

「ふ~ん……あ、あたしも面白いノートを持ってるよ! ほらほらー」

 

 ノートを押し付けてくる日菜さん。ノートを受け取り、目を通す

 

「えっと……”今日、部屋の隅にほこりを見つけた。何故だかこのほこりに宇宙を感じるからこのまま残しておこう~”」

 

 なにこれ? 

 

 表紙を見てみると”天文学部 研究ノート”と記されていた。

 

 他のページも覗いてみるがどれも似たようなレポート? だった。

 

「えっと……実際に星を見に行っているのですよね?」

「うん。結構やっているよ。どうして?」

 

 研究ノートといえば、実際に観測した星の説明とか記録するはずだが……俺の感性が間違っているのか? 

 

「いえ、なんでもないです」

「そうだ! カズ君も一緒に星を見に行こうよ!」

 

「え⁉まぁ、機会があれば……」

「あ、今日は練習があるんだった! 早く行かないと千聖ちゃんが怒っちゃう! じゃあね!!」

 

 彼女はそう言い残し走り去っていった。

 

「はぁ……」

 

 日菜さんの様に元気のある子と話すのは少し苦手だ。

 

 しかし、この日記は調べる必要がありそうだ。調べればあいつが何を考えているか分かりそうだ。持ち帰るとしよう

 

 腰を起こし、帰ろうとしたその時──

 

「あ……」

 

 坂の上から少女が……美竹蘭が見下ろすように見ていた。

 

 この前のライブの事もあって捕まったら面倒なことになる。

 

 それに俺と美竹は馬が合わないから余計に面倒になりそうだ。

 

「ちょっと待って!」

 

 彼女の呼びかけを無視して歩いていると腕を引かれた。

 

「何の用だ?」

「あんたに聞きたいことがある」

 

 美竹の顔を見てみると目くじらを立てていた。

 

「何だ? すまないが急用があるから手短に頼む」

「あの日、ひまりはあんたにライブに来るように誘ったはず。どうして来なかったの?」

 

「行ったが急用を思い出して途中で帰った。それがどうした?」

「ひまりがどんな気持ちで演奏していたかあんたは知っているの?」

 

「知らない」

「ひまりはずっと考えてた。どうすれば昔のあんたに戻るのか。あの日も日が暮れるまでずっとあんたが来るのを待っていた」

 

 昔、昔……どいつもこいつも昔に戻ればと馬鹿馬鹿しい

 

「そうだったのか。それは悪かった」

「―!! 本当に悪いと思っているの⁉」

 

「ああ、思っている。だがな美竹。言わせてもらうが俺は昔の様に戻る気はない。話はそれだけか?」

 

「ひまりに聞いた通りあんた本当に変わってしまったの!?」

 

「確かに俺は変わった。居場所を奪われ数々の辛酸をなめてきた。仮初め跡継ぎとして生きている俺と次期跡継ぎのお前、似た境遇のお前なら少しは理解してくれると思ったが残念だ」

 

「っ―!!」

 

 癪に障ったのか鬼の形相をした彼女は胸ぐらを掴みかかってきた。

 

「あたしたちが苦しんでいないと思っている⁉大切だった友達を失くしてどれだけ悲しんだかあんたにわかる⁉どうして……あんたまで……変わってしまったの⁉」

 

「これは俺たち家族の問題だ。お前には関係ない事だ。仮に話したところで信じてもらえないだろう。じゃあな美竹」

 

 うなだれる彼女の腕を振り払った。

 

「ごめん。蘭。いつか全て終れば話すよ」

「いま……なんて……ま、まって!!」

 

 彼女の制止を振り切り、帰路に着いた。

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