弓取りと雨女   作:hirag

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21話

 

 ある日の晴れた朝。弓道部から選抜された私達4人は電車に揺られていた。時刻は9:30。人は少なく電車内は静寂に包まれていた。

 

「演武会か。参加するのは初めてだからなにするんだろうな?」

 

 そんな静寂に耐えられず、伊丹さんの隣に座っていた豊中さんが口を開く。

 

「先生の話では、隣街の行事に人手が足りないから助けてほしいとのことです。まさに弱きを助け強きを挫くです」

 

 隣町に行われる演武会。昨日、嵯峨根先生から聞いた話では地元高校が主催で開催されるのだが、肝心な高校側が何かの理由で人数が足りない事で伊丹さんを始め、実力のある人物が選ばれた。

 

 始めは引き受けるべきか悩んでいだ。しかし、その日の朝。沈んだ顔をしている彼の事を思い出した。

『やる気が起きない』彼はそう呟いていた。彼にとって目標だった人が弓を捨てていたことが判明したことで彼にとって大きな喪失感があった。

 彼には何度か助けてもらったがあった。合宿の時やこの間のバンド解散の危機。彼はそんなことは気にしないようだけど私は胸に突っかかっていい気分じゃなかった。幸いにもバンドの方も落ち着いている。こういった経験をするのも大切だと思って参加することにした。

 

「伊丹さん。大丈夫ですか? 顔色が悪いですが……」

 

 ふと、彼の顔を覗き込むと目が座っていた。私の視線に気が付いた彼は咄嗟に頭を上げて何でもないように笑った。

 

「大丈夫です。少し気分が悪いだけです」

「おいおい! 大丈夫か? 待ってろ! いま酔い止めを……あ、ないわ」

「伊丹さん。もうすぐ着きますよ!」

 

 そんなやり取りをしていると最寄り駅に着いた。それから10分ぐらい北に向かうと目的地の湖山高校が見えた。

 時刻は午前10時、当然校門は閉まっておりすぐ傍にある小さな扉にインターホンがあり、伊丹さんが押した。

 

『はい。どなたでしょうか?』

 

 インターホンからしわがれた男性の声が聞こえてきた。

 

「俺、いや、私達は演武会の説明を聞きに来た花咲川学園の弓道部です」

『……少々お待ちください』

 

「それにしてもこの学校大きいですね」

「規模は花咲川学園とより少し大きい位でここの弓道部は12名ほど所属しているみたいです。若宮さんみたいに海外から留学している生徒さんもいるみたいです」

「相変わらず詳しいな氷川」

「共演する相手ですから情報は重要です。しかし、12人中10人が不在とはなにかあったのでしょうか?」

 

 確かにいきなり人が居なくなるのは不審な点がある。しかし、この学校最近どこかで聞いた覚えがある。

 

「お待たせしました。花咲川学園の弓道部のみなさんですね? いま開けます」

 

 校舎から白いカーディガンを羽織った女性教員がこちらに向かって走ってきた。校門を開けて私達は校内に入り、直ぐ進路相談室に通された。

 

「こんな早い時間にお呼びしてすみません。あ、申し遅れました私は弓道部の顧問しています浜野と申します」

「浜野先生。困った時はお互い様です。そうですね? 伊丹さん」

「若宮さんの言う通り。ところで本校は12名ほど部員がいると聞いていますが……」

 

 彼が浜野教員に問うと彼女は苦笑いをしながら口を開いた。

 

「お恥ずかしい話ですが……先日、弓道部で打ち上げを行いまして……それで参加していた10名が食中毒で入院する事になったみたいで……それで、いろんなところにお願いをしていたのですが、他の高校は行事とかで人が集まらなくて、それでダメもとで住職様に聞いて伊丹さんと所属している花咲川学園に手紙を送らせていただきました」

 

「なるほど。だから住職が……おっと失礼。演目の題材は何ですか?」

「蛇神弓人物語です」

「……」

 

 演目の題材は私は題材については聞いたことがなかったが、私達の中で彼だけは頭を抱えていた。

 

「どんなお話なんですか?」

「古い書物に残された。物語です。詳細は各々調べてください。あの物語となるとラストの場面ですか?」

「はい。皆さんには最後も場面……あぁ、動く的を射てもらいます」

「動く的? どうして的が動くのですか? 伊丹さん」

「物語の最後は蛇神様と対峙します。弓人は尾、胴、頭の3か所を射抜きます」

「なるほど! 相手が蛇なら動いているのも納得ができる。それで、どうする? 一矢。引き受けるか?」

「引き受けましょう! 伊丹さん」

「決定権は貴方にありますよ」

 

 彼は顎に手を当てながら深く考え込み。しばらくすると彼は立ち上がり口を開く。

 

「しばらく一人で考えさせてください」

 

 そう言って彼は指導室を出て行った。浜野教員も次の授業の準備で彼を追うように後にした。

 残された私達は静かなに空気に包まれた。

 

「伊丹さん。何かあったのでしょうか? なんだか怖い顔をしていました」

「もしかしたら、この件はなかったことにするかもな」

 

 辞退。今の彼ならそう答えを出す可能性が高い。しかし、それは彼にとっていい選択なのかしら。

 

 

 

 15分ぐらい三人で雑談をしていたが一向に伊丹さんが戻ってくる様子はなかった。

 

「すこし、探してきます」

「じゃあ、俺たちは戻ってくるかもしれないからここで待つさ」

 

 豊中さん達を残して、私は指導室を出てた。この時間帯で誰もいない……一人になれる場所。屋上、中庭を探したが何処にも見当たらなかった。

 休み時間を知らせるチャイムが鳴ると各教室から生徒が出てきた。部外者の私を誰もが目新しいものを見るような目をしていた。

 

 運動場に向かうと道場に入っていく伊丹さんの姿を見かけた。私は彼の後追って道場に入ってみると──

 

「どうする? ……ああ、そうだな。そうするとしよう……だかな……しかし……これには危険性が……」

 

 柱に隠れてよくは見えないが、道場には彼と私以外誰もいないのに誰かと話しているように彼は1人で呟いていた。道場を踏み込むと床が軋む音が響いた。音に反応した伊丹さんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしながら私と目があった。

 

「君は……いつからそこに⁉」

「いま来たところです。答えは出ましたか?」

「引き受けます。君もそれでいいですね?」

 

 最初は狼狽えていた彼だが、少ししてから顎に手を添えてながら答えた。しかし、この時の彼の口調に私は違和感を感じた。普段、彼は私の事を名字か貴女と呼ぶが今回は違い。彼は私の事を君と呼んだ。

 

「はい。問題ないです」

 

 私が答えると彼は出口に向かい歩を進める。彼は道場の戸を開ける手を止め私に向かって振り向く。

 

「明日の放課後。時間ありますか?」

「え、えぇ……大丈夫です」

「少し付き合って貰っていいですか? 少し行きたい場所があります」

 

 彼は少し口角を上げながらそう言った。その後、指導室に戻った私達は浜野教員に依頼を引き受けると答えて湖山高校を後にした。

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