本来の用事を思い出し、何を買うのか悩んでいたらいつの間にか夕方になっていた。
色々悩んだ結果、限定シュークリームという謳い文句についつい衝動買いをしてしまった。
まぁ、有咲なら全部食べるだろう
そんな事を考えていると、市ヶ谷家に近づいてきた。
軽く身だしなみを整え、インターホンを鳴らすと直ぐに有咲のお婆さんが出てきた。
「まぁ、一矢君。いらっしゃい、今日はどうしたの?」
「お久しぶりです。ちょっと物を返しに来たので……有咲いますか?」
「あの子なら今はいないわよ。よかったら待っていきなさい」
「いえ、今日はこの前のタッパーを返しに来たので……あと、つまらないものですが皆さんでどうぞ……」
「これは親切に……あら、きれいに洗ってありがとうね」
「いつもご飯とか頂いているのに、これくらいしか出来なくて……」
「いいのよ。普段から忙しいのだから」
「はい。では、俺はこれで……」
「あ、少し待って」
お婆さんが家の奥に入りしばらくすると、大きな袋を持ってきた。
中には大きな本とリンゴが5個ほど入っていた
「こんないっぱいリンゴ。それにこれは……本ですか?」
「この前、理矢ちゃんが来た時に忘れて行ったみたい」
「そうですか。本人に返しておきます。それでは、失礼いたします」
どうせ碌でもない物だろう。嫌がらせとして燃やしてやろうか
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市ヶ谷家を離れ、向かったのは人気の少ない川原
適当な木陰に腰をおろし、袋から本を取り出す
見た目は何処にでもある市販のノート。違う点といえば、いくつものノートを重ねたせいか3㎝ほどの厚さがあった。
「燃やす前に少し読んでみるか」
表紙を捲るとお世辞にもキレイとは言えない文字が並んでいた
ノートには5年前の日付と出来事が書記されていた
「これは……日記か?」
読み進めると最後のページには短くこう記されていた
”〇月×日 今日あの子が寺に向かった。本当はわたしが行くはずだったのに……あの子に押し付けてしまった。”
「……」
ああ、そうだ。あの日……俺は理由もわからないまま山中にある寺に連れていかれた。
そして、誰も来ず孤独な日々を過ごしていた。
三年前の高校卒業後、姿を消したあの日までは……
「何を読んでるの?」
振り向くと日菜さんが立っていた。
「誰かが落としたカエルの解剖記録です」
「なにそれーおもしろそう! みせてみせてー」
普通そんなもの見たくないはずだが、日菜さんには逆効果だったみたい
「読むことはあまりお勧めしませんよ。それに、誰かのものを勝手に読むのは良くないです」
「でも、カズ君は読んでたじゃん」
「落とし主を知るためですよ」
「ふ~ん……あ、あたしも面白いノートを持ってるよ! ほらほらー」
ノートを押し付けてくる日菜さん。ノートを受け取り、目を通す
「えっと……”今日、部屋の隅にほこりを見つけた。何故だかこのほこりに宇宙を感じるからこのまま残しておこう~”」
なにこれ?
表紙を見てみると”天文学部 研究ノート”と記されていた。
他のページも覗いてみるがどれも似たようなレポート? だった。
「えっと……実際に星を見に行っているのですよね?」
「うん。結構やっているよ。どうして?」
研究ノートといえば、実際に観測した星の説明とか記録するはずだが……俺の感性が間違っているのか?
「いえ、なんでもないです」
「そうだ! カズ君も一緒に星を見に行こうよ!」
「え⁉まぁ、機会があれば……」
「あ、今日は練習があるんだった! 早く行かないと千聖ちゃんが怒っちゃう! じゃあね!!」
彼女はそう言い残し走り去っていった。
「はぁ……」
日菜さんの様に元気のある子と話すのは少し苦手だ。
しかし、この日記は調べる必要がありそうだ。調べればあいつが何を考えているか分かりそうだ。持ち帰るとしよう
腰を起こし、帰ろうとしたその時──
「あ……」
坂の上から少女が……美竹蘭が見下ろすように見ていた。
この前のライブの事もあって捕まったら面倒なことになる。
それに俺と美竹は馬が合わないから余計に面倒になりそうだ。
「ちょっと待って!」
彼女の呼びかけを無視して歩いていると腕を引かれた。
「何の用だ?」
「あんたに聞きたいことがある」
美竹の顔を見てみると目くじらを立てていた。
「何だ? すまないが急用があるから手短に頼む」
「あの日、ひまりはあんたにライブに来るように誘ったはず。どうして来なかったの?」
「行ったが急用を思い出して途中で帰った。それがどうした?」
「ひまりがどんな気持ちで演奏していたかあんたは知っているの?」
「知らない」
「ひまりはずっと考えてた。どうすれば昔のあんたに戻るのか。あの日も日が暮れるまでずっとあんたが来るのを待っていた」
昔、昔……どいつもこいつも昔に戻ればと馬鹿馬鹿しい
「そうだったのか。それは悪かった」
「―!! 本当に悪いと思っているの⁉」
「ああ、思っている。だがな美竹。言わせてもらうが俺は昔の様に戻る気はない。話はそれだけか?」
「ひまりに聞いた通りあんた本当に変わってしまったの!?」
「確かに俺は変わった。居場所を奪われ数々の辛酸をなめてきた。仮初め跡継ぎとして生きている俺と次期跡継ぎのお前、似た境遇のお前なら少しは理解してくれると思ったが残念だ」
「っ―!!」
癪に障ったのか鬼の形相をした彼女は胸ぐらを掴みかかってきた。
「あたしたちが苦しんでいないと思っている⁉大切だった友達を失くしてどれだけ悲しんだかあんたにわかる⁉どうして……あんたまで……変わってしまったの⁉」
「これは俺たち家族の問題だ。お前には関係ない事だ。仮に話したところで信じてもらえないだろう。じゃあな美竹」
うなだれる彼女の腕を振り払った。
「ごめん。蘭。いつか全て終れば話すよ」
「いま……なんて……ま、まって!!」
彼女の制止を振り切り、帰路に着いた。